電脳タブロイド
チェリーブロッサムの復讐

01
登場人物:エンゼル/テッド/モヒート

場所:バーチャルーム・カフェ(オンライン)


エンゼル「キラ?」

テッド 「あら。あなたはマフィア・ボーイズのヘッド、エンゼル・フェイスさん?
     どうしたの。キラさまを、お探しかしら?」
エンゼル「えっ、いや……。あんた、キラじゃない、のか?」
テッド 「なんですって? やーね、あたしはテッドよ。テッド・ロード。
     みんな知ってるわ。お連れのあんた、あたしを知ってるでしょ?」
モヒート「勿論だ! エンゼルお前、テッド・ロードを知らないのか? びっくりするな」
エンゼル「テッドって? どこのチームだ?」
モヒート「チームじゃないよ。何いってんだよ。MM同好会だ。しかもA班の幹部さ。
     彼女は有名なメリッサ・マニアで、アーヴィル班長の片腕って噂だ。
     そのイカレタなりのアバター姿はハッカーの間では超有名だぜ」
テッド 「そうなの? 班長の片腕って云われているの? それはクールね。
     だけどあたしの姿は、そんなに破壊力があるって噂なのかしら」

エンゼル「MM同好会のメンバーなのか? すまねぇな、MM会は格上の高嶺だからな……。
     俺にはほとんど縁がないんで、感心がなかった」
テッド 「感心がない? MM会に? 信じられない。それでもハッカーなのかしら。
     マフィアBはA級ハッカーには相手にされないレベルだから、仕方ない?
     興味もなくなるかしら。フフ。MM会に憧れないハッカーがいるなんてね。愕き。初めて」

モヒート「まぁまぁ。エンゼルのチームはランク下だからさ。赦してやってくれよ。
     でも他のメンバーはMM会を崇拝してるさ、もちろん。
     ちゃんとMM会の動向は、毎回担当者がチェックしてるし、エンゼルの感心がないくらいで、
     弱小のマフィアBを叩かないでやってくれよな?」
テッド 「別に叩いたりしないわよ。崇拝されないことに拘ったりしない。テッドロードはそんなに暇じゃないの。
     ところでさっきから解説してくれてる、あんたは誰なのかしら?」
モヒート「ダーク・ファイバーのモヒートだ。よろしくテッド」

テッド 「モヒート? 知らないわね。新人かしらね。
     ダークファイバーは、ナンバースリーまでしか名前を知らないわ。
     他のチームも、上位チームしか検索しない。その他は知る価値はないもの」
エンゼル「じゃあ、なぜ俺を知ってるんだ? 俺は最下位チームだぜ」
テッド 「そりゃあ! あなたは特別よ。マフィア・ボーイズのヘッド、エンゼル・フェイス。
     現在キラさまのいちばんのお気に入りの玩具で、有名だからね♪」
エンゼル「お、玩具じゃねぇー!! どういう覚えられ方だよッ!?」

モヒート「手厳しいね。俺は確かにまだチームのその他大勢の新人のひとりだ。
     でもその有名なエンゼルの友達なんだ」
テッド 「友達? マフィアBとダークFは、犬猿の仲じゃなかった?」
エンゼル「まぁな。モヒートはダークFの元スパイだったんだ。うちにいたときゃスプリッツアーって名だった。
     でも、後日それを詫びてきてな。本名を名乗ってきてから、今はダチだよ」
テッド 「……あんたらしい」

エンゼル「はぁ?」
テッド 「ごめんなさい。つい本音が漏れた。本当にあなたって噂どうりのバカなんだわと思って。
     そんなことを信じていいの? 友達ならどうして、マフィアBに入らないのかしら」
エンゼル「それはしょうがねぇ。ヤツはテッペン狙いたいんだ。モヒートは野心家でな」
モヒート「ああ、その通り。マフィアBじゃ、上位には行けないからな。
     だけど俺は、エンゼルの男気に惚れたんだ。最後までスパイ容疑があった俺を信じてくれた。
     バカだよな。本当にスパイだったのにな。でも、ぐっときた。こんなヤツ、他にはいねぇよ。
     それで腹をぶちまけ正直に詫びて、チームを超えたダチになったんだ。
     俺は今後も上は目指すけど、もう潜入スパイとして裏切ったりないと誓った」

テッド 「誓った? 信仰もないくせに? バカ正直なエンゼルさんは、信用したんでしょうけどね。
     ダークFの幹部は、うまく捕り込めたと大笑いしてるんじゃないのかしら?」
ヘンゼル「あんたにそんなこと関係ねえだろ。誰とダチになろうが、俺の自由だ」

テッド 「もっと真剣になりなさいよ、エンゼルさん。だから万年最下位なのかしら。
     カミカゼさんに相談した? あなたのとこには確かナンバー2のカミカゼや、
     結構なレベル高のハッカーだっているわね。スパイするような価値があるかは謎だけど、
     その優秀なメンバーの引き抜きなら、解らなくもないわね」
エンゼル「確かにうちにも、カミカゼのような優秀な連中はいるが、あいつらはテッペンには興味ないって連中さ。
     ガツガツしたチームじゃないんだ。のんびり仲間と、好きに楽しくやれるチームカラーだ」

モヒート「さすがエンゼルだ。そういう草食なカラーの娯楽チームも、この世界には必要なのさ。
     ヘタレなマフィアボーイズが最下位でいるから、うちのチームは上にいられるんだからな。
     エンゼルさまさまだって、うちのヘッドは言ってるぜ」
エンゼル「おい、あいつらはヘタレじゃねぇぞ。
     俺をバカにするのは勝手だが、チームの連中をコケにするのは許さなねぇぜ、モヒート」
モヒート「おっと、悪い悪い。冗談だよ。愛をもっての冗談だ。バカになんてしてないよ」
エンゼル「そういう冗談は笑えねぇな。仲間の悪口をいうヤツは、うちのチームじゃ破門だ。
     ところでテッドさんよ。聴いていいかな。
     あんたのその名前は、MM会でのハンドルネームなんだろ?」
テッド 「MM会は、みんながハンドルだわね」

エンゼル「みんな正体不明だ。班長をやってるアーヴィルってのは、いったい誰なんだ」
テッド 「あら。あたしを知らないのに、アーヴィル班長のことは知ってるのね」
エンゼル「まぁ。それくらいは、一応な……」
モヒート「それはむしろ、アーヴィル班長は、キラ本人って噂だよ。だろ?」
エンゼル「やっぱ、そうなのか?」
テッド 「へぇ? そうなの? 噂はあまりあてにならないものよ。
     でもそれが本当なら、あたしはキラさまの片腕? なんてクールで素敵な噂かしら♪」

エンゼル「けっ。なんでキラにそんな人気があるのか、謎だよな」
テッド 「そんなことを云うあなたの方が謎だわ。あなたは、有名なアンチキラ派だわね」
エンゼル「あたりめーだ!! 機会があれば、ぶっ殺してやりてぇよな。
     あいつが俺を見下すのを止めれば、無関心くらいにはなれるだろうけどなッ」
テッド 「キラさまは無関心が嫌いよ。
     それなら憎まれる方を選ぶの。だからあなたが永久ターゲットなのよ」
エンゼル「そうかい。だけどキラは好意を寄せてくる奴ぁ、即利用の捨て駒、逆に憎まれれば、
     尚叩きがいのある愚かな敵だ。どっちにしろ、奴は誰も信用なんかしてねぇよ」

テッド 「人間は、キラ様は好きじゃないのよ」
エンゼル「そうか? 無関心が嫌いなら、人間は、好きなんだろ」
テッド 「……そうなのかしら? あなたはキラさまを良く知ってる?」
エンゼル「しらねぇよ、あんなヤツのことなんか!!」

テッド 「エンゼルさん。あなたのそういう態度が気に入らない連中もいるわよ。
     最下位ごときが、やけにキラ様に馴れ馴れしいって。くれぐれもご用心なさいな。
     でもそうね、ここで偶然会ったのも何かの縁だわ。極秘情報があるけど、聴きたいかしら?」
エンゼル「極秘情報? なんだ?」
モヒート「スクープか!?」

テッド 「今年の真紅の城主催のオンライン桜パーティで、
     あなたに声をかけてくるピンクの髪の女がいたら、―――そいつは、ウイルスよ。
     気をつけて。桜のような甘い誘惑と引き換えに、最悪の花吹雪を見ることになるわ」
モヒート「ははぁ。テッド、その情報はいくらだい?」
テッド 「タダよ、下っ端。あたし、あんたと話してないわね」
エンゼル「……タダだと? こえぇな。タダより恐いものはねぇからな?」
モヒート「そうだ、気をつけろ、エンゼル。あんたのお人好しにつけ込んで、騙そうとしてる。
     逆に罠かもしれないぜ。偶然を装っての罠だ。信じたらまれな幸運を逃すかもしれないぞ」
テッド 「あんたより、あたしは正直者だわ。あたしが騙すと思うの? エンゼルさん。
     お互い初めて会ったばかりなのに。いきなり騙す利点なんかないわね」
モヒート「テッドは何者か正体不明だ、信用するなよ、エンゼル!」

エンゼル「なんだよモヒート、お前がテッドはMM会のA班幹部だって言ってたんだぜ?」
モヒート「それと信用できるのとは違うだろ! すぐ丸め込まれるんだからな、エンゼル!!
     お人好しも大概にしっかりしてくれよ!」
エンゼル「テッドさんよ。どうして初めて会った俺に、そんな親切な情報をくれるんだ?
     あんたが俺をやっかんでないとは限らねぇだろ。キラの熱狂的ファンなら尚更だ。
     こちとら最下位なのに、他チームからイヤガラセされることも多い身の上だからな」
テッド 「あたしはイヤガラセなんかしないわよ。
     そんな低俗なこと、MM会幹部がするわけないでしょ。テッドの情報を検索なさいよ。
     情報屋テッドはどんなときも、暇じゃないの。これは好意で言ってるのよ」
エンゼル「……そうか。悪かったな。じゃあ、初対面で俺に好意的な理由はなんだ?」
テッド 「あなた、間違えたでしょ」

エンゼル「間違えた?」

テッド 「あたしを見て『キラ』って言ったわ。あなたは、あたしをキラさまと間違えた。
     何をどうしたらそうなのか不思議だけど、あたしの気分を良くするには充分で、
     最高の賛辞だわね。
     だからこの情報入手は、キラさまのおかげよ。感謝なさいな♪」

エンゼル「ああァ?(ー_ー)(ダレガスルカヨ……)」

テッド 「桜パーティでは、ピンクの髪の女に気をつけて。お人好しのエンゼルさん」




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