DESPERADO
 〜デスペラード〜

※この作品はLove Potion Number 9 の続編になります

01
2月10日 深夜のナイトカフェ

登場人物:マック/アキラ


マック「アキラ、こっちだ! お疲れさん」

アキラ「マックさん、すいません。待ちました?」
マック「いや、そんなに待ってねぇよ。大丈夫だ、気にすんな」
アキラ「今日はありがとうございました。本当に来てくれるなんて思いませんでした。
    シックスティーズは今日、貸切ですか?」
マック「いいや、ヘルプ頼んできた」
アキラ「はぁ? まさか俺のライブ見るのにシックスティーズ、休んだんですか?」 
マック「いや、まぁ、ちょっと風邪的な……?」
アキラ「一体どうしたんです。そういや、話があるって言ってたけど、何か深刻な話ですか?」
マック「いや、別に深刻な話じゃないんだけどな……煙草、吸っていいか?」
アキラ「どうぞ。店を休んでまでって、十分深刻でしょう?」
マック「違うよ。たまに息抜きくらい、いいだろ」

アキラ「まぁ、そういうことにしましょうか」
マック「……あのさ、いきなり本題で悪い。率直に聞くけどな。
    その……。お前って、あいつと、寝た?」
アキラ「本当にいきなり率直ですね。
    あいつって……。ああ……そういうことですか。なるほどね。まだですよ」
マック「えっ、そうなのか? 本当に?」
アキラ「そういうマックさんこそ、寝たんでしょ?」
マック「ええっ!! な、な、なんでそのことを知ってるんだ?!」

アキラ「そんなに驚かなくてもいいでしょう。リンさんが言ってたじゃないですか」
マック「ええええッ!? まさかもう、リ、リンまで知ってるってのか?!
    ウソだろ……なんてこった。ナルセのやつ、どこまで口が軽いんだよッ」
アキラ「ナルセさんは、言ってませんよ?」

マック「えっ、あいつが言わなくて誰が?! ま、まさか、レイジが……?!」
アキラ「レイジさんは、別に興味ないと思いますよ」
マック「きょ、興味ないって?! 興味ないって、そう言ってた??」
アキラ「知りませんよ。ちょっと落ち着いて下さい。動揺しすぎですよ。
    だけど、俺、そのことでは頭にきてました。マックさんに先を越されてた、なんてね」
マック「えっ、マジで? マジでそんなに思い詰めてたのか、お前??
    ……そうか、そうだよな。知らないのはいつも俺だけなのか。
    お前の方がつきあいは長いんだもんな。そうとは知らなくて、軽率で悪かったよ。
    そういや前のクリスマスには、お前が狙われたって聞いたしな……。
    だから、確認しときたかったんだ。お前の心情はどうなのかってこと」

アキラ「クリスマスに? 俺を狙ってたって、彼が言ってたんですか?」
マック「いや、本人から聞いたんじゃないけどな……」
アキラ「……まぁ彼らしい言い方ですよね。誰にでもそうみたいだし。
    気のある振りばかりして、人の反応を見て楽しんで。
    クリスマスにだって、そりゃ隙はあったでしょうけど、俺はいつだってかわされて、
    拒否されてたんです。タイミングだって言われたけど、本当はからかわれてただけですよ」
マック「そうなんか……そんなに、誰にでも……?」
アキラ「だから本当にいつの間にって感じでしたよ。マックさんのこと。
    本当、ノーマークでした。意外に手が早いですよね?」
マック「否定したいが……否定できねぇよな。
    で、本題なんだけどな。お前はやっぱり本気、なのか?」

アキラ「本気かって? もちろん本気だけど……もう勝てそうにないですから。
    彼の本命の恋人が相手じゃ、絶対に無理ですよ。諦めます」
マック「そうかもしれないけど……それだけで諦めるのか?
    その相手の恋人はもう近くには、あいつの傍には、いないんだぜ?」
アキラ「そりゃ、近くはないですけど。俺は諦めてますよ。すでに」
マック「そうなのか? もう諦めてるのか? どうしてだよ?
    本気なんじゃねぇのかよ?」
アキラ「だってナルセさんは、もう浮気はやめたらしいし、チャンスなんかない」

マック「―――は? ナルセ?」

アキラ「ええ、やめたんでしょ。ナルセさん、病的だった浮気を。
    マックさんとだって、だからもう寝てないんでしょう?
    この前ヘルプで入ったとき、もう豪さんとだけに決めたって言われたんです。
    今後は浮気をやめて、離れててもアメリカにいる豪さんと、ちゃんと向き合うってね。
    だからもう、俺の入る余地は完全にありませんよ」
マック「……ナルセ?? 何でナルセの話?」

アキラ「だから、ナルセさんの話でしょ?」
マック「は? ちげーよ? ナルセのことなんか話してないけど、おれ?」
アキラ「えっ……あいつって、じゃあ、さっきから誰のことなんですか?
    てっきりナルセさんのことだと思って、俺は話してましたけど……。
    以前、俺の送別会の時にリンさんが、マックはナルセとやったよなって、
    暴露したじゃないですか。だからマックさんに先を越されてショックで。
    マックさんは、あの時ちゃんと肯定はしなかったですけど……」
マック「えっ、あれ?!
    あの話のことだったのか?! だから……リンか!
    あぁぁーーー、アレね、アレか!! そう、ナルセだよ!
    おれはそう、ナルセとヤリました! やっちゃってます!」

アキラ「……他に誰とやったんですか、マックさん」

マック「うわッ、ヤブヘビ来た。今の話は忘れてくれ、な? ダメ?」
アキラ「ふざけないで下さい。ダメに決まってるでしょう。
    ここまでミスリードしといて、話さないなんて無しですよ。
    話をもとに戻しましょうか……さぁ、白状してください」
マック「うーわー、お前ってそんなイヤな笑みができる奴だったか?
    変わったよ、お前……。イケメン爽やか王子サマの名が泣くぜ?
    女の子のファンがキャーやめてって泣くぜ? いいのか?」

アキラ「何とでも。俺だってクラブアルーシャで、
    営業フェイスを思いっきり仕込まれましたからね。
    あの店はシックスティーズと違ってテーブルも結構回るし、
    個別にお客さんにメールもするし、ファンサービスが多かったんですよ。
    枕営業こそないですけど、どんなスマイルでもできますよ」
マック「やなミュージシャンだな……お前。
    なんてこった、すっかり他の店で擦れちゃったんだな、アキラ……。
    お前は正直で爽やかなイケメンボーイだと思ってたのに」
アキラ「そんな話、どうでもいいですよ。
    マックさんは、あいつと寝たのかって、俺に聞きましたよね?
    あとクリスマスの話……それから、他に名前が出たのはリンさんとレイジさん……。
    え、まさかリンさんじゃないですよね?!」
マック「……リ、リンは、ない」
アキラ「そうですよね。リンさんはノーマルだし。じゃ、レイジさん?
    じゃないですよね? まさか、レイジさんじゃないでしょうね?」

マック「い、いや。そんなわけないだろ。誰とも寝てないって」
アキラ「俺はナルセさんだと思ってたから、そのつもりで聞いたら、
    マックさん、何で知ってるんだって、言いましたよね?」
マック「うう……ッ」

アキラ「そうか……レイジさんに、ヤラレちゃったんだ、マックさん」
マック「え。や、やられては……いないけども」
アキラ「そうなんですか? 未遂に終わったってことですか。
    でも寝たって言うからには、だいたいのことはしたってことですよね?」
マック「だ、だいたいのことなら、したかも」
アキラ「呆れたな。レイジさんは危険そうだから、そんな簡単に落ちちゃダメですよ」
マック「そ、そうだね、ホントにそうだよな」
アキラ「だけど、何で俺が寝たかどうかなんて、聞こうと思ったんですか?
    クリスマスに口説かれたとか、そういう話からですか?」

マック「お前は寝てない……んだよな?」
アキラ「もちろん寝てませんよ。あまりに敷居が高いですからね。
    でもクリスマスに限らず、誘われたことは幾度となくありますけどね」
マック「あるのか?!」
アキラ「ええ。冗談っぽくですよ。あの人ってそうでしょ? いつも誰にでもそうだ。
    まさか、知らなかったとか言いませんよね?」
マック「え。えーと、まぁな……」
アキラ「でも誘いを本気にしたり、そんな危ない駆け引きに誰も乗ったりしませんよ。
    だって、あの人の心の中には、動かせない大事なひとがいるし、
    何だか仕事が危険そうだし」

マック「だよな。危険なんだよな? マジで。暗黒街だろ?」
アキラ「ただの火遊びならいいかもしれませんけど、レイジさん凄くカッコいいから、
    本気でハマったりすると、あとが怖いじゃないですか。報われるとは思えないし。
    ヘミでさえ、あれだけ口説かれても、寝たりしてないでしょ?」
マック「ヘミか……。ヘミもそうなのかよ」
アキラ「いや、ヘミはどうなのかな……分からないな。レイジさんはゲイのはずだけど。
    ヘミは別なのかも。もしかしたらヘミはもう、寝たかもしれないですね。
    女性と男性は感覚違うだろうし。でも、本気になったりはしないでしょうね」
マック「やっぱ、レイジの誘いは断固拒否るものなのか? 基本的には……」
アキラ「そりゃ、そうでしょう。常識ですよ。
    レイジさん相手のリスクは、あまり負いたくないですよね? 普通なら。
    あ、すいません。マックさんは、もうすでに寝ちゃったんでしたっけ?」
マック「棘があるよね、その言い方」

アキラ「当然です。俺はマックさんのこと、恨んでますからね。
    ナルセさんと寝て、レイジさんともって……結局、誰でもいいんですか?
    そこまで軽い人だとは思ってませんでしたよ、正直。がっかりです。
    意外に面倒見もいいし、男らしいし、もっと根は真面目な人なんだと思ってました」
 
マック「がっかりとか言うなよ……。傷つくだろ。
    別に同時進行じゃないし、確かにナルセとも寝たのは認めるけど、
    おれは、ナルセに本命の彼氏がいるなんて、その時はまったく知らなかったんだ」
アキラ「じゃあ、彼氏がいるって知ったとたん、レイジさんに鞍替えですか?
    そうなんだ。最低だな……がっかりを通り越して、軽蔑しますよ」
マック「うわ……容赦なく辛辣だな、お前」
アキラ「俺がナルセさんを好きだってこと、知ってますよね?」

マック「ああ、告白してたな。送別会で、酔っぱらってな。
    だけど、ナルセには本気の彼氏がいるのを、お前は知ってたんだろ?」
アキラ「そうですよ。それでもいいと、思ってた。
    でも、彼が浮気を卒業した今となっては、俺の付け入る余地はなくなりました。
    だからもう、諦めたんです。さっきも言いましたけどね」
マック「だからナルセを諦めるのか?」
アキラ「……そうです。次はレイジさんにしようかな?」

マック「!ッ」
アキラ「面白いですね。まさか、本気だとか言い出すんじゃないでしょうね?
    ことが未遂に終わって、逆にその気になったんですか? 本気で惚れちゃった?
    でも、最後まで行かなかったのなら、むしろ救われたと思った方がいいですよ。
    レイジさんが、誰かを本気で相手にするわけないですから」

マック「未遂じゃねーよ」

アキラ「……へぇ。もうヤラセちゃってたんだ。本当に軽いんだなぁ」
マック「やらせちゃったって、ことでもない」
アキラ「何が言いたいんです?」

マック「お前さ、ナルセにも、おれがヤラセちゃってたと思ってたわけ?」
アキラ「……え。どういう意味……まさか……」
マック「そんなに絶句するほど、驚くことなのか?
    おれはいったい、どんだけオカマ掘られる側だと思われてるわけ?
    そんなにソレっぽいか、おれ? そんなの言われたことないけど。
    心外だ。そういう役割、都会では身長で決めるのか?」

アキラ「レイジさんを、や……ッ!!」

マック「バカッ!! シィー!! 声、でかいって、アキラ!」
アキラ「……すいません。だって、びっくりして……」
マック「ナルセもびっくりしてた。普通の反応ですか、それ」
アキラ「そりゃそうでしょう。そんな話、聞いたこともない」
マック「ああそう。それも聞いたよ。次のセリフも想像できるな」

アキラ「レイジさんに弄ばれてるんですよ、マックさん」
マック「……想像以上のセリフ吐くなよ。きついな、お前。
    真実にしても、もっと言い方があるだろ」
アキラ「レイジさんの、過去の恋人のことは知ってますよね?」
マック「ああ、いたことは聞いた。詳しくは知らない」
アキラ「じゃ、ただの遊び相手で納得してるんだ。お手軽でいいですね。
    色々手を出して、選べて羨ましいですよ」

マック「遊びだって納得してるわけじゃないが……相手はレイジだし。
    でも、過去の相手はもう現実いない男だし関係ないだろ」
アキラ「まさか。いなくても、存在は大きいですよ。
    マックさんは知らないから、そんなことが言えるんだ。
    恋人を失くして、彼がどれくらい心を病んでるのか……。
    でも、あなたとの遊びに飽きるまでは、楽しめばいいですよ。
    どうせあなたのことだから、飽きられたらすぐ次の相手を探すんでしょうけど」
マック「いい加減にしろよ、アキラ……。いくらなんでも言い過ぎじゃねぇのか」

アキラ「マックさんが、可笑しなことを真剣に訊きにくるからでしょう。
    もし、俺がレイジさんと寝てたらどうだったんですか?
    二股かけられたとでも思うんですか? 本気でもないのに?
    もしかして嫉妬なんですか? レイジさんを独占したい?
    教えましょうか。たぶん茅野さんとも寝てますよ、レイジさんは。
    茅野さんだけじゃない、他のひとともそうだ」
マック「もういいよ。おかしなこと訊いたな。悪かったよ、帰る」

アキラ「そうですね。さようなら」
マック「……アキラ、本当に怒ってるんだな、お前?」

アキラ「ええ。どうしてこんなに腹立たしいのか分かりませんけど、
    次に会うときまでには、きっと落ち着いてると思います。
    今夜のことを謝るかもしれませんけど、でも今夜は、このまま別れたいです。
    今は、謝りたくないんで」
マック「ああ。分かった。おれがどうかしてた。許せよな。
    こんなことで、お前とケンカ別れってな嫌だからな。またな」

アキラ「次回は、多分、ちゃんと冷静に聞きますよ。俺。
    本気で、悩んでるんでしょう?」
マック「……まぁ、自分でもよくわかんねぇから、整理できたら、話すよ。
    でも悩んでるってわけじゃないと思う」




photo/真琴さま(Arabian Light)

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