Because


5月25日 AM02:30
ピアノ・マン バーカウンター

登場人物:鏡夜/サワ/レイジ



鏡 夜「いらっしゃいませ。今晩は」

サ ワ「こんばんは。……まだ、いけるかな?」
鏡 夜「どうぞ。今夜は、おひとりですか?」
サ ワ「シックスティーズのリンと約束してたんだけど、用事ができちゃって、すっぽかされた」
鏡 夜「それは残念ですね。お忙しいですからね、お二人とも」
サ ワ「……俺を知ってる?」

鏡 夜「もちろんです。クラブアルーシャ、41のサワさんですよね。
    時折お越し頂いてたのは、存じ上げていました。
    私はカウンターから外れている時もありますので、ご挨拶が遅くなりましたが、
    お越し頂いて光栄ですよ。何になさいますか?」
サ ワ「ホワイトレディを貰える? それと、こちらのオーナー、いるかな?
    それから、貴方の名前も聴いていい?」
鏡 夜「かしこまりました。要は本日はおりますよ。先ほど戻ったところです。
    私の名前は、カヤノです。カヤノ・キョウヤと言います」
サ ワ「キョウヤさん、か。覚えておきますよ」
鏡 夜「ありがとうございます。嬉しいです。6月3日のライブ、私も楽しみにしています。
    では、要を呼んで参りますので、少々お待ち下さい」



☆☆☆



レイジ「ようこそ、いらっしゃいませ。ご無沙汰ですね。ミスター、41?」

サ ワ「こんばんわ。要さん、俺のこと覚えてくれてたんですね。
    本名は沢田といいます。サワでいいですよ」
レイジ「覚えていないわけがない。男前は忘れません。私のことはレイジとお呼び下さい」
サ ワ「レイジさん。暫くお店には来てなかったんですけど、なかなか時間がなくて」
レイジ「また御贔屓にお願いします。今日は何か私に?」

サ ワ「ええ、あの、俺らのミニライブにこの店を貸してくれるって聞いて。
    ピアノマンに行くならうちの店長が、要オーナーに挨拶しとけっていうもので」
レイジ「ああ、三浦さんがね。それはどうも。三浦店長も店の道楽が激しいですね。
    そうだ、良いものが入ったので、またご来店下さいとお伝え下さい」
サ ワ「わかりました。喜びますよ。うちの店長は、レイジさんのこと尊敬してますからね。
    オレもいずれあんな風になりたいって、鼻息荒くしてますよ」
レイジ「ははは。どんな風なんだかね。良い噂の方だと良いですが」
サ ワ「悪い噂も、色々あるみたいですよね? 色っぽいやつも。
    でも謎めいてる若き美形オーナーの噂じゃ、どれも真実に思えるし嘘でも真実味が増す」
レイジ「どの噂のことだか解りませんが、お褒め頂いてるのかな? それはどうも」

サ ワ「以前、うちの前身バンドに豪さんが居た時、レイジさん、来ましたよね?
    アルーシャに。シックスティーズのボーカル、ナルセと一緒に、ね」
レイジ「おや。そんな昔のことを覚えてるとはね。ナルセは目立つからな。
    でもよく私が連れだとわかりましたね。隅っこで大人しくしてたのに?」    
サ ワ「ナルセはもちろんですけど、貴方も目立つ。オーラを出してる二人が、
    隅っこに座っても意味はない。貴方がたのテーブルは、かなり異彩を放ってましたよ。
    仲も何だか良さそうだったし……ね?」
レイジ「まぁ、そういうことにしますか。それで、何が言いたい?
    腹を割って話そうか? こんな時間だ。人の話を聴くような素面の人間は、誰もいない」

サ ワ「へぇ? ここのオーナーは、お客にタメ口なんですか」
レイジ「ここは、おれが気に入った客しか入れないんだよ。道楽の店なんでね。
    おれの神経に触る客は、今後出入り禁止だ。ピアノマンはそういう店なんだ。
    ボウヤはご存じなかったかな?」
サ ワ「なるほど。わかりましたよ。三浦店長より、遥かに怖そうですもんね」
レイジ「あのときは、豪を盗り返しに来たって噂も出たようだし、少々不快にさせたかな?
    性格の悪いナルセのやることだからな。それだったら、許してやってくれ。
    もうとっくに時効だろうけどな」

サ ワ「え? いやだな。そんなこと今さら、気にしてませんよ。
    豪さんは、いいギタリストだったから、そう思われるのはしょうがない。
    今は豪さん、海外なんですよね。さすがだなぁ……」
レイジ「豪を狙ってたか? 豪はあんたに狙われたと云ってたがな。ベッドに誘われたって」
サ ワ「え?! 嘘だ。まさか、豪さんがそんなこと、云うわけがない……。
    あ……もしかして、レイジさんが、豪さんの恋人なんじゃないでしょうね?
    そういえば豪さん、貴方と知り合いだって云った時、なんか妙だったよな」
レイジ「冗談だろ。あんな荒野の色気のない鋼鉄男、恋人になんかご免だよ」
サ ワ「そうですよね。驚いた。でも、そんな話を俺にするってことは……
    貴方も、そう、なんですか?」
レイジ「悪いが裏のあんたの噂、少し調べたよ。相当遊んでるらしいな。
    おれはこの近辺のその世界じゃ、ちょっと鼻が利くんでね」

サ ワ「へぇ。そうなんですか。俺に興味を持って貰えたんですか?
    一応、秘密なんですけどね……おれの性癖とかって」
レイジ「おれに秘密は通用しない。素行を改めないと、三浦さんに迷惑をかけるぜ。
    下の始末をもみ消すのに、うちのボーカルは金がかかりすぎるって嘆いてた。
    それほどの価値が、あんたにはあるんだろうけどな?」
サ ワ「まさか。そんなハズない。でも価値があるかは……試してみます?」

レイジ「まさか、誘ってるのか? おれを? あんた三浦さんの愛人じゃないのか?」
サ ワ「いけませんか? 貴方は、魅力的だ。すごく。ミステリアスなオーナーは人気ですよ。
    俺は三浦店長とは何でもないです。店長は良くしてくれるけど。
    実はさっき、そうなのかと聴いたけど、貴方と寝たってヤツ、知ってるんですよ。
    自慢してますからね。貴方にだったら、抱かれてみたいと誰でも思うでしょう。
    俺もそう思う。……どうですか? おれと」
レイジ「この店で売春行為はお断りだ。おれとしたけりゃ、そういう場所に来い。
    ここで、冗談以外のそういう会話は、許可しない。
    それから、おれとの情事を自慢するような、そんな頭のだらしない奴と寝た覚えはない。
    嘘をつくときは、噂をちゃんとリサーチしてからにしろ」

サ ワ「手厳しいな。俺は趣味じゃないですか? 売春なんかじゃないですよ。
    俺を買ってくれなんて言ってない。貴方に興味があるだけです。
    デートしたい。それだけ、ですね」
レイジ「デートね。切れ長の目はソソルけど、抱きたいほどじゃないね。残念ながら」
サ ワ「はは。俺の売りを否定されたな。じゃあ、そういう場所って、どこですか?
    レイジさんが通ってる店を言ってくれないと、試して貰うチャンスもない」
レイジ「さぁ。あんたの通う店にいけば、いつか会えるかもな。
    おれと会えなかったら、適当なヤツとやればいい。いつもそうなんだろ?
    もっとも、おれは的を絞ってるから、今後そんな場所に行くことはないけどな」
サ ワ「的を絞ってる? 特定の相手がいるんですか?」
レイジ「もちろん相手はナルセだよ。
    あんたは、あちこち無節操にマーキングしてるんじゃないのか?
    ジュウリが困ってたぞ。サワがシックスティーズのリンを口説いてるってな」
サ ワ「リンは違いますよ。ただの友達です。ああ、もうひとりの方かな……」

レイジ「シックスティーズのオトコに興味があるのか?」
サ ワ「別に。そういうわけじゃないですよ」
レイジ「ナルセは高嶺の花で、敷居が高いから、近くから責めていく手か?」
サ ワ「それも、違う。ナルセと恋人同士なんですか、レイジさん」
レイジ「付き合ってはいない。秘密の愛人なんだ。ナルセに聞いても無駄だぜ?
    恋人でも愛人でもないって、嘘をつくからな。表向き、ナルセは肯定しない。
    だからそういう理由で、ナルセもダメだからな」
サ ワ「俺には無理ですよ。確かにシックスティーズのナルセは高嶺の花です。
    俺なんかじゃ、相手にしてくれない」

レイジ「そうだろうな。誰なら相手にしてくれそうだ?」
サ ワ「そうですね。今、ちょっと……ベースのマックとはいい感じですよ。
    これ、喋っていいのかな。今さらな感じですけど、内密でお願いしますよ?
    シックスティーズのメンバーは人気あるから、公になるとマズイ」
レイジ「当然だな。話した内容が外に漏れることはないから安心しろ。
    それで、ベースとは寝たのか?」
サ ワ「さぁ……それはプライバシー上の秘密です。
    彼とは今後も大事に進めたいんで、言えませんね」

レイジ「おれを誘っといて、そういう返しか。
    噂以上にとんでもない野郎だな、41のサワってのは」
サ ワ「フフ。だってレイジさんが俺を断るからですよ。凄く傷つきました。
    本当は貴方が、ピアノマンの有名オーナーさんがどんな人なのか、
    ちょっと知りたかっただけです。三浦さんの憧れのひとだし。
    見た目と中味は、どうなのかと思って。すいませんでした。生意気な口をきいて。
    このこと、店長に言います?」
レイジ「言わないよ。バーカウンターでの会話は、全て消去されるシステムだ」
サ ワ「いいですね。俺、たまにレイジさんに相談しに来ていいですか。
    なんか惚れちゃったな……。実はゲイだっていうカムアウトをしてないんで、
    困ったときに相談できる人が少ないんですよね」
レイジ「リンに言え。リンに。差別なくじっくり相談に乗ってくれる」
サ ワ「でもリンは、ノーマルだからちょっと、ね」

レイジ「ははぁ。そういうことか。
    所詮、恋の相談と突然のカムアウトは、ヤバい方向に持って行きたい為のニセ相談か。
    ……本当にとんだ食わせ物だな、おまえ」







photo/真琴さま(Arabian Light)


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