Stupid Cupid
間抜けなキューピット

01


登場人物: マック/レイジ
場所:マックのマンション部屋





マック「レイジ……。背中がすげぇ痛いんだけど、見てくれねぇ?」

レイジ「何? ああ……。これは――。誰にやられた?」
マック「あんた以外に、誰が俺の背中を引っ掻くんですか?」
レイジ「さぁ、他にそんな人物がいるかどうか知らないからな」
マック「いるわけねぇだろ、ふざけんな。今さっきからの激痛だっての。鏡、見せてくれよ」
レイジ「見ない方がいいと思うけどな。……ホラ」
マック「なんですと……。うげッ!! オカルトちっくな跡に血も出てるし!
    なんじゃこりゃ、マジすごいことになってんだけど?!
    うーわ、これじゃ痛い筈だ……レイジってときどき、凶暴だよな」
レイジ「暫く人前で、シャツは脱げないな」
マック「あっもしかして、この傷は俺にシャツを脱がせないための浮気防止対策……」
レイジ「浮気したいならすればいいだろ。したいのか?」

マック「まさか。しませんよ……」
レイジ「軟膏、塗っとくか?」
マック「滲みるヤツ、やだ」
レイジ「子供か。化膿するとマズイだろ。おれが云うのも何だが結構、酷い傷だ。
    熱でも出された日には、おれがナルセにこっぴどく叱られるんだからな。
    大丈夫だ、滲みたりしない。この薬はよく効くぜ?
    ホラ、背中出せよ。塗ってやるから」
マック「ホント? 痛くない? 優しく塗ってね? レイジが秘所に使ってるやつ?」
レイジ「うるさい。黙ってろ」

マック「うーん……でもさ、こんなになるまで夢中でしがみ付かれると、
    ちょっと冥利に尽きるっていうか、ニヤニヤしたい気分だよな……」
レイジ「Mなのかおまえは。爪は切ってあったんだけどな。悪かったな。
    けど、これはおまえも悪いんだからな。おれだけのせいじゃないぜ」
マック「レイジがやったんだけど、コレ?」
レイジ「おまえの動きが、なんだ……。アレはちょっと――無い」
マック「アレってドレ?」

レイジ「なんて云うかちょっとだな。あれはない。アレは駄目だ。だめだろ。
    ああいうのは、人として駄目だと思う。……ダメ、だよな?」
マック「だから何がダメなんだよ? 何がどう駄目なんだって? 教えてくれよ。
    どのへんが? レイジはどこでどうされると、ダメ? どの最中?
    抜かずに体勢変えて三回ほど我慢させたとこ? レイジ、泣い……イタッ!」
レイジ「やかましい。セクハラするな。それ以上は名誉棄損だ。殴るからな」
マック「もう殴ったじゃんかー。背後からとは卑怯なヤツ……」
レイジ「おまえも背後からは得意だろ。ホラ、塗れたぜ。いいからシャツ、着ろ。
    あっ……バカ、薬がつくだろ。……ン、ダメだってマック……、やめろって……」

マック「ダメだぜレイジ。今の、誘ったんだろ? そんな声だしたよな……。
    自分が背後だからって、油断しちゃ駄目だぜ?」
レイジ「……して、ない」
マック「それだよ、それ。ダメだって。そんなふうに肩越しで囁くのって反則だから。
    俺だけのせいにしてもダメだぜ。ズルいぞ、レイジ…………」
レイジ「おれは、誘ってなんかない……ダメだ……ダメなんだって……ん……マック……」
マック「うわ、もうたまらん。なにがダメ? 云ってみてくれよ、レイジ。
    俺に聴かせて……」
レイジ「駄目なんだ―――。何もかも、抑えきれない……。発情期の動物みたいだ……。
    どうなってるんだ……今さっきも、昨夜も、何度も、したばかりだ。
    おれはどこかオカシイのか? こんなこと、今までにないん……だ」
マック「そだね。でも、レイジはすぐに熱くなっちゃうんだから、しょうがないだろ」
レイジ「どうしたら、いい……ダメだろ……もう……。ダメだ……
    ……ン、どうしたらいい? どうすりゃいいんだ、マック……」

マック「どうしたらいいって……そんなの余計に興奮するんだけど。ワザとですか?
    そんな涙目で可愛い過ぎるのも、反則でしょ。俺だって、そうだよ。
    何もおかしくなんかないし、そんなのレイジだけじゃない」
レイジ「……おれだけじゃない、のか?」
マック「俺、あんたを前にするとぜんぜん我慢できねぇし、けどもう我慢する必要はないし、
    快楽中枢が望むままにしようぜ、レイジ……。まだ続けてできるなら、最高じゃん。
    すげぇ……。何が問題だよ。何の遠慮がいるんだよ?」
レイジ「おまえの……傷、酷くなるだろ」
マック「傷を心配してくれるなら今度は背中じゃなくて、俺の手を握っててくれよ、レイジ……」
レイジ「おまえの指を折っても知らないからな……」

マック「……そんなに?」



☆★★



マック「レイジ、おめでとう」

レイジ「……唐突になんだよ?」
マック「お誕生日、すでに終わってるけど、おめでとうございます」
レイジ「おれの誕生月は5月だぜ。今はもう6月だけどな?
    今頃、何なんだよ。本当に覚えてたのか?」
マック「ちゃんと覚えてたよ! 当たり前だろ」
レイジ「でも日にちまでは、覚えてない?」

マック「覚えてるよ……でもどうせ誕生日には会えなかったんだから、祝える日でいいじゃん。
    俺は誕生日に云いたかったけど、会えなかったから今日に云いました」
レイジ「おまえは本当に自由だな。それで何で今頃、云うんだ?
    言うなら昨日、会った時に言うだろ。さしずめ忘れてたんだろ」
マック「違うよ。忘れてなんかいませんよ。ちゃんと云おうと思ってた。
    でも……その、レイジは顏見たら速攻だったし、俺も欲望に勝てなかったし、
    とりあえずやることヤッて、お互い落ち着いてから、言おうかなって」

レイジ「ああ……。おれたちは今さら高校生レベルの下半身のだらしなさだよな。
    脳ミソがもう精液で出来てた時期みたいだ。動物だって、こんなにサカらない。
    どうなってるのか、おれにもわからない」
マック「もうエロエロしく誘わないでくれよな。煽られたらまだできそうだから、俺」
レイジ「別に誘ってない。おれはもう、いい。さすがに満足した」
マック「すげぇ、満足したって? 満足させてしまった。マックさん絶倫ですよ!!」
レイジ「バカなのか。もう二度と満足したとは言わない」

マック「レイジ、何か欲しいものあるか?」
レイジ「欲しいもの? まさか今さらプレゼントなのか?」
マック「……ない、ですよね。オーナーさんは何でも持ってるよな」
レイジ「いや。そんなことはない。欲しいもの……そうだな……。
    ちょっとまてよ、考える。えーと」
マック「気を遣って無理やり思いつかなくてもいいよ。
    あんたは金で買えるものなんか、貰う必要ないもんな」
レイジ「そんな素気無いこというなよ。急には思いつかないだけだ」
マック「思いつかないってことは、今欲しいものはないってことだろ」

レイジ「拗ねるなよ。だったら、おまえは?
    おまえの欲しいものは何だ? 何が欲しい?」
マック「えっ、俺ですか? 俺の誕生日はまだ先だけど?」
レイジ「例えばどんなものかって話だよ。何かをやるなんて言ってない」
マック「ああそう。俺かー。そうだな、俺の欲しいもの?」
レイジ「そう、おまえの欲しいものだ。急に思いつけるか?」
マック「レイジの愛かなぁ」

レイジ「愛は持ってるだろ。なんせおまえは愛人なんだからな」
マック「アイはアイでも会う人で、会人なんじゃないの、俺?」
レイジ「そうなのか? そっちがいいなら、それでもいいけどな」
マック「うーん、どっちも似たような感じだけどなぁ……立場が弱いし」
レイジ「恋人って呼び名の方がいいか?」

マック「えっ……」

レイジ「どっちなんだ。おまえは恋人がいいのか」
マック「そりゃ、その方が断然いいけど……いや、そもそもレイジにとっての
    恋人って、どんなひとを指すんだ? どっちが良いかはその回答にもよるよな」
レイジ「どんな人って……。何の質問だ? おれは何を聴かれてる?
    一般的に具体的な恋人ってのは、どんな人だった? 何をするひとなんだ」
マック「はぁ? 何をする人って……、何かをする人なのか?」
レイジ「何だよ。おれが聞いてるんだぜ?」
マック「いい歳した大人が、恋人ってどんなひとなの〜?なんて、訊かねぇだろフツー」
レイジ「おまえだって、わからないんだろ」

マック「たぶん、茅野くんとやるようなことをするひとじゃねぇの……」
レイジ「キョウとすること? 仕事の打ち合わせ?」
マック「あのな。例えば……キスとか、しねぇの」
レイジ「たまにするな。そうだ、この間、した気がする」

マック「あー、してるんだ……。じゃ、セックスは? やっぱしてる?」
レイジ「してない。今年に入ってからはしてない」
マック「してないの? 本当? なんで?」
レイジ「おまえが、嫌がるからだろ」
マック「ええッ!」

レイジ「なんだよ。嫌だって云ってただろ。言わなったか?」
マック「レイジ、俺の言ったこと、守ってくれてるのか?」
レイジ「守るってなんだ。守るって、まるでそんな約束をしたみたいじゃないか。
    しないとは言ったが、そんなことを約束した覚えはないからな」
マック「いや、俺の勝手な希望をちゃんと聞いてくれたんだと思ってさ。
    確認するけど、俺が嫌がるからしてないのか?」

レイジ「そうだよ」
マック「じゃあ、なんでキスはしてんだよ? 茅野とキスはしてるんだろ」
レイジ「おまえが嫌だって言わなかったからだろ。キスもしないでくれと云ったか?」
マック「そうなの? 云わなかったから? 云わなかったからするのか?
    どこの反抗期の小学生だよ。だったら恋人同士がするような全部のことを、
    俺以外とはしないで欲しいって希望を云ったら、聞いてくれるのか?」
レイジ「バカなのか、話にならんな。おまえ、何様のつもりだ。
    いいか、おまえは愛人、鏡夜はおれの恋人だ。自分の立場をわきまえろ」

マック「充分、わきまえてるだろ! 別に文句は、言ってない!」
レイジ「ぜんぜん言ってるだろ、さっきから!!
    文句ばっかり言ってるじゃないか!? おれを束縛するような発言はやめろ!」
マック「そんなことはいっさい言ってねぇよ! 何で怒ってるんだよ?
    俺の希望の、些細なお伺いをたててるだけですよ!! それもダメなのかよ?!
    俺の自由発言を、レイジが咎める権利はねぇだろ!」

レイジ「……おれの誕生日プレゼントの話じゃないのか」

マック「うわ、そうだった! 脱線してた!!
    なんだよ。レイジが恋人の定義とかおかしなこと訊くからだろー」
レイジ「定義まで言ってない。おまえがしつこいから、はぐらかしただけだ。
    ひとのせいにするなよ」
マック「あのさ、恋するひとが恋人で、愛するひとが愛人だとしたらさ、
    恋人ってすげー立場、薄くない? 字だけで言えば愛人の方が全然いいじゃん」
レイジ「そうだな。愛人の方がきっと良い。そうだ、おまえは愛人で決まりだ」

マック「いやまてよ。危うく丸め込まれるとこだった。そうでもないかも。
    恋ってのはさ、最初のときめきがあるもんな?
    だったら恋人の方が、気持ち的になんとなく新鮮で良いものじゃないのかな」
レイジ「そうか? そうとも限らないだろ」
マック「そうだよ。ときめくだろ、恋。恋は焦らず、恋の片道キップ、恋は水色、鯉の活造り、
    恋って響きは、なんだか切ないよな……。オールディーズの真骨頂だからかな」
レイジ「何の話なんだ、鯉の活造りってなんだ。いい加減にしろ。何の話をしてるんだ?
    なんでいい歳した男が二人揃って、恋ってトキメクとか話してんだよ」
マック「だって、俺はレイジのこと考えると、トキメクもん」

レイジ「キモイ。キモ過ぎる。気持ち悪いことこの上ない。オカシイだろ。
    変過ぎる。脱線し過ぎだ。おまえの枕トークは、大概しつこい。うんざりする。うざい」
マック「なんかもう、レイジの子供じみた悪態には慣れましたよね」
レイジ「うるさい。もう寝るから、話しかけるな。おまえと会うと別の意味でも疲れる。
    愛人宅は安らぐものだろ、普通は。これじゃ全然、来る意味がないな」
マック「ひでぇ。そこまでは言い過ぎじゃないの。傷つくんですけど。
    だってレイジの欲しいものが無いからこうなったんだろー。
    じゃあ今度会うまでに何か欲しいもの、考えといてくれよな?」

レイジ「明後日からしばらく海外に行ってるから月末まで、会えない。
    何でもいいだろ。適当におまえが選んでくれたら、それでいいよ」
マック「えっ、そんなのヤダよ! 無駄な買い物をしたくねぇだろ!
    買ったらそれいらなかったとか趣味じゃないとか、そんなの嫌じゃん!?」
レイジ「はぁ? おまえ、意外に細かいことを気にするヤツだったんだな。
    堅実主義と云うかただセコイというべきか……。単なる貧乏性なのか。
    どちらかといえば、おまえはサプライズの方が好きなんだと思ってたがな」
マック「サプライズは好きだけど、確実に喜んで欲しいんですよ……俺はレイジにさ」
レイジ「そうだなぁ……。何か欲しいもの、な。
    おまえはおれに鏡夜をくれたから、他に欲しいものは別にないよ」

マック「えっ―――。 茅野が……レイジの欲しかったものなのか?」
レイジ「そんな顏するなよ。違う、そうじゃない。キョウは元々おれのものだからな。
    だから、ちょっと意味合いのニュアンスが違う。分かるだろ」
マック「分かんねぇよ。どう違うんだよ。あんたの欲しいものって、結局は茅野鏡夜か?
    だったらもう、その大事な茅野に祝って貰えてればそれでいいよな?
    さぞや楽しい誕生日を二人で過ごしたんだろうさ。俺のことなんか思い出さなかったよな?
    俺から欲しいものなんか、何ひとつないんだろうな!」
レイジ「なんだよ、また不機嫌に吠えるのかよ? 勝手にそう思うなら、もう自由にしてくれ。
    じっくり考えればどうだ、たまには。直情的に言葉を垂れ流す前に、先に頭で考えて話せ。
    おれに答えばかり求めずに、自分で意味についても考えればどうだ。
    誕生日プレセントはその回答でいい。そうだ、それに決まりだ。楽しみだな。
    おやすみ、ボウヤ」

マック「ええッ!? 無理難題!!」


photo/Do U like

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