Because
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5月18日 PM10:00
ピアノ・マン
登場人物:レイジ/ジュウリ
ジュウ「レイジ!」
レイジ「おや。シックスティーズの元歌姫、ジュウリじゃないか。ご無沙汰だな。
元気なのか? ちっとも来なくなったから海外にでも行ったと思ってた」
ジュウ「元気よ! レイジは最近、調子どうなの?
先月、入院したって聞いたけど、まさかまたやったんじゃないでしょうね?」
レイジ「残念ながら違う。ただのストレスだった。早く天に召されたかったのにな」
ジュウ「もう。久々に会ってその挨拶はないでしょう。まだ天国願望があるの?」
レイジ「冗談だ。ジュウリは少し痩せたんじゃないか?
ピアノマンの裏メニュー、レイジさまのスペシャルディナーを食っていくか?」
ジュウ「そんなのあるの?」
レイジ「あるよ。特別なゲストだけに出すゴールデン裏メニューだ。
栄養失調気味の歌姫に、ぜひおススメしたいね。少しは肉が付くぜ」
ジュウ「ありがとう、嬉しいわね。この店で特別扱いされるのは、栄誉だものね。
なんたって皆が憧れる高級ナイトクラブのディナーだものね」
レイジ「おれがそう云われるのを吐くほど嫌いだって知っててそう云うんだよな?
嫌な女だね。嫌味な女はもてないぞ」
ジュウ「お互い様でしょ。胸が薄くて悪かったわね。
レイジが相変わらずで嬉しいけど、少し印象が柔らかくなったんじゃない?
何だか嫌味の詰めが甘いわよ、レイジ」
レイジ「あら、おねぇさま。わたくしが女々しくなったとでもおっしゃるの?
何か良くない噂をお聴きにでもなったのかしらね?」
ジュウ「やめてよ、裏声。気持ち悪いわね」
レイジ「何も聞いてない?」
ジュウ「え、何を? 何か悪い噂でもあるの?」
レイジ「知らないならいいんだ。内輪限定下ネタだからな」
ジュウ「下ネタならご免だけど、何の話なの? 気になるじゃない」
レイジ「気にするな。下より上向きな話題にしよう。ヘミと一緒にやるライブの話とかな。
お互いもう、昔の細かいことは気にしなくなったのか?」
ジュウ「! ……そうよね。その話を、しにきたんだものね、私は。
レイジは、もちろん知ってるというわけなのよね?」
レイジ「何を?」
ジュウ「ヘミと、私の関係よ。特別な」
レイジ「ジュウリとヘミが、かつてそういう仲だったってことか?
それとも、すでに別れたことなのか?」
ジュウ「……両方よ。それってシックスティーズの皆も、知ってるの?」
レイジ「さぁ。どうかな。自分で聴いてみたらいい」
ジュウ「別にどっちでもいいわ。それはもう終わったことだもの」
レイジ「終わったのか? それで一緒のステージに立てる気持ちの整理がつく日が来た?」
ジュウ「わからない。賭け、なのかも。私はシックスティーズを逃げ出したけど、
ヘミがこのライブに参加してくれるか、否か」
レイジ「参加するんだろう? ヘミはそう返事をしたんだろ?」
ジュウ「正直、わからない。直接、聴いたわけじゃないし」
レイジ「連絡しろよ。参加すると言ったなら、ヘミは参加するさ」
ジュウ「そうね。ヘミはそういう子だわ。きっと来てくれる」
レイジ「会ってないのか? 来月にするっていうのにまだリハもなし?」
ジュウ「リハっていっても、みんなの予定を合わせるのは難しいし、
打ち合わせは数人ではしてるけど、結局各自で曲だけ覚えて当日合わせるだけよ」
レイジ「シックスティーズ仕様なのか」
ジュウ「そうよ。皆プロだもの。いつでもそれで演奏できなきゃね」
レイジ「でも、全員での顏あわせくらいするだろ? 初共演だってあるんだろ」
ジュウ「あるわよ。でも、揃って顏合わせはどうかな。もう時間もないしできないかも。
第一、それぞれ知ってる顏だし、そんなの必要ないわよ。
それよりも、当日ヘミが来なかったらと思うと、少し怖い」
レイジ「ヘミは来るさ」
ジュウ「レイジは、ヘミのことをよくわかってるのね」
レイジ「もちろんそうさ。失恋したヘミを慰めたのは、おれなんだぜ。
プロポーズしたのに、断られたけど。女王様は難しいんだ」
ジュウ「そう。レイジは優しいわよね。酷いことをした私とは大違いよ。
レイジだったら、ヘミを幸せにできるのかも……」
レイジ「おれではダメだろうな。ヘミはおれの女王様だ。幸せにするなんて恐れ多い。
でも誰も酷いことはしていないさ。ヘミもジュウリも大人の対応だった。
ヘミも、ジュウリのことを恨んだりしてないよ」
ジュウ「あんなに愛してたのに、でも愛したままでも、別れられるものなのね」
レイジ「意味深なセリフだ。ジュウリはやけに素直になったのかな。
ひとの評価に怯えるあの頃の小娘のジュウリじゃないな、今は」
ジュウ「そうね。昔の私は酷く周囲の反応を気にしてた。
こんなこと続けることは無理だって、思ってたわ。そして耐えられなくなった。
だから彼女だけを傷つけて、勝手に去って、平気で逃げられたのよね」
レイジ「過去に逃げたなら、今度の現在は逃げなきゃいいさ。
……ま、口では簡単に言えても、実行するのは難しいがな」
ジュウ「実行しようとしてるのよ、これから。勇気をくれる?」
レイジ「やり直したいと云うことなのか? そうか。大丈夫だ、ヘミは聞くよ。
素直にジュウリの気持ちを伝えればいい。きっと伝わる」
ジュウ「……ねぇ、やっぱりレイジは変わったんじゃない?」
レイジ「変わってないね。おれは 変らず優しくてダンディで抱擁力のあるイイ男だ。
今までと一緒だろ? 違うか? それとも知らなかったのか?」
ジュウ「レイジは優しいけど……。なんだろう、何が変わったのかしら?」
レイジ「ちょっと老けたとか言うなよ。それより、他に用件があるんだろう」
ジュウ「あ、そうそう。そのこと。
そのライブ会場にピアノマンを貸してくれるって、本当なの?」
レイジ「本当だけど? 嘘だと思ってきたのか?」
ジュウ「だって! まさかと思うわよ。
この高級クラブを私たちの会場として貸してくれるなんて、正気じゃないでしょ。
マックのいつもの空気の読めなさで、誤解や勘違いをしたんじゃないかと思って、
レイジに直接確認しに来たのよ。マックの話、間違ってない?
もっともレイジは正気じゃないから、それもありかとも思ったけど」
レイジ「酷い言いようだな。本当に貸して欲しいのか?
でもマックを疑う気持ちはわかるな。一番にそれを疑うのは正解だ。
本当に適当で、いい加減で、すっ呆けてるからな、あの男は」
ジュウ「いやね、彼はいい加減なんかじゃないわよ? 確かに空気の読み違えは得意だけど、
責任力はあるわ。機材の手配とか、ちゃんとしてくれたんだから。
ああ見えてマックは真面目で世話焼きなんだからね。
でもあんまり急き立てると、どうでも良くなってきちゃうから集中力には気をつけないと。
だから私は、レイジの真意といい加減さを計りにきたのよ」
レイジ「おれがいい加減だって? マックは何て言ってた?」
ジュウ「ピアノマンを会場に貸してくれるって。ヘミと私のために。
本当にそういったの? そうなの? レンタル料は安くていいって言った?」
レイジ「そうだな。そう確かにそう云った。間違いないよ」
ジュウ「本当? 信じていい?」
レイジ「何故そんなに念を押すんだよ。不安なら一筆書こうか?
はて……なんだか前にもそんなセリフを云ったような気がするな……。
どうしてこんなに立派な筈のおれに、信用がないんだ?」
ジュウ「もちろん契約書は書いて貰うわよ。レイジじゃなく、茅野さんにね。
信用ないとかじゃなくて、レイジは乗り気な時はいいけど、すぐ飽きるでしょ。
集中力が欠けるといい加減になるとこは、マックと似てるわ」
レイジ「はぁ? マックと似てるだなんて、やめてくれ。屈辱だ」
ジュウ「あら、レイジはマックが嫌いじゃないんでしょ?
だって彼に対してこの店を貸すって言ったのは、すごく意外だったんだから。
マックのことなんか、相手にもしないと思ってた。いつの間に打ち解けたの?」
レイジ「そんなバカげた提案を出してくるのは、あいつくらいだろ。
でもそれも面白いかと思ってな。うちにはいないチープ層の若者が今後狙える」
ジュウ「あら。本当に意外とマックと親しいのかしら。
ああいうとんちんかんなタイプは、レイジの趣味じゃないと思ってたけど?」
レイジ「趣味じゃないよ。急に何を言い出すか、わかったもんじゃないからな」
ジュウ「そうそう、時々考えもつかない妙な回答を出すことがあるわよね。
でも、意表をつくからとても面白いし、笑っちゃうでしょ?
私はマックが好きよ。レイジもそこが気に入った?」
レイジ「まぁ、ある意味な。珍種に興味が出たくらいはな」
ジュウ「ねぇ集中力がかけて、ものごとを投げ出す人物が、最後どうなるか知ってる?」
レイジ「……知らないな。どうなるんだ?」
ジュウ「ケセラセラよ。なるようになるわ」
レイジ「なるように、ね。悩んでも悩まなくても、なるようになるのかな」
ジュウ「そう、なるようになるの。
私がフリーになって学んだのは、そういう簡単なことよ。
簡単な結論でも、遠回りしないと実感として入ってこないものってあるわ」
レイジ「簡単なことか。簡単でシンプルてのは、案外難しいものだな」
ジュウ「そうね。でもシンプルが一番で、結果はケセラ・セラなのよ」
レイジ「ジュウリは、前より考え方が楽になったんだな。でも今の方がいい」
ジュウ「そうね。ヘミを本気で口説くなら、昔の私ではいられないのよ。
それほど深刻にならなくても、気持ちのまま動くことがいいこともある」
レイジ「出たとこ勝負か。ヘミはまだ恋人も作ってないし、復活愛を願ってるよ。
きっとヘミには恋人がいる方が、いないより幸せだ」
ジュウ「レイジは? レイジはまだ過去の恋人を引きずったまま生きるつもり?」
レイジ「ジュウリ、暫く会わなくて忘れたか? それは禁句だろ?」
ジュウ「いつまでも禁句はないわよ。いずれ、本質に向かいあうものよ」
レイジ「姐御は手厳しいな。でもおれのことは心配ない。
ずいぶんと前向きになったんだ、これでも。
これから死ぬって電話は、長いことナルセにかけてない」
ジュウ「そう。だったら、いいのよ。レイジは大事な友達だから、心配しただけ。
そうだ、あのね。マックに彼女がいるかどうかを知ってる?
いないなら、私の友人を紹介しようかなと思ってるんだけど?」
レイジ「それは良い話だが、あいつには意中の相手がいるから無駄だろうな」
ジュウ「え、そうなの? そんな話、聴いてないわよ。ふぅん、そうなの?
今度、白状させなきゃ。私とリンとマック、それからアルーシャのサワで、
打ち合わせを兼ねて、たまによく飲みに行くのよね」
レイジ「4人で? あのイケメンのにーちゃんとも飲みに行くのか? 知らなかったな」
ジュウ「ええ。リンとサワが結構、ウマがあうみたいでね。マックもサワと仲良いわよ。
とにかく、あの三人はよく飲むから、毎回大騒ぎよ。やんちゃな子供みたい。
私は保護者みたいに今から何だか心配で、ライブ当日はピリピリしそう」
レイジ「へぇ。そうなのか。それは聞いてなかったな」
ジュウ「サワが、ピアノマンに近々行きたいって言ってたわ」
レイジ「今度、来るんだろ」
ジュウ「そうじゃなくて、お客さんとしてよ。
サワも以前から、この店には何度か来てるらしいけど、知らなかった?」
レイジ「知らなかったな。会ってないのかもな。会ってたら、わかる」
ジュウ「そうしょうね。ライブまでにリンと一緒にくるって行ってたわよ」
レイジ「リンはとうとう宗旨替えか? もしかしてサワと付き合ってる?
サワにお熱ならそう云っておいて貰わないと、おれが手を出したら困るよな」
ジュウ「そういう関係じゃないわよ。友達よ……多分。知らないけど。リンはノーマルじゃないの。
ナルセとそうかと思っていたけど、誤解だったわけだから。
でもサワはちょっと問題ありね。サワを口説く気なの、レイジ?
やめた方がいいわよ。いい歳をして、まだ遊び足りないの?」
レイジ「いい歳とは失礼な。分かった、もう老兵は引退するよ。問題ありって?」
ジュウ「酒に飲まれるタイプよ。そうだ、リンよりマックがちょっとヤバイわね。
マックって、バイセクシュアルの気があるんじゃないかしら?
面倒くさくなると投げやりになって、流される傾向があるから心配なのよね。
だからさっさと誰か彼女を紹介しようと思ったんだけどな……」
レイジ「何が心配なんだ?」
ジュウ「何がって。サワとよ。時々、酔っぱらってサワがマックを口説いてるのよ。
サワってゲイなの? この間もお互い酔って二人で悪乗りしちゃって、大変。
すごく怪しげだったわよ。酒に飲まれると、人間怖いわよね。
知らないうちに、あれ以上の過ちが起こってないといいけどね」
photo/真琴さま(Arabian Light)