吉沢シリーズ
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ホテル・カルフォルニア

03


登場人物:カイエ/吉沢
場所:ホテルのオープンカフェ




カイエ「……心理学先生の解説はそれで終わり? それは私を非難してるんだよね」

吉 沢「そんなふうに聴こえたか? 非難はしてない。
    俺はカイエに感謝してるんだけどな。カイエと付き合わなかったら気付けないことだった」
カイエ「吉沢が女と居るときに、他の女の話をするなんて、ちょっと意外だね。
    やっぱり本当は変わったのかな。今の彼女は吉沢にとって特別になりつつあるの?
    その女に決めて、退屈な関係になっていくだけ?」

吉 沢「どうかな。叶うならそういう穏やかな関係になりたいけどな」
カイエ「セックスはどう? 飽きてこない? ま、あんたはこうしてそれを発散してるんだろうけど?」
吉 沢「そうでもないぜ。それは別だ。どういうわけか毎回セックスしてても、その都度新鮮なんだ。
    すぐ挑発されると欲情しちまうし、同じ相手なのに飽きることがない。相性がいい。
    あいつはいつも終わりを覚悟してて、不安から自分を切り離せない。足掻いてるのがわかる。
    だが何を言ったって俺の言うことなんか信じない。俺のことを信用してないんだ。
    それがちょうど良いくらいに俺の嗜虐芯をそそるし、なんとなく可愛いと思うのかもしれない」

カイエ「相変わらず酷い男。ずいぶん惚気るわりには呆れた話だね。
    当然だよ。あんたみたいな男、信じられる方がどうかしてる。でも信じあえなくて関係は続く?」
吉 沢「あいつが信じているのは、自分が俺を好きだってことだけなんだ。
    それが続く限りは俺も捨てられないってわけだよな。実際、全部あいつ次第だ。
    あいつが俺の運命を握ってるのさ」
カイエ「じゃあ相手の気持ちが冷めてしまったらどうなの? あんたは仕方がないって別れるの。
    まったくそれじゃ、進歩がないよね。以前のあんたと一緒だよ。来る者拒まず、去る者追わず」
吉 沢「俺に嫌気が差したらしょうがないとは思うだろう。俺はこんな男だからな。
     ただ……今の俺はカイエと居ながら、片隅であいつのことを気にしてる。
     こういうことは今まで無かった。罪悪感を、今はマリアじゃなくあいつに感じるんだろうな。
     いつもの出来心がバレて、あいつを失うことが恐いと思ってるんだ」

カイエ「……あんたの口からそんな台詞を聴ける日が来るなんて、愕きだよね。
    皆に聴かせてあげたいよ。いったいどんな女と逃げたらそんな調教を受けられるの?
    よほど―――その女は、あんたを操るのが上手だったようだね」
吉 沢「どうかな。ただそう思うだけで、やっぱり俺の良くない癖は治らないんだけどな」
カイエ「私には解ってるよ。人間、そんなに性格や癖は変わりやしない。今さら無理だよ。
    あんたは優しそうな振りをしながらインテリ風を吹かした心底イヤミで、冷たい自分勝手な男よ」
吉 沢「痛烈な批判だ。カイエはいつも正直な意見をくれるよな」

カイエ「あんたがさっき言った通り、私とつきあう男は駄目になるんだ。そんなことは解ってる。
    私はあんたをダメにする女だった。それに気がついて、あんたは私から離れていったんだよね。
    私を好きになる男は、マゾヒズムの強い男か依存性の強い男だよ。いつもね。
    別れた男もそうだった。私には弱い男が必要なんだ。私が強いからじゃない。私も弱いからだよ。
    そんな私に護られたい男だけが傍にいてくれる。こんな私を頼りにしてくれるひとがいるんだ。
    そういう男がいないと、私も自己を保てないんだ」
吉 沢「カイエは優しくて良い女だったぜ。ただ、ちょっとおせっかいなだけだ」

カイエ「私のような女には二度と会わないことだね。さようなら、吉沢。
    最後に捨て台詞をあげるよ。あんたの彼女のためにね。
    あんたの告白したことは、嘘っぱちよ。詐欺師は死ぬまで詐欺師なんだから。
    吉沢はどの女にも納まりきれない男よ。一生、ひとりで生きる、還るところのない彷徨える男。
    絶対に最後まで子宮には納まりきらない運命なんだ。ざまみろだよね」

吉 沢「なぁ、俺はざまみろとかいい気味だとかよく言われるんだが、また相当、怒らせたのか?」

カイエ「そうよ!! だいたいがあんたは、女を怒らせるのが天才的に上手な男だったよね。
    …………だけど、どの女もあんたのことを本気で憎む気がしないんだ。悔しいくらいに。
    でもそれはきっとあんたが、本当にダメなヤサ男だからさ。憎む価値もないからなんだ」
吉 沢「そうかもしれないな。でもあの時の俺には、カイエという女が心底、必要だったぜ。
    カイエの独特な優しさが必要だった。あの時はカイエがいてくれて良かったと思う。
    あのままで俺は救われた。人には前を向いて生きられないときだってあるだろう。
    野良犬は死にそうになっていた時に餌をくれた人を、死ぬまで忘れない」

カイエ「自分を野良犬と呼ぶ男くらい、用心しないといけないヤツはいないよね。
    このペテン師。嘘つき。あんたはいつも嘘つきだった。わかってるのに。解ってる……。
    解ってて私たちは、あんたみたいな男を好きになるんだ……。バカだよね。
    あんたの彼女にも忠告してあげたいよ。一緒にいると後悔するって」

吉 沢「頼むから半泣きはやめてくれ。カイエは強がってても泣き顔が放っておけないからな。
     俺はまた明日の朝もサクサクのクロワッサンを食わなきゃいけなくなると、困る。
     さすがに2日じゃ言い訳ができなくなるからな。実は俺の朝はいつもただの安い食パンなんだ」

カイエ「あんたって本当にイヤな男。大ッ嫌い――――。
    本当は吉沢の幸せなんか、ぜんぜん願ってないんだから―――」

吉 沢「でも俺はいつだって、カイエの幸せは願ってるぜ。これは本当だ」
カイエ「……バカじゃないの、あんたって。今頃、優しくしたって無駄なんだから……。
    吉沢……私はただ、恋人を失った今、彼女といる吉沢がきっと羨ましいだけなんだ。
    ……ゴメン。酷いことを云ったよね。私を嫌な女だったと、過去を置き換えないで欲しいよ。
    私は、ただ……」

吉 沢「解ってるさ。カイエは今も以前もイイ女だ。カイエが俺を救ってくれたのは、永遠に変りない」
カイエ「……あんたってさ、いつも真実みたいな嘘を平然とつくよね。解っててすぐ私たちは騙される」
吉 沢「俺はいつも嘘じゃないと言ってるのに、どうして誰も信じてくれないんだろうな?」
カイエ「あんたの言うことって、まやかしみたいだからだよ。だけど、吉沢のつく嘘は、とても優しい嘘だから、
    皆は信じたいと思うんだ……。嘘つき男のつく、とびきり優しい嘘を、夢見るみたいに信じたかった。
    ひとの心が欲しがるものは、本当は正直で辛辣な、正しい意見や言葉なんかじゃないんだ」
吉 沢「そうかもな。だけど、俺がカイエに救われたことは、嘘じゃないぜ。どんな形でもな。
     お前の真摯な言葉が、何かを気付かせて誰かには必要なこともあるさ。それが大事なことだろ。
     その言葉をどう受け取るのか、その先は自分次第だ」


カイエ「フフ……。優しいよね吉沢は。分かってるよ。こんな私なのに否定しないでくれてありがとう。
    あんたってね、本気で優しい嘘つきな男だ――――きっと自分の嘘も、嘘だと疑ってないんだろうね」






photo/MOMO様

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