Love Potion Number 9



場所:ピアノマン レイジのオフィス
登場人物:ナルセ/レイジ



レイジ 「暗黒街の始末屋って誰だ?」

ナルセ「知らない。あんたの闇のボディガードじゃないのか、レイジ?」
レイジ 「おれに用心棒はいないぜ? むしろ、おれがナルセの用心棒だろ」
ナルセ「頼んでないけど。そうじゃなくて、あんたの思いつきの心ないお遊びで、
     もうあいつは滅茶苦茶なんだって。どう責任とってくれるんだよ」
レイジ 「あいつ? 誰のこと? 誰がメチャクチャなんだ?」
ナルセ「マックに決まってる」

レイジ 「別に平常心だろ? どこも取り乱してるようには見えないけどな。
     あれからすでに一ケ月は経つけど、至って普通だ」
ナルセ「いや取り乱してるだろ、十分に。アンタのことを、本気だって言うんだよ、マックは?
     一回寝たくらいで、何を言い出すんだろうな。驚いたよ。相当だよ。
     お前に言うなって、口止めまでしてさ。そんなの、正気であるはずがないだろ」
レイジ 「あのな、ナルセ。言うなって口止めされてたなら、話すなよ。
     ひとが絶対内緒にしといてくれってことを言うなんて、本当に最低だな」

ナルセ「レイジが話せって言ったんじゃないか。マックから聞いたことを」
レイジ 「秘密の守れない男は、基本、浮気なんかできないものだぜ」
ナルセ「じゃあ、聞かなかったことにすればいいだろ。
     それに俺、浮気はもうやめたし。だから秘密は持たないんだ」
レイジ 「本当におまえはムカつくほどご都合主義だな。エゴイストめ」
ナルセ「俺は、心配してるんだ」
レイジ 「マックの?」

ナルセ「どっちもの、だよ」
レイジ 「おれの心配もしてくれてるのか、ナルセ。嬉しいねぇ。
     だったら豪と別れて、おれと付き合おうぜ。もっとも簡単な解決策だ」
ナルセ「そんな気もないくせに。もしレイジと本当に付き合うって言ったらどうする?」
レイジ 「やけに好戦的だな、今日は。もちろん、涙して歓迎だけど?」

ナルセ「どうして……マックにしたんだ?」

レイジ 「したって? したこと?」
ナルセ「そう、したっていうか、させちゃったことだよ」
レイジ 「さぁなァ……ああ、ちょうど寒すぎて思い出したんじゃねぇかなァ。
     おまえが『マックはあれで世話女房タイプなんだ』って言ったことをさ」
ナルセ「だったら、押し倒せば良かっただろ。なんで逆になるんだよ?」
レイジ「だって無理矢理にはできないし、されるのは嫌だって言うから、
     変わってやっただけだろ。紳士的だよな、おれって」
ナルセ「そんな簡単にチェンジできるもんだったんだ?
     じゃあ、俺もレイジを抱きたいっていったら、させてくれるわけ?」
レイジ 「今はイヤだね。違和感が消えるのに、日数かかったからな。
     やっぱ男にヤラセルもんじゃねぇよな。たとえ一回でもさ」

ナルセ「ほらみろ。なんでだよ? なんでマック?」
レイジ 「おまえさんも大概しつこいね。
     そうさなぁ……ちょうど凍えて思い出したんじゃねぇかなぁ。
     おまえが『マックのアレってワイルドでチョーイイ感じぃ♪』って言ったことをさ」
ナルセ「そんな軽薄なこと言った覚えないけど」

レイジ 「物忘れが激しいな、ナルセ。言ったじゃないか、うわ言みたいに」
ナルセ「そんな頭が悪そうな発言を、俺がするわけないだろ」
レイジ 「いや、するね。おまえはベッドでは、どんな失言をするか分からないからな。
     豪と寝るときは、せいぜい気をつけろ。夢の中の浮気はやめられないはずだ」
ナルセ「そんな寝言、いくらなんでも言うわけないだろ」
レイジ 「そうかぁ? じゃあ、俺の勘違いかもな。
     もういいだろ。おまえは誰にも寝言で迷惑かけてないってことは分かった」
ナルセ「それで誤魔化しきれたとでも? 俺の質問への答えになってない」
レイジ 「質問、なんだっけ?」

ナルセ「だから、どうしてマックにさせたんだって話だよ。
     ありえないだろ、そんなこと。だって、後ろなんて……初めてだろ?」
レイジ 「は? ……初体験ってお年頃でもないですけど? いやだナルセさん、照れるぅ♪」
ナルセ「え。初めてじゃないのか?!」
レイジ 「おいおい。そんなに驚くことじゃないだろ。おれはもともと生粋のゲイなんだぜ。
     青いケツのバージンくらい、遥か遠い昔に見知らぬ男に捧げたよ。
     年頃のオジサンに今更何を言わせるんだ、恥ずかしい」
ナルセ「じゃ、マックが初めてってわけじゃないのか……」

レイジ 「おれのバックバージンの心配をしてくれてたのか? ありがたいね」
ナルセ「じゃあ、そんなに騒ぐことでもなかったのか……それに関しては」
レイジ「騒いでるのは、おまえだけだよ、ナルセ。
     いい加減大人なんだから、くだらないことで大騒ぎするなよ、みっともない」
ナルセ「だって、珍事だったからさ。びっくりしたんだ。
     でも、それと相手がマックなのなのとは、問題は別だぜ?」
レイジ 「まだ続ける気か。もう許せよ。浮気して悪かったよ。
     いいだろ、たまには。おれはもうおまえよりは老い先短いんだし、
     ちょいと気になる男に抱かれてみたいと思ったからって有罪か?」

ナルセ「……気になるのか? マックが?」

レイジ 「……今のは、失言」

ナルセ「いや、本音だろ。ちょっと気を抜いて本音が漏れたんだろ?」
レイジ 「本音じゃない。ただ、心の声が、ダダ漏れただけ」
ナルセ「それを本音と言うんだよ、レイジ」
レイジ 「へぇー。そうなんだ。
     本音なんて自分にあるのを知らなかったからさぁ、ボク」
ナルセ「……ウソだな。それも本音を装った嘘だ」
レイジ 「どっちなら気にいるんだよ?」

ナルセ「なぁ。いったい、どうしたんだ、レイジ?
     なんだか、変だ。いつもレイジは変だけど、それとは別の変な気がする」
レイジ 「変の種類が違うだけで、大騒ぎする必要あるのか?」
ナルセ「あるよ。恒例シーズンの酔狂な脚本を演じるのは承認済だけど、
     相手がシックスティーズのバンドマンで、未遂に終わらない脚本なら認可しない。
     うちのベースを、あんたの変に巻き込まないでくれよ。
     あんたが真面目に仕掛けるなら、誰でも熱病にかかったみたいになるのは必至だ。
     マックは、マジでいかれてるぜ。どうするんだよ?」
レイジ 「喜べばいいのか?」
ナルセ「冗談ごとじゃない。今のマックに、気になるなんてセリフ、絶対言うなよ。
     レイジのただの憂さ晴らしに、マックを利用するのはやめてくれ。
     俺のバンドの人間を傷をつけたら、タダじゃおかないからな」

レイジ 「おまえにそれを言われると、物凄い理不尽さを感じるな。
     本当に惚れ惚れするような、自分のことは棚上げのエゴイストぶりだ」
ナルセ「とにかく。俺は認めないからな。今回の脚本は、後味が悪すぎる」
レイジ 「おまえは、熱病にはかからなかったのか? ナルセ。
     おれがこんなに真剣に、ずっとおまえだけに愛を捧げてきたのに。
     浮気をやめると宣言して、自分の本性を捨て去ってまで、もう豪だけだ、なんてな」

ナルセ「何が、言いたいんだよ? まさか俺のせいだとでも?」
レイジ 「どうでもいい連中は、捨ててもいいさ。でもおれは違うよな?
     おれにさえ、おまえを抱かせないなんて、そんなのありなのか?
     おれが暴走するのは、自分のせいだと思わないのか?」

ナルセ「思わないね。思うはずがないだろ。暴走だって?
     違うね。だってずいぶん長いこと寝てないだろ、俺たち。
     俺が浮気はもうしないと宣言した、もっと前からだよ。忘れてたか?
     あんたは、俺に本気でセックスを要求しなかったんだ」
レイジ 「そうだったか? 忙しくてタイミングが悪かったのかな」
ナルセ「俺は熱病になんか、かからない。
     だってレイジは、俺を本気で愛してなんかいないからな」

レイジ 「おまえは、ズバッと平気で酷いことをいうねぇ……」
ナルセ「心がそこにないセックスなんか、すぐにわかるさ」

レイジ 「皆がみんな、おまえと同じかよ?」
ナルセ「熱病に犯されるのは、肉体だけだ。厄介なことに、快楽はそこにあるからな。
     だけど心までも快楽を伴うのは、俺にはずっと豪ひとりだけだった。
     そんなこと、レイジは初めから知ってたよな?
     おれに本気だったからなんて、そんな逃げ台詞で納得すると思うなよ」

レイジ 「逃げ切れない? やれやれ。
     おまえはあくまで今回、追求する気なんだな。
     まぁ、肉体に快楽があると、まだ感じる奴はいいよな。
     おれはさ、もう誰かに突っ込むだけじゃ、快感とやらは感じられないんだ。
     誰を抱いたって、快感がない。興奮を感じない」
ナルセ「それは、心の、という意味だよな?」
レイジ 「そりゃ、もちろん体は反応してたよ? でないとやたらと突きまくれないからな。
     悪いがおれは、地位も金も美貌もあって、予約制のモテぶりなものでね」
ナルセ「……知ってるよ。自慢しなくても」

レイジ 「肉体で感じる快楽ってやつが、頭で分からなくなったのは、
     おまえと寝るのをやめた頃だよ。
     そういうのって、最中は分からなくても、ことが済んでから気づくんだな。
     おまえは豪じゃないと満たされなかったんだろ? なら解るよな?
     そうなってから、おれはおまえを要求するのをやめたんだ。
     せっかくナルセと寝てても心が満たされないんじゃ、がっかりだ。
     愛しのナルセに対して、おれもおまえと同じ気持ちだったら、失礼だろ」
ナルセ「そんなの……すでにエトーさんが死んだときから、そうだったんじゃないのか?」
レイジ 「違う。エトーとは寝てないから、性欲は別だった。
     要するに告白すると、最近だよ。快感がなくなったのは。
     慢性の不感症だったんだ、おれ。頭だけじゃなくて、肉体的にも、な」

ナルセ「えっ……。できなくなってたってこと?」
レイジ 「ついに肉体さえも、快楽を締め出し始めたんだ。
     せっかく予約してくれてた相手に、射精もできないなんて、ショックだよ。辛い。
     絶対これはエトーの呪いか、地獄からのクリスマス土産だろうな。
     歳のせいとか、言うなよ? ひとりでならできるんだ。だから精神的なものでね。
     それならこの際、神にもすがる気持ちで、試してみたくもなるってもんだろ?
     逆、をさ。で、それは功を成したんだよ。さらば、不感症。
     こういうの、荒療治っていうのかな」

ナルセ「……だとして、なんでマックが相手なんだ、答えになってない」
レイジ 「さぁな。藁にも縋る思いで、思い出したんじゃねぇかな。
     おまえが枕元で言ってた『マックの腰使いは、媚薬並みだ……』って淫らな呟きをな。
     おまえもどうせ呟くならメールとか、ツイッターとかにしてみればいい。
     そしたら言った証拠が、文書で残るからな。
     二度と自分のせいじゃないなんて、言い逃れはできないぜ」


photo/真琴さま(Arabian Light)

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