TONIGHT


9月19日 五日前 PM08:00


登場人物:鏡夜/レイジ
場所:ピアノ・マン事務所




鏡 夜「どうしたんですか、レイジさん。 窓の外なんか見上げて珍しいですね」

レイジ「綺麗なお月さんが見える……」
鏡 夜「ああ、本当ですね。もうじきですね、十五夜は。名月会行きの手配もしましたよ」

レイジ「……いつだっけ」
鏡 夜「19日ですよ。今年の仲秋の名月は19日です。もう宿の手配も全て済んでいます」
レイジ「ああ、今回は悪いがおまえひとりで行ってくれないか。誰か連れていってもいい。任せる」
鏡 夜「行かないんですか? 唯一あなたが楽しみにしてたイベントでしょう。
    茶器のセンスを気に入って、毎年参加するのを楽しみにしていたと思ってましたけど」
レイジ「そうだ。今年のはどこの窯の作家のものか、おまえが見に行って報告してくれ。頼むよ。
    残念だがしょうがない。おれには別の予定が入ったんだ。面倒くさいが、外せない用事だ」
鏡 夜「誰と、会うんですか」

レイジ「誰かと会うとは言ってないだろ。用事だ。ただの用事」
鏡 夜「私に内緒の用事ですか。隠し事は無駄ですよ。どうせ私にはわかるんですから」
レイジ「おれのプライベートだ。どうせ分かるならいいだろ。きっと正解のはずだ。
    だったら行くなとおまえはとめるか?」
鏡 夜「私がとめたら、行くのをやめてくれますか?」
レイジ「どうかな。試してみろよ。正直に気持ちを云えと言ったはずだ」

鏡 夜「云いませんよ。私は意見する立場にありませんとも言いましたよね」
レイジ「だったらやめない。約束だからな」
鏡 夜「約束? あなたは約束をするんですね。約束を守らない人物に対しても。
    結果、裏切られるかもしれないと解っていても?」
レイジ「するよ? たいていおれの裏の商売相手はそんないい加減な連中だろ。違うか?
    だからといってこっちも同じように破っていたら、商談は成立しないだろ。
    信用は商売の基本だからな。時間がかかるんだよ、信頼には」
鏡 夜「プライベートな約束だと、いいましたよね」
レイジ「そう。プライベートで仕事と同じような適当な用事なんだよ。
    たまには無理もきいてやらないと、機嫌を損ねるからな。それは色々まずい。
    自分の利益のための、投資サービスのようなものだな」

鏡 夜「――――分かりました。名月会は私がひとりで行きます」
レイジ「そうしてくれ。本当に悪いな、頼む」

鏡 夜「時々、あなたが憎くて仕方がない時がありますよ」

レイジ「そうか。今は憎んでくれ。おまえに憎まれるなら本望だ。
     だけど憎まなくていい日がいつか来る」
鏡 夜「私はあなたを憎みたくないんですよ、レイジさん。
    どうしてあなたは私を拒絶しないんですか。そうそすれば楽になります。
    何故、あなたは私が求めれば応えるんです? その気もないのに……」
レイジ「その気はあるよ。おまえはおれとの夜の営みに満足してないのか?
    返答によってはおれはショックでまたEDになる」

鏡 夜「してますよ。手抜きはされてないと思います。何故かとは思いますけど」
レイジ「何故? おまえを愛しているからに決まってるだろ。他に何と答えればいいんだ?」
鏡 夜「……すみません。ありがとうございます」
レイジ「礼を言われるようなことじゃないよな。おまえはどうなんだ?」
鏡 夜「勿論、愛していますよ。あなただけを。愛しています」
レイジ「良かった。相思相愛だ。浮気くらいしたって気にしないよな?
    おまえがおれを甘やかすから、こういうことになったんだ。
    一時的なものだし、問題にはしないだろ」
鏡 夜「ええ。浮気なんてものは今さらどうでもいいです。そうぞお好きに。
    でも、あなたを本当は誰にも渡したくないほどに愛しています。
    だから渡しませんよ。どんな手を使ってでも渡したくないんです。レイジさん」

レイジ「そうだと思った。おまえの本音を聞けて嬉しいよ。燃えてくるね。
    トラップを張るなら自由にしろ。お互い様だからな。
    おまえの新しい切れ長の狐ちゃんは、従順に動いてくれるかな?
    化かし合いはどっちが勝つんだろうな」
    
鏡 夜「トラップ? 何のことですか? 私はキツネ狩りなどしません」
レイジ「白を切る気か? それもいいだろう。騙し合いゲームは興奮する。結果が愉しみだ」
鏡 夜「あなたには、結果はわかるはずでしょう? 何でも御見通しなら」
レイジ「おまえは失敗しないだろうな。いつでも。なんたっておれの右腕だからな。
    もう飼い慣らしたのか? 仕事が早い奴は好きだよ。
    おまえに一目惚れしたのは確かだ。おれは手際の良い利口な奴が好きだからな。
    これからも敵にはしたくないよ。震えあがりたくはないからな。
    まぁ精々、頑張ってくれ。お手並み拝見だ。しばらく退屈しないで済む。
    おれが音をあげた時点でゲーム終了かな。その時は二人で祝杯でもあげるか」

鏡 夜「いいですね。愉しみにしていますよ、レイジさん。
    ―――――最期、乾杯のワインは赤を忘れないで下さいね。
    血の味がするかもしれません。甘いか苦いかは、あなた次第ですよ」











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