Because


6月3日 PM11:00
ピアノ・マン ジャンクスペース


独白:ステージ終了後、簡易席で飲み続けるマック




畜生。

面白くねぇ。
あのダンディ爺さんと、一体どんな関係なんだ、レイジの野郎。
絶対にあれは、怪しいだろ。おかしいだろ。
最後なんか、レイジくんて云ってたぞ。
馴れ馴れしいだろ。何が悪友だ。

レイジめ。

なんだよ。おれには関係ないだと? 関係あるわ。
何でおれの目の前で、他の男とどっかに消えるんだ。
チクショウ。ありえないだろ。そんなの酷いだろ。
しかも相手は初老の紳士だろ。どんな高級な関係だよ。
絶対、怪しいんだよ。デキてるに決まってんダロ!!

二股だって云ったくせに、三股だったのか?
まてよ。突っ込むとこそこでいいのかな?

いや、突っ込むっていえば……。

あんたを抱いてるのは唯一おれだけだって、云ったよな?
他のヤツには、やらせてないって云ったよな?
おれのだけが、あんたの中に出入りしてるって、
ピストンのスラストの話を、相当エロく云ったよな?


はて。

レイジは、それはおれだけだって云った……かな?
どうだろ。云った気がするだけ?
本当にそう云ったか?
何時何分何曜日?
実はそんな気がしただけだったのかな。

なんてこった。
自信がなくなってきた。
もともとレイジには愛されてねぇし。
その現状で、おれだけってことの方が不可解だ。

妄想してるうちに、現実があやふやになってたのかな。
おれ、ヤバイんじゃねぇの?
頭がぼんやりする。
全部、妄想だったとか?

マジで?

それとも……あの爺さんに突っ込んでるってことは……。
ないよな? いや、そういうのもあるのか?
どうなんだ? ふうつ? あんまり詳しくないから、おれ……。
知らねぇよ、そんなマニアックな世界は。
いやいや、レイジに限って……。

……限ってありそう。

コワ。そっち方面では、考えるのやめよう。
それはナシの方向で。うん。
見たくないものは見ないことができるよね。
逃避能力、人間万歳。

でも、どっちにしても一緒だよな。
どっちでも寝てるかもしれない事実は、変わらないんだから。
あのダンディ爺さんと、セックスしてるのか?

でもあの様子じゃ、してるだろ?
してないのかな? どうなんだ。
だってめちゃめちゃ渋い爺さんだった。
若い頃はモテモテの大人気だった的な。
ジジイなんかが、おれよりいいってのかよ。クソ。


レイジ。

全部、嘘だったのか?


そうだよな。全部を正直に云う理由の方がないよな。
どうでもいいおれなんかに。


―――嘘か。

全部、嘘だったと云う方が、納得できるのかもしれない。
レイジは基本、嘘つきだ。
おれが言われたことだけは、
本当だと思ってるおれがオメデタイんだ。

でも、信じてたんだ。本当に。
ナルセがレイジは適当な嘘ばかりだと云っても、
おれに云ってくれることを、本気で信じてたんだ。
滑稽だと思われても、信じてた。
おれって田舎者だから。


…………今、久々に田舎者発言に頼ったな、おれ。
だって心が折れると、やっぱり頼るのは田舎だよな。
心のよりどころは、懐かしい心の故郷、田舎だよ。
もう田舎に帰りたいばい。


だけど。
ここで問題です。


すでにもう二股で、カラダだけの知人という立場のおれが、
『おれにしかやらせてないって、嘘だったんだな!』
などと怒ってレイジを責めて、良いことあるのか?

または。

『二股って云ったけど、三股だったんだな!?』
って、怒鳴って、おれにメリットが何かあるのか?

ないよな。

三股に限っては真剣に言えば云うほど、シュールなギャグだよな?
観客は笑うとこだよな? 二も三も一緒だろ!! 的な。
真剣に怒鳴るような内容じゃない。

すでに愛もない二股なとこで、
もう恋愛基盤は、最初から破綻状態になってるんじゃねぇの?
これ以上、駄目になることなんか無いんじゃないのか?


そうだよ。
いまさら、嘘もないだろ。
嘘だけど何? みたいな感じだろ。
いまさら、何も変わらないだろ。

そうさ。


でも。

やっぱり、ショックなのは否めないんだ。
ショックなんだ。
ショックだったんだ。おれは。
ノミの心臓も小心者も卒業した筈だけど、
そんな急にはデカイ器にはなれないんだよ。
まだ発展途上なんだ。プリーズ、まだ支援! なんだよ。

レイジは、おれのものじゃない。
わかってるのに。
唯一おれだけの待遇があったと思ってたのが、
嘘だったなんて。

おれは、激しく落ち込んでいる。
笑えるくらい。
笑ってるのかもしれない。
ははははは。

はぁ……。

ああ……酷い落ち込みようだ。
どうしよう。
しかも飲み過ぎてる。
べろべろだ。目がまわる。
思考が時々おかしい方向を向くのはそのせいかな。


さっき。

ダンディ爺さんに『いつから?』と聞かれたとき、
全てバレたのかと思って、びっくりした。

レイジとの関係を、いつからかと訊かれたと勘違いしたんだ。
咄嗟にレイジの反応を窺ってしまった。

レイジもそんな顏をしてた。

……気がする。

なんとなく、数秒見つめあった奇妙な時間、
お互いに同じことを考えていた……気がした。


そういえば。
ゴールデンウィーク前の出来事。

会えないと文句を愚痴った最後の夜。
帰りかけたおれに、あとで会いに行こうかってレイジが云った。

びっくりした。
まさかと思って、一瞬の間によく考えた。
冗談か嫌味だと結論付けて、カッコ良く断ったら、
一瞬レイジは、残念そうな顏をした。

……ような、気がした。

でも、それはきっと気のせいで、
自分の都合のいいように、見間違えただけだと思う。
だって、レイジが残念がる理由がないからな。
前日に嫌ってほど、セックスしたあとだったし。
いつもレイジに会いたいのは、おれなんだし。

そうなんだ。

なぜなら、おれが、レイジを、好きだから。

……ちょっと待て。
「ビコーズ・アイラブユー」って歌だろ、これ。
今、かかってる、BGMなんだよ。

またこんなタイミングでオールディーズが……。
それともおれの脳内妄想ミュージックなのか?
酔っぱらってるとき限定?

♪Because, because……
 I love you.....



レイジからも頻繁に誘いはくるけど、
レイジは、おれに会いたいんじゃなくて、
おれとセックスしたいんだ。それが今のレイジの理由。

だから、あの表情は、おれの希望が見せた幻って気がする。
そうだといいのにと思った願望が、そう都合よく見えたってだけ。
でもあれがレイジの嘘でも、カッコつけて断るんじゃなかった。
マジで。


レイジとはGWが終わって数日後、一度だけ会った。
一晩一緒に過ごして、本当に……充実した最高の夜を過ごして、
翌日もレイジを帰さずに、また充実してしまった。

長いこと会えなかった分、おれは頑張ったし、ルンルンだった。
翌日のステージはそんなわけで超寝不足で、あまりにテンションが高くて、
ついナルセに寝不足だと漏らしたら、レイジの預言?通り、
逢引禁止令を出されそうになって、かなり焦った。

でも、それ以降はレイジと会えなくなった。
逢引禁止令が発令されたわけじゃなく、
レイジが忙しくて、会える日がなかったからだ。
おれが気軽に持ち込んだ、この日のライブのために、
店の一部改装だのと、ややこしくしたからだ。
でもフツーするか? 一日のための改装なんか?
終わったら、また元に戻すんだって。マジなのか。
バトルライブの時も、少しいじってたよな。

無茶苦茶だな。
金持ちの道楽ってよくわかんねぇよ。
レイジのやることは、よくわからない。
面白いと思うことが好きなだけなんだ、きっと。

まぁそんなことで、店に会いに行っても不在が多くて、
無駄に深夜、茅野に相手をされるのも、そろそろ居心地が悪かったし、
とりあえずこのライブの日までは、レイジに会いに行くのをやめた。
レイジの自宅には、勝手に行くと怒られるので、おれから行くことはない。
もちろん、おれんちに誘っても、来ることはなかった。

おれからのメールはこまめにしてたけど、レイジからの返信はない。
あっても3回に1回だけ「了解」だの「無理」だの「バカ」だの、
簡単な返信を寄こすだけだ。

恋の一方通行って、辛いよな。
でもどんな返信でも、嬉しいとか思うおれは病気だけど。
レイジからのメールは何度貰っても嬉しいと書いたら、
じゃあ句読点ごとに送ってやると返ってきて、謝ったけど、
実をいうと、それでも本当は嬉しいと思ったんだ。
キスひとつ、できるだけで、有頂天だ。
いい歳して、我ながら可愛いと思うよな?
もう恋は盲目のなせるわざだよ。
そういう期間って大事だよな?


だけど。

この思いが最後には叶わなくても、
レイジが、笑ってくれてるといいと思う。

冷笑でも、失笑でも、笑ってくれているだけでいい。
それだけで、良かったと思う。
おれだけにっていうのは贅沢でも、
愛されてないおれが、いつも見てていいのはそれだけだろ。

おれの今の望みは、そんな些細なことだ。
存在の立場とか、関係の呼称とか、本当はどうでもいい。
つい調子に乗って、考えもなくつい流れでいって先走るけど、
本心は困らせるつもりじゃないんだ。

GW中に会いに行こうかって云ってくれたことも、嬉しかった。
たとえ冗談でも。たとえ茅野付きでも。
云ってくれた気持ちが、嬉しかった。
それって、おれが喜ぶと思ったから云ってくれたんだよな?
レイジは基本、優しい。
憎まれ口は、ハンパじゃないが、
バカなおれにもちゃんと気を遣ってくれる。
結局レイジはGW中、シックスティーズに来ることはなかった。


それだけ思うと、GW中もおれは幸せなフロアの客以上に、
めいっぱい誰よりも幸せ気分だったと思う。
黄金週間が終わってから会った日、そう言ったらレイジは鼻で笑った。
「単純すぎるな」と云って。

単純だと思うけど、中味が単線なのだ、おれは。
ものごとはシンプルに。ややこしく考えない方が疲れない。
シンプルなのが、一番いい。おれにはそれが幸せだ。

でもレイジの中は、おれみたいな単線回路じゃない。
回線は多すぎるし、年期も違うし、レベルも違う。きっと素材も違う。
中味の履歴や明細や詳細が全て違うのだ。
全ての線が精密で高級で、複雑にできてる。

何度も死のうとするような、そんな複雑な回線なのだ。
心身症で倒れるような、繊細さなのだ。
背負っている過去も現在も、おれとは違う。
気楽なおれなんかとは、線の量が断然違う。
多すぎて、線と線が絡まって解けないのかもしれない。

レイジは大抵、苦しそうだ。
それを見るのは、おれだって辛い。
なのに、つい度が過ぎて、調子に乗って、
度々余計に困らせてしまうのは、おれがバカだからだと思う。
でも冷笑でもいいから、笑って欲しいんだ。

だけどマジで困らせてるだけな感じ。
ホント、頼みますよ、おれ。
いい加減にしないと、ホント、捨てられる。

あの深淵の闇に棲む、ミステリアスな暗い瞳に、初めは惚れたけど、
きっとレイジは、穏やかに笑っている方がいい。

何故って、笑ってる方が、ひとは幸せだろう?
シックスティーズで踊る人々は、笑ってる。
しかめっ面で来ても、いつだって、笑って帰るんだ。

暗い瞳をした漆黒のレイジも魅力的だけど、
おれは、笑うレイジも好きなんだ。


レイジは笑っている方がいいと、思うんだ―――。




 〈NEXT 10〉