I Can't Stop Loving You
愛さずにはいられない
02
レイジ「なぁ、キョウちゃん。候補が多すぎやしないか?」
鏡 夜「そうですか? まだ半分ですけどね」
レイジ「これで半分なのか? しかも外国人が多過ぎるな。こいつ、石油王じゃないか。遠距離恋愛はやめておこう。海外者は削除だ」
鏡 夜「あなたのために体を張った結果、そうなったのですよ。しつこい王族の御子息など私の本意ではありません」
レイジ「おれのせいなのか?」
鏡 夜「そうは言ってませんけど。色々と彼らには学ぶことも出来ましたし、損はしていませんね」
レイジ「こいつは、誰だよ? 石田和也って誰だ。日本人だよな?」
鏡 夜「ああ、ディーラーですね。イタリアのアンティーク陶器を専門に扱っている人物です。二流ですよ」
レイジ「おまえはおれの知らないヤツと知り合いなのか? どこで会ったんだよ」
鏡 夜「確か、スペインでの買い付けのときに知り合ったのです。なかなかの男前で、大胆な腕前でした。
私が少し、わざと手助けをして差し上げたので、お礼にとバルへ飲みに誘われて……」
レイジ「そのままヤッタ、わけなのか」
鏡 夜「ええ、まぁ、ご挨拶程度にですけど」
レイジ「おまえの貞操観念はどうなってるんだよ。ご挨拶セックスって、エトー並みのがっつき具合だな?」
鏡 夜「そんなことはありませんよ。ただ彼は、ちょっと……訳ありだったのです」
レイジ「お。なんだ、なんだ? 脈ありの奴か? こいつは日本にいるのか?」
鏡 夜「どうでしょうね。でも彼は無理です。訳ありというのは、恋人がいたのです。
ケンカをしていたようで、私はヤキモチを妬かせるための道具にされただけでした。心外です」
レイジ「おう。酷い男だな。というか、度胸のある男だ。おまえをダシにするなんてな」
鏡 夜「そうですね。でも、そのお返しもちゃんとして頂きましたよ。こちらで勝手にですけどね。
それでずいぶんと利益が出ましたから、それくらいは相殺です」
レイジ「怖いから中味は訊かないでおくよ。ならその恋人あり男が、どうしてリストに載るんだよ?」
鏡 夜「去年、恋人と別れたそうで交際を前提に会いたいと先日、連絡がありましたので、一応」
レイジ「へぇ。それで会ったのか? そいつと」
鏡 夜「いいえ。会いませんでした。どうやら、そのときの利益のことで怨まれていたようで、
私に罠をかけようと画策されていたようなので先手を打ちました。もう、この世界で商売はできないでしょう。
日本にいるのか、海外にいるのか、今の消息はわかりません。きっと引退されたのでしょうね」
レイジ「ああそう。山中におまえが埋めたのじゃなきゃいいけどな……。削除していいヤツだな?」
鏡 夜「そうですね。削除して下さい」
レイジ「こいつは? 百合草康友氏。彼はおれも知ってるぞ。スイス製オルゴール専門のコレクターだ。
おまえ、百合草氏に交際を申し込まれてたのか? ぜんぜん知らなかったな!」
鏡 夜「ええ。百合草さんは紳士で、ちょっと恥ずかしい詩のような恋文をこっそりと頂きました」
レイジ「うーん、古いオルゴールのコレクターだからなぁ。手紙とか詩とか懐古ロマンチストなんだろうな。いいじゃないか。
そういうのも、おまえは好きだろ? 年上者は駄目じゃないよな? おれより彼は若いはずだ」
鏡 夜「ええ、年齢は問題ありませんし、倒錯した性癖はとても合いそうだったのですけど、
極度の潔癖性で、なんというか……。直接に触れあえないというか……」
レイジ「うん。わかった、妄想セックス潔癖エロ中年は、削除でいいな?」
鏡 夜「はい。すみません。彼は恋人というタイプではないですね。私をガラスのケースに納めるのに夢中になりそうなひとです」
レイジ「猟奇なのはどうもなぁ。おまえもつきあいが良い男だよな。変な遊びに興じるなよな。
次は、と。沢田研二。……ジュリーじゃないよな。これ、サワか? アルーシャの切れ長イケメンヴォ―カル、サワだろ」
鏡 夜「ええ。サワさんです」
レイジ「何でリストに入れたんだ? サワに求婚された?」
鏡 夜「どうでしょうね。私の希望も、少し入れてみたのかもしれません」
レイジ「は。まさかキツネ狩りの悪魔ゲームを、まだ続けてるんじゃないだろうな?」
鏡 夜「残念ながら、違いますよ。あの時は口説かれもしましたが、特に発展しませんでした。
ただ先週、お会いしたのです。サワさんに」
レイジ「え、おまえがサワに会ったのか? そういえば、リンとサワのキス事件のその後はどうなったんだよ?
あれからずいぶん、経ってるけど。そんなことがあったことをすっかり忘れてたな」
鏡 夜「知りません。知っていてもそんな内容は、話せません」
レイジ「何で? サワはピアノマンのカウンターで話したのか? その後のリンとのことを?」
鏡 夜「いいえ。お店ではありませんが……。私にプライベートな相談があるとおっしゃるので、家にお招きしました」
レイジ「サワを家に入れたのか? なんだよ、おれのスパイは何をやってる。そんな報告、聴いてないぞ」
鏡 夜「私に尾行をつけるのでしたら、人選をもっとしっかりなさらないと駄目ですよ」
レイジ「犬へのご褒美の餌が高級になると、贅沢になって困るよな。自宅での話なら話せよ? いいだろ?
おまえの家でのプライベートなら話しても問題ない。おまえの話だ。おれはおまえの雇い主だ。話せ、いいから」
鏡 夜「問題あるでしょう。私のプライベートですよ。雇い主でもプライバシーの侵害です」
レイジ「何がプライバシーの侵害だよ。おまえが言うか? だったら、いつも死神の影みたいに付きまとってる、
おれの尾行者をまいてもいいんだぞ? おれのプライバシーの侵害はどうなるんだよ?」
鏡 夜「私のそれは、あなたの身辺警備のためですから、侵害には当たりません。私の仕事の範囲内です」
レイジ「本当に? 四六時中、時間外も休日もか? 休日くらいおれの靴に仕込んだGPSを外してもいい?」
鏡 夜「……わかりました。お話しします。しょうがないですね。これはサワさんの私的なことなので、どうかと思いますけど」
レイジ「いいさ。どうせサワは、同じことをおれにも話してくれるさ。ことが捗っていい」
鏡 夜「サワさんには、聴かなかったふうを装って下さいね。バーカウンターでの話ではなくても、私の信用に傷がつきますので」
レイジ「まかせろ。わかってるさ。そういうことは得意だ」