電脳タブロイド
チェリーブロッサムの秘密
〜その後のチェリー〜
※この物語は「チェリーブロッサムの復讐」の続編オマケです
2
登場人物:キ ラ/エンゼル
場所:植物園 桜地区
キ ラ 「……来ねぇんじゃねーの、エンゼルさん」
エンゼル「うるせぇ。てめぇに、一応はっきりしときたいことがあったんだよッ」
キ ラ 「何? 本当のチェリーの正体?」
エンゼル「そうだ。あれはお前だったのか? キラ」
キ ラ 「そう思うんだ」
エンゼル「思うね。俺のきれいな思い出をブチ壊すのは、大抵てめぇだからな、悪魔小僧」
キ ラ 「あははは。きれいな思い出だったんだ。……ああ、こっちの桜も終わりだな。
人工桜なのに、きっかり二週間で散るプログラムってせつないよなぁ……どう思う?」
エンゼル「最後のひとひらまで散るらしいな。桜の命は儚いもんだ。ひとの恋みたいだよな」
キ ラ 「きっざー。あんたのこと? 笑えるー」
エンゼル「そう言ってるわりには、嗤ってねぇよな? どうした、スランプかよ」
キ ラ 「別に。あんたが俺を笑かそうとしても、今はそんな気分でもないだけ。
桜爆弾がらみで色々あって、ちょっと面白くない近況なんだよ」
エンゼル「フン。何があったかしらねぇけど、地獄犬が心配してたぜ」
キ ラ 「番犬が? 俺を心配? まさか。しないだろ、そんなの。犬は心配しない」
エンゼル「あいつは何でか、お前が陽気すぎると、俺にお守りを押し付けるとこがあるんだよ」
キ ラ 「野良犬は弱ってる餌の匂いを嗅ぎつけて、致命傷を負わせようとしてるんだよ。
用心棒のくせに、俺を悪人に預けて危険な目に合わせる作戦だ。気をつけなきゃな」
エンゼル「そんなわけねぇだろ。俺がおまえに何したってんだ。俺は悪人じぇねぇ。常に逆だろ。
あいにく番犬にとって、俺は危険な人物じゃねぇらしい。ったく迷惑な話だぜ」
キ ラ 「野良犬に信頼できるお友達ができて、結構なことだ」
エンゼル「それから、テッドもおまえだろ、キラ」
キ ラ 「違うよ」
エンゼル「は。そうか?」
キ ラ 「テッドはテッドだよ。俺じゃない」
エンゼル「ま、そういうことにしといてやってもいいけどな」
キ ラ 「なんだよ。偉そうに。そんなのどっちでもいいだろ……」
エンゼル「さっきから何を見てるんだ? 遠くに何か見えるのか?」
キ ラ 「なにも。空をみてる。ひらひらと散っていくピンクの欠片を見てるんだ」
エンゼル「……絶えず花びらが舞ってるな。人工でもやっぱきれいなもんだな。
桜吹雪は例え計算されてたとしても、リアルで見る方がやっぱいいぜ」
キ ラ 「そうかな。リアルでも、造りものだ」
エンゼル「ネット仮想の映像よりは良いってことだよ。花びらが目の前に飛んできて、掴めば触れる。
これはホログラムでもねぇ。仮想体験の感触でもなく指に実在して、本当に触ってる。
やわらかくて、シルクみたいだ。人工素材は実物と比べてどうなんだろうな?」
キ ラ 「エンゼルは花びらを触ったら、興奮するんだ?」
エンゼル「誰がンなこと言ったよ。どんな性癖だよ。そんな趣味ねぇつーんだよ」
キ ラ 「あんた、付き合いいいよな、エンゼル。
建設的な会話もないまま、かれこれ数時間、俺と一緒に花びらを見てここにいるだけだ」
エンゼル「好きでいるワケじゃねぞ。おまえを置いて帰れねぇだけだ。放っておいたら犬に噛み殺される。
お前、ひとりになりたいってわけじゃねぇんだろ。だったら、俺を呼んだりしないよな」
キ ラ 「チェリーは、俺じゃないよ」
エンゼル「はぁ? もう今さらそんなこと信じられるかってんだよ」
キ ラ 「チェリーはブラコンだろ。俺はそうじゃないからな」
エンゼル「おまえ、兄貴とはケンカしてるんだってな」
キ ラ 「誰が? まさか俺のこと? 俺に兄貴なんかいないぜ」
エンゼル「けど、ウオッカは……そうじゃねぇのか?」
キ ラ 「答える気はないね。あんたには大好きなヒーローでも俺には不愉快でしかない」
エンゼル「不愉快はお前の方だっつーんだよ。
だったらチェリーは好きだったのかな、兄貴のことを」
キ ラ 「チェリー? ああ、好きだったんだじゃねぇの。
憧れの兄貴だったんだろ。騙されてることも知らずにな」
エンゼル「騙されてたのか? 今は、どうなんだ。チェリーのその後だ」
キ ラ 「さぁな。あれからチェリーは、たぶん野蛮なギャングに誘拐されて、嬲り殺されたんだ。
乙女でバカだったからな。片目で人相の悪い不良にホイホイついて行くようなケツの軽い女の行く末だ」
エンゼル「そんな結末にしなくてもいいだろ。どこかで幸せに暮らしてるかもしれねぇだろ」
キ ラ 「そんな結末。下らないね。
それなら信じてた兄貴に強姦されて自殺した方がより面白い結末だ。
ああ、案外、そっちが本当かも。その後はそれで満足だろ?」
エンゼル「満足なわけねぇだろ。一度でも好きだった女には、幸せで居て欲しいに決まってる」
キ ラ 「あんた、チェリーが好きだったの? ならどうして寝なかったんだ?
せっかく誘われたのに、ガキだって相手にしなかったんじゃん。
助けた礼で、遠慮なく抱けたんだ。チェリーは多分、処女じゃなかったしな。
紳士ぶってるからチャンスをいつも逃すんだ」
エンゼル「そうだな。そうすりゃ、良かった。脱がしてりゃ正体がすぐに判明しただろうからな」
キ ラ 「裸にして男だったら、やらなかった?」
エンゼル「そりゃ、やんねぇよ。あたりめぇだろ。チェリーがおまえだったら、尚更だ」
キ ラ 「俺じゃないって。ねえ、男だったら拒絶してた?
もしもチェリーが自分は女だって泣いて言っても? それでも抱いてやらない?」
エンゼル「そ、……それは状況による。かも、な。いや、おまえじゃないことが前提だけどな」
キ ラ 「ふうん。きっとあんたは、焦ってなんだかわかんない気障な慰めごとを言って、
チェリーには何もしないで、髪でも撫でて帰したんだろうな。わかるよ。ヘタレ男だもんな。
いつぞやも、仮想状況だってのに、なんと素股なんだからな。笑える」
エンゼル「なッ、そそそそ、その話は、すんじゃねぇッつってんだろ!! に、二度とすんなよ!!
ヘタレでも何でも、お礼に体なんか差し出されて、食いつけるかよ!!」
キ ラ 「チェリーが兄貴じゃなくて、あんたを一番に好きなら良かった?」
エンゼル「な、なんでそんな話、するんだよ。あの子は、まだガキだったんだ! どうでもいいだろ!!」
キ ラ 「どうでもいいけど? ただ、キスくらいしても良かったのにと思っただけさ。
あんたはチェリーの、初恋だったんだから」
エンゼル「な!!!!!? お、おまえは、チェリーじゃないんだよな?!」
キ ラ 「……違うよ? 俺が女に見えるの?」
エンゼル「見、見えるわけねぇ。そ、そうだよな。違うんだよな? 俺とチェリーとの詳細を知ってるのは、
桜パーティで、テッドと俺のやり取りを覗き見てたからだ! ……だよな?」
キ ラ 「そうだよ」
エンゼル「だだだ、だったら、じゃあ、なんで初恋だったとか、云うんだよ?!」
キ ラ 「別に。そう思っただけ。きっとバカなチェリーはそう思うかもしれないと思って。
挫いた足の手当てをしてくれる優しい二番目のナイトさま」
エンゼル「―――きききき、キモイこと言うなよな……」
キ ラ 「キモイ? そう。そうか。そうだよな。ナイトさまは無いよなぁ。チェリーは趣味が悪いんだ」
エンゼル「どうしたんだ、おまえ? さっきからマジ表情がないぜ?」
キ ラ 「だって俺、MB生まれだからー」
エンゼル「今さら何言ってんだよ。やっぱ変だぜ、おまえ? 顔色が悪ィぞ? 大丈夫か?」
キ ラ 「貧血症なんだ。何であんたが俺の心配するわけ。ねぇ、煙草、持ってない?」
エンゼル「まだ吸ってるのか。似合わないからヤメロよ」
キ ラ 「似合うよ。煙草の似合う色男だよ、俺はね。エンゼルは、煙草の似合うただの不良さん」
エンゼル「ケッ。てめぇが不良少年のくせに。……ほらよ。一本だけだぞ」
キ ラ 「……フー。この一服が、落ち着くな」
エンゼル「おっさんかよ」
キ ラ 「あんたより若いんだけど?」
エンゼル「だったら、年上を敬えよな。俺はお前より上だ。三つほどな」
キ ラ 「ケラケラ。おもしろーい、エンゼル」
エンゼル「顔が笑ってねぇだろ。はー。おまえを笑わそうとするなんざ、末期だな……」
キ ラ 「無表情な俺に気を遣ってるのか? そうかよ。あんたは昔から紳士だよ。ナイト様」
エンゼル「……ゲホ、ゲホッ!」
キ ラ 「紳士すぎるから、ナンパを失敗するんだ。もうちょっと強引にやれば良かったのに」
エンゼル「もし、あのとき、チェリーにキスでもしてたら、何か現実が変わってたと思うか?」
キ ラ 「……変ってたんじゃねぇの。してたらあんたは確実に、ロリコンの痴漢で逮捕だよ」
エンゼル「ハハハ……。だよな。そうなるよな。だったら俺の判断は、あれで間違ってねぇだろ」
キ ラ 「嘘だよ。その強引さがあったら、チェリーと恋仲になれたかもな」
エンゼル「そう、思うのか。本当に」
キ ラ 「思うよ。あんたはチェリーに優しくしたナイトさまだろ。チェリーはそう信じてたんだ」