All I Want For Christmas Is You
恋人たちのクリスマス
02
石 田「やーー!! 先輩!! めっちゃ楽しい店っすね、ココ!! 最高〜!!
こんな世界の店があるなんて、知りませんでしたよ! 目から鱗だ〜」
西先輩「だろ? 初めて来た客は、誰でもそういうんだよなぁ」
石 田「先輩、ドヤ顔ですねぇ。ボーカルの女の子のドレスが可愛いですよね。
スカートが盛り上がって、フワフワだー♪」
西先輩「オールディーズには欠かせない定番のドレスだよ」
石 田「へぇー♪」
西先輩「ほら、見てみろ。バンドメンバーがチョイチョイ客席を回ってるだろ?
ああやってステージの合間に、客席に挨拶に来てくれるんだ」
石 田「へぇー。そんな接客まであるんですねー。早くあの可愛い子、こっちに来ないかなぁ♪」
西先輩「キャバクラじゃないんだから、舞い上がるなよ。でも接客は店によるらしいけどな。
最近はほとんどの店がお客獲得のためにサービス接待してるらしいけど、
さっき話したシックスティーズの店は、ほぼバンドマンは席には来ないって話だよ。
そういうのはしないスタイルなんだって。他の店のお客さんに聴いた話だけどな。
シックスティーズはあくまでステージで勝負なんだとさ。スタッフじゃなくて、アーティストだ。
それでもいつも超満員らしいから凄いよ。男性ボーカルがとにかく美形で歌も上手いし、
モテるから紳士淑女から若い女まで、ファンがわんさかいるらしい」
石 田「そんなに人気なのに、挨拶にも来ないんですか? その美形ボーカル」
西先輩「ああ、特にそのボーカルは、超常連客の席にしか来ないらしくて、
皆、常連になって彼に顏を覚えられたくて、女性客同士はジェラシービシバシらしいぜ。
確かに女性からは黄色い声が上がってた気がするよ」
石 田「うわー、気取ったボーカルだなー」
西先輩「でもそれが許されるような納得できる凄い歌を歌うんだよな。社長もベタ褒めなんだ。
日本人だけど、まるでエルビス・プレスリーみたいにカッコ良く歌うんだぜ。
あの社長がそれほど惚れこんでるんだから、相当なものだよ。お前にも聴いて欲しかったんだがな。
あれ。川野さん、さっきからずっと俯いてるけど、大丈夫か? 酔ったのかな? 酒、弱いの?」
マック「えっ……」
石 田「あー、大丈夫、大丈夫。まっくんは昔から不良でしてねー。
中学時代から酒・タバコ・喧嘩は得意で、ぜんぜんイケる筈なんですけど?
どうしたんだ? まっくん、大人になったら、飲めなくなったのかー?」
マック「なななな、何を云うんだね、石やん。ぼかぁ、そんな不良じゃないですよ」
石 田「良く云うよー。あのねぇ先輩、コイツねぇ、昔は地元じゃ相当な不良だったんですよ。
あっちこっちでケンカ買って学校にまで地元のワルどもが、乱闘に誘いにきてって……。
こいつ、眼光が強いでしょ? 眼つき悪くてすぐ他校の生徒にケンカ売られちゃうんですよねー」
西先輩「その不良と友達だったお前も、もしかして元ヤンなのか?」
マック「バカ石め。ほらみろ。ヤブヘビだろーが。お前が田舎の悪いヤンキーだったのバレたぞ」
石 田「いやー、そんなん若気の至りじゃないっすかぁー。中坊のときの話ですよ?」
西先輩「そうか。なんかお前ってそんな気がしてたよ石田。変に度胸が良すぎるからなぁ……」
石 田「俺、度胸イイっすか?」
西先輩「……いいだろ。困ったくらいな。あ、ギターボーカルが、こっち来るぜ」
石 田「なぁ、まっくん、どげんした? ホントに酒、弱かなったんか?」
マック「い、いや、違う……お腹がちょっと……俺、トイレに……」
アキラ「こんばんはー。ようこそいらっしゃいませ……あれっ? マッ……」
マック「うわぁーー!! ギターのおにーさんてば、超イケメンですねッ!?
王子様みたいにカッコ良かったですばいッ!! さすが都会は違うとねー!
こげな店、来るの初めてで、すんごいキンチョウしよるとね!!」
石 田「おいおい、まっくん、方言炸裂漏れてるぞ。勘弁してくれ、カッコ悪かー」
西先輩「石田。そういうお前も一緒に漏れてるぞ」
石 田「あっ、しまった、つられた! もれなく漏れた!」
西先輩「今晩は。こういう店、こっちの二人は初めてでね。コイツは俺の後輩なんだけど、
こっちの彼とは郷里の同級生らしくて、偶然さっき街中でバッタリ再会して、
一緒に飲まないかってことになってさ。二人は数十年振りだかの巡り合わせなんだ」
アキラ「―――ああ、なるほど。そうなんですね。そうか。
それはすごいですね。偶然、こんな都会の真ん中で会うなんて。ドラマみたいだ。
郷里の旧友ですね。ではどうぞ、最後までゆっくりして行って下さい」
マック「ど、どうも、どうも、ドモアリガト!!」
西先輩「ああ、ありがとう。でも折角だけど、今回はこれから他の店も回る予定でね。
これで帰るけど、すごく良いステージだったよ。また来るよ」
アキラ「ありがとうございます。そうなんですか、残念ですね。またいらして下さい。
お待ちしています。ちなみにこれから、どちらのお店に行かれるんですか?」
西先輩「うん、クラブ・アルーシャにしようと思ってるんだけど、おススメかな?」
アキラ「それはいいですね。ボーカルのサワは、歌もステージングもキレッキレですからね。
今夜は人気のシックスティーズが貸切らしいですから、他だとこの辺ではアルーシャでしょうね。
コリンズよりちょっと新しい音楽をやってますよ。あそこも良い店です。僕も以前、いた店ですしね。
こっちとはライバル店ですけど、最近は音楽ジャンルの棲み分けもありますから。
では、再会を祝して楽しい夜を」
西先輩「うん、ありがとう」
石 田「なんだよ、まっくん。どうしたんだ? そんな酔ってないよな?
そんなテンパりキャラだったか? 随分、変ったんだなぁ、お前って」
マック「いや、あの、ちょい、ビックリして……」
西先輩「あのイケメンにーさんは、ギターボーカルのアキラって云うんだ。
こっちも女性ファンが多くて、キャーキャー王子様って騒いでるらしいよ。
女性でなくても、また来たくなる店だよな」
石 田「……でしょうね。丁寧で優しげな爽やかイケメンでしたね。
もうにっこりって擬音が聴こえそうだったし。めっちゃモテそうだよな。
優男だ。俺は好かんな。いや、ヒガミじゃないっすよ?」
マック「ゴメン。俺、ちょっとトイレに行ってくる……」
石 田「え、まっくん! ホントに腹、壊したのか? 大丈夫か?」
マック「大丈夫、すぐ納まるから! 壊してはいません!! 先に外で待ってて!」
石 田「どうしたんだろ、まっくん。久しぶりで緊張してるのかな。
そういうキャラじゃないけどな……」
西先輩「随分会ってないんだろ? 人は変るさ。それに俺に気をつかってるのかもしれないだろ。
俺がおまえら二人にした方が良かったのかもな。悪かったな。二人で昔話もしたかっただろうしな」
石 田「別に。そんなことはないっすよ。ずっと疎遠だったんだから今更だ」
西先輩「そうか? おまえの憧れだったんじゃないのか、彼は」
石 田「憧れじゃないッスよ。そういうんじゃないですよ」
西先輩「そうか……」
スタッフ「……あら? マックさんじゃないですかぁ?
今夜はシックスティーズ貸切なんですってね。お客様流れて来てありがたいです♪
ついでにマックさんも来てくれたんですか?」
マック 「しぃッ! 俺いま、極秘ミッション中だから声かけないでくれませんか。すいません」
スタッフ「はぁ?」
マック 「ちょっと爽やか王子、呼んで貰っていい?」
スタッフ「はぁ……どうぞ? アキラさんは楽屋にいますよ? マックさんはフリーパスですよー」
マック 「え、そなの? 悪いねェ」
マック「アキラ― いるかー?」
アキラ「あれ。まっくん。さんじゃないですか」
マック「――――ソレな、絶対、ナルセに言うなよッ?!」
アキラ「なんですか、一体?(笑)何の罰ゲームなんです?」
マック「罰ゲームじゃねぇよ。なんか成り行き上、さっき説明された通りで、
ヤクザなミュージシャンしてますって言い辛くなって今に至るだよ」
アキラ「呆れた。いくら店が混んでるからって、そのうちバレますよ? アルーシャ行くんでしょ?
シックスティーズの常連客も、今日は結構、流れてきてますしね。サワだって……」
マック「そう、そこで相談です! もうここは出るから大丈夫セーフとして、
次はアルーシャ行くらしいから、ちょいサワにメールして説明しといてくれないか?
今日はマックさんを見ても、全無視でお願いしますって」
アキラ「自分でしたら良いじゃないですか」
マック「やだよ。貸しにされるだろ。サワに貸し、コワいもん」
アキラ「じゃ、もう帰ったらいいじゃないですか」
マック「そんなことできるかよ! 同郷の顏を潰すだろ!」
アキラ「じゃ、実はシックスティーズのベースですって告白したら?」
マック「それはさー。今更だし。このままだと、色々店の情報や印象も聴けるし、
ちょっと密偵な気分もあるじゃん? なんか詳しいんだよ、あの先輩さ」
アキラ「じゃ、コリンズの噂も訊いといてくれますか?」
マック「アキラくんは、爽やかイケメン王子で、にっこりって擬音付のスマイルだってさ」
アキラ「そんなことは、知ってますよ。それ以外に訊いて下さい」
マック「うわ。嫌な腹黒王子だな、お前って」
アキラ「その同郷のひとは、今のマックさんを知らないひとなんですね?
いつ頃のご友人なんですか?」
マック「中学の同級生だな。よくつるんでたけど、高校は別れたから、
その後はあんまり付きあいなかったんだ。それ以降は連絡もしてなかったし。
でも同じくこっちで就職したらしくって、ホント、バッタリ会ったんだ。
で、俺は貸切で暇だし、会社の先輩と下見とかの飲み会につきあってるわけ。
まさかオールディーズの店に行くとは思わなかったからな」
アキラ「そうなった時に云えば良かったじゃないですか。
おいらはシックスティーズでブイブイ言わせてるベーシストなんだぜぃって」
マック「なにそれ。やな感じ。だって急にあてにされても困るだろ」
アキラ「じゃあ最後まで言わないでやり過ごすつもりなんですね?
……大丈夫かなぁ。マックさん、嘘がヘタクソですしね。お客さんの目もあるし。
でもマックさんの身長じゃ、そんなに目立ったりしないし、大丈夫ですね」
マック「めっちゃ嫌な言い方しますねアンタ。ケンカ売ってんのかてめぇ、表に出ろ」
アキラ「冗談ですよ。フフフ」
マック「変わったよ。アキラは変わっちまったよ……。業界に毒されたよ……。
コリンズでさらに擦れちゃったんだな……。嗚呼、あの頃の笑顔の白王子はどこに行ったんだ」
アキラ「まぁ、純白では居られませんねぇ。なんてね」
マック「なぁマジ、困ってることあったら、俺に相談しろよアキラくん?
お前には俺、絶対的な借りがあるんだから。早く恩返ししたいんだ。
でも今日は、とにかく頼んだからな? 信用してるぜ、アキラ」
マック「わかりました。任せておいて下さい。ヽ(^。^)ノ」
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