見上げてごらん夜の星を

☆5☆彡




レイジ「おれだ」

鏡 夜「お疲れさまです」
レイジ「鏡夜、もう店は閉めたのか?」
鏡 夜「はい。先ほどクローズしました。ゲストもすでにお帰りになりました」
レイジ「急に任せて悪かったな。特に問題はなかったよな?」
鏡 夜「はい、問題ありませんでしたよ。スムーズに取引は成立しました」

レイジ「そうか。やはりおまえは頼りになるな、鏡夜。
    ラディスとのやりとりは、今後はおまえに任せられそうだな」
鏡 夜「ええ、お任せ下さいと言いたいところですが、若社長はあなたが来なかったので、
    少々、拗ねておいででしたよ。彼はあなたをとても慕っていますね」
レイジ「は、頭でも撫でといてやれば良かったんだ。先代のわがまま息子だよ。
    それでもおれの言うことは聞くように親父からキツク言われてるんだ。
    無邪気なイタズラ子犬みたいなものだ。あとで電話しておくよ」

鏡 夜「頭を撫でるより、もっと淫靡なサービスを要求されました」

レイジ「―――おまえ。まさかそっちのサービスをしてやったのか。
    もうそんなことはしなくていいと、おれは言わなかったか?」

鏡 夜「彼は、以前から私を弄るのが好きでした。私が好きと言うより、
    あなたのモノを勝手に弄って、怒られたいだけなのかもしれませんけどね。
    あなたがこの場所にいなかったので、余計に嗜虐心を煽られたのでしょう」 
レイジ「何をされたんだ。言っとくが、同情はしないぜ。
    その気もないのに黙ってさせてやるようなおまえでもないだろう」
鏡 夜「そうですね。私にその気がなければ、ね。髪の毛の先でもお断りです。
    でも私も彼は嫌いではありませんので、たわいない遊びに付き合いました。
    取引の間に何かしら私を辱めるのが、彼は好きですから。
    テーブルの下で、ジッパーを下し私のを引き出して弄ぶだけの遊びです」
レイジ「それはまた、厳粛な取引に破廉恥なことだな……。
    奴の部下に見られそうになりながらそんなことをされるのは、興奮したか?
    もっと具合的に話してみろよ、キョウ。おまえの敏感な、どこを弄られた?」

鏡 夜「彼は私の……、下着の中から私の鬼頭と返しの括れを指先だけで丹念に擦りました。
    ゆっくりと撫でられて、凄く感じました……
    敏感なところです。意識がそこだけに集中する。彼は愉しんでいました。
    私の乱れる声が、わずかに漏れましたが、許してくれませんでした。
    ネチネチと私のものを、長い時間、ただ指でゆっくり責めたてました……」
レイジ「おまえのは、いやらしい形をしているからな。指も誘われるんだよ。
    すぐに先走りが濡れて、卑猥な音も漏れはじめたんだろう?
    声も、音も、滴も漏らして、おまえは垂れ流しのされるがままの性奴隷だな。
    何度も繰り返し、指の腹で擦られたか? 鈴口まで弄られて爪を立てられた?」

鏡 夜「あ……、そう、です。繰り返し、繰り返し、指が……私を弄りました。
    私の、そこだけを、あのひとは責めたててきました……ふ……ッ……」
レイジ「どんな風におまえは乱れた? 今も、いっぱいに張りつめて疼いているんだろう?
    自分で触ってる? 気持ち良いか? ……濡れてきた? イキたいか?
    触れているのは、おれだと想像したか? おまえのを愛撫してたのは、おれだろ?」
鏡 夜「はい、そうです、あなただった……あなたの指です……レイジさん……」
レイジ「舌はどうだ? おれの熱い舌は、感じる?
    いやらしく涎を垂らしてるそれを舐めてやろうか。……おまえの味がする。
    舌先で、いつもみたいにおまえを苛めて焦らしてからにするかな、鏡夜」
鏡 夜「あゝ、レイジさん、嫌……イカせて……イキたい……ハァ……もう、ダメです……
    ……ハァ……ア、アァッ!」



レイジ「…………おい。
    まさかもうイッたのか? 早すぎないか? 嘘だろ。これからなのに……興ざめだ。
    わざとか。そうか。おれの居ない間に、浮気するとはな。
    しかもおれにテレセックスまで要求するとは、おまえは本当に悪い子だよな」

鏡 夜「だってあなたが始めたんでしょう」

レイジ「だって、いきなりおまえが煽ったんだろう?」
鏡 夜「私は事実を話しただけです。ラディス社長は本当にしつこいですからね。
    あなたも私と一緒に今、イケば良かったのに。もう私ではイケませんか」
レイジ「もっとゆっくりやりたかったんだがね、おれは。
    酒でも飲みながら、じっくりおまえをいたぶりたかった……」
鏡 夜「どうでしょうね。もう絞り出す液体など体内にないのではないですか?
    使いすぎたんじゃないですか。急な出張先のホテルでね」

レイジ「その言い方じゃ、もうばれてるんだよな」
鏡 夜「……誤魔化すかと思っていました。正直に言うおつもりですか?
    ばれてるなんて言わないで下さい。そんなことは聴きたくない」
レイジ「でも事実だからな。告白すると、出来心で浮気した」

鏡 夜「開き直ってるんですか? 呆れましたね。
    あなたは約束を破ったんですよ。私だけだと言っておきながら。
    でも、私はレイジさんを責める立場にありません。だから今回は問題にしません」
レイジ「何故だ? おまえは浮気したおれをもっとなじっても良い筈だぜ?
    もう恋人なんだからな。そういう立場だろ? どうしてもっと怒らない」
鏡 夜「私もラディス社長と浮気しました。お互い様です」
レイジ「……寝たのか?」

鏡 夜「いいえ。お誘いはしましたが、断られました。
    あれだけで彼は満足なんです。彼が本当に好きなのは、あなたです。
    私に構うのは、あなたの注意を引きたいだけですから」
レイジ「おれはラディとは一度も寝てないぜ? そんな告白も聴いてない」
鏡 夜「では、そういう好きではないんでしょう」
レイジ「どういう好きなんだ?」
鏡 夜「それは私も知りたいですね。それこそどういう好きなんでしょうね。
    あなたにとって、シックスティーズのベーシストのことは?」

レイジ「……相手も御見通しか。悪かったと思ってるよ、キョウ。ただ、魔が刺したんだ。
    疲れてて、ちょっと溜まってたし。ベッドの誘いには拒否できなかった。
    本当にセックスだけは上手いんだ、小僧は。理性で勝てない誘惑はあるだろ?
    でも別にあいつに会いにきたわけじゃないぜ? おれはシンちゃんに会いに来た。
    本当にこれは偶然なんだ。偶然、予定が重なっただけなんだ」
鏡 夜「そうでしょうね。工芸フェアには、必ずあなたが行くのですから。
    別に言い訳なんてしなくていいですよ。あなたらしくないですね」
レイジ「そうだよ。おれが行かないとダメなんだ。シンちゃんの近況も聴きたかったし……」

鏡 夜「わかりました。その話はまたいずれ。何か良いものはありましたか?」
レイジ「ああ。あった! いくつか送っておいた。リストもメールしておくから、照合してくれ」
鏡 夜「はい。それで伸二さんは、お元気でしたか?」
レイジ「すごく元気だったよ。おまえに会いたがってた。会いにいってやれよ」
鏡 夜「私に彼に会いに行けと言うんですか?」
レイジ「会いたくないならいいけど?」

鏡 夜「伸二さんは、おそらく私が好きだと思います」
レイジ「うん。知ってる」
鏡 夜「それなのに、私に会いに行けと?」

レイジ「深い意味で言ったんじゃない。そんなに食ってかかるなよ。何なんだ」
鏡 夜「厄介払いがしたいのなら、言って下さい」
レイジ「そんなこと言ってない! いい加減にしろ、怒るぞ!」
鏡 夜「すみません。ただ、私は少し怖いんです……レイジさんの行動が私を不安定にさせる」
レイジ「そうだ、キョウ、悪かった。おれが怒るとこじゃないよな。
    おまえがもっと怒っていいんだ。そうだ。当然の反応だ。もっとおれを責めていい。
    おれが悪いんだからな。おれを甘やかして、簡単に許すなよ」
鏡 夜「許すなんて……許すようなこと、私の立場ではありません」
レイジ「そんなことはない。怒らないと、良いんだと思っておれは調子にのるだけだぜ?
    このまま、ボウヤどころか、他のヤツとも浮気を始めるかもしれない。
    おれはエトーに似てきたんだ。エトーのやったことをやりだすかもしれない。
    だからおまえは、エトーが他所で誰かと好き放題していたことを、
    おれが黙って赦していたように赦すな。昔のおれのようになるな。
    理解がある振りなんかしなくていい。おまえの気持ちを云え。
    正直に、浮気するなと言ってくれ」

鏡 夜「レイジさん。恐らくあなたは思い違いをしていると思います」
レイジ「……何?」

鏡 夜「私は今、あなたの恋人だと思っています。身の程知らずですけど」
レイジ「何で身の程知らずだ。おれもそう思ってるよ。思い違いなんかしてない」

鏡 夜「でも、あなたがもう恋人の名を下げるといえば、もう違うんです。
    私は恋人ではない。その決済権はあなたにあります。決して対等ではありません。
    そして……私はそれを下されたからと言って、あなたの傍を離れることは
    ありませんよ。あなたが二度と顔も見たくないと云うなら別ですが。
    私はそうなってもあなたの部下として傍にいて、許された全てを全うします。
    だから心配なさらなくてもいい」
レイジ「それは、ありがたいな……でもそんなことはどうでもいい。
    おまえがいてくれて、おれは凄く助かっている。仕事もプライベートもだ。
    いいか、おまえはおれの恋人でもあるんだから、これに関しては対等だ。
    正直に気持ちを言ってくれると、助かる」

鏡 夜「わかりました。今後はそうします。
    でも、覚えておいてください。私の言ったことは嘘じゃありません」
レイジ「……ああ。分かった。おまえはおれより遥かに強いよな。
    だったら気がずいぶん楽になったよ。心配もない。これでいいのか?」

鏡 夜「本当にお疲れなんですね。早く寝て下さいね」
レイジ「バカ。おまえのせいで、気が高ぶって眠れやしねぇよ。
    次に電話で勝手にヤリ出すときは、おれを置き去りにするな」
鏡 夜「承知しました。続きは帰ってからして差し上げますよ」

レイジ「明後日には帰る。なぁ、おれはおまえを愛してるぜ、鏡夜……。
    あれだけでこんなに疼く。早く帰って抱きたい。だから、大丈夫だ」
鏡 夜「嬉しいです。私もあなたを愛しています。ずっとあなただけでした」

レイジ「……いいか、おれを赦すな。浮気なんか赦すなよ」
鏡 夜「では、お仕置きでもしますか? 道具を使うような?」
レイジ「……いや。そういう意味でもないけどな。そこまで望んでないし、そんな趣味もない」
鏡 夜「そうですか、残念です」
レイジ「待てよ、残念なのか? 何が? おれを道具でお仕置きできないことが?」
鏡 夜「違います。希望があれば、どんな要望にでも応えるのにということです」

レイジ「あのな、おれはおまえのそういうとこを、どうかと思うんだがな。
    ちょっとついて行けないというか……頭痛がしてきた……。
    おれのまわりはヘンタイだらけか」
鏡 夜「類は友を呼ぶんですね」

レイジ「もう黙って寝てろ」





photo/真琴 さま

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