Heat☆Wave
02
ピアノ・マン
深夜のバーカウンター
登場人物:レイジ/サワ
レイジ「おや。これはこれは。いらっしゃい。
アルーシャのスター、ミスター41……じゃなくて、サワじゃないか。仕事終わりか?」
サ ワ「こんばんは、レイジさん。そう。メンバーと一杯やってその帰り」
レイジ「ローゼスのダブルで良かったか。なんだ、ちょっと痩せたか?
自慢の切れ長の瞳と輪郭がよりシャープになって、思わず見惚れる冷徹の王子だ」
サ ワ「惚れてくれる気もないくせに。ジムで絞ってるんですよ。冬は太りやすいから」
レイジ「恋の悩みでやつれたわけじゃない?」
サ ワ「違いますよ。今日も……鏡夜さんはいないんですね」
レイジ「ああ。また鏡夜に用事か? あいつは最近、なんだかサボりぎみでな。
まぁ休暇でも取れって云ったおれのせいなんだが、そんな正直に休まなくていいのに貴真面目なヤツだよな。
いやもしかして彼氏でもできたのかな? 大丈夫かな……。そういえば最近、思い出し笑いをしたり楽しそうだ。
悪い男とつきあってないか、お父さんはすごく心配だ」
サ ワ「ハハ。まさか鏡夜さんが思い出し笑い? レイジさんは鏡夜さんの保護者位置なんですか?」
レイジ「保護者、というより飼い主の心境だな。あれは賢くて麗しい凶暴な獣だからな。ナイフのように美しい男だ。
犯罪は絶対上手に回避するから心配はしてないが、色恋に関してはちょっと天然ボケなところがあるんだ」
サ ワ「へぇ? でももう彼は、あなたの恋人じゃないんでしょう」
レイジ「ないな」
サ ワ「だったら、余計な詮索では? もう恋愛は彼の自由だ」
レイジ「あのな。おれの話を聴いてたのか? 完全に騙す側だからな、あいつは。悪い男を騙すほどの性悪だぞ。
おまえなら分かるだろ? 気の毒で可哀想などこぞの皿にのせられた愚かな餌の心配をしないと、
何かあったら、どんなに相手がドジでマヌケでバカな価値のないヤツでも、飼い主の責任になるからな」
サ ワ「子供じゃあるまいし、責任は自分で負えますよ」
レイジ「どの口が言うかな。責任だと? 偉そうに。どいつもこいつもベソかいて泣きついてくるくせにな。
おまえら皆、頭の単純な青臭い悪タレガキだっての。責任もとれないくせに自由をほざくな」
サ ワ「なんで俺まで一緒にされるかな……」
レイジ「それで、会えたのか?」
サ ワ「……誰にですか」
レイジ「おまえの愛しの爽やかドラマーだよ」
サ ワ「やめて下さいよ。あいつとは、そんなんじゃない」
レイジ「違う? 恋の予感はどうした? 勘違いだったのか?」
サ ワ「ええ。そうですね。勘違いでしたよ。どうかしてた」
レイジ「会ってみて真実が分かったのか? あれから会ったんだろ?
おまえはあの時、リンに会いたいとそう言ってたよな。
あれからふたりの間は、何も進んでないのか?」
サ ワ「そんな展開にはなってませんよ。もうずいぶんと……前の話です。
昨日のことみたいにも思えますけどね。改めてそんなに経ってたなんて思えない。
結局、リンには会うタイミングを逃して、すっかり忘れた頃に会ったら、
あっちはぜんぜん普通だったから、拍子抜けして何を悩んでたのかも忘れましたね」
レイジ「リンの態度も変わらず以前と同じなのか?」
サ ワ「そうです。だから、それくらいのことですよ。
恋だなんて白ける。そんなんじゃなかった。別に何にも変わりません。
潜在的に押し込めていた殊勝な気持ちなんか、オレには初めから無かったんです」
レイジ「そうか。だがリンに相手にされなかった腹いせに、鏡夜と寝られるくらいおまえは適当な心境なんだから、
きっとそうだろうとは思ってたよ」
サ ワ「……聴いたんですか? まいったな。筒抜けだ。別に、あれは腹いせとかじゃないですよ。
鏡夜さんと寝たのは再度あいつに、リンに会う前だったし……ぜんぜん違います」
レイジ「なんだ、景気づけのイッパツだったのか。おれとキョウは一心同体なんだ。いや、心の話だぞ。
もう寝てないからな。今も昔も何でも包み隠さず話す健全な仲だ。プライベートで誰と寝たかくらいは話すんだよ」
サ ワ「そうですか。別に鏡夜さんを狙ったりしてませんからオレ。安心して下さい」
レイジ「それは残念だ。案外、似た者同士でお似合いだと思ったのにな。いや似てるからダメなのか?
だが悩みが解決したなら、また以前通りの男漁りも再開できたんだよな? してるんだろ?
それとも、もう次の新しい男との新たなる悩みでもできたのか」
サ ワ「別に悩んでないし、最近は……そんな気分でもなくて、すっかり彼氏はご無沙汰なんですよ。
メンタル的にちょっと、そういう気分になれない。こんなの久しぶりのことですよ」
レイジ「おっと、あの淫乱サワさまが処女のように無垢で禁欲的になってるって?
まさか信じられないな。それはやっぱりちょっとおかしいだろ。重要な問題から逃げてる?」
サ ワ「この店は品を下げる話題、却下なんじゃなかったですか?」
レイジ「もちろんだ。品性を損なう下品な会話はアウトだな。もしかして今の表現は品が良くなかったか?
そうか、かなり遠慮して言ったつもりだったんだが……」
サ ワ「淫乱ですみませんね」
レイジ「しまった。乱、が良くなかったかな。せめて淫靡にしておくか? 余計にマズイ?」
サ ワ「おれの淫靡な姿なんて、知らないでしょう、レイジさん」
レイジ「そうだな。それを知ってるのはキョウとマックだよな」
サ ワ「マックは知りませんよ。本当です。……まさか疑ってたんですか?」
レイジ「あいつは流されやすいからな。おまえに誘われて何もないなんて、普通はあまり現実的じゃない」
サ ワ「ですよね? オレに誘われて断るなんて普通無いですよ。だけどマックは初めて断ったんだ。
オレのギネスブックに載せてもいい。ホテルまで来ておいて、ナニもせずに逃げ帰った。屈辱の極みだ。
ああ、思えばあの時からオレは少しづつ、自信を失くしつつあるのかもしれないですね」
レイジ「自信を失くしてる? おまえが? 小僧のせいで? それは気の毒だったな」
サ ワ「安心しました?」
レイジ「何を?」
サ ワ「マックがオレと本当に寝てなくて。事実を確かめたかったんでしょ?」
レイジ「いいや? どっちでも構わないけど。というかどっちでも関係ない」
サ ワ「またまた。妬いたと云った方が、彼は喜びますよ」
レイジ「悦ばせるサービスなんかしない。……まぁ、たまには、するけどな」
サ ワ「いいですね。羨ましいですよ」
レイジ「なんだよ。ノッてこないねぇ。どうした? 本当に枯れたか? サワらしくないぞ。
サワならもっと毅然と偉そうに生意気にしてろ。悩み事ならレイジさまが相談にのってやるよ。さぁ、話せ」
サ ワ「だから悩んだり、してないですよ」
レイジ「そうか? だったらいいけどな。余計な詮索だったな。
ただ何か話を聴いていて欲しそうな顏をしてこの店に入ってきた気がしたんだ。
違ったのなら、悪かったな。キョウに用事なら、そう伝えておくよ」
サ ワ「……鏡夜さんは、クリスマスにリンと何処かに行きました?」
レイジ「何? キョウがクリスマスにリンに会ってたかって? さぁ。どうだろうな。
あいつはおれの予定は恐いくらいに把握しているが、おれはそんなにキョウの予定に興味がない」
サ ワ「知りませんよね。良いんです、別に。お客さんからちょっと変な噂、聴いただけなんで」
レイジ「どんな噂だ?」
サ ワ「リンが貴金属を、凄い美形と一緒に仲良さそうに買ってたって話です」
レイジ「その相手がキョウか? ナルセじゃないのか?」
サ ワ「ナルセだったなら、店のお客さんには解りますよ」
レイジ「ふうん。クリスマスねぇ。ああ、思い出した。そういえばクリスマスの前だったか、
リンのショッピングにつきあうとか言って、そのあとメシを食ってご機嫌で帰ってきたな」
サ ワ「キョウさんとリンがメシ……。リンは何を買ったんですか?」
レイジ「確かブレスレットじゃなかったかな。シルバーの。いや、ネックレスだったかな?
メキシコのデザイナーのものだと言ってたな。キョウが選んだんだものなら何でもセンスはいいだろ」
サ ワ「それ見たんですか? もしかして、キョウヤさんがそれをリンから貰ったとか?」
レイジ「現物は見てない。リンが何を買ったのかキョウに聴いただけ」
サ ワ「それって、誰かへのプレゼントですか?」
レイジ「リンが誰に贈り物をしたのか、気になるのか?」
サ ワ「えっ。別に、オレは気になりませんよ? ただ……。お客さんの友達がリンのファンで、
もしかして恋人に贈るものだったのなら、そうなのか知りたいっていうから……」
レイジ「客にリンの個人情報を話す?」
サ ワ「まさか! そうじゃなくて、事実は話さないけど、そうじゃなくて、つまり、
もしもそれが誤解だったらそのファンは、ガッカリしなくて済むでしょう?」
レイジ「ならそう伝えておけばいい。実は大事な人に渡すものだったとしても、そうじゃなかったと言えばいいだろ?
簡単なことだ。真実を知る必要があるか? ひとを騙すのなんか、おまえには何でもないよな?」
サ ワ「……酷いな。今のはちょっと効いたな。痛烈ですね、レイジさん」
レイジ「おっと。傷ついちゃったか? すまんね。おじさん、また言い過ぎちゃったようだな。
あのサワがそんなに哀しげな顏をするとは思わなかったよ。悪かった。赦せ」
サ ワ「俺だって人間ですよ。傷つくし、落ちこんだりもします。脳天気でイケイケのサワでもね」
レイジ「なぜまだ自信を失くしたままなんだ? 爽やか青年も落とせないからか?」
サ ワ「だからリンはゲイじゃないし、落とす気なんかないですって」
レイジ「なら、なぜ他のオトコを落とせなくなった? または落とす気が失せた?
そういうゲームにもう飽きたのか? 卒業の季節?」
サ ワ「……飽きたかって? どうなんだろう」
レイジ「どうしてそんな気分になった? 自信喪失のせいか?」
サ ワ「わかりませんよ。どうしてだろうな? いつからなのかな。
……友達を、失くしたからかな? そうかもな。その時期からかもしれない。
オレの愚かで軽率な行いで、唯一、こんなオレを同等に扱って普通に接してくれてた、
唯一の大事な友人を失くしたからだ」
レイジ「リンのことを云ってるのか?」
サ ワ「そうですよ、リンのことですよ。アイツ以外にいないでしょう」
レイジ「リンが絶縁状でも渡してきたのか? それは酷いヤツだ」
サ ワ「いや、そうじゃないですけど。でもその方が、絶交された方がまだ良かったな」
レイジ「絶縁状も貰ってないのに、どうしてそう思うんだ?」
サ ワ「なんとなく……。やんわりと、リンに避けられてる気がするんですよ」
レイジ「避けられてる? あれから一度、会って普通だったんだろ? それ以降の話か?
それ以来、もう会わなくなった?」
サ ワ「以降も時々は会ってますよ。でも二人だけでじゃなくて、音楽の仲間と一緒にね。
みんなと普通に飲みに行ったりもするし、リンは他から見ても特に変わりないけど、
確実にオレに対しては、一線を引いてる。わかるんだ。感じる。それくらは分かる。
もう昔みたいに、二人だけでは絶対、飲みにも行かなくなったし」
レイジ「だからってサワと目も合せない、話もしないわけじゃないんだろ?」
サ ワ「談笑くらいはしますよ。冗談も言うし、前みたいにお互い、口だって悪い」
レイジ「だったら別に、友達なのは変わりないだろ。失ったと思うのは大袈裟じゃないか?」
サ ワ「は。白々しい友好さなんか、気持ち悪い。そんな友情、オレはいりませんよ。不要だ。
オレには腹を割って話す友人は、リン以外いないんですよ。バンドのメンバーだって心からは打ち解けてない。
だから上辺だけのつきあいだったら、そんなのはセックスの相手だけで充分です」
レイジ「極端だ。親しくない友人レベルだっているだろ? 友人の定義ってなんだ?
バンド仲間との関係だって、上辺だけでも友人と云えるよな?」
サ ワ「そんなの、他のヤツならそうでもいいけど、リンには上辺だけとか、似合わない。らしくない」
レイジ「リンは、どんな奴なんだ?」
サ ワ「あいつは。いつだって真正面からぶつかって来て、違和感があることはズケズケ云ってくるんだ。
オレに言いたいことがあるのに誤魔化したり、適当に流すなんて、曖昧な態度は絶対にしなかった。
DV男に乱暴された時だって、おまえが元は悪いんだろって、あの時は悪態ついて罵ってきたのに、
やっと久しぶりに会ったら、もう傷は良くなったのか、良かったなってただ笑顔の態度だ。
……何だよ、笑顔って。愛想笑いかよ。何事もなかったように、談笑しやがって。
目だってほとんど合わせないし、明らかにもう関わりたくないって感じに思えた」
レイジ「それはきっと、気を遣ったんじゃないか? リンなりに」
サ ワ「だからリンはオレにはそんな気を遣わないんですよ。オレが逆に気にするような、時は特にね。
だからきっと、ついにオレは今回のことで、軽蔑されるべき無関心レベルに達したんだろうなと思った。
オレは今までやって来たことの罰を受けたんだ。大事な悪友を失った。空々しい友情なんかいらない」
レイジ「へぇ。そうなのか。それが、おまえの知っているリンか。おまえにとってリンは特別な友人だったんだな。
おれの知ってるリンとは、ずいぶん違うけどな」
サ ワ「―――そんなことはないでしょう? リンは、いつだって、誰に対してでも同じような分け隔てない態度だ。
ただそれがわざとらしくなくて爽やかに見えるくらい、真摯で好感が持てる好青年なだけでしょう。
ちょっとファンのコたちには、違う印象もあるみたいだけど、仲間内ではそうだ」
レイジ「リンはドラマーだから、いつも皆の後ろ姿を正面から見て、行動の様子を伺ってる慎重な立場だ。
あっちのこともこっちのことも自分からは見えているから、誰も傷つけない中立で曖昧でやんわりした言い方をする。
言葉の表現は少し乱暴でもな。いつも人の気持ちを汲むから、相手と真正面から衝突するようなことは少ない。
誰とでも適度で正しい距離感を保てる、気遣いのオトコだ。そして根っからのロッカーだから心根は熱い。
……という、印象だな。そんなにリンはサワに対して白黒をはっきりさせた、凶暴なヤツか?」
サ ワ「いや、凶暴じゃなくて。いや、そうともいえるけど、いつもワイルドな熱いヤツだけど、
リンは確かにレイジさんが言うような、誰にでも優しい性格も良いヤツだけど、
なんていうか、オレとリンとは……、そんなんじゃなくて」
レイジ「今は、というべきだけどな。昔のリンはもっと短気で、口より手が先に出る血の気が多いバンドマンだった。
らしい。知ってるよな? おれはやんちゃな頃のリンを知ってるような、知らないような曖昧な感じだがな。
長い付き合いのナルセや豪が言うには、今のリンは全然、温和ですっかり丸くなったんだとさ。
サワには、そういう野生だったリンの面影も見えていたんだな。それとも、あいつが無意識にサワには見せていたのかな?」
サ ワ「……そういうふうに、今はレイジさんの知ってるリンのように、オレに対しても接してるって云うんですか?」
レイジ「おまえの態度はどうなんだ? サワ。
リンから目を逸らしたり、よそよそしくなったことはないのか?
おまえには最悪の屈辱のシーンを、多分絶対に見られたくない相手に見られたって、引け目があるからな」
サ ワ「確かに……。そりゃね、気まずいのは勿論、ハンパないですよ。当然でしょう。
リンにあんな姿、見せるなんてありえない状況だった。リンはあとのオレの傷の処理までしてくれたんだ。
屈辱と羞恥で、当時は本当にもう二度と会いたくないと思ってたし……」
レイジ「でも、おまえはリンに、もう一度会いたくなったんだろ? だからそれでも会ったんだ」
サ ワ「そうですよ。オレはそうでも、リンなら、でもリンの性格なら、そんなことも簡単に払拭してくれると思ってた。
でも違った。オレの過度な期待のしすぎだった……。当然といえば当然だ。
だけど、こんな結果になるなら、もう友達を辞めると云ってくれた方が、楽だった!!」
レイジ「リンに全てを丸投げか。気の毒にな。そりゃリンだって逃げたくもなる」
サ ワ「だって! オレは、文句とか言えた義理じゃない、散々なことをやって来てるんだから!
あの時もリンにはひどい迷惑をかけたし……。あいつが呆れて離れるのは、もうしょうがない展開だ……」
レイジ「何処かで聴いたような話だなぁ。ただおれの王様よりおまえの方が、いくらか謙虚だな。
その気持ちが本当ならな。よろしい。おれが良い方法を知っている」
サ ワ「良い方法? な、なんですか?」
レイジ「いいか、これはおまえが悪い。そうだな?」
サ ワ「……わかってますよ。あんな目にあったのは自分の最悪な行いが招いた。自業自得だ」
レイジ「違う。おまえはわかってない。そんなことは言っていない。デートDVのことじゃない。
おまえは一方的な暴力を受けたんだ。それに関してサワさまに一切、非はない。
DV男についてはそいつが悪いに決まってる。当たり前だろ、おまえもバカなのか」
サ ワ「え、でも」
レイジ「だがそれをよりによってリンに助けらたれたことで、身体だけじゃなく精神も深い傷を受けたんだ。
リンには見られたくなかったんだよな。傷ついて当たり前だ。
それはおまえがバカだからでも、素行が悪いからでもない。
いやまてよ。バカだからか? そうか、バカだからかもしれないよな? いやどっちかな?」
サ ワ「じゃあ、オレの何が、悪いんですか」
レイジ「だからアタマだよ、頭。おまえのオツムだ。おまえが、バカなのが悪い。
あのサワさまが柄にもなく体当たり相手のリンに遠慮をしているから、リンが間合いをとっちまうんだよ。
おまえ、リンの肩でもケツでも叩いてやったか? あいつに触ることさえ臆病になってたんじゃないのか?
目を逸らしてたのは、おまえの方もじゃないのか」
サ ワ「えっ……。それは……、だって、その」
レイジ「そうだろ。おまえの反応をあのリンは見逃さない。おまえが頑なに身を固くして委縮してるから、
みんなに接するのと同じように、中立で気遣いをするリンの厄介な性格が自然と出ちまったんだ。
おまえは、リンにおまえだけにはさせることのなかった、気遣いをさせることを強いてたんだよ。無意識にな」
サ ワ「だって……、オレはもう、あいつにどう振る舞っていいのか、わからないんですよ……。
きっと、軽蔑してるんだろうし、オレに何が言えるんですか?」
レイジ「まてまて。サワさま、そんな泣きそうな顏するなよ。反則だぞ。思わず抱きしめたくなる技を今、使うなよ。
クソ、ちょっとそそるだろ。貌が良すぎるとヤバいよな。おまえ、貌の良さがナルセと同属性だからな。
ったく、だからガキのお守りは嫌なんだよ。おまえらガキなら仲直りの方法は知ってる筈だろ?」
サ ワ「そんな、だって、もう、お互いガキじゃないんですよ……」
レイジ「そうだよ。解ってるじゃないか。
なのに仲直りできないのは、何故なんだよ?
お互いにガキじゃなくなってたからだろ。今さら友達の域を超えたからだと思わないか?」
サ ワ「まさか……違う。そんなはずない」
レイジ「あのな。イイ歳して、マジか本当に。まぁ、ひとのことは言えないけどな。
受け入れがたいのは分かるな。確かに。実によくわかるな」
サ ワ「困るよ……。レイジさん……、オレ……」
レイジ「おいおい。おれが困るんだよ、そんな声を出されたら。ヤメロ。そんな目で縋ってくるな。
おまえ、自分の容姿を再認識しろ。この場でひん剥いて強姦しちまうぞ、小僧め」
サ ワ「そうされたい。いいですよ。いっそ、もうレイジさんにメチャメチャにされたい気分だ……」
レイジ「アホか。どうせ自棄になるなら、リンにそれを云えよ。もう今さらドン引かれても今さらだろ」
サ ワ「冗談でしょう! そんなのリンに言えるわけないし、リンは望んでない。嫌われるだけだ。
オレだってリンが相手なら、そうしたいのか、解らない……。違う気がする」
レイジ「どっちにしろ、砂の城の友情が崩れたんなら、違う形の情を交わすしかないだろ」
サ ワ「リンはオレと友達関係まで下手したら解消したいようなレベルまで来てるんですよ。
違う形というなら、それは別れですよ。そうなりたくないから、あやふやにしてるんだ」
レイジ「この際、一発キメちまえばどうだよ。おまえが迫れば相手もそんな気になるかもしれないだろ。
マックは駄目だったけどリンならいけるだろ。いや、いけねぇかな? ノンケじゃ無理かな?
つーか、リンが無理なのか? できない? じゃあサワが抱いてやったら? それもダメか?
余計ややこしいか。だいたいなんでリンなんだ? リンよりも誠実で爽やかなヤツは他にもいただろ」
サ ワ「いたのかな。……でもオレなんかには、本気にならないですよ」
レイジ「サワ、おまえ自分を低く見積もり過ぎだぞ。どうなってる。らしくない自信喪失はもう休業にしろよ。
だがあのリンなのは相手が悪い。やっぱり一応もう一度、今からでも友情の修復を試みてみるか?
もう少し何か作戦がないか考える? ちょっと待て。友情復帰の作戦会議だ」
サ ワ「レイジさん、今さら迷わせないでくれよ。そうさ、引導を貰えばいいんだ。
どうせもう壊れたんだから、それでいい。今さらだ。もう前に戻れなくても……」
レイジ「先に、進むか?」
サ ワ「うだうだ思うをやめろというなら、もう進むしか選択肢は無いんでしょう?」
レイジ「無いのか? そうか? 本当に? おまえはそれでいい?
おまえが選べよ、サワ―――。おまえは何でも自由に選べる。皆、生まれながらにそういう権利がある。
それになんたってミスター41は、オレさまイケメン・ヴォーカルだからな。根っからのスターだ」
サ ワ「そう、ですね。オレらしく、生きないとな。
ありがとう、レイジさん。分かった」
レイジ「さっさと行けよ。頑張れ。浮かない顏の自信喪失サワはもう捨てて、はっきり振られて前に進めよ。
リンは今夜、マックのとこで飲んでるはずだ。
きっと酔ってるから、もし丸め込むなら今がチャンスだ。おっと、うっかり口説く相手を間違うなよ?」
サ ワ「間違えないですよ。マックはレイジさんにしか興味ない。俺は二度とご免だ」
レイジ「そうだな。失敗の残念賞なら、また鏡夜に添い寝して貰え。おれから頼んでやるよ。あと1回なら許す」
サ ワ「ハハ、レイジさんそれ本気、ですか……? オレ、見た目より弱いんですよメンタル」
レイジ「知ってる。ナルセもそういうタイプだからな。オレ様ヴォーカルは打たれ弱いんだ。世話が焼けるねぇ。
良いミュージシャンを放って置けないのもおれの悪いとこなんだ。いいか。玉砕したらピアノマンへ来い。
自棄になって他には行くな。ちゃんとここに、戻って来い。大事なことだ」
サ ワ「……はい」
レイジ「よし。良い子だ。朝までレイジさまが、待っててやる。おれは添い寝はしないけどな。今は無理だ」
サ ワ「マックがいるから? いいですね、そんな関係っていうのも」
レイジ「そんなことは言ってない。いいことなんか何もないぞ。不自由だ。ほんの少しだけだがな。
あと重要なことを云っておくが、戻らなかった時の事後報告はいっさい要らないからな」
元photo/真琴さま