恋はみんなのもの
05

登場人物:マック/ナルセ
場所:シックスティーズからの帰路




マック「うわ、外さむっ! めっちゃ冷え込むな、今日も……」

ナルセ「ああ、雪が降ってくるかもな……。積もるんじゃないかな、この感じだと」
マック「マジか。また積雪かよ。都会は案外、雪が多いんだなぁ……まいるよな。
    二月十四日つったら、もう立春だって過ぎてるのに。こんなんで意味あんのか、暦ってさ」

ナルセ「もう今日は日付が変わって、2月14日になるんだな。バレンタインだ」
マック「そうだな。明日っていうか今日のステージは、バレンタイン・ステージだな」
ナルセ「恋の歌をたくさんやるか」
マック「そうですねぇ……。ナルセさんは、いっぱいチョコとか貰いそうだな。モテモテだし」
ナルセ「マックだって、一個くらい貰えるだろ」

マック「なんと失礼な。いっこ以上、貰える予定だよ。見てろよ、てめぇ、最近のマックさまの人気ぶりを」
ナルセ「MCで笑われてる人気だろ。よかったな、MCのテロリスト発言が珍しくお客に受けて」

マック「…………否定はしないけど、結構、傷つく。だけどおいらはMCだって全力ですよ。
    だいたいなぁ、お前が喋らないから俺が頑張ってるんじゃないか。MCしねぇボーカルって、
    ふつう、どこの店もいねぇよ。シックスティーズだけだよ、寡黙なボーカルまかり通るの」
ナルセ「あれって、作り話だろ? アンコールしたまま、帰っていった客なんか、いないだろ」
マック「そしてまた人の話もスルーかよ……。あれは嘘じゃねぇよ。お前、知らないの?
    このとこ、よく来るおっさんだよ、名前は知らないけど。
    めちゃコールしてたくせに、アンコール曲がメリナのだってわかった瞬間、帰ったんだぜ。
    お前が昔、振った男じゃねぇの?」
ナルセ「ふうん、そんな人いたかな。やっぱアンコールは俺の曲じゃないとダメなんじゃないか」
マック「メリナのファンだっているんだから、5、1くらでいいだろ。独り占めすんなよ。メリにも歌わせてやれ」
ナルセ「いいけど。俺も休みたいから。それにしても寒いな。ちょっとスタンドで飲んで帰るか、マック?」

マック「ん〜、そうだな……。いや、悪いけど帰るわ、俺」
ナルセ「・・・・・・へぇ?」

マック「な、なんだよ? なんなんだよっ、感じ悪いぞ、斜め上から俺を見るなよッ?!
    ちょっとだけ背が高いからって、俺を見下ろすな!」
ナルセ「フフン、ナルセさまのお誘いを断ってまで、バレンタインに恋する誰かと会うんだな?」
マック「なななな、べべべつに、今から会うとか言ってないだろ!」
ナルセ「会わないのか? 今日、レイジはシックスティーズに来てなかったな。
    この頃、よく来てたのに。明日来るのか? バレンタインは明日のステージか?」
マック「そんなイベント好きなんかじゃねぇよ、レイジは……」

ナルセ「だけど、レイジとは上手く行ったってことなんだよな? 報告はないけど」
マック「……報告は、まだできる状態か、わからねぇからしてません」
ナルセ「なんで。今、付き合ってるんだろ? 茅野さんからレイジを奪えたんだろ、お前」
マック「そうとも言えるし、いえないかもしれない。レイジは、茅野に言ってないんだとさ」
ナルセ「言ってない? 店で毎日のように顔を合してるだろうにどうして言ってない?」
マック「そうだけど、あまり私的なことは喋ってないらしい」
ナルセ「そうなのか。でも、関係ないだろ、すでに二人の問題なんだし。
    レイジはお前に会いに来てるんだ、シックスティーズに、さ」
マック「……本当にそう、思う? ナルセの歌を、聴きにきてるんじゃないと思うか?」
ナルセ「勿論、俺の歌を聴きに来てるに決まってるけど、レイジは……
    …………やめた。よく考えたら、お前に言ってやる義理はないからな、別に」

マック「なんですか、それ」
ナルセ「リンなんかショック受けてるぜ。大事なレイジを盗られたみたいに拗ねてるし」
マック「盗られたって、レイジを? どうしたいんだよ、リンは……わかんねぇな、あいつ」
ナルセ「まぁ、あれは単なる僻みだな。オンリーワンの恋人ができたマックをただ妬んで拗ねてるだけ。
     俺だって、妬みたいよ。そんなにすぐ会える恋人が、近くにいるなんてさ。毎日でも会える。
     いいよな、マックはさ。そうさ、すぐ会えるのに、仕事場にまで会いにくることないよな。
     レイジにもう、シックスティーズには来るなって言おうかな」
マック「なんだよ、俺に八つ当たりすんなよ。そんなこと、レイジに云うなよ、絶対。
    だいたいナルセさまは、彼氏にはもう来週すぐ会えるんだから、いいだろ」

ナルセ「うん……そう、来週、帰ってくるんだよな、豪が。待ちきれないよ。すごく長かった」
マック「そうそう、愛しの彼氏のことでも考えながら、帰ってひとり家飲みしてろよ、な」
ナルセ「ま、豪が帰るのは来週なんだし、帰ってマックの惚気話でも聴こうかな、今日はさ」
マック「どういう意味?」
ナルセ「お前の家で飲もうぜ」

マック「はぁ?! 無理、むり無理! だめだって!」
ナルセ「どうしてだよ」
マック「どうしてって、ナルセなんか、家に連れて行けるかよ、マズイだろ!」
ナルセ「何がマズイんだよ? 俺が行くと、マズイ状態なわけ? 誰か待ってるから?
     それとも、俺と二人きりになるのが怖いのかな? そうか、俺の魅力にまだ惑っちゃうか♪」
マック「アホぬかせ、コラ! ふざけんな、纏わりつくなよ! なんだよ、おまえ!?
    どんなイヤガラセだよ、タチ悪いぞ! そんなこと、ありえ…………あ。 あれ?
    !! ……嘘だろ、マジか。……ヤバイぞ、ナルセ……おまえ、ピンチだぞ」

ナルセ「え? 何が……」






 豪 「やっぱり、おまえに不意打ちはやめた方が良かったようだな、ナルセ」



ナルセ「――――― 豪!?」




マック「……ですよね。ナルセの彼氏、だよな。帰国は来週じゃなかったのか??」
ナルセ「来週だって、昨日もメールくれたのに……早めて帰ってきてくれたのか?」


 豪 「おまえが、マックか―――」

マック「は? ……そうですけど。いきなり、おまえ呼ばわりとは、ちょっと頂けねぇよな。
    しかも初対面じゃないはずだぜ? 以前、同じステージに立った筈だけどな」
 豪 「そうだったかな。覚えてないな」

ナルセ「豪? どうしたんだ、おまえらしくもない……」
マック「なぁ、ちょっと、お前の彼氏、様子が変だぞ。殺意の気配がハンパないんだけど……」

 豪 「ナルセは解らなくもないが、あのレイジを手玉にとるなんて、あんたは、かなりの手練れらしいな。
    レイジにも手を出して、まだナルセとも遊びたりないのか。いったい、どういうつもりだ。
    それにひとつ、俺はあんたに挨拶しておくことがあるんだがな。過去の礼をさせてもらう」
ナルセ「礼? 待てよ、豪……! 落ち着いてくれよ、マックは……」

マック「はぁ? いや、なんか誤解してるよ、あんた。もしかしてさっきの場面、勘違いしてないか?
    ナルセが俺をからかっただけで、あれは別に全然、その、ええと、―――!?」



    ド カッ ・ ・ ・ ・


マック「、、、ぅッ…… 」


ナルセ「――――豪ッ!!











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