Love Potion Number 9



場所:マックのマンションの部屋
登場人物:マック/レイジ








マック「…………あの」


レイジ「………… 」
(煙草の煙)




マック「ええと……。
    あんたって、あんまり喋らないんだな。なんだか意外だ。
    その、こういう状況じゃ、いつもそうなのか?」

レイジ「そりゃ、セックスのあとはって意味か?」
マック「そうです。その通りです」

レイジ「……そうだな。おれは元来、お喋りな男じゃないんだ。
    こうやってタバコの煙を燻らせながら、気怠さに身を任せて余韻を楽しむほう……」
マック「嘘だろ。普段あの店じゃ、よく喋ってるじゃないか。
    ナルセともそうなんだろ。ベッドでもうるさいって言ってた」
レイジ「どうでもいいときゃ、口が勝手に動くんだよ」

マック「今はどうでもいいときじゃない、とかまさか言うつもりじゃないだろな?」
レイジ「……そんなふうに、とれなかった?」
マック「そんな嘘、いくらなんでも騙されねぇよ。馬鹿にすんな。
    おれが田舎者だからって、舐めんなよ」

レイジ「おまえはイナカ者に頼り過ぎだろ。いい加減、その言い訳は聞き飽きた。
    方言も出ないくらい、馴染んでるじゃないか。田舎なんて、ずっと帰ってもいないくせに」
マック「……こ、今度の休暇には、帰省するつもりなんだよ」

レイジ「ああそう。ナルセさまは、おれが喋ってりゃご機嫌なんだよ。
    ナルシストで、身勝手だからチヤホヤされると喜ぶ。だったら裸の王様には、
    過剰なリップサービスをしておけば、ご褒美をくれるかもしれないだろ」
マック「ナルセからのご褒美は、欲しいんだ」
レイジ「そりゃ欲しいだろ。誰だって。シックスティーズのナルセだぜ?」

マック「だよな……」

レイジ「…… 」







マック「…………あのー、なんか、居辛いんだけど、おれ」

レイジ「ここは、おまえんちだぜ? 済んだらもう帰れってか?」
マック「そうは言ってない。いつも終わったらさっさと帰るのに、今日はゆっくりだ。
    気まずいから、何か喋って欲しいだけだ」
レイジ「そう……ご趣味は?」
マック「いや、そういうんじゃなくて」
レイジ「えーと……じゃあ……」

マック「……あんた、ナルセに嘘をついただろ」
レイジ「どんな? ありすぎて、絞れない」
マック「おれと寝たの、一回だって、言っただろ」
レイジ「おまえが言ったんじゃないのか? だから口裏合わせてやったんだよ。
    実はあれから何回もやってますなんて、知られたくないんだろ?」
マック「……言いにくかったんだよ」
レイジ「そうか」

マック「何でかって、聞かないんだな。おれに興味なんか、ないか」
レイジ「言いにくかったんだろ? そう理由を言ったじゃないか」
マック「いや、そうだけど……。
    なんか、調子狂うな。静かなアンタって……慣れない……
    ずっとこんなだよな……あれから、やって帰るだけだ」
レイジ「毎回こんなんだと、不安になるか?」

マック「そうじゃねぇけど。いや、そうなのかも。
    あんたは嫌味たらしく小馬鹿にしてた方が、らしいっていうか。
    テンションがまだ低いままなのか? ウツなのか?
    ずっと……その、クリスマスのあの日から、まだ憂うつなのか?」
レイジ「おまえ、ウツの人間にウツっていうのは、よくないんだぜ」
マック「え! すいません。よく知らねぇから」
レイジ「まぁ、おれの場合はウツの人間じゃないからいいけどな」
マック「……違う、のか?」

レイジ「違うな。おれは……ただ、現状、穏やかなだけだ。
    気持ちイイセックスをしたあとで、ただくつろいでるんだ。
    なんだか、こう、そう……海でいうなら、凪いてる感じ。心が穏やか。
    おまえ、クルーザーに乗ったことはある?」
マック「あるよ。おれの田舎は、港町が近いんだ。でも船は得意じゃない。
    凪ぐなんて状況、あんまねぇし。あんたは豪華クルーザーでセイリングか?
    成金で金持ちくさい光景だな」
レイジ「だってボク、お金持ちのひとだから」

マック「……そうでしたね。
    海っていえば、小学校時代に海水プールがあったかも。
    小魚とかも泳いでて、一緒に泳ぐんだ」
レイジ「まさか。プールで? それはただの海だろ?」
マック「海を活用したプールだったと思うけど。沿岸近くにあったんだ。
    長く泳いでると、体がヒリヒリしてきて、腹が空いたら小魚を食うんだ。
    こーやって泳いでる魚の尾ひれをつまんでぶら下げて、あーん……ってな」
レイジ「はぁ? ホントかよ、、」

マック「……笑った。
    あんた、キゲンが悪いのかと思ってた。良かった……」
レイジ「うん? お嬢さんのご機嫌をとったのか? おまえさん以外と軟派だね」
マック「硬派なら、あんたと寝てないだろ」
レイジ「そうかもな。おまえと駆け引きしても、つまらないからな。
    センスねぇし、小洒落た会話なんか、疲れるだろ。
    なんたって、海水プールだからな、小魚って、クク……馬鹿じゃねぇの。
    おまえさ、自分が今、どんな顔してるか知ってるか?」
マック「へ?」

レイジ「窓ガラスを割ったのに怒られなかった悪ガキみたいに、
    ホッとした顔してる。最強のバカ面だな」
マック「!!(・.・〃)」

レイジ「三川内焼の陶器市には、行ったことがあるな」
マック「は? みかわち? 何でそんなローカル地名を知ってるんだよ?」
レイジ「おまえの郷里付近の名産品だろ? 三川内焼美術館には行ったことあるか?」

マック「そんなとこ行くわけない。おれがツボとか皿に、興味あると思うか?」
レイジ「思わないが、おれの本職、狭く言えば骨董屋だぜ。知ってたか?」
マック「知らない……。あんた、暗黒街のボスじゃねぇの?」
レイジ「マジで信じてるのかソレを。まぁ、裏の事情に多少通じてるが、
    それはブラックマーケットとか、そういう世界のせいもあるな。
    そんなにヤバいわけじゃないぜ。……たぶん。少しくらい、痛い目には合うけどな。
    インディ・ジョーンズってあるだろ。ちょっとだけ、ああいう感じ」

マック「マジで?! もしかして、あんたの体の傷、そういう傷なのか?」
レイジ「まぁ、少し。今は行ってないが、少し前は現地に出向いてた頃があったからな。
    それより、三川内焼はもとは平戸焼と言って、唐子絵が有名で、
    繊細な美しい純白の白磁だ。透かし彫りも見事なんだぜ。
    田舎に帰ったら、見にいっとけよ」
マック「どうかな。別に皿は皿だけど。じゃあ、土産は九十九島せんべいより、
    三川内焼のぐい呑みとかの方が良さそうだな」

レイジ「ぐい呑みならその近辺の、唐津焼の方がおれは好みだけどな。
    でも言っとくが、おれの機嫌なんか取る必要はないぜ。
    おれはナルセでも、お嬢さんでもないからな。
    今は、自分がしたいようにしてるんだ。考えるの面倒なんだ。
    心配しなくても構って欲しいときは、そう言う。
    おれが黙ってるときは、黙ってろ」

マック「……じゃ、おれが構って欲しいときは、どうすりゃいいんだよ」
レイジ「構って欲しいのか? ああ……そっち?
    やけにお早い復活だな。ちょっと待てよ。一服ぐらいさせろって」
マック「気持ちイイ、セックス、とかいうから……」
レイジ「こんなにがっつかれるのも、悪くないなぁ……よし、やるか」

マック「! な?? な、何してんだ?
    ……それって、拒否のポーズか?」
    
レイジ「いいや。おまえの胸に手を置いてるだけだ。
    ちゃんと動いてるか、鼓動の確認だ。動悸がしてる……生きてるっていいよな。
    心臓が動いてるって、凄いよ。たまには胸に手を当てて、実感しろよ。
    なぁ、物凄い速さで打ってるぜ。息が苦しそうだ……死ぬんじゃないか?」

マック「殺すなよ……だって、どうしようってくらい、興奮して……て、
    おれ、あんたとやり始めてから、毎日、頭がもうろうとして、
    昼だか夜だかわからなくなって……なんかチラつくし、ハァ……苦し。
    あんたの……肌の方が、白磁、みたい、だ、レイジ……」 
   
レイジ「そんなふうに言われると、こっちが照れる。
    あんがい言うじゃないか。白い肌なんて女に言うセリフだけどな。
    傷だらけなのに月明かりってな、得だな。いい部屋だ」

マック「なぁ……今から喋るって、ナシだろ……」
レイジ「そりゃそうだ。じゃ、また背後からする?」
マック「や、今度は、せ、正常位で、いい、かな?
    あんたが良ければ、キス、したいんだけど……いい?」

レイジ「……したいなら勝手にしろよ。
    なんだよ、おまえ? 礼儀正しいつもりか?
    さっきまで容赦なく突きまくっておいて、今さら何そんなこと聴いてんだよ?」
マック「や。そうだけど、おれは……キスはしたい相手とだけするんだ。
    でも、あんたはそういうのイヤかもしれないし、どうか分からねぇから」

レイジ「……おれもしたい相手だけにする派だな。
    初めての時に、おまえにしたよな? おれ。忘れたか?」
マック「わ、忘れてなんか、ない。覚えてる……忘れるわけない」
レイジ「だったら初期値でそれはありだよ。今後は何回も聴くな。
    調子狂うだろ。でも、コトの最中はナシだぜ」

マック「な、無し……?」

レイジ「あの腰使いじゃ、おまえの舌を噛み千切るかもしれないだろ……
    興奮しすぎると、何をするかわからないぜ、おれ?」

マック「……ッ、レ、イジ……」

レイジ「なぁ、そんな顏されると、たまんねぇんだけど……。
    おまえの楽器はベースだから、口の中が切れても仕事に差し支えないだろうが、
    そういう血の味を覚えると、あとが怖いだろ? 終わってから、ゆっくり濃厚なキスをしてやるよ。
    日中も忘れられないくらいのさ……脳内媚薬の効果が、続くやつ。
    今夜は泊っていいか? 朝までしようぜ。
    おまえのセックスは、病みつきになるよ……ちょっとおれの胸の血流もあがる。
    確認してみろよ。ほら、おれの胸に手を当ててみな。わかるか?

    紳士なのは、口先だけだろ? 頼むぜ、ジェントルマン――――――」







photo/seriu.y

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