電脳タブロイド
チェリーブロッサムの復讐
08
登場人物:テッド/エンゼル
場所:バーチャルーム:M4444真紅の城専用・桜パーティ会場

テッド 「合言葉は?」
エンゼル「……いや。それがだな。……忘れたんだよな、実は」
テッド 「最低男ね。薄情すぎるのじゃないかしら」
エンゼル「……確かにな。畜生、その頃は、ちゃんと覚えてたんだ。けど、もう……
もう二度と会わねェよなって思って、すっかり忘れたんだよ。
我ながらバカだよな……。う〜、だって覚えててもしょうがねぇだろ!?
育ちのいい御嬢さんなんか、俺には所詮不釣り合いだからな!!」
テッド 「そういいながら、あなたって、所詮、育ちの良いお嬢さんが趣味だわよね」
エンゼル「うッ。なんでそんなの、わかんだよ……ネカクラのせいか。そうなのか」
テッド 「ピンク・ウイルスの作者は、そのチェリーって女で決定ね」
エンゼル「え!? まさか……。いや、そ、そうか……。やっぱり、そうなのか?!」
テッド 「ドボンワードだわ、その合言葉が。もう思い出さない方が身の為かもよ」
エンゼル「待てよ。もともと、この噂で俺が狙われてると云ってきたのは、あんた、だよな?」
テッド 「アラ。まさか、あたしを疑ってるのかしら? それは違うわね。ぜんぜん違うわ。
あたしはチェリーなんかじゃないわよ。笑わせないで」
エンゼル「本当か? ならどうして俺が狙われてるなんて、知ってたんだよ?」
テッド 「説明が必要? あたしの情報網は、何でも捕まえるの。その中のひとつだっただけ。
普通なら気にとめないけど、オンラインルームカフェで、あなたがあたしのことを、
キラさまだと間違った。その偶然が、ただ重なったのよ。
だけど、この特殊なリボンをつけてるから、あたしは疑わしいかしら? そうよね。
それは確かに、どういうことかしら……」
エンゼル「ゲームで奪った戦利品って話、本当かどうだか、わからねぇよな?」
テッド 「本当よ。だけど持ち主は本当にチェリーって女だったかもしれないわね。
条件が揃ってるわ。うっかりしてたけど、実は私も罠にかけられたのかもね。
このリボンの元の持ち主が、あたしの興味を惹くことを知っていて、意図的にそうした可能性が強い。
たいしたハッカーだわね」
エンゼル「偶然すぎるだろ。だって、カフェであんたと俺が出会うことなんか、誰にも予測できないじゃねぇか」
テッド 「そうね。だけど、そういうこともないとは限らないわね。相手は上級ハッカーだもの。
オンラインで出会うなら、何かしらの情報で、あたしとあなたが出会う可能性は計算できるわ」
エンゼル「けど、あんたがキラだって、俺が思うことまで計算できるか? 無理だろ」
テッド 「そういえば、どうしてあなたは、あたしをキラさまだと思ったのよ?」
エンゼル「ええ? どうしてって……。何でだ? ……いや。なんとなく、だよ」
テッド 「何の冗談なのかしら。理由はあるでしょう? なんとなくなんてありえないわよ」
エンゼル「なんとなくは、なんとなくだよッ!! 知るかよ、感覚だ。そんな気がしたんだ」
テッド 「あなた、MB出生でしょ。なんとなくって、何なのよ。感覚ってどういうこと。
そんな野生の勘みたいなもの、ないでしょう。しかもネット上でありえない」
エンゼル「うるせぇ、MB児でも、いつまでも俺は初期値じゃねぇんだよッ!!」
テッド 「何故逆ギレなのかしら。オンラインで感覚? 信じられない。言語の癖っていうならわかるけど。
コードに余分なものはない。0か1かよ。なんとなく違ってたなら、全て形をなさない。
それ以外のものは、存在できないわ。意味をなさないものになる。
つまり説明のつかないものは、無いのだわ。下等チームのヘッドに理解できる?」
エンゼル「うぜぇよ!! そんなこた、分かってるよ!! どんだけバカにする気だァ!
そんなんわかってら! だけど、説明できねぇ何かなんだよッ!」
テッド 「イミフだわ。だから下等ハッカーはイヤなのよ。疲れるわ」
エンゼル「……本当に、キラじゃねぇのか?」
テッド 「本気で疑ってるのかしら。話にならないわね。ということは、エンゼルさん。
もしかして、あたしをキラさまだと思って、口説いてたのかしら? 今までずっと?
アーラ、ヤダ、マジでー? 噂は本当なのー」
エンゼル「ち、違ぇよ!!! 変な誤解をすんなよなッ!! なんか、似てるんだよ、あんた。
そうじゃなくて、だから、てっきり、また、騙されてるのかと……」
テッド 「テッドはテッドなのよ。騙す必要がないわね。
だいたい、どうも引っかかる疑問があるんだけど、いいかしら?」
エンゼル「ぎ、疑問?」
テッド 「チェリーがしていたって云うこのリボンだけど、この柄はどう考えても、
クールでパンク過ぎて、キュートなピンクのワンピースには絶対に似合わないと思うのよね」
エンゼル「……え?」
テッド 「本当に、チェリーはこのリボンをしてたのかしら? 単品ではイカシてても、
ピンクの桜のワンピースにこの柄のリボンじゃ、随分センスが悪いコーディネートになるわよ。
もしも色を変えていたにしてもよ。エンゼルさんは、そうは思わなかったのかしら?
それとも、ご趣味が悪いのかしら?」
エンゼル「え。いや。そうかな。センス悪い……? そんなイメージじゃなかったけどな。
ふんわりと全体にピンクで可愛い感じで……違和感なんかなかった。そうだよな。
そんな柄は、女の子には不自然だよな。おかしいな。チェリーはリボンをしてなかったのか?
俺の勘違いか……? うーん、昔のことだからなぁ。
でも、なんでだかその柄には、見覚えがあるんだよな……記憶違いかな」
テッド 「呆れたことね。結局、あなたには永遠に見つけ出せないのよ。
気の毒に。チェリーは、王子様と会えなくて、ネットの泡になる運命ね。きっと泣いてるわ。
あなたはすっかり、目印も合言葉も、チェリーのことさえ忘れてしまってるんだものね」
エンゼル「! ……チェリーは、俺を恨んでるのか? 見つけてくれないことに対して。
それで、ウイルスを俺に、ぶつけてきたのか?」
テッド 「さぁね。知らない。そうかもしれないわね。復讐のウイルス・チェリーボムかしら」
エンゼル「なんてこった……」
テッド 「じゃ、これでおしまいだわね。
薄情な男に恋したチェリー・ブロッサムの復讐だったってことが分かったとこで、
このピンク・ウイルス騒動は終わりね。なんともいえないマヌケな終焉だったわね。
始まるまで最高に盛り上がったわりには、最後はつまらないオチだわ。
もっとも、パーティってものは、そんなものかしら。祭りのあとは虚しいと云うものね。
悪いけど、女心を無下にする男とのデートはお断り。いいわよね」
エンゼル「ああ……。
――――どこかで、チェリーは見てるのかな」