ブラディドール・シリーズに捧げるオマージュ お喋りな男 クリスマス・レクイエム 【叶X坂井の漫画はBDパロ「鰭の痕跡(あと)」でどうぞ!】 |
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| 「いらっしゃいませ」 「よぅ 坊や 元気だったか?」 「おかげ様で元気にしております 何をお作りいたしましょうか」 「慇懃無礼な態度は相変わらずだな 坂井」 「スコッチになさいますか?」 「何が気に入らない? 久々に会うんだぜ 愛想笑いくらいしろよ」 「バーテンをからかいに来たのでしたらお帰り願えますか お客様」 「ジン・トニックを貰おう」 「ジンは何にいたしましょう」 「おいおい 俺に聞くのか?」 「はい お客様のお好きなジンでお作りしますので」 「もう 忘れたってことか」 「ご要望がないのでしたら ゴードンでいかがでしょう 昔 ゴードンだけがジンだと頑なに言い張っていた 不器用でお喋りな男がいましてね」 「ほう 不器用でお喋りな男ね そいつはきっと自分の本心を見透かされるのが怖いか苦手だったのさ 俺にはわかる わかる気がする」 「単に臆病者だったんでしょう」 「本気で言ってるのか?」 「ええ 多分 自分の色恋に限っては ですけどね その他は 命なんて何とも思っちゃいない 強靭で鮮やかで惚れ惚れするような 切れる男でしたけどね 職業は探偵で 裏の仕事は相手の人生の幕を引くって 気障な言い回しをする 殺し屋でした」 「そんなに 誉められちゃ そいつもさぞや照れるだろうな」 「だけど 恋愛ごとはてんでダメでね 惚れた相手一人として手元に置いとけなかった いつだって 一線を引いて… 心に入られるのを拒み続けた 金魚なんか飼っててね 孤独に金魚だけを愛してたんです」 「誰もそんな根の暗い男には 惚れたりしないって きっと それを知っていたんだろう その男は」 「違うね 自分が本気になっちまうのを 恐れただけさ 自分の人生の幕切れが短いのを覚悟してたからだ 結局 忘れられないくらい相手の心の中に残っちまうくせに」 「坂井」 「それなら最初から一緒にいてくれって そばにいてくれって言ってくれれば 思い出だって もっと沢山できたんだ その男は自分勝手で傲慢な男ですよ」 「…クリスマスを」 「えっ?」 「クリスマスを 誰かと一緒に過ごしたいと思ったときは どうしたらいい?」 「そのまま言えばいいでしょう」 「死神のような その男でも? 相手の人生の幕を 引いちまうような男が 神サマの誕生日にいったい 何を祝う?」 「なら どうしてクリスマスを過ごしたいなんて思うんです」 「そうだな いちばんムードがある日 だからかな 日本では あまり関係がない 宗教意的なことは だから男もそれに 似合う柄じゃないのに 便乗しようかと考えたことが 無くもなかったんだ ただそんなことは気恥ずかしくて 言い出せなかった それでいつも言い損なった だから 一緒に過ごせなかった」 「誰を 誘うつもりだったんですか」 「恋人――と言いたいとこだが ちょっと無理があるかな 片思いでね 俺が勝手に参ってた 惚れてたっていうか 気にかけてた そいつが気になった それで ちょっと試しにちょっかいを出したら はまっちまった 溺れかけたってことかな 本気になっちまった だから 突き放したよ 遊びだって 割り切ってね さすがに おまえみたいな小僧なんかに この俺が本気だなんて 知られたく無かったからな」 「―――どうして――」 「坂井 俺は おまえに触れたことは 後悔してる 死んでからもずっとな どうせ死ぬのが分かっていながら どうしてお前に触れちまったのかな 悪かった 悪かったよ 坂井 許せ」 「叶さん―― 俺 クリスマスを あんたと一緒に過ごしてみたかったよ」 「女みたいなことを いうなよ」 「いいんだ あんたの前で俺 もっと泣かされてみたかったよ 死んじまうってほどいいって 壊れるくらいもっと あんたに抱かれたかったよ」 「死んじまったら 性欲もないし つまらんもんだぜ? おまえにもう触れることも 叶わない 死んだことを後悔するのは そんなことくらいかもしれないがな」 「叶さん 何で俺を 置き去りにしたんだ あんたの金魚なんか 俺は欲しくなかった 駐車場のフェラーリ328だっていらない どれも見れば苦しいだけだ 俺が最後までただの小僧だったなら あんたのことを忘れないで大事にしたかったけど あんた俺に触れたんだ 俺を何回も抱いたんだぜ いっつもお喋りなくせに 肝心な言葉は何も残さないで 俺は―― あんたを死ぬほど 忘れたいと思ったよ 叶さん――」 「坂井… 悪かったよ本当に 俺にはもう どうすることもできん …もう 行くよ メリークリスマス坂井 川中に引っ付いてろよ やつを守るのはもう おまえしかいないんだぜ」 「メリー・クリスマス 叶さん そんなことは頼まれなくたってわかってる また来年も来なよ いつでも俺 ここで待ってるから ――あんたのことを 忘れないで 待ってるから」 「ゴードン 忘れないでくれよな あばよ 小僧」 「忘れるもんか」 「…社長 坂井さんはいったい何をしてるんですか?」 「さあな 旧友と酒でも飲んでるんじゃないのか」 「だって さっきからずっと一人で佇んで ジントニックを見つめてるだけですよ? 何だか 近寄りがたい 声もかけ辛い雰囲気だし…」 「クリスマスを祝ってるのさ」 「…何だか厳かですね」 「そうさ 死者と祝ってるんだからな」 「死者? クリスマスってそういえば オカルトもつき物ですよね ゴーストは誰ですか?」 「そうだな おまえは知らないだろうけどな高岸 お喋りで鋭いナイフみたいな おかしな殺し屋かな―― 坂井!」 「――― 社長 いらしてたんですか すいません気がつきませんで」 「メリークリスマス! おまえは連れて行かれるな坂井 今年もあいつは おまえを置いていったんだろう?」 「ええ社長 あの人は俺を連れて行ったりはしませんよ 毎年ね 俺は社長を守らなきゃなりませんからね ただ 勝手に逝ったことの 文句くらいは言ってやるだけですよ」 「そうか」 「そうです」 「俺にも ジン・トニックをもらえるか」 「はい ジンはゴードン以外でよろしいですか」 「ゴードンはダメか」 「今日は勘弁して下さい 今日は叶さんだけのスピリッツなんです」 「妬けるね まったく」 「社長には マティーニがあるでしょう その方が特別なのに…」 「やっと笑ったな坂井 俺はクリスマスに おまえが笑ってくれてないと ハラハラして どうにも不安になるよ あの能天気な男が気まぐれを起こして さらって行くんじゃないかと思ってな」 「そうなら良かったんですけどね」 「坂井」 「嘘です 大丈夫ですよ そんなことは起こりません 彼はいつだって 俺が泣き言を言っても苦笑いしながら 残念そうなふりをして 去って行くだけです ちょっと手をあげて また来年な――てね」 「来年は俺も酒盛り仲間に入れてくれよ」 「駄目ですよ」 「どうしてだ?」 「だって 生前に叶わなかった 俺と叶さんとの 二人だけのクリスマス・デートですからね 社長は邪魔です」 「ご馳走さん 勝手にやってくれ」 「イブには 藤木さんも来ますよ 社長との思い出話ばかりして 俺に社長のことを守れって しつこいくらい頼んで 帰っちまいます それを頼んで帰るのは 叶さんも同じですがね」 「俺に会わずに帰るのか 二人とも?」 「説教されるのが 嫌なんでしょう」 「どうせ俺は 説教爺さ」 「あなたはあの世の人間にまで心配されるような 困った危ない人ですからね まったく いい加減に落ち着いて下さいよ 俺も安心して店でシェイカーを振っていられない」 「俺は おまえが微笑んでいるなら静かにしてるよ 坂井 じゃあな… いい夜を メリー・クリスマス」 「俺は いつでも ここで笑ってますよ 社長 この ”ブラディ・ドール” でね メリー・クリスマス 今夜は 逝った者たちへ捧ぐ いい酔いを―――」 END |
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| photo/真琴 さま | |
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