More Than I Can Say(3)
登場人物:リン/豪/レイジ
場所:ピアノ・マン
リ ン「豪!ゴメン!
随分待たせちゃったなァ。アンコールがなんか長引いてさ」
豪 「ああ。承知だ。今日のアンコールは、何だ?」
リ ン「うん?Johnny B. GoodeとTwistin' The Night Awayの二曲」
豪 「定番だな」
リ ン「うん。盛り上がるからね。せっかく来たんだから、聴いて帰れば良かったのに。
今年も、沢山お客さん来てくれて、いいライブ初めになったよ」
豪 「ナルセは、行ったのか。山本さんと」
リ ン「うん。でもヘミも一緒だよ。だから心配しないでいいよ」
豪 「ヘミも?別に…心配なんかしてないけどな」
リ ン「そう?ナルセのこと、心配じゃない?」
豪 「…今更だろ。俺にそれを聴くのか」
リ ン「でも、今日はきっと浮気しないと思うよ」
豪 「ヘミがいるからか?関係ないだろ」
リ ン「や、そんなことないんじゃない?」
豪 「どっちでもいいさ。今日しなくたって、やるときゃやるんだ、アイツは」
リ ン「豪はエライな。ナルセの浮気を認めてる」
豪 「別に認めてない。お前がナルセの不可解を理解しろと言ったんだろ、リン」
リ ン「いや〜まさかホンキにするとは思ってなかったんでさ。
真面目な男に、冗談は言うもんじゃないねぇ(^▽^)>」
豪 「勝手に馬鹿にしていればいいさ。その通りだからな」
リ ン「だから〜真面目にとるなって。羨ましいと言ってるんだよ、俺」
豪 「羨ましい?俺がか?嘲笑われることはあっても、羨まれることは無いと思うがな」
リ ン「拗ねるなよ。羨ましいのはナルセさ。こんなに想ってくれる恋人がいてさ?
それに、豪のことを嘲笑ったりしないよ誰も。少なくとも俺はね」
豪 「滑稽だろ。俺は」
リ ン「違うね。だってナルセは、豪にホンキだもん。豪がナルセを捨てたら
ナルセは、立ち直れないよ」
豪 「…ナルセの本気なんて、どこまで信用できるのか分からんね。
あいつの言うことなんか、いちいち信じてない」
リ ン「でも別れないんだ、豪ちゃんはさ」
豪 「別れたら…楽だと思ったのにな。でも何回繰り返しても楽じゃなかった。
所詮、別れても苦しむのは俺なんだ。苦しむのが嫌なだけかもしれない」
リ ン「別れたら…楽に、か。恋人同士は温度差を感じた時、そう思うのかな。
でも別れたら、もっと辛いんだな。なるほど、ね」
豪 「…悩みごとは、そういう話か?リン。恋人ができたのか?」
リ ン「俺じゃないよ。そうじゃなくて…ヘミとジュウリだよ」
豪 「…ああ。あの二人、別れたんだっけな」
リ ン「知ってるのか?」
豪 「ああ、ヘミに聞いた。ジュウリはバンドを辞めるかもしれないと
心配してたが、そういう気配はないのか?」
リ ン「うん。ない。ジュウリはさ、ヘミとのこと、誰も知らないと思ってるんだ」
豪 「そうなのか。ヘミにもし辛いなら、俺の店に来てもいいと
言ってみたんだけどな」
リ ン「はぁ?!ちょッ!豪!引き抜きは反則だぞ。ヤメテくれよ。
ヘミは大事なバンド仲間なんだから。それにヘミが抜けたら、ジュウリが傷つくよ」
豪 「ああ断られたよ。ジュウリを傷つけるからじゃなくて、今のバンドが好きだからってな。
良かったな。ヘミは例の伝説のせいで、どこの店からも狙われてるからな」
リ ン「そうなんだ…。でもなんかさ、楽屋がギクシャクしててさ、今」
豪 「ステージは?」
リ ン「それはさ、二人ともプロだよな。全然不穏はないんだよ。いつも完璧」
豪 「そうか。セブンレイジィロードは、いいバンドだからな。だったら問題ないだろ」
リ ン「豪もナルセと同じこと言うんだなァ。ステージが完璧なら、それでいいわけ?
問題ないわけ?」
豪 「あるのか?」
リ ン「や そんな真面目に聞かれたら、困るけど。
だって、気になるじゃないか、楽屋で変な気を遣うしさ」
豪 「気を遣うのをやめればいい。その方が彼女らも楽になれる」
リ ン「それはそうなのかなぁ。でもといって、二人のために何とかするのは
おせっかいなんだよな?」
豪 「そうだろうな」
リ ン「はぁ〜 やっぱりな」
豪 「それで悩んでたのか?リンは」
リ ン「そうだよ。ムードメーカーのリンくんは、そういうことで悩むんだよ。
そこはお気楽キャラじゃないんだよ。大事なんだよ、バランスって、音以外でもさ」
豪 「リンはそこがいいところだからな。おせっかいで情が厚い。
だからセブンレイジィは潰れずに来た。お前がいなきゃ、多分早々に潰してただろうな。
ナルセと俺が」
リ ン「でも俺さァ、昔っから、ナルセとダチだったじゃん?
音楽って、俺はその頃アマチュアロックバンドで、ガンガンうるさくやってたんだよ。
カッコイイ叩き方とか、パフォーマンスに力入れてさ。派手なカッコで、
メンバーと酒飲んでイキって叩いたり、酔っ払ってハイになると盛り上がって、面白かったしさ
で、その頃、プロのバンドマンでやり始めてたナルセに、
ドラムが急に休むことになったから、トラに来てくれないかって頼まれたんだ」
豪 「ああ。そうだったかな」
リ ン「そうだよ。そのリハで俺はさ、ぺしゃんこに折られたんだよ。そこのギターに、さ」
豪 「俺は…」
リ ン「正論だというんだろ?だよな。でも俺、テクには自信あったんだよ。
アマチュアだったけど、ソロも多かったし、ファンだっていたし。
なのに俺の音を聴いて、豪は一音一音に、駄目出しをしてきた。
ただのトラなのにさ、正直、何なんだコイツって反抗したよ。
俺には俺のスタイルがあるのにさ。
でも、豪は最終的に、こう言ったんだ――――
『リンの音は、ひとりの音だ。
オレがオレがっていう、オレの音を聴けっていう
ひとり善がりの音だ。
そうじゃなくて、俺たちはヴォーカル、キーボード、
ベース、ドラム、ギターの5人でやってるんだ。
だから他の音も、良く聴くんだ。
全員の音を聴いてひとつの音楽を作らなきゃ
バンドという意味がない。
特にリズム隊は、そうだ。リズム隊がオレ様では、
全ての音楽を、殺すことになる』
リ ン「…ってさ。覚えてる?今思えば、ごく当たり前のことだけど、
でもさ、正論でも常識でも、言われないとわかんないことって、案外あるんだ」
豪 「何でもそうだろ。社会は調和で成り立ってるんだ。バンドだけのことじゃない」
リ ン「でも教えないとわかんないバカもいるんだよ。だからね、俺は音楽と
その大事なバンド内での、音以外の調和も、大事なものに思うようになったんだよ」
豪 「…そうか。確かにプロ意識だと言って、割り切れるものばかりじゃないな。
現に俺は、ナルセのことで大事なバンドを抜けたんだからな。
音楽の相違じゃなく、色事でだ。あれは、プロのやることじゃなかった」
リ ン「ま、ナルセは仕方ないよ。あんなんだもん。豪には抜けて欲しくなかったけどさ、
でも豪ちゃんは、充分耐えた方だと思うよ?
なんたって豪は、あのナルセを本気にさせた、鋼鉄の一本筋だもんな」
豪 「正直、俺には不可解なんだ。ナルセの本気なんていうものは」
リ ン「そう?豪ちゃん、今日、店を出る前に、確認したんだろ?
ナルセのボタンがちゃんと留められてるかどうかさ。
次のステージ始まる時に、それで聴いただろ?
あのバラードを、聴かずに帰るわけないよな?
あれはリクエスト曲じゃないよ。ナルセが歌いたいって、急に言い出したんだ」
豪 「…けど、あいつはあの歌を歌って、平気な顔で他の男のところへ行く。
そういう奴だ。今日だってそうだった」
リ ン「それは仕方ないよな。山本さんは、お得様でもあるし。まぁ余計なサービスは
今日はしないよ。あの歌を、豪に捧げた後では、ね」
豪 「どうだかな。あれは、俺に向けての歌かどうか怪しいもんだ」
リ ン「まーたまた。本気で云ってんの?照れてんだろ?」
豪 「それで、どうする気だ?ヘミとジュウのことを」
リ ン「うん。おせっかいを焼いてみるよ、俺なりのね」
豪 「そうか。やめておけとナルセは、言うだろうな」
リ ン「多分ね。でもナルセだって、色々バンドを引っ掻き回してきたんだからさ
そこは多分、勝手にしろって言うよ。俺の言うことだし、信頼はしてくれてる」
豪 「…妬けるな。リンには敵わない」
リ ン「ご冗談。俺の方が妬けるっつーの!
ナルセにあんな歌をうたわせといて、言うセリフじゃないって」
レイジ「よう!これはこれは、お揃いで!
シックスティーズのリン様に、クラブアルーシャの豪サマじゃねぇの!
どっちもこの不景気に繁盛してるらしいねぇ♪羨ましいことだね。
その景気を、俺の店にも分けてくれよ?」
リ ン「よく言う。ピアノ・マンは、客の選り好みばかりして、敷居が高いって噂だぜ」
レイジ「そうか?俺の好きな客しか呼ばないだけなんだけどな。
でもやっぱ、シンガーが淫乱だと、客受けもいいんだろ?
で?俺のナルセに、どんな卑猥な歌を歌わせたって?聴き捨てならねぇな。
教えろよ豪。アルーシャのヴォーカルも、結構な美形だったよな。
お前、それヤバイんじゃねぇの?浮気してないか?内緒にしおくから、話せ」
リ ン「レイジ、勝手に入って来て、混ぜ返えさないでくれって」
レイジ「なんだよ。二人で怪しいな。俺も仲間に入れろよ、冷たいぜ。
ナルセの性感帯の話なら、混ぜてくれても全然イケるけど?」
リ ン「なんで俺が、ナルセの性感帯の話をしなきゃなんないんだよ」
レイジ「そう?じゃ、荒野の男に聞くかな?」
豪 「俺はもう帰る。じゃあな、リン。おやすみ」
リ ン「うん。おやすみ。今日はありがとう。やっぱ豪は、優しいよな。
早く帰りなよ。ナルセが待ってるかもしれないぜ」
豪 「まさかだ。冗談キツイぞ、リン」
レイジ「そうだよ。ナルセは俺のベッドにいる筈だぜ?」
豪 「勝手に話に参加するな。レイジ」
レイジ「豪はもう帰るんだろ?じゃあ振られて可哀相なリンのお相手は、
この慈悲深くて、お金持ちと裏の世界では有名な、レイジ様がしてやるか」
リ ン「ホント?朝まで俺の愚痴に付き合う?逃がさないぜ、レイジ」
レイジ「色気の欠片もないお前に、逃がさない言われても…なんか悲しいな俺…。
本当にナルセが待ってるかもしれないから、やっぱ帰っていいか?もう閉店だし」
リ ン「ダメ。大体この店、開ける時間も閉める時間も、決まってないだろ」
photo/真琴 さま (Arabian Light)