You're Only Lonely


10月09日 AM04:00
鏡夜のマンション

登場人物:鏡夜/レイジ




鏡 夜「……久しぶりですね」

レイジ「何が?」

鏡 夜「こういう明け方ですよ。貴方が、私のベッドの上で隣にいる夜明け……」
レイジ「ああ。そうだな。ちょっとご無沙汰だったかな。今迄、寂しかったか?」
鏡 夜「ええ。まあ、そうですね」
レイジ「悪かったな。でもこれからは毎日のように抱きに来るし、もう寂しくないだろ」
鏡 夜「それも困りますけどね」
レイジ「そうか。それもそうだな。毎日は辛いよな。分かるよ。だったら、隔週にするか」
鏡 夜「本当に治ったんですね」
レイジ「何が? ED? 治ったよ? もしかしてご満足頂けなかったのか?」
鏡 夜「いいえ。凄く良かったですよ……とてもね」

レイジ「おまえは、いとも簡単に良かったと言うんだなァ……」
鏡 夜「貴方とならね。でも良くなければ、それもちゃんと云います」
レイジ「ハハハ。それは言うなよ。おまえに良くなかった言われたら、相手はへこむだろ。
    吉川社長が、おまえに入れ込むのも分かるよな。おまえは、妖艶な極上品だよ」
鏡 夜「ありがとうございます。貴方は、良くなかったですか?
    久しぶりに私を抱いた、ご感想は?」
レイジ「おれ? 良かったよ。キョウの美尻には、メロメロだ。久しぶりに搾り取られた。
    ハードワークだ。やっぱこっちの方が、普通は疲れる役割だよな、多分」
鏡 夜「ボウヤとしていた私の方の役は、疲れませんでしたか?」

レイジ「おまえも今夜は疲れたか? 鏡夜」
鏡 夜「私は疲れていません。貴方ほどにはね。
    でも、まだもう一度、貴方がしたいといえば、少し疲れるでしょうけど」
レイジ「悪いけど、そう簡単に2ラウンドってわけにもいかねぇよなぁ。
    強請られてるんだよな? ゴメンねキョウちゃん、オジサンこのとこ、体力がさ……」
鏡 夜「歳ですね、レイジさん」
レイジ「そう、歳だよ。悪いがもう、見た目ほど若くない」
鏡 夜「貴方はきっと、あの方が亡くなった歳くらいにはなりましたけど、
    そんなに歳という歳でもないですよ。まだ通常の定年にも随分足りませんからね」

レイジ「ま、それはそうだな。けど歳だっていっておくと、色々譲歩してくれるだろ。
    でもあの頃のエトーよりは、おれの方が絶対、若いぜ。気持ちも体もな。
    体力はあいつの方が現場で鍛えてたから、少しはおれが負けてるかもしれないけどな」
鏡 夜「貴方は、同じ年齢の人達と比べれば、数段に良い身体をしていますよ?」
レイジ「当たり前だ。人工的でもちゃんとジムで鍛えてるからな。甘やかしてない。
    でもおれはあまり筋肉がつかないみたいだ。骨っぽいらしいしな。フン。
    闇のハードワークが無くなって、事務職が増えたから脂肪のつき方には一応気をつけてる」

鏡 夜「そうですね。思ったよりも貴方は、現場に出ていた。危ないことも色々とありましたね。
    でも、闇を捨てた貴方が、私の方を選ぶとは思いませんでした。正直……」
レイジ「嘘つけ。思ってたんだろ?
    したり顔して、おまえを選ばない理由の方がないってな」
鏡 夜「私はそんなに自信家じゃありません。
    だったら、大事な仕事でミスをするわけないじゃないですか。
    本当に無様だ。正直に言って、私は怖かったんです。あのベーシストが」
レイジ「……その話は、やめておこうぜ。終わったことだ」

鏡 夜「触れたくないんですね。まだボウヤに未練がありますか?」
レイジ「ベつに? ないけど? おまえが嫌だろ?」
鏡 夜「貴方がそういう反応をするときは、何か隠したいときですよ」
レイジ「そうか? 鏡夜はおれのことをよく分かってるんだな?」
鏡 夜「分かりませんよ。本当は。
    でもそう云っておけば、あなたは私を警戒するでしょう? それが狙いです」
レイジ「警戒されたいのか? 困った奴だな。その綺麗な笑みが怖いよな。
    鏡夜は綺麗な顏をして、背筋の凍るような、手段を選ばないことをやり遂げる人物だ。
    ゾクゾクする。おまえを選んだ理由はそれもあるよ。
    つまりおまえの傍にいれば安心できるし、恐ろしいと思わなくて済む。
    鏡夜が味方なら、これほど安らかで心強いものはないからな」

鏡 夜「それは分かってますよ。
    貴方は私を愛してるというより、怖いから捨てられなかったんでしょう?」
レイジ「確かにおまえは怖い。おれが仕込んだことは仕事の算段だけだ。
    それ以上のことは、おまえの元来の素質だ。おまえは怖い男だよ。
    闇との相性が良すぎる。闇市場でも、ひとりでやって行けただろうな。
    おっと、しまった。だったら、おまえにルートを譲れば良かったんだな。
    せっかくのルートを処分して勿体ないことをしたかな。残念だ。
    でもな、鏡夜。おれは、おまえを愛してないことはないぜ」
鏡 夜「……本当ですか?」
レイジ「本当におまえを愛してるよ、勿論。命も預ける。
    おまえは、おれのことをずっと待って、いつも支えてくれていた。
    今後、おれが寝るのは、おまえだけだ。おまえだけのレイジ様だ。
    そこは一応、誤解しないで貰わないとな。急に寝首をかかれると困る」
鏡 夜「言葉だけでは分かりませんね。何せ貴方は、大嘘つきですから。
    これ以上、ボウヤと関係を続けたら、私が彼に意地悪するとでも思いましたか?」

レイジ「もう意地悪してたんだろ、どうせ?
    小僧が飲みにきたら、酒に水を混ぜたりとかな。おまえのやりそうな嫌がらせだ」
鏡 夜「そこまで意地悪くはないですよ。それは店の評判に関りますからね。
    貴方じゃあるまいし、マシーンでカクテルを自動製造していますなんて、
    高級ナイトクラブの評判を地に落とすようなことは言いません。
    ただ貴方に彼からの伝言を正しく伝えないとか、そんな地味なことはしたかもしれませんね。
    これでも結構、嫉妬心が強いもので」
レイジ「伝言もちゃんと伝えてだだろ。信用問題だからな。
    おまえは……おれの大事な店も愛してくれてるよな。それもポイント高い」
鏡 夜「貴方が愛しているものは、私にとっても何より大事なものです」
レイジ「……だろ。あれを切った理由を教えてやろうか?
    あの小僧はな、自分本位なんだよ。そしてとんだヘタレのエゴイストだ。
    おまえは、もしおれが撃たれそうになったら、おれを命がけで護るよな?」

鏡 夜「もちろんです。命に代えても貴方を危険からお護りしますよ」
レイジ「……そうだよな。おれもそう、信じてるよ。確信してる。
    けど、あの弱虫ボウヤは、おれを弾除けにして自分だけ助かるって云うんだぜ。
    冗談じゃないだろ。そんな身勝手なのは、ごめんなんだよ」
鏡 夜「まさか。彼がそう云ったんですか? それとも何かの比喩で?
    でも……本心とは、信じがたいですけど。彼は随分、真面目な人だと思えましたが」
レイジ「云ったんだ。そう、云ったんだよ。比喩じゃないし、本当のことだ。
    真面目だから臆病者じゃないとは言えないだろ。ろくなヤツじゃないさ。
    石頭でヘタレで無神経で嫉妬心も強い、最悪だ。
    そんなのは冗談じゃない。おまえはエトーに妬いたりしないのか、鏡夜?」

鏡 夜「江蕩さんに? そうですね。妬いたりした……かもしれません、昔ならば。
    でも、今はないです。あの方の代わりを、私は望んでないですから」
レイジ「代わりじゃ嫌、ということか」
鏡 夜「違いますよ。貴方の江蕩さんへの想いは名状しがたい気がします。
    彼方の身体の一部になど、私には到底なれないということです。
    私は貴方にとっての仕事上のパートナーで、部下で、恋人で、友人……ですか?」
レイジ「仕事の相棒なのは間違いないよな。部下もそうだな。
    今回、恋人に決定したわけだから恋人なのも間違いないな。おれはおまえの恋人だ。
    何ならナルセに言いふらしてもいいぜ? いや、ナルセはダメだな。ナルセには黙ってろ。
    つけ入る隙がなくなるからな。おっと、もうナルセもおれは抱けないんだっけ?」
鏡 夜「寝るのは私だけだと、貴方が云いました」

レイジ「そうだった。冗談だよ。ただ友人もってのは、どうかだかな……。
    別に友人でもいいけど、怖すぎやしないかね」
鏡 夜「全部になれるとは思っていませんよ、私はね。でも、それでいいんです。
    それ以上を望むこともないですし。
    本当は『貴方の恋人』という称号だけを、欲しかったのかもしれません」
レイジ「そうなのか? 仕事の相棒は二の次なのか? なんだ、それもガッカリするだろ。
    おれにとっては、恋人よりも大事なポジションなんだぜ?」

鏡 夜「仕事の手は抜いたりしませんよ。ミスは別にしても。もう大丈夫です。
    ビジネスパートナーだと認めて頂いて光栄だと思っていますよ。
    でもそれ以上に、貴方を愛してるんです、私は。
    その想いの方が強いのだと、今回初めて気が付きました。
    みっともないと思うほどに……。これはマックさんのお蔭かもしれませんね。
    私にもそんな醜い感情があるのだと思い知りました。
    私を翻弄するなんて、貴方は酷いひとですよ、心底ね」
レイジ「へぇ。クールな茅野鏡夜が、そんなにもご乱心だったとはな。知らなかったよ。
    恋人ねぇ……。そんな称号なんか欲しいものかね。おれには分からんな。
    そんな不確かなもの、正規契約のついた性欲処理に役立つってだけだろ。
    あ、ゴメン」
鏡 夜「貴方にとって恋人とは、その程度で、あまり縁がないものなんでしょうね」

レイジ「……そうだな。恋人なんてものは、今まで本気で持ったためしがない。
    エトーとおれは、恋人同士とは言えなかったからな」
鏡 夜「江蕩さんとは、性的な関係はなかったんですか? まさかキスもしなかったと?」
レイジ「いいや? キスくらいはしたけど、それでもたった数回だけかな。性交は、無かった。
    ……ヤツからは、ガキの初恋みたいなことしかされてねぇよな……思い起こせば。
    意地悪して気を引いたり、好きじゃない振りをされたり、嫉妬させて楽しんだり。意地が悪い。
    良い大人がホントに最低だったよ。アイツは悪魔だったよな。おれ以外とはセックスしてたくせに。
    ホント、強姦してやりゃよかったと思うよ。やろうと思えばできたのにな、クソ」

鏡 夜「貴方は、江蕩さんを抱きたかったんですか?」
レイジ「さぁ。どうかな。おれは、どっちでも良かったんだ。エトーが選べばそれで良かった。
    アイツが好きだったし、惚れてたし、欲しかったのは事実だよ。
    長年欲しくて欲しくて、なのに手にできなかったから、想いを持て余していっそ憎んでたのさ。
    でも結局、それだけ求めてるのに性的な関係がないと、何か妙なことになる。
    上手く言えないけどな……。一線を越えられないものは、浮かれた恋人だのには繋がらない。
    それどころか、なんだか変なものに繋がっちまうんだと思った」
鏡 夜「変なもの? それはどんなものなんですか?」
レイジ「わからない。例えようのない、何か変なものだよ。何だろうな。奇妙な、重いのに見えないもの。
    恋人よりも何だか厄介な、得体の知れない性質の悪いものだ……。
    やっぱりな、身体を繋げるって行為は、人間として簡素で大事なことだと思うよな。
    何より欲望が分かりやすいし、相性もあるし、結果悪けりゃ自然に嫌いにもなれるし、
    理由もできるし、別れもしやすい。そう、相手と寝てれば、最後は別れられる。
    エトーがおれを最後まで抱かなかった理由は……違うな。抱けなかった、理由は、
    無防備に体を繋げるセックスなんかで、それでいつかおれを失うのが、怖かったんだ」

鏡 夜「……貴方を、それほどに愛していたんですね」

レイジ「は。昭子が云うにはそうらしいがな。本当のとこは、どうだったのかね。
    でも死んでもずっと愛してるなんて、そんな墓場からの告白みたいな遺言、冗談じゃねぇ。
    告白くらい自分でしろってんだよ。昭子に頼むなんて最悪だ。ヘタレ野郎が。
    そんなもの、中途半端に若い頃のおれなんかに、分かるかよ。
    あいつは臆病者だっただけさ。でもおれは、したかったんだ。セックスしたかった。
    本当に……あいつと躰を、繋げたかった。
    やってたら、どんな気分だったんだろうな。何かが、変わってたかな」
鏡 夜「……貴方がそんな赤裸々な話をするなんて、思ってもみませんでした。
    貴方から江蕩さんとの話を聴けるとも、想像しなかった。とても今、不思議な感じがします。
    でも、そんなことを話して貰えて、凄く嬉しいと思います」
レイジ「そうだな。おれもどうして鏡夜にこんな話をしてるのか、不思議だよ。
    こんな話、生きてる間に誰かにするとはまったく想像もしなかったからな。
    死んでからでも閻魔大王に正直に言うかどうかを迷うよな恥ずかしい内容だ。
    皆には内緒にしておいてくれ。脅しネタにも使わないでネ」

鏡 夜「貴方は、変わったんでしょうね」

レイジ「……歳もとったからな。そのせいだろう。
    言葉に出して言ってみると、案外、思いたくなかった自分を受け入れられる。
    同じような歳になって、エトーの気持ちも多少は分かるようになったんだろうな」
鏡 夜「それもあるでしょうけど、闇ルートを捨ててから、前向きになったんですよ」
レイジ「前向き? 前向きなのかこれは。おれは前向きになったのか? 今さら?
    そうか……。じゃ、思い切って今度はナルセを、本気で口説いてみようか。
    やってみる価値はあるよな? おれは前向きで、本気なんだからな。
    今までとは違う。……いや、まてよ、これはダメなんだっだっけ?」

鏡 夜「何度も申し上げてますが、貴方が言い出したことですよ。
    私に寝首をかかれても良ろしいのでしたら、どうぞして下さいね」
レイジ「やだな。嘘だよ、キョウちゃん。おれはキョウちゃんの恋人オンリーで一筋だよ。
    マジでコワいから、そんな笑顔で言わないでくれるかな。頼むよ。怖いよ。
    ……おまえって、絶対それ、本気笑いだよな? 殺さないよね?」

鏡 夜「本気ですよ。今後、私以外と寝たら、即抹殺しますからね。
    もちろんこれは、比喩じゃないですよ?(^_^) レイジさん」



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