Smoke Gets In Your Eyes
煙が目に沁みる
02
登場人物:ナルセ/マック
場所:2ステージ前のインターバル・シックスティーズ楽屋
ナルセ「懐かしいって、おまえ。二週間ほど会ってないだけなんだろ?」
マック「……そうだけど。この間まではちょっと頻繁に会えたからさ……ギャップが激しくて」
ナルセ「ご馳走さま」
マック「そんなんじゃねぇよ。別に俺と二人きりで会ってたって話じゃなくて、
ただレイジが店に頻繁に来てた。だろ?」
ナルセ「そういや結構、俺の歌を聴きに来てたよな。しかも連夜で珍しく。
仕事が暇だったのかな」
マック「へーへー、そうでしょうよ、もちろんナルセさまだけのお歌を聴きにきてたよな」
ナルセ「それで何だっけ。ランプ?」
マック「そうそう、レイジのとこにある、ブドウの絵のステンドクラスのランプ。
あれ、どういう関係のランプか知ってる?」
ナルセ「本人に聴けばいいだろ」
マック「なんだか大事そうに眺めてたから、なんとなく聴きそびれた」
ナルセ「レイジの所にアンティークのランプなんかいっぱいあるしなァ……。
ところで、もうじきクリスマスソングを入れ始めた方がいいよな」
マック「そうだな。あと少しでクリスマスだよな。
うちも街中と同じように11月からクリスマスソング、歌えばどう?」
ナルセ「いくらなんでも11月は早いだろ。ありがたみがない」
マック「そうだよな。今年のクリスマスはレイジと過ごせるかな。きっとまた無理かな」
ナルセ「マックってさ、モテるよ」
マック「なんだよ、唐突に」
ナルセ「最近、お前の唄にリクエストもよく入るし、ファンも意外と多い」
マック「意外は余計だ。王様は不服ですか? それなりにナルセサマ以外に人気があったら」
ナルセ「そんなこと言ってない。メンバーはそれそれ人気があるよ。その中でもマックの人気が上昇中だ。
このところ、歌もちょっと上達してきたんじゃないか?」
マック「え、マジで? ナルセもそう思う? 人気上昇って思う?」
ナルセ「マックの人気は上々だよ」
マック「俺もモテキがやってきたかなぁ……」
ナルセ「マック自身も面白いよな」
マック「……それ、喜んでいいんですかね。MCが間抜けてるっていうんじゃねぇの」
ナルセ「それでも喜べばいいと思うけど? 面白いって表現は今までリンのことだったし」
マック「リンは爽やか、なんじゃなかったっけ?」
ナルセ「爽やかで面白い。面白いってのはリンがずっと言われてたんだ」
マック「じゃあ、リンにライバル視されてるわけ、俺? 形容詞の取り合い?」
ナルセ「そんなことはないだろうけど、何にしても良いことだよ。個々の人気が出るのはさ。
うちのバンドは全員歌えるし、歌姫も飾りじゃない。他とは差別化されてる。
セブンレイジィロードは、かなりレベルの高いバンドだよ」
マック「最たるは、ナルセがいることだけどな」
ナルセ「それは当然」
マック「なんだよ、結局自分自慢なのかよ」
ナルセ「自信持てってことさ。つまり」
マック「持ってるけど? プロだってことで、俺も自信は一応持ってるつもりだけど」
ナルセ「そうじゃない。仕事での話じゃないよ。
レイジと釣り合わないなんてことは、思わなくていいってことだ。
マックは十分に魅力があって、レイジに相応しい」
マック「――――」
ナルセ「なんでそんなビックリした鳩みたいなマヌケな顏してるんだ」
マック「イヤイヤイヤ、驚くだろ、ナルセさん。
反対派のナルセにまさかそんなこと言われる日が来るとは思わなかったよ。
鳩も豆鉄砲連射状態だよ。どうしたんだ、具合悪いのか?」
ナルセ「俺は別に反対しちゃいない」
マック「そうでしたっけ? しつこくやめとけ言わなかった?」
ナルセ「前はそうでも、今は違うよ。
努力して頑張ってるだろ、マックは。
あのレイジ相手に、相当頑張ってる。正直、ここまで続くなんて思わなかった。
それに少しレイジも変わってきたと思うよ。マックの影響があるのかもしれない」
マック「レイジは……一緒だろ。どう変わったと思うんだ?」
ナルセ「マックにはわからないのか。そうか残念だったな」
マック「いや、教えてくれたらいいだろ」
ナルセ「何で俺が教えるんだよ。まさか教えないね」
マック「えええっ」
ナルセ「ところで何でまた会ってないんだ? 全然知らなかった。
あれだけ来てたし、気味悪いくらい二人は上手く行ってると思ってたのにな。
レイジは店には来なくなったけど、ピアノマンに行けば会えたぜ? 会わない?」
マック「……俺、避けられてる気がするんだよな」
ナルセ「何で。何をしたんだ、また」
マック「またって何。別に何もしてない。ただ……」
ナルセ「ただ、何」
マック「ただ、会わなくなる前のレイジは、やたら優しかったな、と思ってさ。
それにシックスティーズに来てくれてた間は、メールも頻繁に返してくれてた。
今考えればちょっと不気味だったかも」
ナルセ「別れ前のサービス?」
マック「そんなものがこの世にあるのか? 別れるのは嫌になったからだろ。
優しくなって別れるってなんだよそれ。そいうのがあるのか?
レイジの中にはあるのかなぁ……。冷たくして振るのは可哀想だなって、
優しいからそういうつもりだったのかもしれないよな」
ナルセ「シックスティーズに連夜来てたのも、最後のお別れのつもりだったとか」
マック「そうなのか? チャンドラーですか。そんなハードボイルドな別れはいらねぇよ」
ナルセ「どうかな……。レイジのすることは、よく分からないしな。
なんだか小腹が減ってきたな。差し入れに甘いものとかないのか?
メリナが何か隠し持ってるだろ」
マック「やめとけ。メリのお菓子缶に手をつけたら、あとが煩いぜ?
倍返しで要求されるからな。あいつ中味を覚えてるから、気をつけろよ。
俺はよく急に違う話をするから前置きを入れろって怒られるけど、
ナルセはよく会話の途中で話題に飽きるよな。それって俺と同じじゃないの」
ナルセ「ところで皆は、テーブル回ってるのか? 珍しいな」
マック「無視かよ。今日は早くから満席だったし、そうなんじゃねぇの。久しぶりに入れ替えになるかもな。
1ステージからフロアが満員って、どんだけ世間は浮かれてるんだろうな」
ナルセ「でも忘年会シーズンだからな、12月は」
マック「まだなったばかりじゃん。いいなぁ、忘年会。お前もたまには常連さんのテーブル回れば?
あっ、たまにしかテーブルに寄りつかない貴重なナルセだわ、キャーって言われて来いよ」
ナルセ「なんだよそれ。今日は常連客が多すぎるな。回りきれないし、嫌だ」
マック「嫌だって、おまえねぇ……ほんと、サービス精神、低いよな」
ナルセ「そんなことはない。全員回れないと僻まれるだろ。それに目があったら挨拶だってしてるよ」
マック「あのな。挨拶くらい誰でもするわ。
もしやお前って挨拶をサービスだと思ってるのか?」
ガシャン!
マック「……なんか音、しなかった?」
ナルセ「さぁ。酔ったお客がグラスでも落としたんじゃないのか。
混んでるとフロアも大変だな。古参スタッフになると踊ってる客の間をスイスイと
上手にグラスを運んで、ステージから見ててなかなか感心する」
マック「へー、お前がステージからスタッフの仕事ぶりなんかを見てるわけ?」
ナルセ「おれの出番が無い時はたまに見てるけど?」
マック「そっか。直立不動のブラックサングラスは、歌ってないとき、
スタッフの仕事ぶりを監視してたのか……」
ナルセ「なんで笑ってるんだよ」
ヘ ミ「ナルセ……!! ちょっと来て、大変なの!」
ナルセ「どうしたんだ、ヘミ。やけに騒がしいけど、どうかした?」
ヘ ミ「リンが……お客さんがメリちゃんにしつこくて、止めに入ったリンが逆に絡まれて大変なのよ」
ナルセ「なんだって。まさかリンが暴れてるのか? あいつ、今さら乱闘なんか起こさないだろうな」
ヘ ミ「リンは手を出してないけど……相手が結構乱暴だし、どちらも怪我でもしたら困るわ」
マック「へぇ。酒場の乱闘なんか、この店でもあるんだなァ。俺、シックスティーズでは初めてかも」
ヘ ミ「何を呑気なこと言ってるのよ、マック。止めてきてよ」
ナルセ「この数年はなかったんだけどな。店長は?」
ヘ ミ「店長は今日、留守なのよ」
ナルセ「なるほど。それでか」
マック「何でそれでなんだ?」
ナルセ「用心棒まがいの店長がいたら、まず手を振り上げたとこで、止められてた筈だからな。
カッコイイぜ、暴君の腕を掴んで冷静に睨みを効かす、クールな黒服の店長は?」
マック「ほぅ、カッコイイな店長。まぁ、あの眼光はタダ者じゃないとは思ってたけどな。
いつも無愛想に男同士のチークに目を光らせてるだけじゃないんだ」
ヘ ミ「ちょっと、いい加減に見に行ってよ! そんなに余裕のある状況でもないのよ!」
ナルセ「そうなのか?」
photo/真琴さま