I Can't Stop Loving You
愛さずにはいられない


04




レイジ「それで?」

鏡 夜「終わりです」
レイジ「終わり? 要するに? 要するにサワはリンが好きなんじゃなくて、それをネタにおまえと寝たって話なのか?
    なんだよ。サワはおまえと付き合いたいって、いつ言ったんだ?」
鏡 夜「私とサワさんがつきあっても、お互い体を重ねる相手が他にもいるという関係にしかならないでしょうね」
レイジ「おれの話を聴いてたか?」

鏡 夜「おっしゃることがわかりませんが?」
レイジ「おまえだけのオンリーワンの恋人を見つけるって、おれは言ってるんだよ。わかってるのか?
    淫乱尻軽の浮気癖ボーカルなんか、このリストからは削除だろ」
鏡 夜「そうなりますよね」

レイジ「当然だ。あのキツネ野郎、悩んだふりをして鏡夜と寝るとは、なんて性根の腐った男だ」
鏡 夜「豪さんもあなたも、恋人の浮気相手には、懇意にしていてもつい辛辣になるのですね。嫉妬とはなんと根強いものでしょう」
レイジ「なんの話だ? おれに嫉妬なんか関係ない。浮気って何のことだ。奴が小僧と何かあったって関係ない。よし、リンにも言ってやろうぜ。
    結局サワはがっつりヤリたいだけだから、おまえの甘ったれたキスの相手なんか、バカバカしくてやってられないとな。
    さっさと目を覚まして可愛い彼女を見つけろと言ってやる。おまえもそんな男を同情でベッドに誘ったりするなよ。不愉快だ」
鏡 夜「そんなことは、私の自由です。サワさんは41のスターボーカルですから、悪い気はしません。彼は充分、魅力的なひとです。
    ただ少し独創的な思想があるだけです。私はプライベートで寝たくもない人間と寝るほど、自暴自棄にはなっていませんよ」
レイジ「わかった。おまえの好きにすればいい。もう過ぎた話だしな。もういい」
鏡 夜「怒っているのですか?」
レイジ「怒ってない。いや、怒ってるかな。リンが気の毒だ。サワはただのセックス依存症だった。
    リンがキスしてやったせいで、リンまでが性欲対象になって、単にセックスを期待しちまっただけだったんだ」

鏡 夜「でも関係を壊したくなくて、気持ちを封印していたと思うなんて、可愛いじゃないですか。
    あれは嘘ではなかったと思いますよ。サワさんが想像した正直な気持ちです。彼もわりと純粋ですよね。
    体の欲望だけで人間関係を壊しまわっている彼にも、失いたくないほど大切なひとがいたということです」
レイジ「でも、今まさにそれを失おうとしてるだろ」
鏡 夜「それはわかりません。お二人がそうならなければ、関係は続けられるでしょう」
レイジ「そうか。これ以上の発展を諦めたほうが、連絡を寄こすだろうな」
鏡 夜「ええ。サワさんかも知れませんね。すっきりとしたお顔をされていましたから」
レイジ「それはおまえとセックスしたせいじゃないか。リンがサワに振られて傷心になったら、おまえが今度はそこにつけ込めよ。
    タイミングが良ければ、リンも落ちるかもしれないぜ?」
鏡 夜「そうですね。では、リンさんもリストに加えましょうか」
レイジ「……冗談だ」

鏡 夜「ええ。リンさんは良いミュージシャンですけど、立候補して頂けるとは思えませんね」 
レイジ「まぁ、どうでもいい話だったな。次だ。他には……と。こいつは、アレだしな。ぜんぜん却下だ。
    まったく恐れ多いヤツが多いな。こいつも、こいつも、こいつも……。なんなんだ。まったく。
    あー、ダメだ!! なんだ、ろくな奴がいないぞ?! おまえ、つきあいする人間をもう少し考えろよ!」
鏡 夜「ほとんどが、あなたのお知り合いですけどね」
レイジ「おれの知り合い? 嘘だろ。誠実なヤツがほとんどいないじゃないか、おれの知人は?」
鏡 夜「では、ラディスさまは、いかがでしょう?」
レイジ「リストにないな。それは初めから載っていない。削除しておいたからな」

鏡 夜「彼が、優秀だからですか?」
レイジ「変態だからだよ! あいつはおまえには勿体ない。絶対、世界中で浮気するしな。誠実さがまるでない。
    エトーのようなヤツだ。いくら仕事が出来る男でも、ラディスとの交際は、お父さんは絶対、認めません!」
鏡 夜「ラディスさまは、本当はあなたのことが好きですからね。私の恋人になったら、あなたが狙われるでしょうね」
レイジ「義父を狙ってくるようなキモイ展開、BLものでは下剋上ジャンルだぞ。そういう色っぽい話ならまだいいさ?
    あいつもおれの商談ルートを狙ってるんだよ。そんな最強二人でタッグを組まれたら、おれの命が即、危ないだろ。
    正真正銘の下剋上だ。いいか、あいつだけとは、付き合うな。ピンで刺されてガラスケースに飾られた方がマシだ」
鏡 夜「私とラディスさまが組む展開とは、少し興奮しますね。あの方の現在の秘書も、相当優秀な方ですよね」
レイジ「秘書との浮気は、禁止だぞ。変態も禁止だ! 断固、おれは反対する!」
鏡 夜「レイジさん。本当に選んで下さる気があるんですか?」
レイジ「鏡夜ちゃん。本当に誰かと付き合う気があるのか?」
鏡 夜「ありますよ」

レイジ「そうか? 本当に? よし。次は宮本伸二。お、シンちゃんだ。良かった。やっとマトモな人物の登場だ。
    恋人オーディションの事情を話して、早速デートの約束を取り付けようぜ。決定だ」
鏡 夜「伸二さん? 何故、彼が? ダメですよ、勝手に書き足したのですか」
レイジ「どうして? デートするくらいいいだろ?」
鏡 夜「あのひとは真面目なひとですから、恋人オーデションなんてもの、賛成しませんよ」
レイジ「そうか? そんなに真面目でもないと思うけどな。
    陶芸家だし、アーティストだし、シンちゃんだって、どこか偏屈な筈だ」
鏡 夜「どういう偏見なんですか」
レイジ「シンちゃんは、真面目におまえが好きだし、誰よりもきっと大事にしてくれると思うよ」

鏡 夜「ええ、そうでしょうね。でも、もの足りません。失礼ですけど、性の価値観が違うと思います。伸二さんではダメです」
レイジ「いや、おまえが頼めば、変態セックスのひとつや二つは、勉強してくれる勤勉さはあるよ、きっと?」
鏡 夜「伸二さんに、それを強要するのが嫌なんですよ。伸二さんはそういうひとで居て欲しくありません」
レイジ「複雑なことを言うなよ。矛盾してるだろ。シンちゃんの身にもなれよ。おまえをすごく好きなシンちゃんなのに」
鏡 夜「では、レイジさんが私の愛人になってくれますか? あなたがすごく好きな、私なんですから」 

レイジ「やめた。もういい」
鏡 夜「私の恋人探しは、飽きましたか? 退屈しのぎにはなったでしょうか?」
レイジ「うん。無駄なことだった。もういいよ。おまえはしょせん、おれが好きだよな」
鏡 夜「そうですね。申し訳ありませんが、まだあなたにしか、興味がありません」
レイジ「分かった。無理に恋人は作らなくていい。好きな奴ができたら、いつでも作ればいいけどな」
鏡 夜「待っていても、いいですか。あなたのことを」

レイジ「待つなと云いたいが、こればかりは命令できないよな。おまえの自由だ」
鏡 夜「あなたはもう私に、もう少し待ってみてくれとは言ってくれないのでしょうね」
レイジ「期待させることは言いたくない。……今はな。先は解らなくても、待たせるつもりはない」
鏡 夜「私は、相当あきらめの悪い男ですね。あなたを愛さずにはいられない」
レイジ「まるで歌の文句だな。そうだな。おれから死後の財産まで奪っておきながら、まだ生きてる間のおれのことまで欲しいというのは、
    呆れるほど執拗なストーカー男だよな」
鏡 夜「ストーカー? 待ってください。私のどこがストーカーなのですか?
    いつだってあなたのことの95パーセントほどしか私は知りえてませんよ」
レイジ「ほとんど知ってるよな、それ」
鏡 夜「5パーセントも、わかりません」

レイジ「それ以上は、知らないでくれるか」
鏡 夜「仕方のないことです。私はあなたの秘書兼執事のようなものですから、
    あなたが朝起きて夜眠るまで、衣服から食事まで何でもお世話させて頂いているし、ほとんどは知っています」
レイジ「そんなに世話にはなってない! だいたい、おれの95パーセントも知ってるわけがないだろ。
    じゃあ、おれが昨日食った食事のメニューを、ひとつ残らずあげてみろよ!」
鏡 夜「いつの時間のメニューですか?」

レイジ「朝、昼、晩、全部だよ。ひと品も間違えるなよ!」
鏡 夜「わかりました。昨日は朝食ではなく、少し遅めの十時にブランチを召し上がられました。
    セミノール・オレンジのジュースと、クレイフィッシュ&ロケットのサンド、サラダは……」
レイジ「わかった。正解だ。ブラボー、パーフェクトだよ!」
鏡 夜「まだ途中ですが」

レイジ「いいよ、分かってるよ。他の品目も正解に決まってるよな!」
鏡 夜「食べ過ぎて胃薬も飲まれましたよね。ザリガニは午前には少々、重かったですね。
    今度はたとえ要求されても、軽めなハムとチーズのクラブサンドに致しましょう」
レイジ「何から何までムカつく男だ。おまえはバトラーというより、ヒトラーだよな? そうだ、弱いものを苛める殺戮魔だ!」
鏡 夜「……レイジさん。韻でも踏んだおつもりですか? ウイットとは、ほど遠いレベルです。少々、酷いですね。
    あなたは影響されやすい。すっかり冗談のセンスまで下級になってしまわれました。どなたかのせいでね。
    きっと交わって感染したのでしょうね……。嗚呼、嘆かわしい限りです」
レイジ「なんだと、おれを愚弄する気か? 空気読めないベタなベースマンなんかと一緒にするなよ!
    センスの悪さなんか、うつってないぞ! この悪魔の申し子の殺人鬼が! おまえはやっぱり、恐ろしい悪魔だ、信用ならん。
    死ぬまで財産はいらないとか殊勝なことを言ってるが、おれの隙を見て笑いながら、真綿で締め上げてくびり殺す気だ!」

鏡 夜「困りましたね。そんなに熱くならないで。どうしたんですか、レイジさん、落ち着いて下さい。
    私は悪魔の申し子ではありません。ヒトラーは公然と大勢の罪なきひとを無作為に、残虐な方法で葬りました」
レイジ「そうだな? 知ってるよ?」
鏡 夜「私はひっそりと誰にも悟られず、あなたにとって罪を負うべきひとを選んで闇に葬ります。しかも優しく丁寧に。
    よく考えて下さい。まったく違いますよ? そうでしょう?」
レイジ「は……。ははは、そうだ。確かにそうだ。おまえは公に葬ったりはしないよな? ああ、確かに。
    うん。おれが間違っていたよ。ハハ、アハハハハハッ…… すまなかったな、アハハハハハ」
鏡 夜「何がおかしいのですか? レイジさん。……フフ、変なひとですね。フフフフ、冗談ですよ、もちろん?」
レイジ「アハハ、そうだ、もちろん、冗談だ。冗談に決まってるだろ。でも何だか笑えるな……。おまえってヤツは。
    あーもう。……来いよ、鏡夜。可愛いおれのキョウ。ここに来て座れよ。肩を抱かせろ。もうキスはしないが、こっちに来い」

鏡 夜「はい。あなたの肩を、胸を、クリスマスが来る前に、今少し、今だけ私に貸して下さい。レイジさん……」







NEXT 05