You Can't Hurry Love
恋はあせらず
04

登場人物: レイジ/ナルセ
場所:ピアノ・マン

7月4日




レイジ「ナルセと店のドアの鍵を開けるのは、何だか久しぶりな気がするな。
    ちょっと待っててくれ。鍵はどこだったかな……これか。
    いや、この鍵じゃない。こっちだ。はいよ、開いた。
    どうぞ、お客様。深夜のナイトクラブ・ピアノマンにようこそ。只今、開店だ。
    こんな時間に開けてお客様なんか来るのか?
    おまえのせいで、こんな夜更けにオープンだ……迷惑な話だよな」

ナルセ「何をぶつくさ言ってるんだよ、レイジ。俺のせい? 違うだろ。
    ステージが終わってから随分立つのに、レイジは今までどこにいたんだよ?
    気まぐれピアノマンの営業時間は、決まってないから灯りがついてりゃ誰か来るだろ。
    それに今日撒いた名刺を持った女性たちが、押しかけるかもしれないぜ?」
レイジ「レディたちは、もうこんな時間にはやっては来ない。
    お言葉だがね、最近は結構、時間を決めて真面目な営業をしてたんだ。
    なのに、おまえが鍵盤のヘルプなんて無理を言うから、こんな事態になった。
    おまえの頼みを断れないおれの弱みにつけ込んだんだ。悪い子だよな、ナルセは。
    おかげで今日は鏡夜もいないし、不良営業に舞い戻りだ。何を飲む?」

ナルセ「ローゼス。とびきり薄いのにしてくれ」
レイジ「だったら、水にすりゃいいのに」
ナルセ「いいんだよ。で? タイムロスの返事は無しかよ? いいけど。
    だいたい臨時休業にすれば済むのに、何でそうしなかったんだ」
レイジ「冗談だろ。シックスティーズでヘルプをするからって、休みたくなかったんだ。
    おれは本職、クラブオーナーだからな。お遊びの鍵盤たたきごっことは違う」
ナルセ「レイジってそんなに仕事熱心だったか? どうしたんだ、一体?」
レイジ「心外だ。勿論そうだ。おれはいつでも、熱血熱心で一生懸命なオーナーだろ」

ナルセ「うさんくさい。言うことがホントいつも適当だよな、レイジは」
レイジ「適当だと思うおまえが、適当なんだよ」
ナルセ「そうなのか?」
レイジ「当たり前だ。おまえは実は適当で、いい加減な浮き足立った男だ。
    だから真面目な豪は、おまえを信用できなくて、ひとりでは放って置けないんだ」

ナルセ「……豪は関係ないだろ。
    それでレイジは、今までどこに居たんだよ? 内緒の所?」
レイジ「別に内緒じゃない。小僧のマンションだ」
ナルセ「へぇ。白状したな。マックはどんな様子だった? 落ち込んでたか?」
レイジ「あいつは居なかったよ。ナルセ、おれに嘘をついてもわかるんだぜ。
    マックは居るはずがないんだろ。何のカマかけだよ。そうか、おまえと居たのか?」
ナルセ「俺と居たけど、豪もそこに居たよ。嘘じゃない。誤解しないでくれよな」
レイジ「何の誤解だ。誤解しようがない。そもそも別に二人きりで会ってたっておれは構わない。
    それとも豪と二人で、ミスしたボウヤをネチネチ苛めてたのか? 可哀想にな」
ナルセ「苛めてない。励ましてただけ」
レイジ「落ち込んでるのか、あいつ。どれくらいだ」
ナルセ「相当、ヒドイ。レイジに当分は会いたくないってさ」
レイジ「会いたくない? バカだな。おれがそんなことを気にするかよ」

ナルセ「だよな。自意識過剰だ」
レイジ「ミスを反省するのは、悪いことじゃないがな。しばらくは放っておくか」
ナルセ「そんなの駄目だよ。ちゃんと慰めてやらないと、余計にいじけるぜ?」
レイジ「そうか? 逆に慰める方が傷つくんじゃないか? プライドの問題なんだろ。
    いつものボケと大差ないのに、おれが舞台に居たせいで奴は混乱してるな」
ナルセ「分かってるんだな、レイジ。マックの出来の悪さを目の当りにして軽蔑した?」
レイジ「あいつは普段から出来が悪いのか?」

ナルセ「悪くないよ。良いベース弾きだ。たまに想定外の暴走をするけど、でも魅力がある。
    ステージに呼ばれたらタダでは帰らない、あんたと一緒だよ、レイジ」
レイジ「同列扱いは心外だな。でもだったらいつものことだ。
    おれがフロアで見てる時と、あいつは大差ない。
    空気が読めない、相当アホな、だけど良いベースマンだ」
ナルセ「へーぇ。ついにレイジが惚気たな?」
レイジ「惚気じゃない。よしてくれ。おれが惚気る理由がないだろ」

ナルセ「本当に? じゃ、何でマックの部屋に居たんだよ?」
レイジ「帰ってくると思ってたからに決まってる」

ナルセ「じゃ、マックが帰って来たら、何しようと思ってたんだよ」
レイジ「あのな。中坊みたいなこと聴くなよ。なんなんだよ。
    何が訊きたい? ひょっとして妬いてるのか? そうか、そうだったのか。
    おれがあいつの部屋でしたかったことを、おまえとしようか?
    興奮して眠れないかもな……いや、寝させない、なのかな」
ナルセ「ダメだよ。そんなことをしたら、豪に愛想を尽かされる」
レイジ「対戦ゲームを夜通しやったら、おまえは豪に捨てられるのか?」
ナルセ「なんだよ、それ。くだらない返しだな」
レイジ「おまえが下らないことを訊くからだろ。同レベルに合せてやった」

ナルセ「レイジは、何でマックに電話しなかったんだよ。
    マックの部屋に居たなら、お前の家で待ってるって、マックにコールすれば良かったんだ。
    そしたらマックは、慌てて急いで帰ったはずだ。レイジの反応をすごく気にしてる。
    あんなこと言ってても、本当は会いたくないわけないからな」
レイジ「かけただろ。コールした」
ナルセ「それは俺に、だろ」
レイジ「そう。ナルセにかけた。だけど一緒にいるなら、おまえもマックが居ると言えば良かったんだ。
    それならおれも、じゃあ奴に替わってくれと云えた。だけど、おまえは言わなかっただろ?
    おまえは豪と一緒にいるとおれに言ったが、マックもいるとは言わなかった」
ナルセ「それは……。そう、俺のことは探さないでと言ってくれって、マックが言ったからだよ」
レイジ「そうか。だったら、希望通りにしておこう」

ナルセ「……俺に話って何だよ、レイジ」
レイジ「もう済んだよ」

ナルセ「は? もう済んだ? あんた、マックの様子を聞きたかったのか?」
レイジ「まさか。マックに電話を変わらなかった、ナルセの言い訳を聞きたかっただけだ」
ナルセ「言い訳? 探さないでくれって言われたこと?」
レイジ「違う。ナルセが、マックにおれが待つ部屋へ帰って欲しくなかった理由だ」
ナルセ「は? どういう意味?」

レイジ「おれがマックに構いすぎだから、嫉妬してるんだろ? ナルセ。
    だからおれと二人きりでちょっと会いたくなったんだよな? 分かってるんだ」
ナルセ「な、何を言ってるんだ、レイジ。……嫉妬? 俺がマックに? そんなわけないだろ。
    どうしたらそういうことになるんだ?
    レイジが、大事な話があるからすぐに来いって云ったんじゃないか」
レイジ「おまえは本当に可愛いヤツだ。いますぐ、押し倒したいよな。
    ピアノマンじゃなくて、ナルセの家にすれば良かったな。うっかりした。
    それで帰って来た豪に見せつけて、現実を教えてやる。面白いだろうな。
    ナルセを、易々とおれの元へ行かせたことを後悔するはずだ。気を抜いてるからそうなる。
    おまえと寄りを戻せるなら、おれは本気になってもいいんだ」

ナルセ「いったい何の話だよ?」
レイジ「大丈夫だ。心配するな。ボウヤはおれにとってフェイクだ。偽物だ。
    おれが心底愛してるのは、今も昔もおまえなんだよ、おれのナルセ……。
    アメリカに鞍替えした薄情な豪なんか捨てて、おれと共に生きようぜ。
    おまえのためなら、おれの全部を捨ててもいい。本気だ。真剣に考えてくれ」
ナルセ「冗談はやめてくれ。それをマックに言ってやれば? 落ち込みもすっかり治るぜ」
レイジ「いやだ。あいつの為には、なにひとつだって捨てる気はないんだ」
ナルセ「は、そんな強気でいいのか? いい加減、素直にならないと、失うものは大きいぜ。
    マックだって、我慢の限界があると思うけどな」
レイジ「なら限界まであいつは頑張るだろ」
ナルセ「酷いな。相手に容赦ないよな、レイジって」
レイジ「試練だ。どこまで本気なのか、確かめる」

ナルセ「いや、違うな。それは嘘だよな」
レイジ「どうして?」
ナルセ「レイジは試さない。永遠に誰も信じる気がないから、何も試すことはないよ」
レイジ「信じる気がない? おまえも豪を信じる気がないんだろ?」
ナルセ「そんなことはないよ。俺は、豪を信じてるよ。そうだ。信じてる。信じてるんだ。
    だけど豪が……。豪が俺を、信じてないだけだ」
レイジ「豪は、おまえを信じてないのか?」

ナルセ「そうだよ。だからいつまでも適当な仕事をして、日本にダラダラいるんだ……」
レイジ「豪はダラダラ、適当な仕事をしてるのか。怪しからんな」
ナルセ「そうさ。帰国してから目を瞑っててもできるような仕事ばかりやってるみたいだ。
    本人は真面目にやってるつもりでも、本気でやってない。上の空だ。わかるんだ。
    本当は、アメリカに戻りたいんだ。戻ってやりたい仕事をすればいいのに、
    豪は俺が心配で、行けないんだ。好きな場所で、好きな音楽をやれない。おれのせいで。
    畜生、こんなことってあるか?」

レイジ「豪があっちに行っても、貞操はちゃんと守ると、言ってやったら?」
ナルセ「わざわざ? 豪を待って浮気なんかしないから安心してお仕事して来たらいいって言うのか?
    貞淑な妻のように?」
レイジ「そう言えば安心して旅立てるのなら、言えばいい」
ナルセ「俺を信じてないのに、そんなことで安心できるか?
    それにそんなセリフは自分でも信じられないね。もしそう言うなら、偽りの言葉だ。
    最初からつく嘘と、あとで結果嘘になるのとではまったく違う。
    きっと、俺は……セリフ通りには豪を待てない。愛があれば待てるのか?
    嘘だ、待てない。待てないんだ。これまでのように空を行き来するのも、限界がある」
レイジ「信じてないのは、自分自信なのか」

ナルセ「ああ。ある意味、そうかもな。おれは弱いよ。ステージを降りると立つものやっとだ。
    自分を信じてないというより、そうしないってことだけど」
レイジ「そうしない? 浮気はやめたんだろ? あの誓いは一時的なものなのか?」
ナルセ「それは豪が帰ってくる期間が、分かってたからだ。
    ゴールがあるから、頑張れたんだ。勿論、一時的なつもりじゃなかったけど、
    次に豪が飛び立ったら、たぶんもう期限はわからないと思う……。いつまでか判らない。
    そうなれば、永遠かもしれない。だったら俺にはもう待つ自信がない……耐えられない」
レイジ「情けないことだな。そんな程度だったのか」

ナルセ「……そんな程度って、何だよ。俺の豪に対する想いのことを言うのか?
    いや、嘘だ。今のは、嘘だよ。やっぱり浮気はしない。俺は豪を待てる。いつまでも待つよ」
レイジ「耐えて待つナルセか。似合わないよな。
    だったら、行けばどうなんだ。一緒に。おまえも、あっちで羽ばたけばどうだよ。
    それなら豪と、一緒に居られるんだぜ」
ナルセ「俺レベルの歌手なんか、あっちには吐いて捨てるほどいるんだ。
    それに俺はシックスティーズを離れたくない。あっちに行くことが、
    最良だなんて今さら思わないしな。俺に利点はないよ。豪と居られることくらいだ。
    豪の金魚のフンとして行くなら、離れて禁欲してた方が、よほどスリリングだ」
レイジ「それは良かった。自分で言っておいてなんだが、
    もしもナルセがシックスティーズを卒業したら、俺は生きる意味を失うところだ」
ナルセ「よく言うよ。あんたには、もうマックがいるだろ」
レイジ「あいつは、おまえの代わりにはならない。分かるだろ?」

ナルセ「俺は、レイジの特別な存在で、まだいられるのか?」
レイジ「何を云ってる。勿論そうだ。おまえは、他の誰とも違う。
    ずっとおれの傍にいてくれ。頼むから、おれからおまえの歌を奪わないでくれよな」
ナルセ「だったら、レイジもどんな時でも、俺を忘れないでくれよ。
    俺が困ってたら、助けに来てくれよ。いつでもだ。マックより優先してくれよ」
レイジ「忘れたことなんかないし、今日だってヘルプに出ただろ。おまえの為に助けてる」

ナルセ「そうか? 最近はマックだけのキャパでメモリがいっぱいなんじゃないの」
レイジ「おう、ナルセ。やっぱり妬いてたんだな。可愛いヤツめ。天邪鬼だな、おまえは。
    おれはいつでも小僧を捨てて、おまえに乗り換える準備はあるんだぜ」
ナルセ「それはダメだよ。レイジはマックを幸せにしてくれなきゃダメだ」
レイジ「それは無理だ」
ナルセ「どうしてだよ?」

レイジ「おれは奴を、幸せにはできないんだ」
ナルセ「……それ、どういう意味」
レイジ「言葉通りだろ。あいつを、俺は、幸せにはできない。というか、その必要はない。
    おれにはどうしても厄介な仕事や事柄が付きまとう。仮に仕事はどうにかなっても、
    鏡夜がおれの厄介ごとの中のひとつだ。ただし甘美で危険な、愛すべき大事な厄介ごとだ。
    キョウを愛してるし必要だし、もう簡単には手放せない。他にも厄介なものはある」
ナルセ「仕事と情で、がんじがらめということ?」
レイジ「好きな男と一緒に居たくても、シックスティーズを捨てられない、おまえと似てるな」
ナルセ「レイジは、マックが幸せに笑うところを見たくないのか?」

レイジ「残念ながらあいつは今、幸せらしいぜ。だから幸せにする必要は無いだろ。
    おれが幸せにしてやらなくても、勝手に幸せなんだ。
    だったら放って置けばいいだろ。幸せで何よりだ。今のままでいい。このままがいいんだ。
    まったく野心のない男は、気楽だな。羨ましいよ。今が幸せだなんて、平気で云うんだぜ。
    志が小さいのは問題だ。理解に苦しむ。向上心がないと先には進めない」
ナルセ「そうかな。マックは頑固だし、レイジの心を盗んだぐらいなんだから、野心はあるよ」
レイジ「そんなもの盗られてない。おれだって、頑固では負けてないぞ」

ナルセ「レイジ。あんたはマックと一緒に居たくても、茅野さんを捨てられないのか?」
レイジ「それはおまえの話だ。おれ自身に例えてなんかいない。やめてくれ」
ナルセ「レイジは、俺が豪とのことで悩んでることを察して、俺を呼び出した?」
レイジ「悩んでたのか? それは知らなかったな。おまえは何を悩んでる?」

ナルセ「……正直、どうしていいか、わからないんだ。俺。
    豪と離れたくない。でも、豪を俺への想いで縛っておくのも嫌だ。
    離れることより嫌だ。でも、豪がいなくて俺は正気を保てない。きっと無理だ。
    どうしたらいい。おれは、どうしたらいいんだ、レイジ……」
レイジ「何が最良な選択か、おまえは分かってる。豪に好きな仕事をさせたいんだろ。
    そして、おまえもシックスティーズで歌っていたい。でも寂しさには耐えられない。
    豪がいないなら、誰でもいいから代わりに抱いて貰いたくなるのは解ってる。そうだな?」
ナルセ「そうだよ。豪が傍にいないなんて、寂しくて耐えられない……」

レイジ「だったら、おまえが浮気をするなら、相手はおれだけにしろ。他の人間ではするな。
    おれなら問題が少なくて済む。豪だってどこの馬の骨ともわからない奴に
    ナルセを寝盗られるより、おれの方がマシな筈だ。おれを使えよ、ナルセ。
    豪の身代わりだ。いつでもおれは、おまえたちの味方だ。そうだろう?」
ナルセ「それは、ダメだ! そんなのダメだって!」
レイジ「何がダメなんだ?」
ナルセ「今さらそんなことをしたら、豪はレイジを赦さないぜ。一大事だよ!」
レイジ「そうか? 最終的には、しょうがないと思うだろ。相手がおれなんだしな。赦すさ。
    病んでるレイジには、何を云っても無駄だって、豪は分かってるからな」
ナルセ「ダメだ。それはマックも傷つける。そうだ……マックが、傷つくんだ。
    もっと大事なことだろ。マックはそれをしょうがないとは絶対に思わない。
    それでもいいのか? レイジ」
レイジ「関係ないだろ、小僧なんか。いや―――あるか。あるな。
    おれは今、どんな顏をしてる?」

ナルセ「それはかなりマズイって顏してる」

レイジ「そうか。だったら、それはマズイな。仕切り直しだ。他の方法を考えよう。
    おまえとおれが寝るのは無し。そうだ、おれは他所ではセックスできないんだ、今。
    あいつが嫌がるからな。おまえを心配し過ぎて、うっかり忘れてた」
ナルセ「……あんた、相当マックが好きなんだよな? どうして言ってやらないんだ?」

レイジ「好きじゃないけど、全然?」
ナルセ「だめだ……。こっちも小学生以下だ……」
レイジ「失礼なことを云うなよ。何でそんなに聞きたがるんだ。今はおまえのことだろ」
ナルセ「そうだな。いいよ……。そう、俺の話だよな。マックは関係ない」
レイジ「なんだか最近、おれの周りの人間は諦めが早いな。なんとなく面白くないぞ」

ナルセ「とにかく、豪が好きなんだ、俺はね。レイジとは二度と寝る気はない。
    どうせ豪が相手でないと、浮気したって空虚なんか埋められないんだ。そうだ。
    ひとりで耐えられないからって、俺はどうする気だったんだ。どうかしてる。
    ちょっと冷静になって考えてみるよ。そうだよな。誰にも言えなくて、煮詰まってたんだな。
    レイジに話したら、なんだか頭がスッキリしてきたよ。
    こんな相談、レイジにしかできないもんな」
レイジ「まぁ冷静になるのはいいことだ。焦らずによく考えろ。答えは必ず出る。
    それでもまた悩むようなら、おれにいつでも相談しろ。変に気兼ねするな。
    おれの最優先は、いつでも最期までおまえだ、ナルセ。おれの大事なアイドルスターだからな。
    おまえはいつでも、おれに何でも話してくれただろ」

ナルセ「ああ、レイジ。ありがとうな。電話をくれてさ。やっぱりレイジは頼りになるよな」
レイジ「おれは何もしてない。というか、何もさせて貰ってないぞ」
ナルセ「もうできないんだろ。マック以外とは」
レイジ「できないんじゃない。しないだけ」
ナルセ「それがどうしてかを、考えた方がいいぜ、レイジはさ」
レイジ「あいつと同じことを云うなよ。不愉快だぞ」

ナルセ「はは。おやすみ、レイジ。
    今度はさ、マックに電話してやれよ。あんたから。きっと待ってる」
レイジ「……そうだな。分かった。するよ。おまえの頼みじゃ、しょうがないからな。
    ―――おやすみ、ナルセ。豪に宜しくな。豪は信頼できるヤツだ。
    豪が、地球のどこに居ても、ただ生きてくれていることを幸運に思えよ。
    相手を想うことは、どこにいてもできるだろ。離れてたってまた会えるんだ。
    おまえたちは、うまくいってくれ。頼むから。おれの願いだよ。
    いつまでも、永遠にふたりで一緒にいてくれ―――」

ナルセ「うん。心配しないでくれ。大丈夫だよ。豪と別れたりしない。
    だけど、レイジにも、もうそれはできるよ。きっと。
    もう泣きながら目が覚めることは、無いはずだろ。もしそうなっても、
    そんな時に電話したい相手が、俺以外に居るはずだ。
    本当は少し寂しい気もするけど、そうなるのは俺の願いだったよ、多分ね」





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