恋はみんなのもの
02

登場人物:アキラ/サワ
場所:深夜営業のカフェバー





アキラ「それじゃ、お疲れさま!」

サ ワ「オツカレ! ……くう、仕事あとのビールが一番うまいよな〜」
アキラ「こんな時間に飲むと、あとが大変だけどな」
サ ワ「おまえ、ぜんぜん太らないじゃんか。俺は用心しないとすぐ、くるんだよな。
    けど、うちに居た時と全然かわらないよな、アキラって。羨ましいよ。スタイリッシュな王子様?」
アキラ「やめてくれよ。王子様キャラはステージだけだって」
サ ワ「……そうだな。王子というより、アキラは優しい騎士みたいだ。コリンズは最近、どう? 慣れたか?」
アキラ「悪くないよ。ただ、メインボーカルが少し前から抜けてさ。男性ボーカルがいない編成でやってる。
    実質、ギターボーカルの俺がメインみたいなものかな。みんなそれぞれがセブンレイジィみたいに歌えるけどね」
サ ワ「だけど、ナルセとメリナのレベルがいないバンドじゃ、迫力はないよな。お前も相当歌える方だけど」

アキラ「それはしょうがないよ。ナルセさんレベルのボーカルはそうはいないし、メリナのような歌姫は他のとこにはいない。
    それだけでシックスティーズは最強だけど、でもうちはちょっとずつ、他ではやらないような曲や、
    70年代ソウルも増やして他の店とは差別化してるんだ。マービン・ゲイのワッツゴーイングオンも近頃、人気ソングだ」
サ ワ「老舗のコリンズであれをやってるのか? 珍しいな。でも良い曲だよな。一体感があって、愉しくなる。
     でもうちも増えてきたよな。70年のディスコソングとか、80年代もこの頃、多い」

アキラ「どこも60年代までのオールディーズだけでは続かないよな。その点、それをメインでやってるシックスティーズは凄いんだろうな。
    でもアルーシャも評判いいよ。サワの人気も凄いしな。同じようなジャンルをやり始めたら、お客さんから噂も聴こえてきた。
    ちょっと張り合うよ。サワはアースやスタイリスティクスが得意だし、あの高音を出せるボーカルはちょっといないからさ」
サ ワ「俺にライバル視かよ? けどそんな歌の人気が凄くても、なー」
アキラ「なんだよ? 人気があるのに不満?」
サ ワ「そうさ。潤いがないよ。今の俺、一仕事終わって、一目散に逢う恋人もいないんだぜ?
     なんというか、ちょっとだけご無沙汰が続いてるんだよな。色々あって……」
アキラ「悪かったな、仕事終わりの相手が俺で。でも俺っていつも何故かそういう役割なんだけどね」

サ ワ「お前はさ、アキラ。凄くいいひとなんだよ。だから皆に愛されるんだ。アキラを嫌いな奴ってみたことない。
    この世界で最初から最後までいいひと、なんてのお前くらいだよ、きっと」
アキラ「最後って。どういうんだよ、それ。(笑) 俺はまだ終わってないけど?
    だけどさ、いいひとって言うけど、そんなの褒め言葉なのかな?」
サ ワ「褒めてるよ! もちろん。世の中にはいいひとがいないと、嫌なヤツと悪いヤツだらけになるだろ。
    俺は最近、騙されてさ、もう誰も信じられないんだ。でもアキラはいいひとだから、信じてるぜ」

アキラ「騙されたって? それはサワらしくないよな。何かドラブルか?」
サ ワ「そうだ。お前もさ、知ってたんじゃないだろな? 反対してたよな、そういえば」
アキラ「何が? 反対って?」
サ ワ「マックとのことだよ」
アキラ「! ……それは、マックさんはだって、違う人が好きだから……」
サ ワ「レイジさんだろ、知ってる」

アキラ「え……! そこまで知ってるのか? まさか本人に聞いた?」
サ ワ「あんまり俺がしつこいんで、マックが諦めて白状したんだ」
アキラ「ああ。なんか、わかるな。サワはしつこいからな(笑)」
サ ワ「笑うとこじゃねぇだろ。酷いな、アキラもやっぱ悪者なんだな」
アキラ「いや、ゴメン。だってまさかと思ってさ。サワにまで云っちゃうなんて、よほどテンパってるんだな」
サ ワ「最初は、言わなかったんだ。相手に迷惑がかかるってさ」
アキラ「だけど、マックさんは最後、面倒になっちゃったんだろうな。様子がわかるよ」

サ ワ「マックがレイジさんに惚れるのは俺だってわかるよ? だって、レイジさんは素敵だよな」
アキラ「そうだな。彼は本当にカッコイイよ。認める」
サ ワ「だけど、身の程ってのがあるだろ。彼にマックは高嶺の花以外の何でもない」
アキラ「まぁ、普通はそう考えるだろうね。でも気にしないのが、彼の面白いとこだよ」

サ ワ「それでも叶うわけないなら、俄然俺の有利だって思ったんだ。一瞬な。
    でも、すぐに意外な辻褄があったんだ。ビビッとな。ああ、そうかって。腑に落ちたっていうかな」
アキラ「辻褄? なんの」
サ ワ「俺さ、鏡夜さんと、ピアノマンの鏡夜さんと寝たんだよ」
アキラ「……そう、なのか? バーテンダーの茅野さん、のことだよな?」
サ ワ「そう。アキラだから云うんだぜ。お前は言いふらさないだろ?」
アキラ「そっか……彼を落としたんだ、サワは」

サ ワ「いや、どちらかといえば、ハメられたんだけどな。甘い罠、だったんだな、あれってさ」
アキラ「罠?」
サ ワ「彼はさ、たぶんマックをレイジさんから放そうとしたんだよ。それで、その役を俺にけしかけたんだ。
    もし俺がマックを落とせたら、ご褒美をくれるってな。凄いよな、わが身を差し出しての勝負だぜ?」
アキラ「まさか。そんなことをサワに頼んだりしないだろ、あのひとは。
    まてよ、ご褒美をもらったってことは、サワはマックさんと……寝たのか?」

サ ワ「違うんだな、それが。何故か失敗しても、慰めてくれるって云うんだよ。
     俺に断る理由はないだろ? 鏡夜さんは、高級品だ。俺には得ばかりで、ちょっとそこが変だとは思ったけど」
アキラ「どんな想いで、それほどまでの画策をしたのかな……彼は」
サ ワ「さあね。あの人は、悪魔みたいに魅力的で、ちょっと恐かった。だから、俺から降りたんだ。
    でもその悪魔が困るくらい面倒なことになってたってことだろ。他人を使うくらいなんだから、余程だよ。
    それで考えるとさ、あの二人は……案外、マックにはレイジさんは高嶺の花じゃなかったのかと思ってさ」

アキラ「茅野さんが焦るくらいだから、うまくいき始めてると思うのか?」
サ ワ「お前、その辺どうなのか知ってるのか? アキラ?」
アキラ「知らないよ。マックさんが彼を好きなのを知ってただけ。
    だけど、レイジさんの気持ちは知らないから、その辺はわからないな」
サ ワ「全然、似合わないと思うんだけどな」
アキラ「そうかもね。でも恋なんて、似合う似合わないじゃないだろ」

サ ワ「アキラって、今付き合ってるヤツ、いるの」
アキラ「今? ……いない、かな」
サ ワ「おっと、妙な間、だったな。さてはお前も失恋組か?」
アキラ「そんなんじゃないよ。サワは、それでマックさんを完全に諦めたんだ」
サ ワ「うん。きれいさっぱり諦めた。降参しました。あんなふうに……断られたら、な。
    羨ましかったよ、レイジさんが。これでも、ちょっと本気だったんだよ、俺。マックが好きだった」
アキラ「本気だったのか?」
サ ワ「ま、ね。だけどレイジさんとマックが上手く行ってるんなら、もう敵わないだろ。
    いくら俺でも、レイジさんに勝てるワケないからな。リタイヤするよ」
アキラ「そうか。サワの失恋は気の毒だけど、ちょっと安心したよ。
    俺はさ、マックさんの恋が叶えばいいと思ってたし、レイジさんも誰かを本気で好きになってくれたらいいってずっと思ってた」

サ ワ「アキラは人の恋路の心配ばかりか?」
アキラ「バカバカしいかな? でも、マックさんの恋煩い状態を見てたらなんだか羨ましかったし、応援したくなった。
    レイジさんには、あのひとには、もっと真剣に生きる気力を見つけて欲しかったし、苦しみを和らげるものに出会って欲しかったんだ。
    それがマックさんによって得られるのなら、俺は二人を応援したいと本気で思ってるんだよ」
サ ワ「ふーん。なんだか、むず痒いな。大袈裟で優等生ちゃんな答えだな。だけど、
    お前を知らないヤツなら、何だか偽善ぶった食えないヤツだと思うだろうけど、アキラは本音でそう思うヤツだよな」
アキラ「レイジさんのことを知ってる人間なら、みんなそう願うはずだ」

サ ワ「俺は三浦店長の語るレイジさん像しか知らないけど、まぁ色々とありそうな人ではあるよな……。
    本当か嘘かわかんねぇようなダークな話、満載だぜ? マックは知ってんのかなと思うけど、事実とは限らないしな」
アキラ「その辺はどうかよく分からないよな。
    でもサワはもうちょっと誰か本気でつきあってみたらどうだよ?
    お前の噂、結構ヒドイからな。どこかで噂を聴いてもホローしきれないよ」
サ ワ「ははん。俺と一緒に飲んでると、お前も疑われるだろうな。なんせ、サワは美形好きのヤリ魔だからな」
アキラ「それでいいのか?」
サ ワ「何が? 云う奴には言わせとけばいいんだ。半分、本当だし、あとは俺と寝られない僻みだよ、どうせ」
アキラ「お前って強いなぁ……」
サ ワ「ボーカルなんて、そんなもんさ。俺サマ一番。ナルセだって、お高くとまってるよな。悔しいくらいだ。
    おっと、お前も一応、ギターを抱いたボーカルなんだっけ? 楽器ができる奴はまた違うかな」
アキラ「まぁね。でもそういう傲慢さが、俺には足りないんだよな。上辺だけ高飛車を演じても、すぐばれちゃうからな」
サ ワ「アキラはいいひとだから、気遣いが滲み出ちゃうんだ。俺みたいになるには無理だよ、無理」
アキラ「どうしたら、少しはお前みたいに強くなれるのかな。サワもナルセさんも、自信に満ちててカッコイイよな」

サ ワ「性格だよ、性格。それか、俺といっかい、寝てみたらどうだよ。
    ちょっと世界観が変わるかもしれないぜ?」
アキラ「俺を誘ってるのか?」
サ ワ「そう。アキラはイケメンだから、41で一緒にやってた時から気になってたけど、ただ……」
アキラ「ただ? そういや、サワがそうだって分かったとき、なんで俺は口説かれないんだろって思ってたよ。
     でも噂だけは、俺たちすっかりイケナイ関係、だったみたいだけどな。(笑) お前のステージでのからみ具合のせいでさ」

サ ワ「まぁ、そういう色気のある噂作りも、けっこう重要だからな。サービスだよな。そういうの喜ぶ女もいるだろ。
     ……うーん、でも何でだろうな。アキラって、アレなんだよなァ……」
アキラ「アレってなんだよ。いいひと過ぎるというのか? その気になれないとか、色気がないとか?」
サ ワ「いや、なんつーか、ね。……どっちなのかなって」
アキラ「どっちって?」
サ ワ「俺はマックとレイジさんでも、どっちがどっちなのかなぁと思ってるんだけどさ……マックとレイジさん同じ目だからな」
アキラ「サワはマックとは、どっちでしたかったんだ?」
サ ワ「そりゃ俄然、マックには抱かれたかったよ。そういう眼だもんな、彼氏」
アキラ「どういう目?」

サ ワ「食われてみたい、眼。マジに間近で見つめられたらちょっと動けなくなるよ。
    だから同類なら、眼力で負けた方が食われると思うんだよな」
アキラ「それ、俺に当てはまるわけ?」
サ ワ「いや逆な感じ。似て非なる……アキラは、そういう点で、わかりにくかったんだ。どっちでもないから」
アキラ「……要するに、俺ではサワの食う、食われるの食欲はわかなかったってことなんだ?」

サ ワ「や。そういうわけじゃ……。
    ふと、欲望が沸く瞬間ってあるだろ。だけどたまに、そういうのに縁がない人物が……リンとか……
    あ。ゴメン。アキラがそうだって言ってない。……言ってるか?」
アキラ「どうせ、ね。俺って男にモテないんだな……なんでだろ」
サ ワ「拗ねんなよ、アキラ。だからさ、俺が抱いてやろっか? 恋はみんなのものだしさ。
    アキラもきっと、なんかしらの色気が上がるよ、たぶん……うーん、どうかなぁ……アキラだしな」

アキラ「こっちでお断りだよ。でもサワは俺とリンさんに迫られたら、その軽い性癖が治るんじゃないのか?(ー_ー)」
サ ワ「うわ。ぜんぜん治したくないな。遠慮しとくよ。やっぱ、アキラとリンは、ねぇな……」

アキラ「リンさんは結構良い男なのに、何で駄目なんだよ? つきあい長いんだろ?」
サ ワ「……リンかぁ? そんなに長くもないぜ。でもリンは、なんかあいつは、友達だよ。悪友の部類?
    あいつも良いヤツだけど、でも女に軽いからな。俺に負けない軽さだったけど、ちょっとこのとこ自重してるみたいだな」

アキラ「そっか、悪友、なのか。リンさんもちょっと真剣に恋愛について考え出したんじゃないかな」

サ ワ「あーあ、真剣な恋愛をしないと、俺にも恋の未来はないのかもな。でもまだ遊びたいよな、俺は。
    でも時々さ、なんか一途なマックが羨ましい感じするんだよな。レイジさんとは上手くいってんのかな……。
    鏡夜さんを振って、マックとか考え辛いけどな。でもまぁ……マックも、いいもんな」
アキラ「そうだな……。でも茅野さんの方が心配だよな。マックが上手く行くなら」
サ ワ「あれ。アキラってちょっと鏡夜さんのこと、気に入ってんのか?」
アキラ「え、そうでも、ないけど……」
サ ワ「あーやしいな。でも正直、あのひとは、ちょっとお前の手には負えないと思うぜ。
    俺らとは、世界が違う感じだ。なんせ、レイジさんの右腕だし」
アキラ「そうかもしれないけど、だけど、結局それならマックさんだって、そうじゃないか。
    恋に世界は関係ないのかもしれないだろ」
サ ワ「そうかねぇ……。だと、いいけどな。ま、本気なら頑張りな、ナイトさま。応援してやるよ」
アキラ「いや、別にそんな風でもないって。例えばの話だよ……そんなじゃ、ないから別に」
サ ワ「ハイハイ、ナイト様がそういうなら、そういうことにしときますか♪ みんなの恋に、乾杯だな」








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