And So It Goes
そして、今は(2)

登場人物:ジュウリ/ナルセ
場所:シックスティーズ 楽屋裏口


☆2
2月1日 ハート・オブ・グラス



ジュウリ「ナルセ、ちょっといい?話があるんだけど」

ナルセ 「聞かない」
ジュウリ「何よ、それ!内容を聞きもしないで断るの?酷いじゃない」
ナルセ 「どうせ、やめたいって言うんだろ、ジュウリは」
ジュウリ「!…何故わかるのよ」

ナルセ 「ジュウリは、隠し事が下手だからな」
ジュウリ「そんなに顔に出てるわけ、私って」
ナルセ 「まぁそんなところ。だから答えはダメしかないけど、
     やっぱり、話くらいは聞くべきか?」
ジュウリ「当たり前じゃないの。ワケくらい聞いたらどう?」
ナルセ 「ちゃんと本当の理由を、話すならね」
ジュウリ「何よそれ。私が嘘の理由を述べるって、そういうこと?」
ナルセ 「自分に都合のいい方の理由を言うってことさ。
     でも、それじゃあ納得できないだろ」
ジュウリ「独立したいのよ。ソロで、やっていきたいの、私」

ナルセ 「ふうん。シックスティーズは、まったくの専属契約でもないよ?
     他でソロライブがしたいなら、融通はきく。
     日程の調整をすれば、いいだろ」
ジュウリ「冗談でしょう。シックスティーズはほぼ毎日ステージがあるのよ?
     代役を探してる時間があったら、自分の売り込みをするわよ。
     ナルセは私の門出を、応援してくれないの?」
ナルセ 「悪いけど、応援はできないな。
     だいたい代わりのメンバーは、探してくれてるのか?」

ジュウリ「勿論よ。聞いて驚きなさいよ。
     サラディナの歌姫って言えば、納得する?知ってるでしょう?」
ナルセ 「…サラディナって、メリナ?
     メリナが、シックスティーズに来るって?」
ジュウリ「ナルセが、来てくれと誘ってくれるなら、
     シックスティーズに移ってもいいって言ってるわよ、彼女」
ナルセ 「おれが?なんで」

ジュウリ「ナルセだからじゃないの?あんた、モテるものね」
ナルセ 「そんな理由?というか、おれが何で口説かなくちゃいけないんだ。
     ジュウリがちゃんと、ここへ連れて来て紹介するのが、筋だろ」
ジュウリ「メリナはサラディナの店を辞めることになるのよ?
     ナルセが来てくれって動かないと、メリナだって立場ないじゃないの」
ナルセ 「そんなことは知らないよ。確かに、彼女の歌は、いいものがあるし、
     店に来てくれたら、多分、プラスだよ」
ジュウリ「私なんかより、ずっと上手いものね。手放しで喜んじゃ悪いと
     私に気を使ってくれてるの?」

ナルセ 「そんな言い方ないだろ。ジュウリは大事なシックスティーズの看板
     ヴォーカルだよ。だけど、サラディナがよくそんなこと、承諾したな」
ジュウリ「サラディナはまだ承諾してないわよ?
     だから、ナルセがメリナに来て欲しいと電話することが必要なのよ。
     それだけで、上手く行くんだって。彼女のプライドも傷つかないでしょ」
ナルセ 「――勘弁してくれよ。プライドの高い女は、苦手だ。
     うちの女王様は、ヘミがいるだろ。第一、それじゃ、引き抜きになる。
     そうなれば、店同士、両方のオーナーの承諾がいるし。
     まさかジュウリが、サラディナに行くんじゃないよな?」
ジュウリ「そんなわけないじゃない。何よ、ちょっと乗り気だったくせに」

ナルセ 「この界隈じゃ、メリナは、意外と実力派だからな。
     どこの店だって、来るなら欲しがるだろ、普通」
ジュウリ「実力派だけど、彼女、性格は天然よ。女王様気質じゃないから、
     それは安心していいわ。ナルセも欲しいでしょ?
     だから、ナルセもメリナを欲しがってることを、
     彼女に示してあげたいのよ。メリナは、ナルセのファンなの」
ナルセ 「聞き飽きた。厄介ごとになるなら、ごめんだぜ」

ジュウリ「あんたは、厄介ごとの先駆者のくせに」
ナルセ 「うるさい」
ジュウリ「じゃあ、いい?いいのよね?メリナに会ってくれるでしょ?
     実はもう、シックスティーズの店長から、オーナーに、話は行ってるのよ。
     彼女と契約するには、やっぱりサラディナを通すことになるんだから」
ナルセ 「手早いな。おれが、断ると思ってなかったわけ?」
ジュウリ「ナルセは、セブンレイジィロードがより良い方向へ行くことを、
     断るわけがないわ。たまに、より悪くする方向へも、引っ張るけどね」
ナルセ 「…豪のことかよ。嫌味だな」

ジュウリ「そうね。誰かのせいで出て行った、あの豪は、
     オールディーズ界隈では、ギターの神様だったんだけど。
     あんたは知らなかったのよね?シックスティーズが神様を手放して、
     どこの店も皆、大喜びだったわ。恥さらしよ。
     その償いも、あんたはそろそろ、するべきじゃない?」
ナルセ 「キツイよな、ジュウリ。
     おれにそこまで痛烈な批判をするのは、ジュウリだけだな。
     リンだって、そこまで言わないぜ。
     やめるなんて残念だよ、ジュウリ。
     その毒舌がなくなって、おれは寂しくなる。
     OK、分かった。ジュウリがやめるのに、おれも協力します」
ジュウリ「ありがと。助かるわ」

ナルセ 「ところで、ヘミまで連れて出ないよな?」
ジュウリ「それはないわ。ヘミは残るわよ。どうして?」
ナルセ 「本当の理由は、そっちなんだろ」
ジュウリ「!」

ナルセ 「だから、本当の理由を、言って欲しかったんだよ。
     ヘミと別れたから、辞めるんだってさ。
     それならおれだって、頭ごなしに反対はしない。
     いくらプロだって、気持ちの問題は、音楽に響く」
ジュウリ「…知ってたの?私とヘミの関係を」
ナルセ 「少なくとも、おれとリンと豪の三人は知ってたよ。
     たぶん、ストーカー事件からだけど」
ジュウリ「あんたと豪の関係も、私はあれで知ったんだものね。そう。
     そうなのね。知ってたの。バカみたい…知ってたなんて。
     ヘミに…酷いことをしてたのかもしれないわ、私。
     みんなに、ちゃんと、言えば、良かったんだわ」
ナルセ 「ジュウリ…ジュウリ。
     そんなに落ち込むほどの、ことじゃないよ。
     誰だって、秘密はある。皆はそれを、問題にはしない。
     でも皆が知らないふりをするのは、ジュウリが話さなかったからだ」
ジュウリ「怖かったのよ…」

ナルセ 「分かるよ」
ジュウリ「辛かったの」
ナルセ 「そうだな。ヘミも、きっと辛かったと思うよ」
ジュウリ「ヘミと別れたのは、かなり前よ。それも知ってたの?
     でも、仕事は仕事で、切り離してやっていけると思ってたのよ。
     だけど、ダメ、だった。もう限界になったの」
ナルセ 「ヘミが、まだ好きなのか」
ジュウリ「…別れを切り出したのは、私。でも理由は聞かないで」
ナルセ 「分かった。ジュウリとヘミの二人の間のことだ。
     別れるのに正しい理由なんて、ないんだよ」

ジュウリ「ありがとう。ナルセに話せて、良かった。
     いつだって、ナルセは、話を聞いてくれる優しい人だったね」
ナルセ 「だろ?こんなにイイ男が傍にいるのに、女に走るジュウリが不可解だよ」
ジュウリ「恋人がいるのに、浮気するナルセの方が、不可解だわ」
ナルセ 「それは、アレだよ。浮気するのに、正しい理由なんてないんだ」

ジュウリ「あんたは浮気がそもそも、間違ってるのよ。だいたい、ナルセはね」
ナルセ 「ストップ、ストップ!!分かった、分かってるよ、
     もういいって。それも聞き飽きた。これからその小言がなくなるだけで、
     おれは、ジュウリの脱退、大賛成だ。心配ない。大丈夫だよ」
ジュウリ「私の心配は、あんたの素行だわ。レイジに頼んでおくからね」

ナルセ 「あのさ。なんでもかんでも、誰でもおれのこと、
     レイジに頼むの、やめてくれないかな?
     凄く迷惑なんだけど」


-3-