電脳タブロイド
チェリーブロッサムの復讐

07
登場人物:チェリー/エンゼル

場所:廃屋のオフライン会場


チェリー「ねぇねぇ。エンゼル。
     本物の桜の木を、みたことある?」

エンゼル「桜? 桜の花か? 植物園で季節限定で咲くピンクの花のことかよ」
チェリー「違う。植物園は、本物じゃないもん。あれは人工の桜。偽物のピンクだもん」
エンゼル「偽物の桜でさえ、俺はまだ見たことねぇよ。下流人は植物園の一等区域には入れないからな」
チェリー「限定期間の桜区域は、お金持ちのひとたちの場所だもんね」
エンゼル「そうだよ。チェリーちゃんはその桜を見たのか? じゃあ、おまえって良いとこのコか?
     なんでこんなハッカーチームのオフ会なんかに参加してるんだよ」

チェリー「面白そうだったから。チームに興味があるの。なんだか面白そう」
エンゼル「ピンクのワンピースなんかヒラヒラさせて、フラフラくるような場所じゃねぇぜ。
     気をつけな。いくらなんでも、その恰好はないだろ」
チェリー「そうね。エンゼルが助けてくれなかったら、ヤバかったよね。すごく恐かった。
     ハッカーって人種は、ひ弱でインテリで腕力はないと思ってたの。
     そういうのじゃないのも来てるって思ってなかった……乱暴で恐い人たちだった」
エンゼル「今は過渡期だからな。色々なのが混ざってるのさ。用心するべきだぜ」

チェリー「エンゼルは、どこのチームのひとなの?」
エンゼル「俺は今、チームには入ってない。だがいずれ自分のチーム作ろうと思ってるんだ。
     それでまぁ、下見に来た。ってのは建前で、実はナンパにきたんだけどな」
チェリー「チームを作るの? 自分で? メンバーってどうやって集めるの? ネットで募集するの?」
エンゼル「ネットで募集するもいいけど、以前のチームで仲が良かった奴らとつるむ感じだなぁ。
     今は何も考えてねぇけど、俺は……もともとは、リアル武闘派組だったんだ……」
チェリー「武闘派! 今や数少ない人種ね? 調べたわ。そっかぁ。なるほどね。
     だからひと睨みで、私を救ってくれたのね。エンゼル、強いんだね。大きいもんね。
     絡んだ人たちも、わりと強そうだったけど、しっぽを巻いて逃げてったもん」

エンゼル「ま、それは俺の面構えのせいだろうな。人相だけは昔から極悪だって云われてきたからな。
     たいていのヤツらは、逃げるよな」
チェリー「そんなことないよ。顔は恐いけど、エンゼルは優しい。チェリーの騎士だよ」
エンゼル「おいおい、騎士なんて言われたのは、初めてだ。照れるだろ。なんかくすぐったいな……」
チェリー「だってこれ……挫いた足に巻いてくれた、エンゼルのハンカチ? 痛いのがとれたよ。
     ありがとう。これ、魔法の包帯なの? どんな作り?」
エンゼル「それはバンダナって云うんだ。ケンカも結構してきたから、俺は怪我が多くてな。
     だからテーピングとか、結構うまいんだ。仲間の怪我は、たいてい俺が補強してやってた。
     魔法じゃねぇけど、多少、撒き方で痛みは軽減するんだよ」

チェリー「へぇぇ。バンダナ。すごいね。万能だね。
     ねえ、仲間って、もしかして、有名なヘルハウスのメンバーだったの?」
エンゼル「まさか! 冗談だろ。ありゃ、イカレタ狂気の殺人軍隊だ。ギャングでも格が違う。
     そこまで本気でもメジャーでもねぇって。もっと、下のランクだ」
チェリー「ギャングは、ヘルハウス以外にもたくさんいるの?」
エンゼル「いるさ、もちろん。減ってるけどな。もっと下流の貧困区域の、こざかしい不良街の少年ギャングだよ。
     やつらと比べたら可愛いもんだぜ。けど俺のギャングチームは、もう解散しちまったんだけどな」
チェリー「そう。だから自分のハッカーチームを作るのね」
エンゼル「ああ。ケンカしてどうのって時代じゃなくなったしな。暴れて警察に捕まるのも面倒くせぇしよ。
     今後は、お互いを労わりあって、競わない、差別しない、そんなチームが欲しいんだよな」

チェリー「その右目って、ケンカして怪我したの?」
エンゼル「……いや。ちがう」
チェリー「生まれつき? 見えないの?」

エンゼル「いや。チェリーちゃんには難しい話だ」
チェリー「云いたくないんだね。わかった。聴かない」
エンゼル「おまえ、イイコだな。ところで、どうして桜の話なんか聴いたんだ?」
チェリー「あたし、ピンク色が好きなの。このワンピースの柄ね、桜の花だよ?」
エンゼル「へぇ。それが桜の花か。でも本物なんか、この世にあるのか?」
チェリー「山奥に、天然の自然の山桜ってあるらしいよ。野性の桜なの。知らない?」

エンゼル「ああ。聞いたことがある話だな。都市伝説じゃねぇのかな」
チェリー「そんなことないよ! きっと山桜はあるよ! すごくきれいな筈だよ」
エンゼル「わかった、わかった。興奮すんなよ」
チェリー「あとね、甘いピンクのケーキも好きなの。
     そのケーキがピンクだから、ピンク色が好きになったの」
エンゼル「ピンクのケーキ?」
チェリー「そう。名前はチェリーパイ。食べたこと、ある? メチャクチャ美味しいよッ♪」
エンゼル「……ねぇ、かな。チェリーパイな。どうかな。食ったかなぁ?」
チェリー「覚えてないの?」
エンゼル「そ、そんな絶望的な顔すんなよ。まてよ、そうだな。パイか。甘いものだな。
     そういや、いっかいくらいは食べたかもしれねぇ……」

チェリー「嘘つき!! 覚えてないなら、きっと食べてないよ!
     すっごい甘くて、最高においしいんだからね!! 嘘つかないで!」
エンゼル「わかったよ。女のコは、甘いスイーツがだいたい好きだよな。
     でも好きでもない奴には、そんなに覚えてるようなもんでもねぇんだよ」
チェリー「そうなの? 信じられない。あんなに美味しいのに。男はそうでもないんだ。
     へぇ。知らなかった。でも私は毎日、食べたいから、パパに毎日買ってきてって頼んだの」
エンゼル「……イイとこの御嬢さんだなぁ、やっぱ。俺には吊りあわねェな。
     もう帰れよ、チェリーちゃん。どうしても参加したいなら、オンラインパーティにしろよ。
     バーチャルのネットでいくらか安全だ。直接襲ってくるケダモノもいねぇしな」

チェリー「いいとこの御嬢さんじゃないよ。それ、どんなもの?
     パパが云うには、お家はそんなに金持ちでもないから、毎日は買えないって。
     それで桜の木に生ってるチェリーを見つけて来たら、それで作ってくれるって云ったの」
エンゼル「それで、本物の桜を探してるのか? そうか……。
     けど、多分、チェリーって果実は、普通の桜の木には、つかないんじゃねぇかな?」
チェリー「うん。そう。エンゼルの正解。物知りだね。
     調べたら植物園のとは、種類が違うって。先に調べたら良かった。つい先走ってしまうの、私。
     知らなかったから植物園に侵入して、木に登ったら、捕まって叱られた」

エンゼル「なんだって? し、植物園に、侵入したのか?!」
チェリー「したよ」
エンゼル「あそこのセキュリティは、並みじゃねぇぞ!?」
チェリー「そう? 簡単だったよ。でも、パパも呼び出されて、叱られた。
     植物園の偉い人、パパの知り合いだったから、警察には黙っててくれたけど。
     それで、がっかりしてたら、パパがチェリーの実を買ってきてくれて、
     しょうがねぇなって、手作りしてくれたの。ピンクのケーキを、私のために作ってくれたの。
     すごく嬉しかった。そのパイが、どんなケーキより一番、美味しいと思う……。
     パパの作るパイは、売ってるやつより、中味がピンク色なの。可愛いでショ」
エンゼル「そうか。良いオヤジさんなんだな」
チェリー「うん。私のおにいちゃんも、すごく賢くて優しいの。大好き。でも」
エンゼル「でも?」

チェリー「おにいちゃんに、早く私は、追いつきたい」
エンゼル「兄貴に、追いつきたいのか?」
チェリー「そう。おにいちゃんは、すごくカッコイイ、ハッカーなの」
エンゼル「ああ、そうか。なるほどな。それで、チェリーちゃんも、ハッカーに憧れてるんだな」
チェリー「うん。きっと、おにいちゃんより、すごいハッカーになるんだもん。
     それでね、二人でハッカーチームを作るんだよ。最強ハッカーチームになるの」
エンゼル「植物園のセキュリティを破ったのなら、案外、なれるかもな」
チェリー「あ、それはね、実はおにいちゃんの仕業。頼んだら、やってくれたの。一緒に侵入もしてくれた。
     それで怒られるのも、一緒に怒られてくれたんだ。とっても優しいの。
     おにいちゃんはね、いっぱい、色んなとこに自由に行けるんだよ。
     だからね、きっと、野生の桜も、チェリーのために、いつか見せてくれると思うの」
エンゼル「そうか、良い兄貴だな。チェリーちゃんのために、二人とも何かをしてくれるんだな」

チェリー「うん。チェリーは、今、いろんなことをいっぱい勉強中なの。今、すごくね……。
     ときどき、頭がいっぱいになって、お熱が出るけど」
エンゼル「じゃ、早くこんなとこから、帰りな。絶対心配してるぜ、優しい兄貴が。
     こんな可愛い妹じゃ、俺なんかが一緒にいるのを見られたら殺されるだろ」
チェリー「そうかもね。でもエンゼル、私と何かしたいんじゃないの?」
エンゼル「は?」

チェリー「さっきの不良たち、イイことしようって言ってた。イイことって、私は知ってるよ。
     エンゼルだってナンパしに、このオフ会に来たって言ってたでしょ。
     ねぇ、エンゼルはチェリーと、えっちしたい?」
エンゼル「え。いや、まぁ。なんだその。そうだけど、チェリーちゃんはちょっと、幼いっていうか……。
     おまえ、いくつだよ? とんだオマセなガキんちょだな」
チェリー「レディに歳を聴く紳士は、失格だもん!」

エンゼル「はは。……だな。けどイイコトするならもっと年上のおねーさんがいいかな、俺は」
チェリー「でもエンゼルだって、そんなに見たとこ大人じゃないよね? 中学生くらいじゃないの」
エンゼル「……(ー.ー;)。俺はいいんだよ。色々、人生経験値が違うんだよ、マセガキが」
チェリー「なによー。自分もガキのくせにー。ねぇ、チェリーは、好みじゃないの?」
エンゼル「可愛いとは思うぜ。もう少し、大人になったら、付き合いたいかな」
チェリー「ホント? 私が、もう少し大人になったら、エンゼルはナンパする?」

エンゼル「するかもな。チェリーちゃんは可愛いし、結構、育ったら俺の好みだよ。残念だ」
チェリー「残念? じゃ、助けて貰った、お礼をしなくちゃ。
     次に会ったときは、エンゼルと付き合ってあげるよ、私」
エンゼル「マジか? 俺とつきあってくれるのか? 次っていつだ?」

チェリー「次は次だよ。いつかまた出会ったら。次の出会いにだよ。
     もちろん私だって、云わなくてもわかるよね?」
エンゼル「へ。そりゃ無理だぜ。それは普通に、わかんねぇだろ?
     今はガキだし、女のコは特に、大人になったら造形まで変わっちまうからなァ。
     乙女ちっくな願いは分かるが、現実はそうはいかねぇだろうな」
チェリー「何言ってんの? 次に会うのはオンラインだよ。ネットの中だし。
     私のこと、チェリーだって分かって口説いてきたら、ビンゴだよ!!
     そしたら、エンゼルと結婚してもいいよ。えっちもできるよ。楽しみだねっ♪」
エンゼル「いや、待ってくれ。オンラインて、アバターかよ? 嘘だろ。
     それじゃ、余計にわけんねぇだろ? ちゃんと名乗ってくれるのか?」

チェリー「なにそれ。名乗るわけないじゃん。そんなの面白くないもん! ハッカーなんだよ?
     架空の代理映像しか使わないよ? 当たり前でしょ。ヤダー、エンゼル、ダサーい」
エンゼル「うっせー。そんなの魔法使いじゃあるまいし、わかるわけねぇだろ。
     なんか、目印とか、合言葉とか、ねぇとムリだろが」

チェリー「えー。つまんなぁい。じゃあ、合言葉を決めておこうか、合言葉はねぇ……」



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