All I Want For Christmas Is You
恋人たちのクリスマス


09






石 田「え。 ……オーナーさん?!」

レイジ「レイジで結構。まだいたのか。西さんは昨夜のうちに帰ったぜ」
石 田「そうか。電話……。ああ着信が入ってら。気が付かなかったや……。
    もう明け方近くか……」
レイジ「夜明けまで同郷と気楽に飲んで酔っ払ってちゃ、気もつかんだろうな。
    ヤケ酒か? それとも懐かしい昔話に花が咲いたか。
    どちらにしろ小僧が寝てるなら、用事はないからおれは帰るかな」

石 田「待ってくれよ! レイジ、さん。
    まっくんの部屋の鍵、持ってるんですか。……本当に来たんですね。
    それとももしかして一緒に住んでるんですか?」
レイジ「住んではいない」

石 田「レイジさんとまっくんは、つきあってるんですよね」
レイジ「そうらしい」
石 田「らしいって。他人事みたいだ」
レイジ「おまえさんに関係あるまい? それとも関係あるのか?」
石 田「そりゃ関係ありますよ。まっくんは大事な俺の昔馴染みなんだから」
レイジ「そうか。郷里の親友か。友人思いだな」

石 田「西さんの話は解決したんですか?」
レイジ「したよ? それこそ他人事だな? おまえが元凶で当事者じゃないのか」
石 田「やっぱりその話だったんだ。そうですけど、西さんは俺に帰れっていうから。
    俺にはもう関係ない話に進展してるのかなと思ったんですよ」
レイジ「まぁ冷静な談話において感情のコントロールがきかない部下がいるのは邪魔ではあるな」

石 田「殴ったのは悪かったと思っています。謝る気はないけど」
レイジ「悪かったどころか、最悪だな。やったことの重大さを分かってるか? 謝る気がないだと?
    おまえのせいで、会社は大きな損失を招くとこだったんだ。利益に響けば給料にも響く。
    おまえは家族を支える同僚の生活まで脅かしたんだ。しっかり自覚しろ」
石 田「そんな大げさな。商談のひとつやふたつ」
レイジ「また大きな仕事くらいとってくるからいいか? できる営業マンは頼もしいな。
    だが得意先の社長を殴るなんてな。暴力沙汰になれば解雇されても文句はいえんぞ。
    いつまでも捻くれたヤンキー気分が抜けないのは、西さんの躾けが悪いせいか」
石 田「西先輩は俺に厳しく教えてくれてますよ。ただ、俺が甘えてるんです」
レイジ「そうだな。おまえの甘えが招いた結果だ。気の毒なことだ。
    彼はおまえに手を焼いてるよ。飼い犬に手を噛まれるとはこのことだ」
石 田「西先輩はそんなに俺に失望してるんですか……?」
レイジ「失望と軽蔑だな。おまえなんかに色々教えるんじゃなかったと言ってたぜ」
石 田「そう、ですか……。この一件の解決は、無理ですか?」

レイジ「無理じゃない。おれに持ち込まれる問題は大抵のことなら解決できるんだよ。
    幸い八木社長は俺も知り合いだしな。彼はおまえと違って大人だ。
    大人げないことをしたと、きっと何事もなく黙ってくれるだろうな」
石 田「西先輩とも切れてくれるんですか。あいつは結婚もしてるくせに西先輩と……」
レイジ「だからなんだ? ただの不倫だろ。合意だし、西先輩も八木さんのケガを心配してる。
    好きなんだろうな、彼のことを。八木さんは精力的だから、アッチも相当いいんだろうぜ。
    この件は全てなかったことにして、また明日からは二人で逢引でも楽しむだろう」
石 田「そんな……! 西先輩には、そんなことをして欲しくないんだ。男と不倫なんて最悪だ。
    それこそ、そんなことがバレたら大変なことになる!」
レイジ「西さんの心配か? 人の恋路を邪魔するものじゃないぜ?」
石 田「あんたはそれでいいと思うのか?!」
レイジ「いいだろ? 別に。本人たちがいいと思ってるのなら、他人がとやかく言うことじゃない」
石 田「西先輩は……。絶対、あいつなんか好きじゃない……」
レイジ「おまえ、土下座しろ」

石 田「え?」

レイジ「西さんと八木社長がセックスしてる前で土下座して赦しを請え。
    そうすれば、八木社長も気が済むし、丸く収まる」
石 田「……それがあんたの、解決策かよ?」
レイジ「違うな。それは今、ちょっと思いついたんだ。かなり面白そうだと思ってな。
    なんだったら、おれも参加してもいいぜ? 西さんを攻めたてて泣かせる役目は、
    二人いた方が面白いだろ? 八木さんのお赦しがでれば、おまえも参加できるかもな。
    どうだ? 西さんを抱きたいか、小僧。それとも突っ込まれたい? どっちだ」
石 田「なんだと……。ふざけんな、てめぇ!」
レイジ「まだ改心してないのか、そのキレやすい性格をなんとかしろ。口を開く前に10数えてみるんだな。
    いい歳をしてまだ不良学生気分とは、お気楽で良いご身分だ。おまえのことも調べたぜ」
石 田「俺のことを? 何でだ……」

レイジ「素行と言動が悪くて営業所をたらい回しらしいな。やっと落ち着いたのが西さんの元だ。
    その問題社員の不始末で、謝ってまわる西さんの苦労を考えたことがあるのか?
    本当に土下座でもして、てめぇの上司の気苦労を屈辱でもって体感しろ。
    おまえのような使えない部下は、おれなら即刻、闇に葬るけどな。もちろん、比喩だぜ」
石 田「……あんたって、噂以上に嫌なヤツなんだな。なんでまっくんは、あんたなんかに本気なんだ。
    だいたいおかしいよな。つきあってるなんて、やっぱり騙されてるとしか思えないよな?
    そうなんだろ。あんた、まっくんをバカにしてもてあそんでるんだろ」
レイジ「おまえらは騙されやすい、田舎者同士だよな」

石 田「なんだと……! てめぇ!! こいつを騙してんのかよ……ッ!」
レイジ「おっと。躾けの悪い犬だな。まだ手を出すのか? さっき10数えろと云わなかったか、おれは。
    ちゃんとひとの言うことは聴いて、腹に落とせ。上辺で聴いてるから成長しないんだ。
    おれまで殴ったら、おまえは郷里の友人と大事な先輩を失うぜ。いいのか?
    おれも乱暴なおまえを縛り上げるような酔狂なプレイはしたくないしな。
    そういうのは趣味じゃないんだ。気が萎える」
石 田「何をいってやがんだ、まっくんがあんたに騙されてるなら目を覚まさせてやるのが友達だろうが!
    放せよ!! 痛いだろ! あんた、見た目と違って結構力が強いんだな……ッ。クソッ」
レイジ「おれは騙してなんかいない。あいつは単線だから騙されやすいタイプだと言っただけだ。
    あんまり騒ぐなよ。マックが起きるだろ。
    もっとも酔って寝てる時はおれがフェラをしても起きないけどな。呑気なもんだよな」
石 田「な……!? ななな……ッ」
レイジ「どうした? 顔が赤いぜ。田舎の不良クンは下ネタは苦手だったか?
    興味があるなら、おまえにもしてやろうか? おれは相当、うまいぜ?」

石 田「な、なななにを?」
レイジ「フェラ。なんだよ、もしかしてホントに期待してるのか、ボウヤ?」
石 田「そ、そんなわけないだろ!! だいたい、あんたは男だし、マックの恋人だろ!」
レイジ「ひとのものに手を出すのはダメだって認識はあるんだな。
    なら何故、西先輩の愛人を殴った? 西先輩はおまえに八木社長の愛人だと説明したんだろ」
石 田「……西先輩は、あいつのものじゃない……から」
レイジ「それは嫉妬か? おまえが西さんを好きなだけだろ? 片思いの暴走だな。迷惑な話だ」
石 田「それは……。でも西先輩だって……」
レイジ「西さんにキスされたくらいで惚れたのか」
石 田「!! き、聴いたのか?!」

レイジ「いいや。カマをかけただけ。キスされたのか、西さんに。そうか。西さんも罪な男だな」
石 田「違うよ。俺が、西先輩に好きだって言ったんだ。ずっと前からそうだったって」
レイジ「何の純愛ドラマだ。そんなのにつきあってる暇はないんだがな、おれは。
    おまえ、本気なのか。さっき、言ったよな? あんたは男だって。
    おまえの恋愛観では同性を好きなのは、ありえんのだろ?
    西さんを好きだなんてどういうつもりで言ったんだ。彼は同性愛者だ。
    おまえは違うんだろう?」
石 田「そんなの、いつ宣言したらいいんだよ。男の西さんを好きになったときかよ?
    だとしたら俺はその瞬間から同性愛者になったみたいだって云えば信じて貰えるのかよ」
レイジ「さぁな。そういうことも、あるのかもしれないし、おれにはわからんな。
    物心ついた時からゲイだったからな。急に目覚めたヤツの意見でも聞けばどうだ?
    今は豪快に寝てるけどな」
石 田「まっくんだって、初めからゲイじゃなかった。バイだとも思ってなかったって言ってた。
    ただ、あんたのことが好きでどうしようもない、本気だって言ってたんだ……」
レイジ「こいつが本気なのはわかってるよ。だから面倒なんだがな。
    だが小僧の場合は、おれとの前に外の男と経験済だったからな。だから油断した。
    そういう軽いヤツなら手軽で早いと思ったし、あとで面倒も後腐れもないと思ったんだ」
石 田「えっ。そうなのか?!」
レイジ「なんだ。聴いてないのか。自分の都合の悪いことは話さなかったんだな」

石 田「まっくんは、最初からあんたが好きなんじゃなかったのか?」
レイジ「さぁな。ただいつの間にかおれに本気だと云いだしてこうなった。泥沼だな。
    最悪だった。都合のいい相手だと思って、誘惑したのが運のツキだ」
石 田「あんたも八木社長みたいに、まっくんをただの愛人だと思ってるのか?」
レイジ「そう思っていたかったんだがな……。どうもそうもいかなくなって久しいよな。
    戻れるものなら戻りたい。たぶんもう戻れないけどな」
石 田「まっくんが好きなのか?」

レイジ「こいつの言動に翻弄されるくらいには、好きなんだろうなきっと」
石 田「ちゃんと答えてくれるんだな……。まっくんはそんなふうに言ってなかったけど。
    あんたの本心が解らないみたいな素振りだった。本心を言ってくれないって」
レイジ「おれは嘘は言わない。ほとんどな。小僧に面と向かって云う気はないけどな」
石 田「何でだよ? 言ってやってくれよ。まっくんはあんたの気持ちを聴きたいと思うよ」
レイジ「おまえも西さんの気持ちを聴きたいか?」

石 田「聴きたい……ような、聴きたくないような、かな。
    正直、八木社長と別れて俺とつきあってくれなんて言えない気がするんだ。
    なのにあのエロ社長と西さんが、またあんな関係に戻るのを俺は認めたくない。イヤだ」
レイジ「自分勝手な言い分だな」
石 田「そんなのわかってるよ。だけど俺は、西さんに何の責任も持てないんだ」
レイジ「責任か。西さんがおまえごときに責任を持って欲しいとは思ってないと思うがな。
    とにかく諦めるのか、諦めないのかどっちかにしろ。このままだと西さんも辛い」
石 田「西先輩が俺を好きなのか解らないから、決心できないよ」

レイジ「そうか。両想いでなければ好きにはなれないか。合理的だな。
    案外、利口なんだな、おまえは。ここで酔いつぶれて寝てる直情バカにもそう言ってやれよ。
    自分が好きだってだけでただ突っ走って、おれにつきあってるとまで云わせたんだからな。
    両想いなんて関係ないらしい。諦めないでよく頑張ったものだと感心する」
石 田「あんたはマックのしつこい押しに負けたのか?」
レイジ「まぁ、そうなるな。何度も終わったことはあったんだがな。こいつはそれをすぐ無かったことにする。
    恐れ入る恥知らずだ。だからどういうわけだかまだ続いてるよな。おれにはそういうことは初めてだ」
石 田「まっくんは、昔から頑固だったからな。
    適当に人に合わせるふりをして、実は人の話を聴いてない。自分の信念だけは曲げないんだ」
レイジ「昔からか。ここまでおれを動かすと思わなかったのは、確かだな……。
    困ったヤツだ……。おまえ、こいつの演奏を聴いたことがあるか?」

石 田「いや、ないよ。知らなかったんだ。楽器を弾いてることも、音楽をやってることも」
レイジ「ベースはリズムの土台だ。地味な低音を出す目立たない楽器だ。派手な奴はそんな楽器は弾かない。
    個性的で偏屈だけど誰とでも仲良くできるやつが好むギターだ。マニアには人気のパートだしな」
石 田「まっくん、らしい選択だな」
レイジ「同じベースでも、ベーシストによって音は変る。やらたと派手な弾き方をするヤツだっている」
石 田「まっくんは、どんなタイプ?」
レイジ「特に目立つことはない。直向きに弾いてるだけだ。シックスティーズは音の土台が大事だ。
    正確にリズムを把握してスタンダードを演奏する。それぞれの楽器が目立ったら煩くてしょうがない。
    あそこはボーカルが個性派揃いだからな。メンバーは音にシビアで、その場の空気を読むのは一番だな。
    ボーカルが気持ち良く歌えるように最大限、音を削ったり、彼らが歌いやすい工夫を常に気にしてる。
    素晴らしい絵を描くには平らで白いキャンバスの方が描きやすいだろ。
    まあジャンルによっては下地に色やオウトツがあっても面白いものはできるがな。
    ジャズなんかはそうだよな」
石 田「でも、誰でもできるってことじゃないんだよな?」
レイジ「当たり前だ。むしろ、その方が難しいな。シックスティーズはバンドの選考が厳しいので有名だ。
    安定した土台がないと、ボーカルは歌い辛い。ボーカルが良く聴こえないと店は評判にはならない。
    だから良いステージには良いバンドが、良いベースが欠かせない。
    地味だからと、ベースが抜けたりしたら、とたんにガタガタになるし、音は腐抜ける」
石 田「必要不可欠なんだな」
レイジ「そうだな。いらないと思っても、必要だ。そこにあることで成立するステージだ。
    だがそれは、パートのすべてがそうだ。誰が欠けても良いステージはできない。
    一度、シックスティーズに聴きに行ってみろよ。他の店と大差はないと感じるかもしれないがな。
    音に興味がなければベースの良さは解らないかもしれない。でもコイツは、愉しそうに弾いてるぜ」
 
石 田「――――あんたは……。いや、うん。そっか。分かったよ。今度、行くよ。
    まっくんをよろしくお願いします。あんたって全然良さそうな人には見えないし、
    胡散臭い感じもするけど、きっとまっくんのことが好きなのは本当だと思うよ」
レイジ「頼まれてもこのままじゃ何もできないけどな。せっかく来たのに酔いつぶれた木偶のぼうだ。
    いっそ、起こすか? おい、小僧、起きろよ」
石 田「まだ寝かせといてくれないかな。俺のヤケ酒につきあってくれたんだ。赦してあげてくれよ。
    まっくんは、中坊の時もそうだった。
    俺が家に帰りたくないって云ったら、家出して酒飲んで、夜通し喋ろうってよくつきあってくれた。
    でも実は黙って俺のお袋に電話してて、今夜はうちにいますから心配しないで下さいって、
    ちゃんと言ってたらしいんだよな。面倒見がいいよな。親にまで気遣いができる。
    ぜんぜん不良じゃねーじゃんって。お袋が話してくれて、ずいぶん後になって知ったんだ」
レイジ「は。コイツには妙な几帳面さがあるからな。おれもコイツの的確な判断のせいで、
    風邪を引かず、今だこの世に存在できているともいえるからな。おせっかいな男だ」
石 田「中坊なのに本当にカッコ良かったんだ。まっくんがぜんぜん変わってなくて良かったよ」
レイジ「ああ。そうだな。そんな頃から変わらないとは進化のない男だけどな」
石 田「子供のまま、大人になるのは奇跡だよ」
レイジ「こいつはミュージシャンだからな。頭の中は、永遠の中学生だ」

石 田「ああ……なるほどね。(笑)」
レイジ「おまえはもう少し、大人になった方がいいぜ。西さんに対してもな。
    彼はおまえを苦境の道に連れ込みたくないから、本心を云わないかもしれないぜ。
    きっと、おれよりも真面目な性格なんだろうな」
石 田「そう、なのかもな。どうしたいのかは、俺、次第だよな」
レイジ「そうだな。おまえ次第だ」
石 田「レイジさんは、迷わないのか?」

レイジ「迷わない人間なんか、いない。どんな結果になっても、決めるのはおまえだ。
    それが幸か不幸かも、すべてはおまえが決めればいい」



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