The weight
01
※この作品は「煙が目に沁みる」の続編になります
登場人物:マック/レイジ
場所:マックのマンション部屋
マック「Merry Christmas…… レイジ!」
レイジ「――――随分と、遅かったな。敵前逃亡で帰ってこないのかと思ってたよ。
どこかで飲んできたのか? おまえ、酔っぱらってるだろ。そんなのばっかりだな。
ここで待ってると、ほとんどおまえは酔っぱらって帰ってくる。本当にうんざりだ」
マック「そんな怒るなよ。ちょっとだけひっかけて来ただけだよ。素面で対面できねぇからさ。
で、これ、待たせたお土産でーす♪」
レイジ「ワインなのかそれは? どこのワインだ」
マック「コンビニ産だけど」
レイジ「……クリスマスワインを開けるのにコンビニとはな。
このおれに安ワインを飲ませる度胸があるのは、おまえだけだろうな。
今夜のクリスマスにワインの差し入れくらい貰わなかったのか?」
マック「貰ったのはナルセとヘミだけだよ。おれはまぁ、ワイン以外のプレゼントを少しだけかな。
もう酒屋はどこも開いてなかったし、コンビニでも高いワインは売れ切れてたんだ。しょうがない」
レイジ「そうだろうな。別れる日に酔っぱらおうなんて、魂胆が見え見えだ」
マック「どんなチャンスでも欲しいんだよ。俺は。卑怯者だと思えばいい。
ピアノマンのオーナーに安ワインを飲ませて、悪酔いしたら手籠めにしちまおうと思ってさ」
レイジ「小心者の考えるようなことだな。まぁ、いい。最後の夜だ。
どうしたい? ご希望通り、寝るか?」
マック「それもありなのかよ」
レイジ「お望みなら? 別に酔わせなくたってできる。おまえは酔ってて、できない?」
マック「じゃあ、ベッドにちょっと詰めて座ってくれよ。
とりあえずワインを開けようぜ。セックスはいいから。別に酔っててもできるけどな。
最後のセックスなんてご免だよ……。そんな気になれない」
レイジ「本当の最後なんだぜ? だけどこれは冗談だろ? 本気でこれを飲む気なのか?
おまえにやったスコッチがあるだろ。おれはあれでいい。こんな安ワインは飲めない」
マック「どうぞお好きに。勝手知ったるキッチンだ。持って来れば。俺にはこのワインが似合いだ。
お高いオーナーさんは、そういうとこは最期まで譲らないんだな」
レイジ「これでも百歩ほどは譲ったつもりだがな。そのワインはボーダーラインだ。
明日の朝、激しい頭痛に襲われるのは目に見えてる。おれは繊細なんだ」
マック「いいじゃん。どうせ俺は明日から悪夢で頭痛の毎日の幕開けなんだから。
あんただって、同じ想いをすればいい。思いやりがないよ、レイジは」
レイジ「そんなに自棄になることもないだろう。たかが失恋だ。
永遠の別れじゃない。こういう関係が終るだけだ。普通の関係に戻る。
そうだ、鍵を置いて帰らないとな。もうここへ勝手に入ることもないからな」
マック「鍵……別れても持ってて欲しいけど、レイジは返すんだろうな」
レイジ「返す。もう持ってる理由がない」
マック「これから普通ってのが逆に悪夢だ。話してただ見てるだけなんだからな。
拷問に等しい。そうか……おれ、失恋するわけですね。失恋ね。懐かしい響きだ。
失くす、恋か。中学生みたいだなぁ……この歳になって失恋、ね」
レイジ「頼むから泣きだすなよ? わかった。じゃあ、そのワインをおれにもくれ。
飲もう。おれには毒薬だ。これでお互い様だろ。一緒に苦しめる。
それともこれを一緒に飲んで棺にでも入るか? ロミオさま」
マック「反対勢力は茅野家だけだ。死んだ振りで騙せるほどバカでもないだろ。
だけど、どうしてそんなに気味悪いほど、譲歩するんだ?
そんなに俺と終わりたいのか? 過剰サービスで後腐れなくかよ。
だったら、もう今すぐ帰れよ。いいよ、帰ってくれて。情けは不要だ」
レイジ「帰れと言う望みなら、帰るぜ」
マック「嘘だ、言ってみただけ。後味の悪い別れは嫌だよな。
よし、じゃあ本気で飲めよ。 乾杯、クリスマスと、別れの最期の日に」
レイジ「クリスマスに」
マック「あ、待ってくれ。やっぱここで飲むのはやめよう。
コートを着ろよ。ちょっと外で飲まないか? 俺は酔いを醒ましたい。
外って行っても本当の外だけど。 ワインを持って行って瓶ごと飲もう」
レイジ「この寒いのにワインを外でラッパ飲みだと? 気は確かか?」
マック「気はもうおかしくなってる。でも、最後の望みなら聴いてくれるんだろ?」
レイジ「勝手なこと言うな。望みを聴くなんてそんなこといつおれが言った?
おまえは本当に最後の最後までおれを振り回すんだな。
これで最後かと思うとほっとする。……おい、マック、聴いてるのか?」
マック「ちゃんとコートを着て、マフラーと手袋もしていけよ、レイジ。薄着は禁止です」