Stupid Cupid
間抜けなキューピット

03


登場人物: 鏡 夜/マック
場所:ピアノ・マン





鏡 夜「今晩は。マックさん」

マック「やぁ、コンバンハ!! 茅野さん、ごきげんよう〜♪
    あんたって、よく視たらとっても儚げで、美しいひとなんだね……。
    肌も白くて妖艶だ。ぬいぐるみのような可愛さがないのが、非常に残念です」
鏡 夜「随分ごきげんですね。今夜は何か良いことでもありましたか?」
マック「あったよ? 今夜も酔っぱらえた。それが最高!」
鏡 夜「そうですか。良いお酒なのでしたら、よろしいですけれど」
マック「良いお酒だよ? 決まってる。もう眠たいくらい良い気分だ」

鏡 夜「でしたらここではなく、ご自宅のベッドへ向かわれた方が、
    よろしいのではありませんか?」
マック「ほろ酔いのお客様に、帰れっていうわけ?」
鏡 夜「そうですね。ほろ酔いどころか、いささか酔いのまわりが早いようです」
マック「そんなことないよ。いつも通りだよ。レイジはいる?」

鏡 夜「要は出張中です」
マック「ほんとにいない?」
鏡 夜「店内を探して頂いても構いませんよ?」
マック「いやいや、あんたのことを疑ったわけじゃないよ?」
鏡 夜「店にいれば、いるとお答えしますよ。嘘をつく理由はありませんから。
    但し、要本人から居ないと指示を受けている場合は、別ですけど」
マック「レイジは、俺が来たら居ないと云えって、あんたに頼んだ?」
鏡 夜「いいえ。マックさんが来店されたらいないと言えとは今回、言われていません」
マック「そう。今回は、言われてないんだ?」
鏡 夜「ええ。そうです。今回はね」
マック「どこに行ったんだ?」

鏡 夜「商談で、海外へ行っています。本人から聞いていませんでしたか?」
マック「どうだったかな。何の商談?」
鏡 夜「中味をお話しても、解らないと思いますが、お聴きになりますか?
    レンタル倉庫のオークションです。賃料滞納の倉庫が丸ごと競りにかけられるんです。
    もっと詳しく説明しますか?」
マック「いいよ。内容なんか、わかんねーよ。どうせいかにも怪しい商売なんだろ」
鏡 夜「合法ですよ。海外ではよくあります」
マック「ええと、それより何を飲むか、聞いてくれないわけ?」
鏡 夜「ミネラルウォーターを、お出しします」
マック「それって、水みたいな名前だね?」
鏡 夜「そうです。ただの水です。冷たい水を飲まれた方がいい」
マック「そんなに……俺は酔ってるように見えるか?」

鏡 夜「そうですね。貴方は来店してカウンターに座ってから、
    私ではなく、白い花瓶にずっと話しかけていらっしゃいますし、
    目の焦点が合っていないし、呂律も回ってないようですから」
マック「マジで? あんた、茅野さんじゃなかったんだ。白すぎると思ったよ。
    通りで声が後ろから聴こえるはずだ。よいしょ、茅野さんはこっち?」
鏡 夜「やっと貴方と向き合えました」

マック「改めてコンバンハ。最初に言ってくれたらいいのに。イジワルだな。
    じゃあ、ちゃんとあんたに向き合おうかな。
    実はさぁ、ほんとにベロベロになっちゃったから、
    レイジを誘って、ここから連れ出そうと思ったんですよ。
    それで、ボクの部屋へ監禁しようかなと思ってね……」
鏡 夜「そんなに酔っぱらっていては、何もできないでしょう?」
マック「何もって、何をできないの?」
鏡 夜「貴方の望むことを」
マック「俺の望むことって、何?」
鏡 夜「貴方はオーナーを連れ出し監禁して、ナニしようとしたんでしょう?」

マック「ナニ? ナニって云った? バーテンダーが、ナニとか云うか?
    茅野さんでも、ナニとか云うんだねぇー。あは。アハハ、ケッサク。
    ナニだって! けっけっけっ……」
鏡 夜「愉しそうですね」

マック「フハハハ……。愉しいですよ? めっちゃイイ気分なんだ……うん」
鏡 夜「ダメですよ。こんなところで寝ないで下さい、マックさん。
    カウンターに突っ伏すような泥酔のお客様は、要は嫌います。
    今後、一切出入り禁止になりますよ。これは本当です」
マック「へー、気位のお高い店だよな、ホント。
    俺がここで寝ちゃったら、どうするわけ?」
鏡 夜「警察に電話します」
マック「まさか。そんなこと、本当にしないよな?」
鏡 夜「しますよ。本気です。オーナーも同意します。
    要がいないのですから、もうすんなり大人しく帰ったらいかがですか。
    それとも他に何か用件が、私におありですか?」

マック「茅野さんに? そうだな……。あるよ。いいことを思いついた。
    フラフラで帰れないから、俺をアンタんちに泊めてくれよ?
    レイジもいないなら、あんたにしよう」
鏡 夜「――――これはまた、突拍子もないお誘いですね」
マック「お誘い? もしかして、俺がナニのお誘いをしてると解釈した?」
鏡 夜「ええ。そう、解釈しました。そうでしょう?」
マック「自惚れてるなぁ……。そうだな、それもいいかな。
    あんたって、すごくエロそうだもんな。俺も浮気しよう♪」

鏡 夜「貴方も二股をかけるんですか? しかも、要の恋人の私と?」
マック「うん。面白いと思わないか? レイジの恋人と、レイジの愛人が、……ナニする」
鏡 夜「面白いですね。貴方は私をどういう人間だと思ってるのでしょうね?」
マック「とってもずる賢い悪魔だと思ってるよ。
    案の定、頑丈な石橋の先で地雷を埋めてたわけだ。
    それなりに用心してたし、自分で決めたつもりだったけど、結局、俺は墓穴を掘った。
    あんたは俺を結果的に罠に嵌めて、あんたとレイジの間に口出しさせないようにしたんだ。
    自分に都合の良い方法で、俺の動きを封じた。敵ながらあっぱれですよね。
    ま、俺が単純で、バカ過ぎただけなんだけど」
鏡 夜「それは誤解です。私は貴方と要のために、ああいうしかなかったんですよ。
    貴方が私を、要に与えればいいとね。要には、貴方も必要でしたが、私も必要でした」
マック「そうかな? してやったりと思ってるんだろ。解ってるよ。俺は間抜けだよな。
    結局、勝負に勝ったのはアンタだ。ちょっと気が済まないよな」

鏡 夜「私は勝ったとは、思っていません。要の気持ちは、貴方にも充分にある」
マック「まぁな。あんたも俺も、レイジを半分しか取り戻せなかったよな。
    それで考えたんだけど、レイジをあんたと共有するのはやっぱり嫌だから、    
    いっそあんたを、俺とレイジで共有するのはどうかな?
    大人のカケヒキ、ってやつだよな。勿論、レイジには内緒の密談だけど」

鏡 夜「おやおや。私とかけ引きを? 貴方は、それで気が済むんですか?」
マック「気は済まないけど、あんたのことを俺のモノで征服して、鳴かせれば、
    気分はいくらかマシになるんじゃねぇかなと思ってな。
    上品なピアノマンで、ちょっとこの発言は退出ワードだったかな?」
鏡 夜「征服、ですか。貴方もやはり優位に立ちたがるわけですね。
    残念ですが、私はそんな脅しに怯むほど、可愛くはできていませんよ。
    貴方の提案と要求を、歓迎して本気にしますけど、良いですか?」
マック「本気にして、今夜、俺をアンタんちに泊めて、サービスしてくれるわけか?」

鏡 夜「いいですよ。今夜とは性急ですね。貴方は意外と話せるひとだったのですね。
    そうとは知らずに私は随分、遠回りしてしまいました。迂闊でしたよ」
マック「どうせ、男なんか下半身の快楽次第で、どうにでもなるんだよ。
    俺も所詮、ただの男です。アンタの味見は、ぜひしてみたいね」
鏡 夜「同感です。私も要が貴方を手放せない理由を、ぜひ知ってみたい。
    ではどんなサービスをお望みですか? メニュー表をお出しましょうか。
    私は、最高のおもてなしができますよ。貴方の気分もきっと良くなります。
    それでは、私の部屋のベッドへご招待しましょう。マックさん……」




photo/真琴さま

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参考:セリフ劇場The weight