All I Want For Christmas Is You
恋人たちのクリスマス


06




新条「おかしな話を聴いたんだがね。大丈夫かね? 西くん?」

西 「……新条社長のお耳にまで入ったんですか。少し厄介なことになってしまって」
新条「やれやれ。八木くんだろ? あの人も困ったひとだからね。良かったら相談に乗ろうか」
西 「実は八木さんが、今になって契約を白紙にすると云いだしてしまって。俺はどうしたらいいか……」
新条「だから私は言った筈だよ。枕営業はあとで困ることになるよとね。
   あんな猥雑な人物の言いなりになる必要は無いんだよ、西くん。君はお人好しだね」
西 「そういうつもりじゃ無かったんですよ。枕営業なんてそんな。八木社長は嫌いではなかったし、
   妻子持ちだけど熱心に誘われて、別に秘密なら愛人になってもいいかと思ってたんです。
   契約だって頼んだわけじゃなかったけど、俺の成績になるならって、好意だった筈なんです。
   でも大きな契約だったから、今更無かったことになると会社には過大な損失になってしまうし」
新条「どうして彼を怒らせることになったんだい?」
西 「それが……。誤解なんですけど、いや誤解でもないというか……。いや、やはり誤解かな。
   後輩の石田が……。ちょっとややこしい感じになってしまって」

新条「きみの部下の石田くん? 八木くんは彼を解雇すれば元に戻すと言ってたよ。何があったんだい?」
西 「はぁ。あいつ……石田は、ちょっと困ったヤツでしてね。転勤してきたときから俺が面倒みてるんですよ。
   実直で元気なヤツなんですけど時々血の気が多いっていうか。うっかり見られたんですよね。
   何故かあいつが俺のマンションに偶然尋ねてきて、八木社長と鉢合わせて……」
新条「見られたのかね? 営みの最中を?」
西 「さすがにそれは……。でもお恥ずかしい話、シャワーを使って貰ってて、ちょうど出てきたとこに」
新条「その状況だとむしろ、八木くんの方が不利な気がするがね?」
西 「ええ。俺も社長も焦って動揺してしまって。そしたら石田がいきなり社長に殴り掛かって、
   このエロジジイと、ですね……。新条社長、笑い話じゃないんですって」
新条「ああ、すまん、すまん。血気盛んな若者が私は好きでねぇ。いいねぇ。ドラマチックだね。
   その石田くんもゲイなのかい? きみのことが好きなのか?
   それともきみは、二股をかけてたのか?」
西 「違いますよ! 石田とはそういう間柄じゃないんです。性癖のことは内緒にしていたし。
   ただこのことで俺がそうだってバレてしまって。
   石田に嫌悪されるかと思ったんですけど、そうでもなくて、なんだかそれ以来、
   ちょっと石田の態度が違うんですよね。なんていうか……その」
新条「きみのことを、性的に意識してる?」

西 「いえ……。さぁ。どううなんだろう。興味だけ、なのかもしれないし、そこまでは思ってないかも。
   俺は何も気が付かないふりをして、そんな筈はないと思っていたいのかも」
新条「若いっていいねぇ。話を聴かせてくれないかね。ときめく話は私の好物だよ。何を怖がる?」
西 「何をって。全てですよ。茶化さないで下さい。
   会社にこのことがバレた時の恐怖もあれば、ストレートの男とどうにかなるなんて考えられない。
   あなたのように妙な噂があっても、飄々と巧くかわすほどできた人間でもありません。
   それが許されるだけの地位も度胸も、俺にはまだないし」
新条「まぁ、歳だけとっていれば堂々としていられる基盤が多少あるのは事実だね。
   所詮、老人の性癖など周りも興味はないだろうし、とはいえ多少は奇異で面白がられて、
   ヒソヒソと噂をされて嗤われているくらいだ。そういう現実があるのは知っているよ。
   だが老いぼれに何を云っても、無駄だがね」
西 「いえ、社長が許されるのは、そのお人柄と地位ですよ。やはり下世話な奴はいますが、
   ほとんどはそうではないですよ。あなたはとても、人生の師匠として尊敬できる素敵なひとです」
新条「私の乱れたきった噂を聴いて、そう言ってくれるのは、西くんだけだなぁ。でも嬉しいよ」
西 「あなたを慕っています、俺は。いつも支えてくれて感謝しています」
新条「八木君にもそんなふうに言ったのかね? それでは八木君もつい張り切ってしまうね。
   おっと、下ネタじゃないよ? 私はもう枯れてしまったのでね、八木くんが羨ましいよ」

西 「八木さんとは体の関係はありますけど、もう少しドライな人だと思ってました。
   ここまで怒りを押し通してくるなんて思いもしなかった。意外でした」
新条「それで殴られたことに腹を立ててるのかい? あの男は?」
西 「いえ。それもあるでしょうけど、どうも俺が西とデキてると誤解してるみたいなんですよ。
   本当はそれで怒ってるようなんです。会社への建前は暴力を奮われたってことを、
   契約不履行の理由にしたいようです。暴力の理由は、何でもねつ造できますしね」
新条「自分だって同性との不倫になるし、かなり危うい立場だと思うがね。
   よく脅迫なんかできるものだね。それくらいはもみ消すってことか。勝手な男だね」
西 「八木さんには人徳もあるし、証拠でもなければ俺とのことはバレませんよ。
   それに八木さんとのことがバレたら俺の立場も相当悪いって西は分かってますから、
   殴った理由は絶対に黙っているだろうし。それを八木さんも見越してる感じがします」

新条「なんと嫌な展開だねえ。誤解して怒ってるだけなら、誤解を解けばいいだろう。
   石田くんは違いますと。私が好きなのは、あなたですと言ってあげたらいいじゃないか?」
西 「それが……。石田のヤツ、何を思ってるのか誤解される啖呵を八木さんにきってしまって。
   直接的にはそれが原因なんですけどね」
新条「おっ。いいね。それは、こうかい? アレだろ? 知ってるぞ。そういう展開。
   『俺の大事な先輩に変なことしやがったら、ゆるさねェ!』的なやつだろ? そうなんだろ?」
西 「そんな嬉しそうな顏で言わないで下さい。……だいたい、当たりですけどね」
新条「おおー。やった! そうか、すごいな。BL小説みたいだね。やっぱりそうなんじゃないか」
西 「何を読まれてるんですか、あなたは。石田のはそういう大事の意味ではないと……。
   私が新条社長を慕うような、先輩を尊敬してるみたいなことだと……」
新条「思ってるのかい?」
西 「……いいえ。そう云ったら、それは違うって激昂されちゃって。逆に尊敬しろよと思いますけどね。
   それでちょっと妙な展開になって、どさくさに紛れて告られたっていうか……」
新条「彼をもう抱いてしまったのかね?」

西 「展開が早いですよ。正直にいうと、ちょっとキスくらいは……」
新条「ほぅ! キスまでしたのかね!」
西 「ダメですよね。俺は駄目な先輩ですよね? ……可愛いと思ってました。最初に会ったときから。
   でも、奴はノンケだし、ずっとこんな邪な気持ちを気取られることさえ怖かったんです。
   なのにいきなり好きだって云われて、どうにも我慢しきれなかったんです。
   あいつが受け入れてくれるなんて―――。思ってもいなかったからだ―――」
新条「青春だ。おめでとうと云おう。良かったじゃないか。
   妻子持ちの八木君との不倫より、若い石田くんの方がいいに決まってるしな」

西 「何がめでたいんですか。脳天気な発想はやめて下さい。
   こんなの、全然、誰も幸せじゃありません。石田には中途ハンパに接したけど、
   やっぱり気の迷いだったと断ったんです。おまえのことは、好きじゃないと……。
   本当は八木さんが好きで脅されていたわけじゃないんだから、謝ってくれと頼みました」
新条「おやおや。君も素直じゃないね。でも謝罪しなかったから厄介事になってしまったんだろう?」
西 「ええ。絶対に謝らないって。人をいきなり殴ったのに傲慢ですよね、あいつ。
   謝るくらいならただ意味なく暴力を奮ったと言って会社をクビになってもいいっていうんですよ。
   本当にもう……。変に度胸が据わってるというか……後先考えないというか……まるで駄々っ子だ」
新条「君はその困ったガキ大将が好きなんだろう?」
西 「いいえ。子供は嫌いなんですよ、俺。直情だけで体当たりしてくる。
   人の気持ちも考えないで迷惑だ。土足で俺の気持ちをかき乱してくる」

新条「ほほう。君とよく似た天邪鬼の男がいるなぁ……。そういえば八木くんは……。
   ああ、そうだ。こうしよう。解決の鍵を握る人物を知ってるよ。円満解決になるだろう」
西 「ええ?」
新条「今年のクリスマスパーティの接待予定があると思うんだが、以前、一緒に行ったオールディーズ系の店と、
   私が懇意にしてるナイトクラブにしてくれないかな? ピアノ・マンという店だよ。
   こちらも前に一緒に行ったが、覚えとるかね? ついでに八木くんも招待しよう」
西 「それは構いませんけど……。あの高級な店ですよね? 同行した後日、同僚らに凄く恨まれましたよ。
   会員制でもないしなかなかセレブな伝手でもないと気安く入れない高嶺の店なんだって、
   なんでおまえだけなんだ!って部長クラスにも叱られました」
新条「なんだ。言ってくれたら、皆も連れていったのに。でもあの店は客のえり好みをするからねぇ」
西 「そうらしいですね。趣味でやっている店だから、気に入らない客は入れないという噂話でした」
新条「うん。そういう噂らしいね。とてもそんな横暴な店には思えないが、出禁の人物が実際にいることも確かだ」
西 「へぇ。噂は本当なんですか、愕きですね。あそこのオーナーとはどんなご関係なんですか?」
新条「私とオーナーの要くんとは旧知の仲でね。共通の知り合いも多いのだ。
   彼は脱サラをしてあの店をする前、私の勤める会社の取引先の営業マンだったんだ。
   特に快活で目立つ人物ではなかったんだが、私とは音楽などの趣味があったので、時々話をしたりね。
   うきうきしたな。地味でも彼は顏の造形が美しいからね。今では見違えるような存在感だが昔はそうでもなかった。
   何度か口説こうと思ったんだが、まぁ色々ね」
西 「彼もゲイなんですか? それとも違うから躊躇したんですか」

新条「それはまぁ、想像に任せるよ。ピアノマンに下見に行ってくれるだろ?」
西 「えっ、俺がですか?! 入れて貰えませんよ! 紹介状を書いて頂かないと無理です」
新条「そんなことはないよ。麗しい黒服のバーテンダーがいただろ? 彼は一度来た客の顏は忘れないんだ。
   彼も見目麗しく完璧だ。神の芸術品だな。しかも要くんの賢い秘書でボディーガードでもあるんだ」
西 「いやいくら賢い秘書だったとしてもかなり前だから無理ですよ。
   俺は特徴のある容姿でもないし、まさか覚えてませんよ」
新条「いやいや、それがまさか、なんだよ。とても優秀なんだ。それに西くんはハンサムだよ。謙遜だね。
   あの店はね、当初はそんなに高級で凄い店でも無かったんだよ。要くんのような店だ。
   彼は会社を辞めてから、元同僚の男と美術貿易の事業を成功させて、店をリッチな店にしたんだ」
西 「すごいやり手だったんですね。その噂もチラホラ聴きましたよ。外国人と精通してて、
   実は、闇商人じゃないかって……。裏のことなんか知りませんから噂ですけど」

新条「ははは。あの店を始めた頃は、彼には初めての仕事で様々なことを一から覚えたりで、
   何かと大変で辛い環境だったようだ。元同僚の相棒の男は以前から破格に自由な人だったからねぇ……」
西 「その元同僚の相棒の方も、新条社長はご存じなんです?」
新条「勿論、以前から知っていた。面白い企画を上げてくる男だったからね。でも少し無責任でねぇ。
   いつも後輩の要くんたちが、尻拭いをしていたなぁ。要くんはその男を痛烈に批判していた筈だが面白い関係だったね」
西 「その男というのは、ただのビジネスパートナーだったんですか?」
新条「さぁ。どうかな。詳しくは知らないよ。だがその話を彼とするのはあまり勧めないね。
   そして会社を辞めてからまったく音沙汰は無かったんだが、ある日、彼から電話があってね。
   バーをその男と一緒に始めたんで来てくれませんかとね。私は勿論行くと言って駆けつけたんだ。
   そうしたら彼は、自分が名乗るより先に電話の私の第一声が、
   レイジくんか、久しぶりだなと言ってくれたのが、何より嬉しかったので、
   貴方はこの店の特別なゲストという位置づけをさせて欲しいと言ってくれたんだよ。おかしなことを言うだろ?
   だって彼の番号は登録していたからね。名乗らなくても判るさ。そんなことは知ってる筈なのにね。
   超能力とでも思われたのかな? それにしても便利な世の中になったものだよね」
西 「そうなんですね。まぁ新条社長なら、上得意にはなれるセレブですけどね」
新条「でもその頃は私はまだ社長じゃなかったんだよ。役職にはついていたがね。
   彼はね、きっと私が一文無しでもきっと同じセリフで迎え入れてくれたと思うよ。
   ただ久々に会った彼は随分昔とは見かけも性格も変わってしまっていて戸惑ったんだが、
   昔より全然良いんだよ。今の彼の方が。垢抜けて洗練されて、明るくて愉しくて、
   ウイットで。まったく別人だった。再会してとても驚いたことを覚えているよ」

西 「成功者は変わるもんなんですね。羨ましいことです」
新条「ああ、すっかりもう私は彼に魅了されて、彼の誘いで悪乗りしてしまってねぇ。
   それで私も会社を立ち上げて軌道に乗った頃から、今までとは違う遊びを散々二人でやったんだが、
   それはそれは愉しかったなぁ……。まだ多少若かったからねえ、私も……。良い想い出だよ」
西 「それはそれは悪そうな遊びなんでしょうね、どうせ?」
新条「とにかくまったく人が変わったようだったんだ、要くんは。身につけるものも違っていたし、
   でも無理をしているという感じではなかったから、私は彼の心の心配をしたんだけどね。
   その時の彼は昔の面影がない、楽観的な性格にすっかり中味ごと入れ替えたように思えた。
   最悪の辛い出来事もあったし、そのあとは荒んだ生活とも言えるのかもしれない。
   彼は壊れてしまったかのように見えたよ。だが心は閉ざしていて、何も解らなかったんだ」
西 「辛い出来事とは? ピアノマンのオーナーは、破綻した性格なんですか?」
新条「いや、今は違うよ? 多少はね。そんな時期もあったということでね。
   辛い事件は、一緒に仕事をしていた相棒が事故で亡くなったんだよ」

西 「そうなんですか。その相手がもし恋人であったなら酷いショックですよね」
新条「そうだね。恋人だったのかな。彼は時間がそこで止まって、毎日地獄にいるように見えたよ……。
   表面では笑っていたけれどね。でも最近、少し様子が変わってきたんだ。本当にごく最近なんだがね」
西 「どんな風に? 立ち直ったんですか? ふっきれた?」
新条「そうだね、ちょっと以前の彼が、少しあたまをもたげ始めたというのかな。
   不器用で素直じゃなくて、頑固で天邪鬼で。でもそれが元々とても彼の可愛いところなんだよ。
   西くんもそういうとこ、あるだろう?」
西 「ええ? 俺がですか? そんなことありませんよ」
新条「あるよ。想いが溢れるほど好きなのに、素直な本心を言えず、逆に突き放す。
   似ていると思うよ?」
西 「……そんなことは、ありません。欲望の制御くらいはこの歳になればできます。
   けれど石田にとっては、俺と離れる方がいいのかもしれないとは思っていますよ。
   奴が辞めさせられたら俺も、責任をとってやめるつもりです」

新条「そんなことで仕事を放棄するのはやめたまえ。逃げると一生、逃げ癖がついてしまうよ。
   逃げていいのは、最初の一回だけだ。そのあとはそれ以外の選択をするのが好ましい。
   彼を最初の一回目にしてしまっていいのか? 後悔しないかね?
   いいと思うのは君にとって、だろ? 傍にいると抑制できない情熱が抑えきれないんだろう」
西 「違いますよ。石田は今、混乱してるだけです。俺に同情して愛情と混同してる。
   じきに現実に戻ったら目が醒める。俺とそうなっても、この先どうなることもできない。
   怖いだけです。歳も違うし。本気で好きになるなんて、結婚もできないのに不毛なだけだ……」
新条「おやおや。彼と一緒で頑固だな。でもとにかく、ピアノマンには石田くんと行ってくれたまえ。
   会社には何一つ、今は公になっていないんだから一緒に行動する方がいいだろう?
   要オーナーには、懇意の取引先担当者が下見に行くと伝えておくから。きっと良い方向に向かうよ」
西 「わかりました。いえなんだかよく分かりませんけど……。おっしゃる通りですね。感謝します。
   ところでそのオーナーは何故、最近になってまた変わったんですか? 少し、興味があります」

新条「きみ、人が劇的に可愛く変わるのは、恋の仕業に決まっているよ」
西 「恋? オーナーさんがですか?」
新条「思いがけない出会いというのは、あるものだね。
   両者が気が付かない両想いは、胸が焦がれるようだ……」
西 「あなたは恋の話がいつもお好きだ。少女のようですね」
新条「もちろんだ。老いていても恋は気持ちを若くさせる。身体ともに若返るんだよ。
   ドキドキする相手は永遠に必要だ。いつまでも恋はしていたいものだねぇ。だけど……」
西 「なんです?」
新条「恋から愛に変化をするときは、面倒なことが起こるものさ。ドキドキだけでは済まない。
   真摯に様々な残酷な現実と向き合わなくてはいけないからね。時には暗闇で何かと戦わねばならない。
   その覚悟は必要だ。だが辛いばかりではない、ということもあるそうだよ」

西 「……そうなんでしょうけれどね。特に我々は現実と向き合うのが怖い部類だ」
新条「けれど本気は強さも得ることができるよ。それが無理なら、恋だけに人生を終えるものまた一興だ。
   恋の灯りは、儚げに心を熱く灯すものだからね。失うと暗闇だ。ただ虚しい。
   それに耐えられない者は、恋を探求する。弱い者は幻の灯りを追い続けて生きるしかないのだ。
   もっとも私は偉そうなことを言っても、その幻恋ばかりを見続ける負け組なのだがね」
西 「あなたに負け組なんてフレーズは似合いませんよ、新条社長。
   イヤミです。恋人候補はいくらでもいるでしょう?」
新条「要くんもそう言ってくれるんだけどね。もう少し若い頃にそう決心できる強さがあればねぇ。
   今は私の財産目当てか、特殊な介護フェチのどちらかとしか思えないのが哀しいね。
   それくらいなら他人の恋の話で良い酒を飲みたいんだよ。自分のことよりよほど興奮するよ」
西 「またマニアックなことをおっしゃる。あなたに本気の若者だって紳士だってきっといますよ」
新条「いや私の趣味には年齢制限があるんで、妙齢の紳士はお断りなのだよ」
西 「我儘ですね。それでそのオーナーは、ただ恋の灯りを探求中なんですか?」

新条「どうだろうね。恋の灯りが愛の炎に変ったのならいいがね。
   最終的に愛すべき大事なひとを見つけたのなら、荒れ狂う海は凪いで、
   錨を下しセイリングは終了だ。事実、彼はもう私と海原のセイリングに出てはくれないしね。
   暗闇であってもそこに繋ぎとめてくれる今の錨は、光も放つかなり頑丈なものかもしれないね」
西 「そんなふうに、どうすれば思えるのでしょう。俺にはできそうにない」
新条「時間はかかっていいんだよ。簡単なことでもないだろう。模索すればいいよ。
   考えて何を選んでも最後は後悔しない生き方をしたまえ。まだ遅くはない。
   選んだ結果にモヤモヤとしてスッキリできないのなら、選ぶものを間違っている。
   だったら選び直すのだよ。君のそのチャンスはまだ今、そこにあるだろう。
   チャンスは貯金できないと誰かが言っていたよ。老婆心ながらそれを助言する」




photo/R

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