星に願いを
When You Wish Upon a Star
05
May
登場人物:サワ/リン
場所:真夜中の裏路地
サ ワ「……あいつ、死んだんじゃねぇだろ、な?」
リ ン「ああァ? さぁな。息はしてたみたいだ。どっかの店の前に置いてきたから、誰かが通報するだろ。
死なない程度に加減はして殴ったから。あんな目にあって、てめぇの男の心配してんのかよ? サワ」
サ ワ「ちがう。あんなヤツでも死んだらリンが殺人者だからな。それはねぇだろ」
リ ン「お前、病院行けよ。大丈夫かよ。血が。出血、してる……顔も、切れてるぞ」
サ ワ「……ああ。だな。顔は庇ったのに……クソ。貌が命のボーカルに、何しやがるんだ。いてて……。
ケツもダメだな。無理やりされたから、裂けた。上も下もイテェな。でも病院はイヤだな。
こんなので救急に行ったら警察を呼ばれる。たまにはあるから、こういうの。大丈夫だ……」
リ ン「ぜんぜん大丈夫そうには、見えねェけど?」
サ ワ「そうだなー。ハハハ。ホント、ひでぇ姿だよな……。ボロボロだ。アルーシャのサワが台無しだ。
こんなんで帰れねぇよな。三浦さんに電話するわ。迎えに来てもらう。お前はもう帰っていいぜ、リン」
リ ン「……そ。いや、三浦店長が来るまで、一緒に待っててやるよ」
サ ワ「いいよ。帰れよ。帰ってくれ。いて……。いてて……。ちょっと洗った方がいいな。
何か、気持ち悪い。吐きそうだ。とりあえず近くの公園に行くわ。噴水があるし。じゃあな」
リ ン「ちょ、待てよ。ど、どうしていいか、わかんねぇんだけど、俺は」
サ ワ「だから、帰れって、言ってんだろ! そんな目で見んなよ! 帰れ! ここにいるな!」
リ ン「な、んだよ!? 助けてやったのに、どういう言い草だよ、てめぇ! サワぁ!
結局、誰にでも色目使ってっから、こういう目に合うんだろ!! 淫乱魔の自業自得だぜ!
こんなことになってんのは、自分で撒いた種だろが!!」
サ ワ「はぁ?! なんだと、てめぇに色目使ったわけじゃねぇだろ、ほっとけよ!
こんなのは通常はねぇんだよ、イレギュラーなんだよッ。こんな酷いことするヤツだって分かってたら
最初から口説いてなかったさ! 痛いのは、ゴメンなんだよ! そんな趣味、ねぇよ!
強姦されると思って、付き合うバカいるかよ!」
リ ン「―――――。」
サ ワ「……そんな顏、すんなよ。リン、リンって。頼むぜ。心が折れるだろ。……お前、わかんねぇの?
俺がどんだけ情けない思いして、お前と喋ってるのか、わかんねぇか? 折れそうなんだ。
頼むよ……リン。おまえは、ダチだろ……ほっといてくれよ、もう」
リ ン「サワ……」
サ ワ「惨めな俺を、見るなよ……。あいつ、最初は乱暴するような酷い男じゃなかったんだ。
段々、次第に独占欲が強くなってきて、少し今回は失敗したなとは思ってたんだ。
わかってんだよ。だけど、別れきれなかったんだ……。こんなことまでするとは思わなかった」
リ ン「サワ、この辺てホテル地帯だよな。おまえ、男同士で入れるラブホ、知ってるだろ。入るぜ」
サ ワ「え……。何言ってんだよ……リン?」
リ ン「お前は、公園まで歩いてる内に倒れるぞ。それに破傷風にでもなったら困るだろ。
ちゃんとしたとこで洗って、手当てしないとダメだ。細菌を舐めるなよ。下手したら死ぬんだからな。
爽やか好青年のリンくんが、41のサワを放ってはいけないだろ。ダチなんだからな」
サ ワ「リン……」
リ ン「だいたい、お前がみっともないのは、いつものことだろ。毎回、男漁って何、スカしてんだよ。
いつもてめぇは恥ずかしいってんだよ。今は怪我してるんだ。俺に逆らうなよ。言うとおりにしろ。
いいか、ラブホに行くからな!! でも、襲っちゃイヤーよ?」
★★★
場所:裏路地のモーテル
リ ン「よし。風呂でキレイにしたし、薬も塗ったし、完了な!
俺、ミュージシャン失業したら、介護士になれそうだよなぁ」
サ ワ「……折れた……。折れ切った……。立ち直れねぇ。史上最悪の悪夢だ。
シックスティーズのド爽やかドラマーに、こんなことさせるハメになるなんて―――。
お前にだけは、俺のケツの穴を見せることは絶対にない、と思ってたのに……」
リ ン「おーい、なんつー誤解を招く発言してんだよ! 穴とかやめてくれ。けど、そんなの今更だろ。
お前の乱れた私生活を見てたら、なんかいつかは俺にもトバッチリがきそうだったさ。
こういうことは、きっと遅かれ早かれだ。しょうがねぇよ。お前は、ヤリ魔の淫乱サワさまだからな」
サ ワ「うるせぇ。淫乱いうな。知らねぇくせに。お前ってさ、ケンカ慣れしてるよな、リン。
殴り方に年季、入ってたぜ。最初は、その筋のひとかと思ったくらいだ。
意識がはっきりしてきてよく視たら、シックスティーズのドラマーで、相当、ビビったぜ」
リ ン「はぁ? そっかぁ? 一応、これでも筋金入りロックンローラーだからなッ」
サ ワ「なんの自慢だよ。前に豪さんが言ってたことがある。リンのロッカーのイメージは酒、女、ケンカで、
血の気が多くて、よく客と殴り合いになるとこを、豪さんが寸前で止めに入ってたってな」
リ ン「あー、そんなのあったね! 懐かしい話だな。若いときね。若気の至り。
でも豪に鉄の扉みたいに立ち塞がれて、腕を掴まれたら、俺は指一ミリも動けなかったんだ。
闘犬が、ご主人様を認めた瞬間だったね。まぁ、勇ましい時代もあったさ。基本、ロッカーだもん、俺。
今は、すっかり落ち着いた爽やか健全好青年だけどなっ♪」
サ ワ「殴ってるお前は、ちょっとカッコ良かったよ……。いつもより、ワイルドだった」
リ ン「今さら何をおっしゃいますか。リンくんは、いつでもカッコイイんだよ。フフン、惚れんなよ」
サ ワ「……気持ち悪かっただろ。あんなとこ、目撃して。
最悪なシーンを見られたよな……。リンが最も嫌悪してる、野郎同士のアレだもんな」
リ ン「嫌なのは生理的なもので、人じゃない。そういう想像に慣れないってだけだ。
別に人種偏見はないぜ。あったらお前と友人づきあいなんかしてない。
それにこんなに苦手なのに、何故か俺の周りはゲイばっかだし、大事な親友も、筋金入りのゲイだよ。
憧れの兄貴的存在もゲイで、友人もゲイとビアンだ。もう何でこうなんだろうな? ちょっと多くねェか?」
サ ワ「……リンにあんなとこ、見らる日が来るとは思わなかった。一生、俺の恥辱の記憶を消してくれ」
リ ン「サワは抵抗して、嫌がってただろ。あんなのケンカと同じだよ。もう恥じるなよ。忘れてやるよ。
ま、弱くて負けたのは、しょうがないよな。でも仇は、俺がとってやったぜ」
サ ワ「ケンカ、か。やられっぱなしのな。……ッ。
あァー、痛み止めも買って貰えば良かったな。傷の疼痛が、ひでぇわ。
落ち着いて来たら、ジンジンと痛み出してきた。酒ねぇかな?
ここはウイスキーとかあるよな。出してくれよ。鎮静剤になるだろ」
リ ン「バッカ、アルコールはダメだって! 寝て起きた時に最悪だぞ! ダメダメ、飲むなよ、サワ!
昔のロックなリンくんなら即、そんなもん飲んどきゃ治るって瓶から飲ましてたけど、
今はマック先生の正しい世話焼きマニュアルを仕込まれてる。酒は禁止」
サ ワ「でも、痛いんだって。ダメか? ……チッ。確かに呑んだら顔も腫れそうだよな。
明日のステージに出れないのは困るしな……」
リ ン「出る気なのか?」
サ ワ「当たり前だろ。出るさ。お前はいいよな。酒臭いぜ、リン。相当、飲んでたんだろ?
こんな時間に、フラフラうろついてたんだからな」
リ ン「おう。良い気分で夜通し飲んでたぜ。けど、すっかり酔いも醒めたわ。責任取れよなー」
サ ワ「勝手に助けたんだろ。そんなの知るかよ。おせっかいヒーロー気取りか。
なぁ、なんか、気が紛れる鎮静剤ねぇかな……。痛くてしょうがねぇんだけどな。
頭痛薬でもいい。男前とキスでもできたら、ちょっとは紛れそうなのにな……」
リ ン「いやんー! サワさん、襲わないって約束でショー!!」
サ ワ「ふざけろ、お前じゃねぇよ。リンとなんかとキスしたら、爽やか菌がうつるってんだよ。
するならナルセとか、マックとかだよ。頼むよ、酒がダメなら、どっちか呼んでくれよ……」
リ ン「爽やかは菌じゃねぇって。おいらもシックスティーズのオトコですけど?」
サ ワ「そうかよ。ケツ嫌いの清潔ドラマーに用はねぇんだよ。ゾクゾクするような色気のあるボーカルか、
ドキドキするような眼つきの鋭い精悍な男前ベースを、ここに呼んで欲しいんだよ……クソ」
リ ン「俺にはその形容詞が当てはまるメンバーさんが誰のことか、まったく検討つきませんけど?」
サ ワ「だから不感症なんだよ、高潔のリンさまは! ナルセの魅力が通じないなんて逆にキモチワルイ。
マックは……はぁ。思えば俺は、シックスティーズの男に振られてばかりだよなァ……。
高嶺なんだなぁ。そんなに俺、魅力ないかよ。そういや、豪さんも元シックスティーズだったもんな」
リ ン「げ。お前、豪までも口説いてたのか?」
サ ワ「豪さんは、硬派でカッコ良かった。惚れるに決まってるだろ」
リ ン「まぁ、豪ちゃんは、荒野の鉄扉だからな。でも、恋人の前じゃ、荒野も一気にバラ園なんだぜ」
サ ワ「そうなのか? へえ……。豪さんは、恋人とうまくいったんだな。良かったな。
言ってたよ。浮気者の恋人がいるのに、自分は浮気は絶対にしないってな。揺るがない愛だ。
あんなふうに愛されたら、幸せだろうな……」
リ ン「そんな恋人を作る気もないんだろ、サワは。いつもヤリ落としてサイナラだ。だろ?」
サ ワ「うっせぇ、本気になる相手が見つからないだけだ。いや……でも……俺、マックはちょっと本気だった」
リ ン「嘘つけ。落としたいだけだったくせに。とんだ騒動だったぜ」
サ ワ「騒動? 多少のさざ波くらいは起こせてたのか? ふうん。まったく脈無しだったのにな。
マックは、最初はそう思ってたけど、あんなキスされたら、ちょっと戸惑った……」
リ ン「え。嘘だろ。まさか、実はマックとすでに、やらかしたのか?
やっぱ、ホテル行って何もないは無かったわけか? うわー、マックめ。レイジにチクってやろかな」
サ ワ「違うよ。そうじゃない。最初の、酔っぱらって、したやつだよ。お前も見てたやつだ、リン」
リ ン「あれのこと? あれのことを云ってるって? あんな酔っ払いのキスが、いかほどだよ?」
サ ワ「すごく甘かった。ああいうキスを、誰かにするんだと思った。なんか、柄にもなくドキドキしちまった。
でもマックのあのキスは、レイジさんと間違ってたんだよな。ビックリしたけど、諦めもつくさ。
……その後、二人はどうなんだよ」
リ ン「さぁ? 相変わらずじゃねぇの。マックはレイジを好きだけど、レイジは所詮、茅野さんのものだ」
サ ワ「ああ……。妖艶悪魔のな……。それは大変だな、マックも。同情するぜ。
アイテ、テ……。ダメか。やっぱ、気持ちイイ思い出くらいじゃ、脳内麻薬は出ないな……。
痛くて眠れないんだ……。畜生……」
リ ン「あ、この間、テレビでやってたぜ? 人にタッチすると、なんだっけ、オキシなんとかって物質が出て、
痛みが和らぐらしい。認知症も治るんだってさ。なんなら子供みたいに、背中でも撫でてやろうか?」
サ ワ「ハッピーホルモンな。オキシトシン云うんだよ。あんだけ尻軽グル―ピーとヤリまくってて、
リンはその効果を知らないのかよ。そうか、気の毒な話だ。リンは万年彼女いないからなァ……」
リ ン「お。バカにしたな。最近は、真剣な彼女を作るべく、レイジの助言を守って努力してんだからな」
サ ワ「助言? お前がこのとこ、禁欲してた理由か? レイジさんは、何を助言してくれたんだよ」
リ ン「パンツをすぐ、下すなってさ。股間に食いつくカンディル女と付き合うなって」
サ ワ「アハハハハ、そりゃ、最高の助言だなァ。リンの女の趣味も、たいがい悪いからな。
あんな、リンの肩書しか見てないような顏だけ女。毎回振られて、命拾いだろ」
リ ン「皆、イイコでしたー。悪口、云わないでくれ。俺が悪いんだよ。あちこちひっかけるから。
お前も禁欲でもしろ。この際、良い機会だ。全てをやり直す禊だよ」
サ ワ「……かも、しんねぇなァ……。痛い目に合わなきゃわかんねぇって、ガキかよ、俺ァ……。
ホント、情けねェよ。今度は胸の奥が、じくじく痛む気がするぜ。体の痛みより、なんかイテェよ。
なぁ、リン。煙草なら、いいだろ? 頼むから煙草の火、つけて俺にくれよ……痛みに耐えられない」
リ ン「おー。わかった。いいぜ。煙草は許可だ。なんなら、キスして煙、吸わせてやろうか?」
サ ワ「は。誰が、爽やかリンなんかと、そんなのする―――― え…… リン?」
サ ワ「―――ッ―― ……ン……ふ。 なん…… リ、ン、」
リ ン「それで? 爽やか菌てのは、うつったかよ? なぁ? サワ」
サ ワ「なんで…… 」
リ ン「別に他意はないぜ? お前があんまり辛そうだったから、オキシトシン効果を試してみたんだ。
ちょっと背中、抱きしめとく? ほら、もっと、深く、吸い込めよ…… な?」
サ ワ「リ ン、は……ッ 舌…… おまえ、舌、入れてくんなよ…… バカ……
どういう、つもり…… む……… ンン…… リ ン、…… 」