十 五 夜 |
登場人物/鈴木(仲尾)・美月・加賀(美月の上司) 凪子ママの店から一駅先のショットバー |
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鈴 木「ご馳走サマ もう一軒行くか?」 加 賀「…いや もうギブ… うう やっぱ強いな鈴木クンは」 鈴 木「あんたも懲りねぇな 俺に酒で勝てる奴は滅多にいない」 加 賀「だろうね 呑みすぎだろ その声」 鈴 木「生まれつき」 加 賀「ウソだぁ 絶対声帯焼いちゃってるよ それは でも容姿に似合ってるよねぇ そうだ 美月ちゃんも結構飲むよな 一度勝負してみたら? 飲み代賭けて」 美 月「…えっ! わ 私?! いえ そんなとても敵いません!」 加 賀「美月ちゃんさー どうして俺に付き合ってハシゴしてんの? 確認するけど 上司である俺は 別に無理やりセクハラで誘ったりしてないよね? だから俺に気があるなら もう落ちてもいい頃でしょう?」 美 月「えええ 違いますよっ 私そんなつもりじゃありません」 加 賀「ありませんて… 変だよキミ だったら何で?」 美 月「えーと だって 私この店が好きなんです そうこの店が」 加 賀「何 この店? この店に来たくて俺に付き合ってるの? 何だがっかりだなぁ そんなの一人でくればいいじゃないか」 美 月「そんな 私一人じゃ入れませんよ こんな時間だし… それに…」 加 賀「そんな恐い店じゃないと思うがな なぁ鈴木クン?」 鈴 木「女ひとりで入るには かなり勇気はいるだろうな」 加 賀「そうかぁ? ああ 鈴木クンみたいな強面な男もいるもんなぁ 鈴木くんて セブンズ・ヘブンの用心棒だろ?」 鈴 木「俺がやってるのはバーテン」 加 賀「そんな凶暴なバーテンいないよ 機嫌悪いとお客殴り飛ばすじゃん」 鈴 木「しつこいホモオヤジの場合はな 店から許可も出てる」 加 賀「ホモオヤジねぇ 好みなら酒代をサービスしてくれるって噂あるけどさ 本当はどんなサービスだかね …ね あれってどういう噂?」 鈴 木「生憎あんたは好みじゃないから 一生知るこたないぜ」 加 賀「あははキッツイなぁ 美月ちゃんはどう? 彼女 多分鈴木クンに惚れてるんだぜ?」 美 月「…!! や! ななな何を言ってるんですか! 違いますよ!」 鈴 木「勝負するなら受けて起つぜ 俺は勝負に性差別はしねぇ この女の方があんたよりは飲めるようだから ハシゴの連れにはいいかもな」 加 賀「おっ 勝負しなよ美月ちゃん? これはチャンスだぜ」 美 月「…勝負って…そんな無理です!!」 鈴 木「やりもしないで無理なのかあんた 勝ったら酒代はタダだぜ」 美 月「あの じゃあ もしも 私が勝ったら酒代じゃなくて お願い…聞いて貰えます?」 鈴 木「どんなことだ」 美 月「デ、デート 私とデートして欲しいんです… けど…」 鈴 木「――― デート?」 加 賀「!!――マジで?! 美月ちゃん…? ちょっと待ってくれ 本当に鈴木クンが目当てだったのか??」 美 月「や! そんな目当てだなんて! えーそのですね あのですね それはですね」 鈴 木「―――― …基本的に」 美 月「…は はいっ!?」 鈴 木「基本的に 俺は女が 好きじゃない」 美 月「! お…女嫌い…ですか?」 鈴 木「そうだ だがあんたみたいなタイプはあまり免疫がない」 美 月「私みたいな …タイプ? それってどういう…」 鈴 木「怯えた負け犬みたな女」 美 月「!」 加 賀「おいおい 随分きついなぁ 女の子にそんなこと言っちゃだめだぜ 鈴木くん」 鈴 木「悪いな 自覚した時にゃ俺の周りの女は 敵側の性悪女ばっかりだったからな 女の扱いなんか あいつじゃないし とっくに忘れて覚えてないぜ」 加 賀「酷いこというなぁ 美月ちゃん 大丈夫か?」 美 月「はい… すいません ちょっと酔ったみたいです もう帰りますね …変なこと言ってごめんなさい もう… 来ません」 加 賀「あーあ 傷つけちゃったよ鈴木クン どうするんだよぉー」 鈴 木「面倒くせぇな… 送って行く」 美 月「えっ?」 加 賀「はっ?」 鈴 木「何だよ 俺が送っていけば 文句ねぇだろ」 加 賀「それはそれで 何か心配だよね…だってさ 一応男と女で… 俺はさぁ やっぱ一応彼女の上司として 責任もあるし…」 鈴 木「さっき上司のくせに口説いてたじゃねぇかよ 酔っ払い上司にに送って行かれるより 俺の方がよほど安全だぜ 言っとくが 俺は女に興味がない …それでいいか?」 加 賀「え…そうなのかい? 鈴木クンそれって 女嫌いじゃなくて…」 鈴 木「男が好きなんだよ しつこいようだがあんたは趣味じゃないぜ じゃ ここの飲み代よろしくな」 加 賀「趣味じゃないのはありがたいけど ゲイじゃなくてもなんとなく傷つくよね その言い草…」 鈴 木「帰るぜ 美月」 美 月「! は、ハイ!!」 加 賀「…って帰っちゃたよ本当に やれやれ最近の男はゲイだホモだって言えば 女が安心して付いてくるっていうもんなぁ その線かなぁ まぁ ゲイだって言われちゃそんな気もするけど… 独特だもんな彼氏 モノホンくさいよな 大丈夫かな 心配する年齢でもないし まーいいか」 凪子ママ「ちょっと…ヤバイわよ 秋ちゃん! 何だか二人で出て行くわよ?すぐ行って止めなくちゃ…」 吉 沢 「いや 大丈夫だろう せっかく来たんだし もう少しここで飲んで帰ろうぜママ」 凪子ママ「はぁ? ちょっと暢気なこと言わないでよ! あの子がホテルに連れ込まれて 強姦でもされたらどうすんの?!」 吉 沢 「それはないな」 凪子ママ「何を根拠にないって言うのよ!?ホモだかどうかわかるもんですか!」 吉 沢 「心配ない本物だ」 凪子ママ「あの男 知ってるの?」 吉 沢 「まぁ あいつが 俺の彼女だからな」 凪子ママ「―――――は? 何ですって?彼女??誰の?」 吉 沢 「俺の 彼女 男だけどな」 凪子ママ「何ですって? あの傷面のヤクザ崩れ男が??あんたの 彼女???」 吉 沢 「ま、そういうことだ 心配しなくていい 凶暴だから用心棒としてなら最適だしな 今夜は 思いがけない摩訶不思議なカップルを肴に 乾杯だ☆ 俺もおかげで憧れの熟女と カウンターの外で 語り合える機会にめぐり合えたしな 思ってもいない役得だ ほらアホ面してないでもう一杯いこうぜ 凪子さん」 |
☆☆☆☆ 美 月「…あの」 鈴 木「なんだ」 美 月「怒ってるんですか? 私なんかを送って帰ることになって」 鈴 木「帰りに途中下車するだけだろ そんなものついでだ」 美 月「そうですか…すみません」 美 月「…」 鈴 木「…」 美 月「あの」 鈴 木「…何だよ」 美 月「どうして 私の家の方向 知ってるんですか?」 鈴 木「お前の上司がいつもタクシーで送ってたろ 行き先をそこで言ってた」 美 月「あ …覚えて くれてたんですか?」 鈴 木「何回かあいつの会話に出てきたんだ しつこいくらいな」 美 月「そうですか…」 美 月「…」 鈴 木「…」 美 月「何か喋ってくれませんか? 何だか落ち着かないんですけど 間が持たないっていうか… ここから家までって 結構歩くんですよね… 暗くて人気のない公園なんかも あるし…」 鈴 木「お前が喋ればいいだろう 俺は女に喋る話なんかねぇよ」 美 月「…すいません えと あの」 鈴 木「お前みたいな自信無さそうな イラつく女は小学生の頃見た限りだ 珍しいぜ」 美 月「う どうせ私は負け犬です…自信なんてあるわけないし…」 鈴 木「俺をデートに誘った度胸はあるだろ」 美 月「…! 酔ってたんです 普通なら 言えません!」 鈴 木「嘘つけ 酔ってねぇだろ わかんだよ 自分と同じアルコールに強い人間はな」 美 月「分かりますか…」 鈴 木「酔ってなくても 酔ったふりで大胆に男に媚てくる女はいるけどな うざってぇ ま それよりは お前の方がちょっとはマシかもな 媚もしねぇその無表情がな」 美 月「苦手なんです…そんな彼女たちのような…生き方は 笑うのも苦手だし」 鈴 木「けどその方が楽なんだろ 女ならな 違うのか?」 美 月「鈴木さんは 女の人が嫌いだからそう思うんですよ 誰もがそんなタイプの女じゃないです だけど 本当にゲイ…なんですか?」 鈴 木「女は嫌いだ 男は好きだ 以上おわり」 美 月「…こ 恋人は…いますか? やっぱり男の人?」 鈴 木「お前 ゲイについて知ってるか?」 美 月「知りません…」 鈴 木「お前の上司 なんていったっけ」 美 月「…加賀チーフですか」 鈴 木「ああいうのは好みじゃねぇから セックスはお断りだが 俺の行ってるBARの…フロア・マネ 知ってるか?お前も来た事あるだろ」 美 月「セブンズ・ヘブンのフロア・マネージャですか?…はい 知ってます」 鈴 木「男前だろ」 美 月「まぁ そうかもしれませんね…」 鈴 木「お前はああいう男前は 好きじゃないのか」 美 月「はぁ 男前でも 冷たくて軽薄そうだし どっちかっていうと嫌いです」 鈴 木「俺は ああいう後腐れがなさそうなのが好きだ セックス向き」 美 月「あのタイプの男前なら…誰とでもするんですか?」 鈴 木「お前 俺のどこが好きなんだ?」 美 月「…迷惑なのは分かってますけど 一目ぼれってあるんです ちょっと 声を聞いて 傍で姿を見て過ごすだけで良かったんです 加賀チーフに付き添って あなたに会えるだけで良かった 他は望んでません ちょっと今日は…加賀チーフの手前 言ってみただけです」 鈴 木「あいつが お前に下心ありそうだったからか?」 美 月「はい あ いえ でも私は そんなつもりありませんから ごめんなさい デートなんて そんなの気が動転して できないですから」 鈴 木「お前 男と付き合ったことあるのか」 美 月「…ありますよ 一度だけですけど でも長続きしなかった 私 暗くて陰鬱だから」 鈴 木「そうだな 顔は悪くねぇけどな」 美 月「! 顔 悪くないですか? 嬉しい…」 鈴 木「顔だけ誉められて嬉しいか?」 美 月「はい 見た目がいいのは 武器でしょう?」 鈴 木「中身でかっがりさせるのも 相当武器だぜ 外見から入ると破壊力がある」 美 月「私って破壊力のある中身の酷さですか…やっぱり…そうですよね 男の人は 不美人より 中身が駄目な方が ダメージ大きいですか…」 鈴 木「あのな ウジウジするのが趣味なのかよ お前の中身なんか知らねぇよ あいつならもっと気の利いたセリフでも言うんだろうがな 俺はそういうのは苦手だ お前がどんな女でも 俺には全然関係ねぇ」 美 月「あの あいつって? さっきも言いましたね 誰のことですか? フロア・マネ?」 鈴 木「違う… 別の知り合いだ さっきも言ったか? 覚えてねぇな」 美 月「いいましたよ その人って鈴木さんの… 恋人ですか?」 鈴 木「さぁな」 美 月「鈴木さん ずっとあのBARに セブンズ・ヘブンにいるんですか?」 鈴 木「もうじき やめる」 美 月「え! じゃあ今度はどこに?」 鈴 木「俺のストーカーでもする気かよ? この街はしばらく離れるだろうな 長居ができねぇ性分なんだ 逃げ癖がついててな」 美 月「鈴木さんてなんだか浮世離れしてますよね だから ちょっと憧れた… かな…」 鈴 木「夜の世界の通りすがりだから 気にかかるんだろうよ 俺に目をつける女がいるとは 思わなかったがな 変な女だ 普通ならあいつのジャンルだぜ あいつなら通りすがりの女は 喜んで食ってるはずだけどな と、 …チッ」 美 月「その人… 女の人が好きなんですか? 鈴木さんの思い人? その人はゲイじゃないの? 片思い?」 鈴 木「片思いって…小学生の恋愛話してんじゃねぇんだぜ 片思いとは懐かしい響きだな どうでもいいだろ そんなこた」 美 月「ごめんなさい でも私 こんなに男の人と話したの 初めてです」 鈴 木「そうかい 俺も女とこんなに話すのは初めてだよ」 美 月「えっ そうなんですか 嬉しい」 鈴 木「だいたいは 会話が噛みあわなくて あっちへ行ってくれるもんなんだがな」 美 月「それって私が図々しいって 無神経ってことですか? もしかして」 鈴 木「ホモの俺と話したって 別に面白かねぇだろってことさ」 美 月「そんなことはないですよ 私は鈴木さんと加賀チーフが話してるのを 傍で聞いてるだけで 面白かったです 今も 鈴木さんといるのは… 楽しいし」 鈴 木「あのな さっきから気になってんだけどな 実は俺は 鈴木って名前じゃねぇんだ」 美 月「え!?」 鈴 木「それは偽名 何でとか聞くなよ なんとなくだ」 美 月「…じゃあ 本名は? どうして今更バラすんですか? もう何処かに行くから?」 鈴 木「それもあるが お前が鈴木鈴木連呼するのがウザイからだよ」 美 月「すいません… 本名は 教えてくれないんですよ ね?」 鈴 木「ジンだ 名前はジン 苗字は別にいいだろ 呼び名がありゃこと足りる」 美 月「ジンさん… 似合ってますね… カッコイイ」 鈴 木「お前 姉貴に似てるよ」 美 月「えっ」 鈴 木「煮え切らないでぐちぐち言ってるとことか 言うことがくどいとことかな」 美 月「お姉さん…とは 仲良くなかったんですか?」 鈴 木「良くはなかったな 姉貴はいつも俺を心配してたが 俺にはうざかったからな」 美 月「うざかった?」 鈴 木「どうにもならないことをいつも気にして その態度がイライラした… 昔に別れたきりで 長年付き合いはなかったが 随分前に偶然会ったんだ 姉貴は結婚してて ちょっとは図太くなったみたいだったな 女は収まる場所ができると態度がでかくなるらしい 俺の見た目に説教して 泣くんで参った」 美 月「お姉さんは ジンさんを心配してたんですね…」 鈴 木「は、どうだかな 女が泣くのは 自分のためだろ 他人に優しい自分に酔って泣くんだろ」 美 月「…でも お姉さんは他人じゃないでしょう」 鈴 木「お前は他人だぜ 美月 おい 泣くなら置いて帰るぜ 何なんだお前 こんな役目は俺の柄じゃねぇんだよ ご希望なら最適な優男を連れてきてやる」 美 月「! 別に私 泣いてません ちょっといい話なのかなって… うるっときただけで」 鈴 木「いい話? どこでそうなるのかさっぱりわからねぇな 俺は事実を述べただけだぜ 別に姉貴に泣かれて 分かり合ったわけでも 感動の抱擁をしたわけでも何でもねぇ」 美 月「泣かれても動揺しなかったですか?」 鈴 木「動揺というより 正直うんざりして参った その程度だ ガキの頃の俺だったら イライラして怒鳴りつけてたかもしれねぇけどな 怒りは沸かなかったな 適当に… 歳月ってな 案外無駄じゃねぇ ほとんど会ってなかった姉貴が 俺と血で繋がってる縁の人間だと 今更 思えるなんてな」 美 月「気持ちが優しくなったんですね きっと」 鈴 木「歳をとって性格が丸くなったってかよ ぞっとしねぇな」 美 月「きっと中身が… 心の中が荒れなくなったんですよ 多分 私は そんなに優しくはなれないです… そう たとえば まだ両親や 親族の誰かに逆らったり恨んだりして 自分では 本当は何にもできないのに 自分勝手なんです 働いて仕事をしていても こんなに年齢を過ぎても 独り立ちできなくて なんだか子供っぽい自分がいる 親類で 私の結婚の心配をしてくれてる スナックを経営してる 素敵な叔母がいるんですけど… 叔母は私のためを思ってくれてるのに それが鬱陶しくてたまらない」 鈴 木「人のスタイルに口をだされりゃ 鬱陶しくもなるだろうさ 普通だろ」 美 月「そうはそうですけど… だけどいつまでも言われっぱなしな自分も情けないなって…」 鈴 木「まぁ 俺のようなヤクザものに一目ぼれなんです、なんてふざけたことを 言ってる女は ウザイ酒場のオバハンに心配されても仕方ないだろうがな」 美 月「いい人なんですよ 綺麗で面倒見が良くて優しいんです それに若い頃に男の人で酷い目にあったから 人より苦労もしてるし 今は自分のお店を持ってて… 男の人にも もてるし あんな風になりたいなって すごく憧れます…でも…私には無理 現実は そんな風にいかない」 鈴 木「いいか ちゃんと自分で男を見ろよ その前にお前は 自分も見ろ ウダウダいってるから 男で失敗したババアなんかに隙を突かれるんだ お前みたいなのが 詐欺師の男に騙されるんだぜ 自業自得だ」 美 月「それって 私が悪いんですか? 騙す方だって悪いでしょう」 鈴 木「他人を責める奴は甘えてるんだよ 誰が悪い悪くないの問題じゃなくな 聞く話はまるで他人ごとだから 特殊な話に感動して騙されるし泣く 何でも他人の絵空事だ 自分は全然煮え切らねぇ 俺もそのババアも お前のために大層な芝居こいてるワケでも 何でもねぇぜ 自分の現実だ それこそ浮世離れした生活が 俺のリアルなんだよ 何でもすぐにあきらめて 自信のないお前には 俺のリアルに入ってこれる度量なんざねぇよ 迷惑だ」 美 月「…! ここで いいです …このマンションが そう なので」 鈴 木「――泣けばいいってもんじゃねぇだろ 泣くなよ ああ、面倒くせぇな 俺は本当に女が駄目なんだ 扱い方が分からねぇ… 要するに そうは言ったが お前の現実にも 俺は参加できねぇってことだよ ちくしょう… あいつの得意分野だぜ こんなのはよ クソ」 美 月「…あなたはウジウジと 辛い恋なんか したことなんてないんでしょうね…」 鈴 木「あるさ 辛くて相手を憎んだくらいだ」 美 月「!」 鈴 木「そら 行けよ ここでいいんだろ 送るのはエレベーターの前までだぜ」 美 月「はい…」 鈴 木「部屋に入るまで下で見ててやるから 入って鍵を全部かけて 寝ろ」 美 月「…もう 会えませんか もう これっきり?」 鈴 木「言っとくがな もしもどこかで俺と俺の連れに会っても 声をかけるなよ 俺の男は 特に美人にゃ弱いんだ お前には会わせられねぇ お前な 美月 もう少し明るくすりゃ 少しくらいマシになれるぜ」 美 月「あの… 美月って 私を名前で呼んでくれたことが 嬉しかった です」 鈴 木「はぁ? あの上司が―― 誰だっけ ま いいや お前の上司が 美月ってお前のことを呼んでただろ かれこれ1ヶ月くらいお前の陰気な顔を見てりゃ 名前くらいは覚えるさ …お前の上司は お前があまり呼ばなかったから 覚えてねぇけどな」 美 月「ええ はい 別にあの人のことは覚えてなくていいですよ そんなものなんですね あの… 最後にひとつだけいいですか」 鈴 木「よくねぇよ まだ何かあんのかよ うぜぇな お前の部屋何階だ? ボタン押すぞ」 美 月「6階です あの お姉さんのこと… 好きでした?」 鈴 木「好きじゃなかった」 美 月「そう… ですか」 鈴 木「でも姉貴だ 死んでもあの姉貴は 俺の姉貴だ 好きでもねぇが 別に嫌いなわけでもねぇ」 美 月「そう 良かった… じゃ おやすみなさい」 鈴 木「いつまでもぼんやりしてんなよ ……泣かせて悪かったな あばよ」 美 月「…待って! あの! えっと…! 私が 私がちゃんと部屋に入るまで 外で見てて下さいよ! ジンさん!!」 鈴 木「うるせぇ 言っとくがな 入るときに手とか振るなよ 絶対な」 美 月「(笑)」 「…フン 笑えるんじゃねぇか あの女」 |
3へ続く |
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