Hope


05
3月31日 翌日(4/1) AM.00:15

登場人物:豪/レイジ/ナルセ
場 所:ピアノ・マン





 豪 「まて。エイプリル・フールだ、レイジ。
    調子に乗って、それ以上、ナルセに触るなよ。離れろ」

レイジ「―――へぇ。やっと美人局の登場か。ホールドアップだな。
    ケチくさいことをいうなよ、豪。
    おれを騙すつもりなら、ナルセの指の一本や二本、
    ついでに股の間の一本も舐められるくらいの覚悟はしておけ」

ナルセ「なんだ。バレてたのか?」
レイジ「芝居がクサいんだよ、バカ」

ナルセ「そう? 結構、迫真の演技だったと思うけど。本気にしたろ?」
レイジ「まさか。わざわざおれを騙すために、4月1日に帰ってきたのか?
    ヤンキージョークに毒されたか。またはヒマなのか」
ナルセ「そういうわけじゃないけど……最初から嘘だと分かってたのか?」

レイジ「もちろん、分かってたよ?」
ナルセ「ホントか? やけに真剣な返しに思えたけどな」
レイジ「そりゃ、本音だからな。おれの。愛しのナルセ」
ナルセ「じゃ、騙されたんだろ?」

レイジ「ナルセ。どうしてわからない? おれはいつも言ってるよな?
    不毛なまでにおまえを愛してるんだって、いつも言ってる。
    だけど、おまえが豪を諦めるなんて、それ以上に絶対信じてないからな、おれは」
ナルセ「そうでもないのかもしれないぜ?
    さっきのレイジの告白は、ちょっとハートに届いた」
レイジ「嘘だと云いながら、続きをご所望か? おれを舐めるのもいい加減にしろ。
    次のシーンカットなら、キスじゃなくてベッドインだぜ。もう遠慮なしだ。
    ここで愛しのナルセをひん剥いて、おまえに見せつけようか、豪?」

 豪 「俺はその間、目を瞑る」

レイジ「……なんだって? 何て言ったんだ。実は、おれの夢なのかこれは?
    目を瞑る? 正気か? 豪」
 豪 「あんたは言ったよな、レイジ。
    昔、俺はあんたと契約した。
    あんたは、俺がいない間、ナルセの浮気心の監督役を買って出ると言った。
    あの約束は、まだ有効か」

レイジ「勿論、契約継続中だ。
    今でもおれは、ナルセに悪い虫がつかないよう見張ってるつもりだ。
    でもそのおれが、ナルセを寝取っても構わないと言うのか?
    おまえが? また懲りずに別れてみた?」
 豪 「腸を引き千切られる激痛でも、譲らないといけない状況だ。
    心情穏やかじゃないが、どこの奴ともわからない男と寝るくらいなら、
    レイジにしろと言ってある。本気だ。言ったからには……二言はない」
レイジ「二言はない、ね。おまえは武士かよ。いぶし銀すぎるだろ。
    しかしそれはまた。思い切った決断だが、いったい何があった」
 豪 「俺は……。また暫くナルセの傍にいてやれないんだ」

レイジ「じゃあ、やっぱり行くのか、また」
 豪 「ああ。俺は、どうしても今、NYで音楽をやりたいんだ」
レイジ「二人で決めたのか? ナルセよりも、それは大事なのか」
 豪 「比べるものじゃない。音楽とナルセには順位がない。
    だけど、俺は結果的に長い間、またナルセの傍にはいられなくなるんだ。
    ナルセは放っておけば誰かを求める癖が多分、発症するだろうな。
    だから、断腸の思いで俺と一緒に来てくれと頼んだんだが……」
レイジ「断られた?」

 豪 「予測はしていた。答えは解ってたんだ。ただの、俺の感傷だ。
    シックスティーズで歌うのが、ナルセの希望だ。希望は誰にも壊せない」
レイジ「ナルセ。おまえは、豪と離れることになってでも、シックスティーズに居たいのか?
    豪はもう、おまえの元に戻らないかもしれないぜ」
 豪 「待て。いい加減なことを云うな、レイジ。違うぞ。
    仕事の問題だから、別に俺たちは別れるわけじゃないんだからな」
レイジ「体が離れてると、心も離れることになるかもしれないだろ」

ナルセ「俺たち、仕事の面で選ぶ道が違うんだ。それはしょうがない。
    豪と離れるのは死ぬほど辛いけど、日本に豪はいなくても、レイジはいるだろ。
    だから、決めたんだ。豪が好きだけど、
    レイジが居るなら、俺はシックスティーズのナルセであり続ける」

レイジ「おれで我慢するということか。ベッドにくるオプション付きで?」

ナルセ「それは行かないよ。どんだけ俺を淫乱だと思ってるんだよ。
    ただ豪が、勝手にそう思ってるだけ。まったく失礼だよな。
    いくら大丈夫だと言っても信じてくれないんだよ。一応、我慢の努力はする。
    それでもヤバくなったら、縛ってくれよ。だってレイジは、おれと寝ないだろ、今」
レイジ「そうだな。今は、寝ないな」

ナルセ「ほらな、豪? 言ったとおりだろ。
    レイジはもうマック以外とは、寝ないんだよ。本気なんだ」
 豪 「そうなのか。マックと本気でつきあってるのか」

レイジ「何の話だ。やめてくれ。本気だとか、意味不明だ。そういうことじゃない。
    まったく違うと言っただろ。覚えの悪い生徒にもう説明はしない。
    それに―――。そうだな。偶然にも、良いタイミングだ。
    期待に添えて意外に早く、俺はナルセを抱けるかもしれないぜ?」

ナルセ「それ、どういう意味だよ。なぁ、レイジ。何かあったか?
    あのさ、この間、俺に電話をかけてきただろ。着信があった。
    かけ直したら、レイジは間違い電話だと言ったけど、様子がおかしいと思ったんだ。
    変な胸騒ぎがしたんだよ。だから心配で、帰国予定を早めたんだ。
    豪まで一緒に来なくて良かったのに。わざわざ」
 豪 「明日にはもうあっちへ行く。お前ひとりで、レイジに会わせられるか」
レイジ「おいおい。まさか、間違い電話のせいでこっちへ帰って来たのか?
    嘘だろ。おれは、とんだお騒がせをしでかしたのか」

 豪 「ナルセはまだレイジの生死を気にかけてる。いつもだ。
    俺と寝るときも、携帯はONのままだ。レイジの電話には敏感なんだ。
    だからナルセに紛らわしい電話をかけるなよ。迷惑だ。
    意味深な電話をするときは、息が止った場合だけにしろ。本気だぞ」
レイジ「は……。それは……。すまなかった」

ナルセ「いいんだ。気にしないでくれ。電話はいつでもしてくれたらいい。
    何があった? マックと何かあった?」

レイジ「ハハハ。それもエイプリルフールの冗談か?
    おれが痴話ゲンカに他人を巻き込むかよ。まさか。まったく関係ない。
    おまえらじゃあるまいし、別れた戻ったとそんなこと、悩む必要はない。
    本当にかけ間違えたんだ。……いや、それは嘘かな。
    シックスティーズが休業で、ナルセの声を少し聴きたかっただけだな。
    でもそれで要らぬ心配をかけたなら悪かった。いつもの調子で考え無しだったんだ。
    おまえが海外に行ってるなんて、本当にすっかり忘れていたんだ」

ナルセ「まさか、マックと別れたのか?」

レイジ「いいや、違う。だが、お詫びに言う必要もないことを教えるか。
    奴とはまだ切れてはいない。おれの考慮中だ。考えるまでもないがな」
 豪 「考慮中ってどういうことだ」
レイジ「あのバカは、おれにまた選択肢を押しつけてきたんだ。自分は放棄だ。
    良いご身分だよな。おれの愛人を続けるのは無理だと電話で言ってきた。
    電話だぜ? ふざけるな。まったくヘタレなヤツだ」
ナルセ「まさか。マックが自分から? なんでだよ?」
レイジ「理由か? 知るかよ。サワと寝たからだろ。
    おれの愛人でしかないなら、もうサワがいいらしいぜ」

ナルセ「嘘だろ。サワと? 41の? マジであいつ、サワとやっちまったのか?
    バカすぎる……。マック、あのバカ……それ、本当なのか?」
 豪 「所詮、そういうことなんだろ。あいつはバカなんだ。貫く意思がない。
    その程度だったということだ。それならいいじゃないか。
    レイジには、茅野さんが似合いだ。バカを相手にするな」

ナルセ「そんなことないよ。マックは、そこまでバカじゃない筈だ。……はずだ。
    きっと。自信ないけど。……いやどうかな。そこまでのバカかな」
 豪 「しっかりしろ、ナルセ。マックの味方はお前だけだぞ」

ナルセ「なんだよ。豪だって、マックのことちょっと認めてたじゃないか。
    だけどレイジ、こうなったのは、今までマックを蔑ろにしてきた結果だろ」
レイジ「おれのせい? 蔑ろにした覚えはないけどな」

ナルセ「良く云うよ。マックに酷いことをしてる自覚がないのか?
    レイジは、俺よりも酷い仕打ちをしてるよ。心がない。やりすぎだ。
    マックはそれなのに何回もずいぶん我慢してきた方だと思うよ。
    いい加減、最後の限界が来たんだよ、きっと。言っとくけど、マックは正しい。
    行いは別にしてもな。この際、ちゃんとはっきり決断すべきなんじゃないのか。
    レイジはもっと、自分の心に正直になるべきだ」
レイジ「しつこいな。素直だよ、とっくに?」
 豪 「そうは、思えないな」

レイジ「豪まで何だよ? キョウの味方なんだろ、おまえ。どっちなんだ」
 豪 「レイジ、夢の続きはもう自分で見ろ。ちゃんと目を覚ませ」
レイジ「おれが夢遊病者のように見えるのか? ぱっちり起きてるぞ」
 豪 「いいや、あんたは寝ている。眠ってるよ、レイジ。目を開けようとしない。
    さっさと起きて、あんたに本当に必要な、目の前にいる現実の男を見ろ。
    夢の身代わり人形役の俺たちは、もう不要の筈だ」
レイジ「そんな冷たい言い方をするなよ、豪。夢を見るのが哀しくなるだろ」

 豪 「あんたのために、言ってる。エトーさんは起きても、傍にはいない」
ナルセ「豪、ダメだ、そこまで言うなよ」
 豪 「だけど今、惚れた男は夢から覚めても、そこにいていくれるだろ。
    あんたを唯一、救ってくれる存在の筈だ。
    夢から覚めて哀しければあんたの手を握っていてくれる。夢でも幻でもない。
    無理に自分を縛らないで、素直に受け入れろ」

レイジ「は。どうかしてるんじゃないのか、豪。惚れてなんか、いない。
    おれの目の前で行ったり来たりしているあの小心者は、本当におれの救世主か?
    だったらどうして獲物を捕った猫みたいに、自慢げに嫌なものを見せつけに来るんだ?
    寝たことなんか黙ってりゃ良いんだ。何でも正直に吐きだすことが、正しいのか?」
ナルセ「それに怒ってるのか? レイジ?」

レイジ「怒ってない。怒ってる? おれが? 怒っているんじゃない。
    ……ただ気分が悪いんだ、あの日からな。胸やけがして気分が良くない。
    あいつがエイプリルフールでもない日に、浮気した相手とホテルで一発やった日だ。
    相手の衣擦れの音や、呼吸をおれに聴かせるために夜中、コールしてきたんだ。
    どういうつもりだ? 何にも分かってない。現状維持でいいと言ったくせにな。
    終わりにしたいのなら、一言そう言えば、後腐れなく終わってやる。
    選べだと? 何様のつもりだ。……胃がムカムカする。救世主どころか、おれの敵だ。
    あの礼儀知らずで身勝手な小僧が、おれを救うとはとても思えないな」




photo/真琴さま



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