電脳タブロイド
一億六千万の愛
〜2015月夜とハロウィンナイト〜
※注意:この物語はウォッカとキラの過去思い出話になります

02


登場人物:ウォッカ/キ ラ


ウォッカ「キラ? 大丈夫か?」

キ ラ 「ぐったり……。指の感覚がない。腱鞘炎になる。バカラは、マジ頭がオカシイ」
ウォッカ「まぁな。悪いがあいつのイカレっぷりには、俺もお手上げだ」
キ ラ 「でもバカラの言うことは、きっと正しいんだよね」
ウォッカ「そうだな。きっと正しい。でも、あいつは大人の言うことは疑ってかかれって言うんだぜ。
     大人はいつでも正しいわけじゃねぇから、騙されないでしっかり自分でも考えろってさ。
     自分はいつも勝手に自分の意見を押し付けるのに、イミわかんねぇよな」
キ ラ 「バカラは変人だ」

ウォッカ「正解だな。それでいったい、お前は今回、何をやらかしたんだ?」
キ ラ 「放送ジャックがバレた」
ウォッカ「ああ、昼休みに発禁のヘビィメタルを流した、アレか?」
キ ラ 「うん。だってうちの放送、つまんないじゃん。気晴らしだよ」
ウォッカ「まぁな。うちのクラスはウケてたぜ。犯人はお前だったのか。
     俺が云うのも変だけど、そんな可愛いイタズラに保護者呼び出しなんか
     しなくていいのにな。先生も暇だなぁ」
キ ラ 「バカラさんちのお子さんは、問題児ばかりだって言われて、バカラ、キレちゃったんだ」
ウォッカ「いつものことだろ。だいたい、俺たちの学校は、上層階級向けの学校なんだ。
     ほとんどが、有名人や金持ちの家の子が行く所さ。プラス、特別優遇の賢いヤツ。
     つまり、俺らのようなガキ。だから本当は下流の住人が通えるような所じゃないけど、
     オヤジがコネと金で、ねじ込んだんだ。ホント、無理しちゃってさ。
     上品に大人しくしてろって、俺たちには言うくせに、校長に呼び出されて、
     俺らの悪口を言われると、オヤジはキレるんだ。それで立場はもっと悪くなる。
     結局、大人しく校長の説教を聴けないオヤジのせいだよな? 俺らを叱るのは八つ当たりだ」

キ ラ 「ねぇ……俺さ、本当に汚くない?」

ウォッカ「はぁ? まだ何を云ってんだよ。汚いわけねぇだろ」
キ ラ 「……俺、ここに来たときは、ぼんやりしてた。
     頭が完全に動いてなくて、自分が誰かも分からなかった。
     ただ、バカラがいて、ウォッカがいて、毎日、少しずつ過ぎて行った。
     一緒に笑って、勉強して、徐々に、俺は生きてる人間なんだなって知って、
     でもバカラたちに会う前、何をして過ごしてきたのか知りたくなって、
     考えてたら、急に思い出した」
ウォッカ「……考えて、思い出したって? 何を?」
キ ラ 「そう。思い出した。以前の自分をだよ。バカラとウォッカに会う前さ。
     思いだしたら、自分がやってた行為の意味を調べたくなった。
     学校じゃ制限かかってたけど、解除して、禁止されてる地区の図書館にアクセスして、
     娼館のことを……調べて、やっと分かるようになった。びっくりする事実だった。
     そしたら、気分が悪くなった。胃の中のもの、ひっくり返った。
     あそこにいた俺は、なんだったんだろう。大人の玩具? やってたことを思い出して
     何度も吐いて、俺…… 自分の体が、自分で触れないんだ、ウォッカ」
ウォッカ「ど、どうしてだ……?」

キ ラ 「汚いからだよ。この間…… 学校で俺がアクセスした履歴を調べたヤツがいて、
     放課後、呼び出されて、こいつは娼館にいた、大人の汚い玩具だって、云われた。
     五人くらいに囲まれて、前に娼館でやってたことをやれって、お前は奴隷だって、
     俺を裸にして、体中を触りまくって、汚い口には、汚いものをくわえさえるんだって、
     誰かが、ズボンを俺の前で脱いだんだ」
ウォッカ「なんだって…… 誰なんだ、そいつは!! 半殺しにしてやる!」

キ ラ 「大学部の生徒だと思う。見たことない顔だったし、大学生の上着だった。
     誰かは知らない。よく覚えてないんだ。でも条件反射なのかな。
     俺はそいつのモノ、くわえてみた。口と手を使って、舐めてやった。
     やり方は、知ってた。体は行為を、覚えてるんだなって、思った……」
ウォッカ「バカな……、従ったのか?! キラ、そんなことするんじゃない!
     おまえはそんなマネ、しなくていいんだ、しちゃ駄目だ!」
キ ラ 「うん。二度としないよ。嫌な感じだった。俺はもう、あの行為が異常だって分かる。
     色んなことが、頭の中でこんがらがって、そのあと気を失ってたみたいで、
     気がついたら真っ暗な教室で、ひとり、裸で転がされてたんだ。もう誰も居なかった」
ウォッカ「……体、見せて見ろ」

キ ラ 「やだ。大丈夫だよ。見ないで」

ウォッカ「でも、怪我、とか、してるだろ……?
     いや、たぶん病院に行った方がいいんじゃない、のか?」
キ ラ 「俺の体、面白いんだってさ。女の子みたいな穴があるって言ってた。
     それだけ奴らが言って、嗤ってたのを少し覚えてる。
     ネットで調べてみたら、そういう施術をしてたって書き込みがあった。
     俺のは、もしかしたら、その跡なのかもしれない……」
ウォッカ「キラ…… おまえ…… 」
キ ラ 「そこ、凄く痛かった。出血してた。多分、奴ら全員に使われたんだ。
     射精してたみたいだった。お尻は痛くなかった。使わなかったんだと思う。
     中の精液、掻きだして、ちゃんと消毒した。シャワーで流してから、
     口も手も体も、爪の中も、全部、触られたとこ、消毒したんだ。ヒリヒリしたけど。
     でも、まだ汚いなって思って、それから触れないんだ……ずっと」

ウォッカ「オヤジに……言おう、キラ……言わなきゃ、ダメだ」
キ ラ 「ダメだよ!! バカラには言わないで、ウォッカ!」

ウォッカ「でも……、おまえ、乱暴されたんだぞ? そのままで済む筈がないだろ……!」
キ ラ 「でもイヤだ。バカラに云ったら、俺、恥ずかしくて死んじゃうよ」
ウォッカ「キラ!」
キ ラ 「お願いだよ、ウォッカ。約束して。ウォッカだけに、話したんだ。
     云いたくなかったけど、苦しかったから、ウォッカには話したんだ!
     だからこんなこと、誰にも言わないって、約束して」
ウォッカ「キラ…… だけど、犯人を、捜さないと。なら、ラスに相談したらどうだ?
     いや……ダメだな。ラスには変な趣味があるからな。ヤブヘビだ。
     それこそ変な気を起こされても大変だし……。ちくしょう。
     他に頼りになる大人はいないし、またそいつらにお前が狙われる可能性もある……
     やっぱり、放っておけない。オヤジに相談しよう」
キ ラ 「ダメだよ。いいんだ。どうせ、以前はやってたことなんだし、もう痛みもない。
     俺が本当は玩具だから、奴らは使っただけなんだ。俺が悪いんだ」
ウォッカ「キラ!! そういうことを云うなって云われただろ!!
     どうしてお前が悪いんだ、お前は悪くないし、何も解らなかったんだ!」
キ ラ 「俺は今、何をしたらいいのか、ぜんぜん分からないんだ」

ウォッカ「―――泣いたのか?」

キ ラ 「え?」

ウォッカ「奴らに酷いことをされて、おまえは泣いたか?」
キ ラ 「泣いた? 暗い教室の中で? さぁ、どうだったかな……」
ウォッカ「悔しかったら、悲しかったら、痛かったら、泣けって、云われただろ。
     おまえはよく、留守番をさせたら、犬みたいに大声で泣き叫んでたじゃないか。
     あんなふうに、泣いてみたか?」     

キ ラ 「泣いて叫ぶことはできるけど、まだ涙は出ないんだよ、俺。知ってるだろ。
     それに置いてけぼりの時は、ひとりが嫌だったから泣いてたんだ。それとは違う」
ウォッカ「涙は出なくても声あげて、昔みたいに泣いてみたらいいんだ。泣き叫んでみろ。
     悔しくて、痛くて、泣きたいと心から思えばいいんだ。涙も出るかもしれない。
     涙をいっぱい流したら、すっきりするぜ? 泣けよ、キラ。悔しいときは泣くんだ」
キ ラ 「でも、悔しいって思わなかった……。ただ、自分が汚いって思っただけだ」
ウォッカ「違う。おまえは、汚くなんかない」

キ ラ 「汚いよ。もう自分の体、触れないんだ。なんだか不潔だって気がする。
     今まで、気が付かなかった。俺は汚い。汚い道具なんだ。人間じゃなかった。
     そんなこと、知らなければ良かった。……ウォッカだって、こんな俺には触れないだろ」

ウォッカ「そんなことはない。―――― キスだって、できるぜ」

キ ラ 「……ほんと? 俺の唇に、できる?
     ヤツらの汚いチンコをくわえた俺の口に、キスできる?
     数えきれないほどの大人から、汚い唾液で全身、汚されてた俺に、触れる?
     無理だろ、そんなの、できないよね?」







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