DESPERADO 〜デスペラード〜
03
2月16日 開店前のシックスティーズ楽屋
登場人物:ナルセ/マック
ナルセ「風邪、本当にすっかり治ったのか? マック。
ひょっとして、お前がリンにうつしたんじゃないだろな」
マック「え。風邪? ああー、いつの話だよ。ぜんぜん大丈夫だって。
なに、リンの奴どうかしたのか?」
ナルセ「今度はリンが風邪だってさ。ったく、どうなってるんだ自己管理は。
みんな、気合が足りないんじゃないのか?
リン不在にて今日はドラムに臨時ヘルプが入るから、できない曲、省くぞ」
マック「オッケー。セットリストあげといてくれ」
ナルセ「マック」
マック「うん? なんだケーキ食ってたのか? これコーヒー? 貰っていいかな?」
ナルセ「いいよ。差し入れなんだ。ところでさ、レイジとあれから、続いてる?」
マック「ブハッ……!! な、ななななんだよ、急に!?
楽屋なんかで話すことじゃねぇだろッ。誰かに聞かれるだろが……」
ナルセ「内緒にしときたいんだ? 一回きりじゃないんだろ。聞いたぜ」
マック「……聞いたのかよ。おまえはホントにレイジの何なんだよ?」
ナルセ「さぁ。レイジの何というよりは、ただ俺にとっては、レイジだからかな」
マック「ぜんぜん意味不明だよ」
ナルセ「どうして内緒にしときたいんだ?」
マック「ありえない話なんだろ? だったら、あっちの立場ってのもあるしな」
ナルセ「それじゃ、ステージが終わったら、ちょっと飲みに行かないか。
場所は、ピアノマンじゃ、まずいよな?」
マック「……マズイに決まってるだろ。わざとかよ」
ナルセ「なぁ、このネクタイ、どうかな?」
マック「いいんじゃねぇの? 今日も全身全柄でキメキメかよ。
いっつも洒落てるな。何着ても似合うって羨ましいぜ、ナルセ」
ナルセ「レイジに貰ったネクタイなんだ、これ。誕生日祝いに」
マック「……そうかよ。どういう反応すれば、満足なんだよ。ふざけんな。
おれの反応がそんなに面白いのか? おまえの衣装なんか、ぜんぶ貢物なんだろ?
その中にピアノマンのオーナーからの貢物があっても、全然不思議じゃねぇよ」
ナルセ「レイジは、俺が好きなんだ」
マック「まだ言うか。その傲慢なプライドの高さ、どうにかしろよ。
おまえが好きなのは、レイジじゃなくて、渡米したギタリストだろ」
ナルセ「今、帰ってきてるんだ、豪」
マック「そうなのか? 休暇で? もしかして今夜のステージ、見に来る?」
ナルセ「来ないよ。目的は残念ながら俺に会いにきたんじゃないんだ。他の用事だよ。
それに豪が客席にいたら、俺が緊張するだろ」
マック「はぁ、緊張? おまえがそんなタマかよ。
ステージじゃ、毎回スーパークールのナルセさまだろ。
恋人も凍りつくよなポーカーフェイスで、どうせいつも通りに歌うんだろ」
ナルセ「そうだな。サングラスは、便利だよな。お前も、かけてる」
マック「……おれは、恥ずかしがり屋さんなんだよ。
おまえらって、同じステージに立ってた時って、どんな気分だった?」
ナルセ「後ろにいる豪の視線を、感じてた。後ろ向きでも分かったな。愛されてる感じかな」
マック「ふん。惚気やがって。相手に惚れられてるやつは、いいよな」
ナルセ「マックは、どんな時のレイジに惚れた?」
マック「――惚れ……って」
ナルセ「今さら取り繕うなよ。そうなんだろ? いいじゃんか。
好きになるのは、自由だよ。口に出して言うと、楽になるかも」
マック「……う、歌ってるとこ、かな?」
ナルセ「げ……。よりによってレイジの歌?
趣味、悪いな。レイジって歌、ちょっと残念な感じだろ」
マック「全部おまえを基準にするなよな。んなことねぇよ。味のある歌声だったよ。
まぁ……正しくは、声と……眼、なんだけど」
ナルセ「それは、去年のクリスマスライブの期間だよな?」
マック「そうですけど」
ナルセ「他人の惚れどころってわからないものだな」
マック「うっせぇ。ほっとけ」
ナルセ「でも、眼っていうならわかるよ。
今は底抜けに軽くて、昔が想像できないほど明るいお調子者の楽天家だけど、
俺とシックスティーズで出会った時のレイジは、平凡で暗くてさ。
素材はいいのに、いつも目立たず暗い双眸って感じだった。今とはまるで別人。
でも、奥底に何かを押し殺してるような陰があって、そこが良かったんだ」
マック「そんな話、今する必要あるのかよ。おまえとレイジの出会いなんか興味ねぇよ。
ドラムのヘルプとリハ、さっさとやっちまおうぜ。皆もう来てるんだろ?」
ナルセ「レイジの昔とか、興味ないのか?」
マック「それなりになれば誰だって昔とは違うし、変わるだろ。
昔のあいつに会えるわけじゃなし。人間の成長なんか、卒業アルバムのままか、
すっかり変わるかどっちかだ」
ナルセ「じゃぁ、レイジの人生を変えた男のことを知るか、何も知らないでいるか、
どっちがいい? レイジレイジを本気で好きなら、知っておくべきだ」
マック「!」
ナルセ「最後のステージが終わるまでには、答えを考えておいてくれよ、マック」
photo/真琴さま(Arabian Light)