「white day」 作:霧月様
雪の中、買い物から帰ってきた俺は思わず地面と親友になりかけた。 誰だって自分ん家の前に人間雪だるまよろしく突っ立ってるヤツを見たらそーなるだろ?! しかもソレが仇敵の番犬ともなりゃ、誰も俺を責められねーハズだ。 っていうか―――。 「お前いったい何時間ここで突っ立ってやがったんだ?!」 自分に降り積もる雪を一向に気にしない相手の頭から雪を払ってやる。 あーあ。唇まで紫色になってんじゃんかよ。 「留守だったから」 ぽつり、と呟かれた言葉に頭痛を覚える。 「あぁ? だからって雪ん中で待ってなくってもいーだろぉがよ。部屋の前とか屋根のあるとこは色々あんだろーがっっ」 「前、イヤがってた」 前……? イヤがった? 一瞬記憶を探って、ようやく俺はその時のことを思い出した。 でもなー。誰だってクリスマスっつーイベント前にブロークンハートしちまったら、彼女の幸せを願いつつ一人静かに過ごしたいって思うだろ? アンニュイに浸りたいっつーかよ。 男の顔を見ながら過ごしたくねぇよな。 結局はこいつと過ごしちまったワケだが……。 「あーもう! どうでもイイからとにかく家に来いって!!」 このまま付き合ってたら人間雪だるま再びになること請け合いだから、俺は番犬の腕を掴むと家まで引きずって行った。 かじかむ手でキーを探って家の鍵を開ける。 「センサーが壊れたのか?」 懐古的に鍵を使って開けた俺に番犬が不思議そうに尋ねた。今時こんなんでロック解除するヤツも、アパートメントもねぇからな。 「どっかのダレかがくれたバレンタインプレゼントのせいで、俺の部屋のセキュリティがイカレちまったんだ。今は結構慣れたけどな」 答えながら取り合えずヒーターの前に番犬を座らせ、タオルを取りに行く。 「上着は脱いでおけ。濡れたままじゃ風邪引くからな。あとコレでよく頭拭いとけよ」 素直に俺の言うとおりにしている番犬をチラリと横目で確認して、俺は風呂の準備をした。 やっぱ速攻で暖まるなら風呂が一番だろ? それと温かい飲み物か。ちょうどコーヒー豆も買ってきたし、酒もあったよな。 手早くブランデーコーヒーを作って、まだ顔色の悪い番犬に差し出す。 「おら、コレ飲んでちっとは暖まれ」 「マメだな」 「あぁっっ? 喧嘩売りに来たのか、番犬! ってか何の用だよ?!」 く〜っ。相変わらずムカつくヤツだぜ。こんなヤツにでも世話を焼いてしまう己の性分が恨めしい。 「誉めたのに怒るのか?」 え? 誉めてたのか?? 温もりを取るためか、両手でカップを持ったまま上目遣いにこっちを見る番犬に、思わずドキっとしてしまう。 う〜〜〜。いかんいかん。番犬相手にトキメいてどーするよ、俺。 「あー…怒ってねぇから、一体何の用だよ」 「キラからバレンタインのお返しを貰って来いって言われたから来た。それまで家に帰らないで待ってる、と」 言葉の意味するところを理解するまで数秒―――俺の思考は停止した。 「なにぃぃぃい?! ダレのせいでこんな懐古主義な生活してると思ってやがるんだ!!」 そーだ。そもそもコイツが持ってきたんじゃねーか。 言えば共犯ってヤツじゃないのか?! なのにお返し要求だと?!?! 「誰がンなもんやるかっっ!!!!!」 「俺もそう思う。ただ単にキラはそれを理由に家から逃げていたいだけだ」 「?」 「今日はボスの息子が来てる」 ウォッカのヤツが帰ってきてるのか。何があったか知らないが、キラとの確執は根が深そうだからな。 「だからって何でキラの野郎に自分ん家を明け渡してやるんだ? 一緒にいりゃあいいじゃねーか」 「キラは自分の弱みを見せるのを嫌がる。つむじを曲げられると俺の仕事に差し障る」 「それでもキラの言いなりにならんでも、どっか他に行くとかよ。キラの親父さんトコでも行ってりゃいいんじゃねーか?」 時間潰しなら何も俺のトコに来なくても……。 ちらり、と俺を見た番犬が少し俯き加減に呟いた。 「俺もアイツは苦手だ」 苦手? ウォッカのことか? でもコイツとウォッカはあまり面識ないはずだろ?? 確か会社で初めて『地獄の番犬』を見たってウォッカ言ってなかったか? 悶々と考えてる俺の耳に、ことり、とカップを置く音が響いた。 「帰る。邪魔したな」 まだ濡れたままの上着を手に番犬が立ち上がった。 「おいおい。そのまんまで帰ったら確実に風邪引くぞ? キラにも嫌味を言われるんじゃないのか?」 「あいつの扱いには慣れた。それに今夜一晩放っておけば、あいつも落ち着く」 「おめーはその間どーすんだよ?」 次のページ |