Love Potion Number 9

※この作品はHave You Ever Seen The Rainの続編になります


場所:閉店後のシックスティーズ
登場人物:ナルセ/マック



ナルセ「信じられないんだけど」

マック 「……な、なんだよ」
ナルセ「前代未聞だ。新手の冗談か何かなのか?」
マック 「だから、何がだよ。何を怒ってんだよ……分からなくもないけど」
ナルセ「分かってるなら、答えられるだろ」
マック 「いや、一応、間違ってたら、悪いし」

ナルセ「マック。お前、レイジと寝た?」

マック 「げっ! や、やっぱその話かッ?!」

ナルセ「嘘だろ……。
      まさか、本当なのか? お前が、レイジと?
      しかも、お前がレイジに突っ込んだ方……だって?」
マック 「な、なんでそんな細かいとこまで、知ってんだよ!?
     やっぱ……本人にそれは直接、聴いたってことだよな?」
ナルセ「本人以外、誰がそんな恐ろしい話を知ってるんだ。
     レイジに頼まれた嘘なんだろ? もしくは逆だろ? 逆だよな?」
マック 「なんだよ、逆って。逆じゃねぇよ。
     おれが突っ込まれた方が良かったってのかよ?」
ナルセ「その方が納得できる。だってそんな話、今まで聴いたことないし」
マック 「そんな話って、どんな話……」
ナルセ「レイジを突きまくったなんて話、聴いたことないって言ってる」

マック 「わぁ!! 突き……って、そんなリアルにコッパズカシイこと言うなよ!
     誰かにバレたらどうする!! みんなに聞かれたらどうするんだ!」
ナルセ「もうみんな帰って誰もいないよ。一応、マズイとは思ってるんだ? 」
マック 「思ってるよ! 決まってるだろ!! おれだって、一番ビビってるよ!」
ナルセ「本当だったんだ。でもまだ信じられない……。
     一体、なんでそんなことになったんだ?」

マック 「知るかよ、おれがそんなこと一番知りたいよ。
     だってしょうがないだろ、死ぬっていうから、レイジが……。
     雪の日に、クリスマスライブの日に、うちに来て、
     雪だるまになるまで待ってて、氷みたいに冷たかったし、だから、泊めたんだ。
     そしたら成り行きっていうか……な?
     自然になるじゃん、そういうことにさ。わかるだろ?」
ナルセ「自然になるか? そうか、俺がいなかったから、マックのとこに行ったんだな。
      それにしても、何故マックのとこなんかに行ったんだ。
      アキラのとこでも良かったのに……。いなかったのかな。
      それでお前はレイジを泊めて、襲ったのか?」
マック 「違うよ、おれが襲われかけたんだよ!!
     強姦されるとこだったんだ! 犯罪に巻き込まれるとこだった!」

ナルセ「だからって、自分がしてたら一緒だろ」
マック 「冗談!! おれは強姦なんかしてないって。……合意の上です」
ナルセ「何が合意上だ。よく言うよ。
     そんなの適当にあしらっておけば良かったったんだ。
     本当にイヤなら、無理矢理なんてレイジはしない」
マック 「そんなことわかるかよ。やられてたかもしれないだろ。
     それに、だって、死ぬって言うんだぜ? 放っておけないだろ」
ナルセ「いつものことだよ。レイジの自殺騒ぎなんて、クリスマスシーズンの恒例なんだ」
マック 「おれはそんなこと、聞いてなかった」

ナルセ「確かにマックには言わなかったけど、お前はレイジの趣味じゃないと思って……。
     でもまさかさ、お前の方が手を出すなんて思わないだろ。レイジに。
     あのレイジにさ……マジかよ。本当にありえないんだけど、マック……」
マック 「そ、そんなに非難否定することないだろ。
     あしらえっていうけど、無理だろ、どうしろっていうんだよ?
     雪でアイツの体が驚くくらい冷えてて、しょうがなかったんだって。
     そんなんで死ぬとか言われてみろよ? もう、するしか無かったんだってば」
ナルセ「要するに、マックはヤリたかったんだ? レイジと」
マック 「……や。やりたかったわけじゃないんだぜ?
     ただ迫られたし、なんか、そんなムードだったし……助けたお礼とか言うし、
     してもいいっていうし……だから……なぁ? ……するだろ普通。
     で、でも、あれ一回きりだから。一回だけなんだ」

ナルセ「お前にも、話しておくべきだったよ」

マック 「何を? 狂言自殺の話を?」
ナルセ「レイジが恋人の話をクリスマスにしたら、用心しろってことを」

マック 「ああ、本人に聞いたぜ。死んだ彼氏の話だろ?」
ナルセ「―――素直に恋人は死んだって言ったのか? レイジは」
マック 「言ったぜ? 自分と寝る前に死んじまったってな」
ナルセ「……ふうん。今年の脚本は、やけにストレートな小芝居だったんだな」
マック 「脚本?」

ナルセ「クリスマスシーズンのレイジは、正気じゃないんだ。みんな知ってる。
     どんな手で誘われても、誘いに絶対乗るなっての常識なんだよ。
     色々な筋書きで驚かせたり、同情引いたりして、相手を動揺させるんだ。
     でもまさか、お前が……マックが誘惑されるとは、思わなかった」
マック 「おれも、思いませんでした」

ナルセ「お前、レイジを怪しんでたし、避けてたじゃないか?」
マック 「まぁ、基本、そうなんだけど」
ナルセ「というか、レイジがマックのとこに行くなんてまさか思わなかったってことなんだ。
     マックはリンと同じで、まずレイジにとって眼中ナシのポジションだったしな。
     絶対、もし狙われるなら、アキラだと思ってた。  
     でもよく考えてみたら、前回すでにアキラはターゲットで未遂に終わってたし、
     レイジのクリスマス話を聴くのが初めてなのは、マックかニノかメリナで、
     確かに今回最高の餌食だったかもしれないよな……本当に油断してたよ」

マック 「餌食って……どんだけ大げさなんだよ。
     つーか、前にはアキラも誘惑されてたってのか? レイジに?
     ……アキラもレイジと寝たのか?」
ナルセ「さぁ。寝てないと思うけど、正直もう分からないな」
マック 「そうなのか。でも別に予めそんな話を聴いてたからって、どうにもならないだろ」
ナルセ「それって聴いてたとしても、こんなことになってたって意味?」
マック 「……いや、どうだろう。なってない、か?」
ナルセ「知らないよ。だけど、レイジの行動の方も謎だよ」
マック 「それは、おれのとこに来た事実、以外に?」

ナルセ「そう。お前にヤラセタ、事実がだよ。考えられない。
     レイジに突っ込んだなんてヤツ、他にいないだろ。聞いたことない。
     お前が初めてじゃないのか? エトーさんとは寝てないと言ってたし。
     レイジのバックバージンを初めて奪った男だったりして、マックがさ」
マック 「は? ……初めて? まさか、冗談だろ。
     おれがモノ好きだって言うのか? いやいや、それはないだろ。
     あいつには十分素質はあると思うし……その……逆の役割としても」

ナルセ「そんなことわかってるよ。そんな話はしてないよ。
     言っとくけど、レイジのケツがもてないって話じゃないぜ?
     もちろん、お誘いは当然多数だよ、レイジには。決まってるだろ。
     レイジだって口説かれてはいるんだよ。俺ほどではないけどな。決まってるだろ。
     あの器量なんだし、周りが放っておくわけない。決まってるだろ。
     だけど例え相手がどんな屈強なオジサマでも、獲物は食うってタイプなんだよ。
     相手に後ろは絶対、狙わせないよ、レイジはさ。決まってるだろ」
マック 「はぁ、たくさん決まってるんですね」

ナルセ「そうさ。決まってるんだ。
     レイジは誰かを適当に抱いても、その逆は断固ありえない。拒否なはずだ。
     だから、驚いてるんだ、俺は。普通、ない」
マック 「……相当、心が折れてたんじゃないですかね?」
ナルセ「だから、折れてるんだよ、クリスマスシーズンのレイジは。
     そこへお前が、つけ入ったんだ」
マック 「おれが悪いみたいに言うなよ。おれ、被害者だろ?」

ナルセ「仮にもし、そういう奇抜な脚本を去年は考えたとしても、
     今度は、お前を相手に選んだ理由が分からない。
     どういうつもりなのかな。幾らなんでも選択が適当すぎるだろ?
     マックにさせるなんて、どんな酔狂なんだ?
     もう本当に生きるのがどうでもよくなったのかな、レイジは……」
マック 「あのな。ひとが大人しく聞いてりゃ、どんだけドSの暴言吐くんだよ、お前。
     そこまでおれを完全否定することないだろが。
     どうせおれは魅力のないダメ男だよ。ベース弾くだけの歌は下手なバンドマンだよ。
     身長だって決して高くはないよ。お前みたいにかっこよくないよ。
     そんなヘタレ男に白羽の矢がたった理由なんて、おれの方が聴きたいわ!!
     あとで皆で笑いものにするのに、田舎者は最適だったってのかよ?!」

ナルセ「ああ、ごめん。本気で怒るなよマック。冗談だって。
     マックは魅力あるよ? 男前だし、すごく俺にとって、刺激的な相手だったし。
     あ、つまりはそういうとこなのかな……。
     俺、マックとのセックスの話、レイジにしたのかな。
     したかもしれないなぁ。めちゃ良かったって言い過ぎたのかなぁ……」
マック 「ソコ、喜んでいいとこですかね? ナルセ先生。
     てめぇ、誤魔化したつもりかもしれないけど、さっきの暴言は忘れないからな。
     それよりだ。……なんて言ってた?」
ナルセ「なにが?」
マック 「いや、レイジは……その、どういう風に……
     おれのこと、聴いたのかな? って話なんだけど……な?
     まぁ、お前に簡単に話したってとこで、期待できない内容だって気はするけどな」

ナルセ「……。冗談だろ。ウソだよな。待てよ、マック。
     ひょっとして、まさか本気、なんじゃないだろうな? マック??」

マック 「はぁ? 本気って何? おれがマジかどうかってか?
     お前にそれ、関係あるか? なんか問題あるか?
     でも、もちろん期待なんかしてないぜ? 奴にその気がないのはわかってる。
     ナルセとの時みたいに、ちゃんと立場はわきまえてるよ。
     おれは面倒な相手じゃなかったはずだろ?
     だいたい、アイツがおれなんかをマジで相手にするわけねぇからな……。
     おれだって、そこまでバカな田舎者じゃない。ちゃんと分かってますぅー」

ナルセ「ウソだろ。本気なのか? レイジに惚れたって報われないぜ、マック?」
マック 「本気かどうか、おれの胸のうちで起こっちまったことなんか、お前にわからねぇだろ。
     おふざけだろうと、結構だよ。報われるとか、意味わかんねぇし。
     もう起こったことは、そう易々と変えられねぇよ」

ナルセ「いや、考え直せよマック。まだ間に合うから。
     本気じゃないって、お前は。そう勘違いしてるんだって。
     なかなか経験の無いことだったからな?」
マック 「勘違いなんかしてねぇよ。経験は、そりゃ少ないけど……。
     お前、どんだけおれを下に見りゃ気が済むんだよ」
ナルセ「それは誤解だ。年上はあまり無いだろって意味だよ。
     だってレイジはいったい何を考えてやったのかまるでわからないし、不気味だぜ?
     お前なんか、ただの気休めのご休憩だ。もう事実をすっかり忘れてるかもしれない。
     この先、寝たことを持ち出せば、色々と不利になるぜ?」   
マック 「……あいつ、そう言ってたのか?」

ナルセ「いや、そうは言ってはいないけどさ……」
マック 「じゃあ、お前が聞かされた話を言えよ。おれに気を遣わなくていいぜ?
     覚悟なんか、できてる。
     …………いや、まだ本当はできてないかも。
     あー。やっぱし、ダメだ。話さなくていいわ。
     もう知らない振りしててくれよ? 今聞いた話、忘れてくれ。な?
     おれ、あんがい肝がちっさいんだ」

ナルセ「知ったものを、今更知らないことにはできないよ」
マック 「なんだよ。いつもステージで自分は関係ありませんって顔してるくせに」
ナルセ「ステージの上はね。歌うこと以外、俺には関係ないし。
     でも、これはレイジのことだし、マックのことだし、例のないことだし、
     少しくらい興味を持ったっていいだろ。心配、だしさ」

マック 「ナルセさん。まさか楽しんでるんじゃないですよね……?」
ナルセ「楽しんではいない。まぁ、面白いなとは思うけど。いや、ごめん。
     だけどレイジの本心は、きっと誰にも永遠にわからないままだ。
     そういうやつなんだよ、レイジって」
マック 「じゃ、そのままでいいじゃんか。分からないままにしとこう。はい、解決」
ナルセ「マックは、それでいいのか?」
マック 「いいよ……だって、どっちにしても傷つくのはおれじゃん」

ナルセ「傷つく……なんて思うんだ」
マック 「だから。おれは鋼鉄のハートじゃねぇんだよ。ちっさいノミのハートなんだよ」
ナルセ「へぇ。そのくせヤルことは大胆だよな? だいたいさ、
     俺には本気になってくれなかったのに、何故レイジに本気なんだ?
     そんなにレイジが良かった? 俺よりも? どのへんが? どこが違う?」
マック 「まさか気に入らないのは、お前のプライドの問題なのかよ?
     どんだけタカビーなんだ。あのな。
     言っとくけど、ナルセに本気にならなかったわけじゃないぜ?
     お前との時は、メチャメチャ浮かれてたよ。
     けど、ただ好きになる前に、お前には本命相手がいることを知ったから、
     おれは本気にはならなかった。それだけだ。以上」

ナルセ「レイジにだって、本命のエトーさんがいるじゃないか。
     レイジの相手は、後にも先にも死んだ彼だけだぜ。
     豪はもう一度、レイジに誰かいいひとができることを望んでるみたいだけど、
     もうレイジは死ぬまで一生、本気で誰も好きにならないと思う」
マック 「エトーっていうのか、レイジのその死んだ彼氏は。
     けど相手は死人だろ。いくら本気でも、この世にいないんじゃしょうがない」
ナルセ「それはそうだけど……。
     死人とはもう戦えないから、一生、マックは相手に勝てないんだぜ?
     死んだ人間の想い出は最強だろ? なんたって美化しちゃうからな」

マック 「なんで死人と戦うんだよ。骸骨クンなんか、怖くねぇだろ。
     おれ、幽霊なんか信じないし。そんなのいないし。
     もうこの世にいない者と、何で戦うんだ? 本体なくして戦えねぇよ。
     ゾンビだって、日本にいないだろ? あれ嘘なんだよな?
     そしたらゴーストバスターでもないし、おれには関係ないな」
ナルセ「……何の話? まさか本気で幽霊とバトルって話なのか?
     そうじゃなくて、マックはレイジにも本気になって欲しいだろ?」
マック 「ばッ!! バカ言うなよ、そんなこと望んでないって言ってるだろ、おれ!」
ナルセ「だったら、なぜ傷つくんだよ。言ってることオカシイじゃないか」

マック 「あの男が、おれなんかの惚れた腫れたの告白で、どうにかなるか?
     無理だよな。そんなのお前が一番よく知ってる。そう言ったろ。
     短いつきあいのおれにだって、そんなのわかるさ。
     コクったって、鼻の先で笑われるのがオチだ。だから今はいいんだ」
ナルセ「だからさ、今もあとも本気になっちゃダメだってさっきから言ってるんだよ、俺。
     誰にも本気で相手になんかしないよ、レイジは。ダメなんだ、誰であっても。
     一度きりなら、悪い夢だったと思って、もう忘れろよ」

マック 「んな簡単にいくかよ。しょうがないだろ。
     ……その気になったものは、どうしようもないんだ。
     忘れろって? それでもいいけど、時間はかかるな。
     でも、お前の助言は一応貰っとくよ。おれのために言ってくれてるんだろ?
     なら努力してみる。でも……いいか、ナルセ。
     おれが本気だとかって、絶対レイジにそんなこと言うなよ?
     たった一回、寝たくらいでそんなことを思う奴だなんて、思われたくない。
     そんなの、おれの田舎者加減が丸出しじゃんか。
     やったから本気になったわけじゃないんだぜ? なんか言い訳じみてるけど」

ナルセ「マック……」

マック 「だいたいな、今まで何の事情も知らないヨソ者のおれが、
     あの男に本気になったなんて思われたら、下手すりゃ命とりだろ。
     嘲笑われるくらいならまだいいけど、それじゃ済まないかもしれない。
     暗黒街の殺し屋に、始末されるかもしれないだろ。……マジで。
     幽霊なんかより、そっちがおれは怖いよな。どうなのかな」

ナルセ「マック………。
     それ、本気で言ってないよな?」



photo/真琴さま(Arabian Light)

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