Heat☆Wave
04
ピアノ・マン
夜明けのバーカウンター
登場人物:マック/レイジ
マック「邪魔するよー。何で、電話しといて来ないんだよ? レイジ」
レイジ「待ってるからだ。お客さん、当店はもう閉店してるんですけどね」
マック「誰を? リン追い出し作戦に協力したんだから、酒くらい奢ってくれよ」
レイジ「サワだ。しょうがないな。一杯だけだぞ」
マック「ごちになります。あー、多分、サワは戻ってこないよ? 待ってるなら無駄だ。
酔っぱらったリンに、がっつり捕まってたからな。あれはリンの家に行ったっぽい。
サワんちかもしれないけど」
レイジ「見たのか? どうなってた?」
マック「さぁ。最終的にはケンカして揉めてるようだったけど、ほとんどじゃれてる感じだったな。
険悪じゃなくて、なんとなく楽しげだったよ。リンはやっと元気が出たみたいだ。
良かったよ。愚痴聴き役の優しいマックさんが、酔い潰される手前で本当に良かった」
レイジ「そうか」
マック「レイジはサワに協力したのか? どういう風の吹き回しだよ?
あんたには暇つぶしなのか? サワは確かに悪いヤツじゃないけど、恋愛相手にはヤバいヤツだろ。
ヤリ落としてポイする可能性は否めないのにさ。サワだってナルセみたいな浮気症なんだろ?
前途多難じゃないか。ド迷走してる子羊のリンを差し出すのは、果たして正解なのかどうか……」
レイジ「じゃあ、おまえはなぜ放り出したんだ。子羊リンを。子羊ってツラでもないけどな。
淫乱オオカミがそっちへ行くぜと連絡をしたんだから、反対していたなら息を殺していたら良かっただろ」
マック「そんなこと言った? レイジが今からそっちに行くからリンを追い出せって云ったんじゃなかった?」
レイジ「相違が過ぎるな。おれを淫乱オオカミだと解釈したのか? 聞き捨てならんな」
マック「二人を引き会せる作戦なら、どっちでもいいだろ。俺はさ、何でかな。きっと同情だよな。
その作戦を無視するには、リンがちょっと可哀想になったんだよ。サワが好きだって言うんだよ。
なんか、相当、煮詰まっててさ。現実から逃げたいのに逃げられなくて、以前の俺みたいだなって思ってさ。
リンは俺の悩み相談に、ことごとく反対してたけど、俺の愚痴をよく聴いてくれてたし、良いヤツだ」
レイジ「おまえはひとの話やアドバイスなんか、まったく聴かないからな」
マック「それに、恋煩いの気持ちは痛い程わかる……。リンは本気みたいだったんだよ」
レイジ「ほらな。聴いてない。自分と重なって同情したのか。状況を一緒にされるとは心外だな。
おれにはサワみたいに不特定多数の相手はいなかったぞ」
マック「同じだろ。障害物が違うってだけだよね。レイジの相手は不特定多数より性質が悪いし。
でもさ、レイジは俺とは違うだろ? 何であの二人が上手く行くように協力したんだ?
あんたは俺みたいな同情心で、可愛い弟分のリンを簡単に肉食サワの餌食にはしないよな?」
レイジ「別に可愛くなんかないけどな。ぐだぐだとうっとうしいから、早く誰か押し付けようと思ってな。
一応、この約二年間のサワの動向は把握済みだ。その結果、不適切ではないと判断しただけだ」
マック「え、それどういう意味? まさか、サワの素行を調べてたのか?!
サワをスパイしてた?! スパイ大作戦?! ジェームズ・ボンド007?!」
レイジ「キョウはMI6より凄腕だぜ。サワの動向なんか、朝飯前だ。キョウの本領発揮だ。
おれの懐刀にはそういう諜報力もあるのを、おまえはご存じなかったか?」
マック「ええっと、知ってたような知りたくなかったような……暗黒街のことはちょっとデスネー」
レイジ「別に裏の仕事でもない。キョウの得意分野だ。その辺の探偵にでもわかることだ。
ただ探偵にできないことは、サワが以前失くした大事な入手不可能な限定品の貴金属まで、
新品で用意することも、茅野鏡夜には簡単容易だということだ」
マック「なんのこと? もしかして、リンがサワにプレゼントし損ねて持ってたボロボロの箱のことか?
あれって偶然似たものがあったて言ってたけど、初めから仕組まれてたのか?」
レイジ「別に知らなくていい。入手し辛いものを手に入れるのは、それこそおれたちには本業だからな」
マック「なんだか恐ろしいなぁ。で、サワは興信所的な調べで、おたくのリンさんに相応しい誠実なお嬢さんだったんですか?」
レイジ「そんなはずないだろう。まぁ、あいつはやっぱり遊び人だったが、キョウほど悪人じゃないし大物でもない」
マック「悪魔と比べるのはさすがにどうだろう?」
レイジ「そしてナルセのように最悪でもなかった。噂というのは、本当にいい加減なものだよな。
以前も少しサワを調べたことはあったが、今回は違う方向から調べてみたら、かなり違っていたようだ。
ネコとネズミくらいの差があったぞ。フェイクニュースに踊らされる奴らは、ネコもネズミも見分ける気がないのかもしれないがな」
マック「なんでサワを前に調べてたんだ?」
レイジ「それは企業秘密だ。
サワはあれから長い間、塞ぎ気味で、逆に禁欲的な生活ぶりだったようだぜ。まぁ、キョウとのことがあった後だけどな。
できれば本気な相手とだけセックスしたいという欲求は、元から実はサワにはあったのかもしれないな。
意外にもサワはセックス依存症じゃなかったということだ。名状しがたい淫乱さでは、ナルセのひとり勝ちだな。
さすが、おれのナルセだ」
マック「わー、なんかナルセがとっても憐れに思えてきた……」
レイジ「サワには、楔か錨が、本当は必要だったんだろうな。探し続けて見つからずに不特定多数になった。
彷徨い続ける自身を繋ぎとめる錨は、灯台下暗しで、傍にあったんだから見つかる筈もない。
リンがサワを友人以外の関係で、大事な存在だと思うなら、とりあえず気持ちに従ってみるのもいいだろうよ。
友人としてつきあいが長い分、悪いところも良いところもお互い熟知しているし、うまく行く可能性はあるさ」
マック「それって、自身を投影してみたってわけ? レイジの心情」
レイジ「まさか。ぜんぜん投影なんかしてない。おれは違う。なんの話だ」
マック「ですよねー。いいんです。ボクの儚い妄想です」
レイジ「おまえこそ、最近はキョウとのことをあまり言わなくなったな。ついに諦めたのか」
マック「あの悪魔はレイジの必要悪なんだろ。それに本当に役に立つ、仕事のパートナーみたいだし。
今回は、リンのことにも一役買ってくれたし、本当は良いヤツなのかもしれない」
レイジ「あいつは仕事はやり遂げる。自分がやりたくなくてもな。特におれからの云い付けはだいたい守るんだよ。
まぁぜったい、云うことを聴かないこともあるけどな。今回は喜んでやってたぞ。恋の架け橋の快感に目覚めたかな。
だがキョウが良いヤツだと思っていたら、痛い目にあうぜ。信頼は、少しにしておけ。おまえはな」
マック「……茅野とレイジは、どうやって知り合ったんだ?」
レイジ「キョウとの馴れ初めか? そいうや、もうすぐバレンタインだな……。
あれはここからずっと離れたカカオの生産地の異国の地で、おれがカカオの農園主に、
交渉を持ちかけているときだったな」
マック「えっ。カカオ? うんうん、それで?」
レイジ「バレンタインチョコを日本で売ってボロ儲けするには、どうしたらいいか裏でスタッフと相談していたんだ」
マック「うん、うん」
レイジ「すると、そこへ美しすぎる少年がやってきて、言うんだ。僕たちは朝も昼も夜も、くたくたになるまで働いてる。
農園主はたくさんお金を貰ってるのに、僕たちにはほんのわずかしか与えてくれない。ずっと僕たちはあの男の奴隷だ。
だから、ここにある全てのカカオをこっそり直接、あんたに売るから、代わりに僕を連れ出して欲しいと頼まれたんだ」
マック「ええッ? そうなの?」
レイジ「あの時、おれは日本の女どもがバレンタインでキャーキャー呑気に騒いでいる世界の裏側で、
そのチョコの欠片の粉の分さえ幸福感を得られない、現地の労働者や、ただ生きるためだけに学校にも行けず、
毎日を生きる為だけに働く子供たちが存在することを知って、おれは絶対にフェアトレードな交渉をしようと心に決めたんだ」
マック「……あのう。それって、茅野との出会いの話なんだよな?」
レイジ「違うけど? バレンタインといえばの思い出話に決まってる」
マック「あーそー。茅野との出会いを話し出したのかと思って、ビックリした。
つーか、何であんたがカカオを扱ってるんだよ? それもしかして、嘘だろ」
レイジ「まぁな。商品がカカオなのは、例えだな。バレンタイン・サービスだ」
マック「良かった。あんたが茅野を裏切ったかと思ったよ」
レイジ「おれがキョウを裏切ったら、おまえは好都合じゃないのか?
どうせ、あいつはおまえに言ったんだろう? もしもおれがキョウとの馴れ初めを、おまえに話したら、
潔く身を退いて、おれの前から消え去るとな」
マック「……そうだけど。レイジさんは、私との出会いは墓場まで持って行くと言いましたって云われたからさ。
そんなん、ヤバい話に決まってるだろ。もしも聴いたら口を縫われて埋められる話だろ、それ」
レイジ「そんなヤバイ話じゃないさ。どこのマフィアだよ。いや、似た制裁は知ってるな……」
マック「いいです。恐い話、ききません。でも、あんたは俺に話さないんだよな?」
レイジ「聴きたいのか?」
マック「……さぁ。どっちかな。きっと、今みたいに嘘をつかれるんだったら、聴いてもしょうがないし、
そもそも、俺にはそんなこと関係ないよな。茅野が消えたら、レイジが困るし、レイジが困るのは嫌だし。
俺はさ、レイジが茅野と寝てないっていうことだけ、本当ならそれでいいよ。
あとからやって来て邪魔したのは俺の方なんだからな。それより茅野がおとなしい方がより恐い」
レイジ「あいつなりに葛藤があるんだろう。おまえのことは認めるしかないんだろうしな」
マック「レイジが俺を愛してるから?」
レイジ「アホか。おまえがシックスティーズのベースだからだ」
マック「レイジは俺を愛してないの?」
レイジ「女子かおまえは」
マック「うわ、なんか差別的。リンはきっと、サワに好き好き愛してるって言うんだろうなー」
レイジ「リンが? 言いそうだな。羨ましいならそれを言ってくれる相手でも探せばいいだろう」
マック「……いや今の失言。なんか人のことで言ってみたら、俄然、恥ずかしくなった。
やっぱり男児たるもの、寡黙にナニで愛を語るのさ、ワハハハハハ。忘れてください。
なー、もう待ってなくていいんだし、俺んちへ行こうぜ、レイジー?
俺の相棒は準備万端、すぐにでもベッドにサーフィンUSAだぜ!!
いや、いますぐレイジの中にヒートウェーヴかな? どっちが好き?」
レイジ「おれの店で退出ワードを言うとは良い度胸だ。おまえは今から出禁だ」
マック「えー、オールディーズの曲名を言っただけなのにー」
レイジ「だがあの二人は本当にセックスできるのか? リンは無理じゃないか?
どうやってサワを口説いてたんだ?」
マック「知らない。そんなのデバガメしてないし。二人の姿を認識してから来ただけだもん」
レイジ「おまえ、脱ストレートの先輩として、リンの筆おろしを手伝ってやれよ。
さすがにサワが可哀想だろ」
マック「えええ、なに、その恐ろしげな指令?! 俺がリンに寝技を指導してやるってか?!」
レイジ「じゃ、おれがするしかないか」
マック「それはなりません旦那様。リンは寝技エキスパートだろ。知らねェけど。
男か女か違うだけだし、大丈夫だろ。俺は大丈夫だったよ。ぜんぜん、問題なし」
レイジ「だが身体の造りはぜんぜん違うからな。リンは、おまえのような先天性バイとは違うだろうしな」
マック「先天性バイってどげん意味と? 確かにリンは生理的にケツとかダメなとこあるからな……
なのになんで、サワに対してそんな気持ちになったんだろうな?」
レイジ「さぁな。それに関してはおまえの方が、急にそうなった気持ちはわかるんじゃないのか?」
マック「俺は、レイジがエロかったからです! 他意はありません!!」
レイジ「おっさんをエロいと思う感性の基盤が問題だな」
マック「俺は躰から始めるってことも大事だって知ったけど、リンはまず手を繋いだり、キスしたりすることに、
ときめきを感じるんだな。青春か? なんか、いい歳して恥ずかしかー。でもちょっと羨ましい感じもある」
レイジ「段階を踏んでのお付き合いだな。おれたちみたいに汚れきった関係とは違うな」
マック「汚れきったって心外だ。俺のレイジを想う気持ちは、とても澄んでいて清らかです」
レイジ「おれの店で、その聖人の言葉とは真逆の暴動息子を興奮させたら、おまわりさんを呼ぶからな」
マック「人のことを変態露出狂の強姦教祖みたいに言うのはやめて貰えますか」
レイジ「しょうがない。ちょっと待ってろ。戸締りをして店を閉める。待てるか? マック」
マック「あんたの店では、キスもダメ?」
レイジ「……おまえが、キスだけで済むならいいよ」
マック「了解。じゃあ……レイジ、答えるまでもない。
早く鍵を閉めて、帰り支度をフル速攻でしてくれませんかね?!
あ、レイジ、まだ夜は外寒いから薄手でもコートを着るのを忘れないこと!!
ハァ〜、もー。。。 キスしても、その先に行きたい気分にならないなんて、信じられない。
特殊訓練でも受けてるのか? リンの鋼の鈍感力が羨ましいな〜〜〜」
photo/M
Heat Wave
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