Little Devil


登場人物: シンジ/レイジ
場 所:都内のホテル

02




伸 二「あ、レイジさん、ここですよ!」

レイジ「シンちゃん。先日ぶりだな。元気だったか?」
伸 二「ええ。おかげさまで。あれから注文を多数頂いて、嬉しい悲鳴です。
    レイジさんのおかげですよ。本当に有名企業の茶会の器を任されるなんて光栄でした。
    ありがとうございます、感謝していますよ。レイジさんは本当にすごい」
レイジ「よしてくれ。たまたまあの茶会のプロデュースを友人が手がけてただけだよ。
    おれは良いものを紹介しただけ。皆がハッピーになれる仕事になって良かった。
    シンちゃんが近くに仕事場を移したことも幸運のひとつだ。タイミングが良かったな」
伸 二「じゃあ、鏡さんのおかげもあるのかな」
レイジ「キョウのために、こっちに来た?」

伸 二「あ、すみません。でも、俺……」
レイジ「何を謝るんだ? シンちゃんがあいつに惚れてるのは知ってるよ。
    それで……うまくいってるのか? キョウとは」
伸 二「うまくも何も。鏡さんの好きなひとは、レイジさんひとりですよ」
レイジ「二月に会った時も……何もなかった?」
伸 二「やっぱりあれは、作為だったんですね。酷いですよレイジさん」
レイジ「無理やりでもすればいいのに。あいつは応えてくれるぜ」

伸 二「それでは意味がないんです。そう云いましたよね、俺」
レイジ「わかった。悪かったよ。シンちゃんの力になれたらと思っただけなんだ」
伸 二「仕事面では、十分レイジさんには力になって頂いてますよ。十二分すぎるくらいだ。
    実は昨日、ラフエンテ商会から契約したいとお話を頂いたんです」
レイジ「へぇ。いきなり海外の大手と契約か。すごいじゃないか。やるな、シンちゃん」
伸 二「そうなんですよ。ラフエンテの若社長の第一秘書と面談したんです。
    通訳に対してさえ、カチコチに緊張しましたよ。恥ずかしい話だけど、舞い上がっちゃって」
レイジ「しょうがない。大きな契約だからな」

伸 二「ええ。あの会社は新鋭作家に惜しみなく投資することで有名です。
    若社長は変わり者で、非常に流暢な日本語を話されるそうですが、あまり公の場に出ないって噂でしたけど」
レイジ「変わり者なのは本当だが、公に出てこないってのは、ただの噂だな」
伸 二「そうですね。レイジさんは、若社長をご存じなんですか?
    あの京都の茶会に、本人がいらしてたのには、本当にびっくりでした。
    写真で見るより美男で若すぎることにも驚きましたよ。絶世の美男て感じですね。
    二十歳前後に見えたな……」
レイジ「あれでも二十四だよ。良かったな。でもシンちゃんのパトロンは、気を悪くしてないか?」

伸 二「いいえ! 全然。逆に大きな道筋ができて喜んでますよ。
    ラフエンテ商会は、海外の美術商通には人気のある商社ですからね。
    俺のような実用品にはあまり興味ないと思っていたのに、意外でした。
    パトロンはきっと俺を大きな拾いものだと思ったでしょう。
    最も俺には、全ての始まりがレイジさんありきなんですけど」
レイジ「大げさだ。全部シンちゃんの実力と、運の強さだよ。トントン拍子だな。
    きっとそのうち、キョウのハートもその力で射とめられる」
伸 二「レイジさんは、俺が鏡さんを奪っても構わないんですか」
レイジ「……本気で言ってるのか?」

伸 二「すみません。だけど、あなたがもう他に恋人ができたというなら……」
レイジ「他に恋人はいない。おれの恋人は、キョウだけだ。
    だがキョウがシンちゃんと浮気することには、何の問題もないな」
伸 二「浮気を認めるんですか?」
レイジ「浮気はしてもいいよ?」

伸 二「浮気以外は、どうなんですか。真剣にということですよ」
レイジ「キョウが本気で好きな人ができたので、おれの恋人をやめますといえば、それは構わないな」
伸 二「そんなことを、鏡さんが云うとは思えない」
レイジ「だったら、云わせてみればいいだろ。それはシンちゃんの力量だ。頑張れよ」
伸 二「俺を応援してくれるんですか? それは何故です。二月のあなたの采配もよく分からない。
    レイジさんは、鏡さんを愛してるんじゃないんですか?」
レイジ「愛してるよ? だから恋人にしてる」

伸 二「だったら何故、俺を焚き付けるようなことを云うんですか。奪えと言ってるようなものだ。
    それはあなたが今している恋に、鏡さんが邪魔だから?」
レイジ「邪魔じゃない。まさか厄介払いだと思ってるのか?
    違うよ。ぜんぜん違う。それにおれは、恋なんかしていない」
伸 二「……マックさんは」
レイジ「はぁ? マック? あのシックスティーズの小僧のことを云ってるのか?
    まさか。ハハハ。なんの冗談だ。奴はおれの恋人じゃないよ。
    ……恋だって? 笑えることを云わないでくれ。まったく関係ないな」
伸 二「でも、つきあっているんでしょう? 愛人だと聞いています」
レイジ「誰から?」

伸 二「鏡さんからですよ」
レイジ「ああ。おれの浮気相手だから、あいつにとってはおれの愛人だろうな」
伸 二「やっぱりそうなんですね」
レイジ「それは認める。でもただ浮気してるだけで、本気じゃないけどな」

伸 二「本当に本気じゃない?」
レイジ「そうだよ。本気な筈がないだろう。愛してるのは鏡夜なんだ」

伸 二「本人の前で、それを言えますか?」
レイジ「誰の前?」
伸 二「マックさんの前ですよ。鏡さんを愛してるから本気じゃないと彼に面と向かって言えますか」
レイジ「言えるよ? 本気じゃないなんて、今だって何回も本人に云ってる。
    今度、シックスティーズに行ったら直接聞いてみろ。愛人だって納得してる」
伸 二「本気じゃないのなら別れてくれませんか。どうして愛人関係を続けるんです?
    あまりに鏡さんが気の毒だ……あなたの浮気に彼は苦しんでる」

レイジ「鏡は気にしてない。本妻の強みだな。浮気だって許可済みなんだ。
    余裕をもって、店に来たマックに対しても微笑んで接待できてる。
    うちのオーナーが下のお世話になってます、くらいのこと言ってるんだろな」
伸 二「まさか。鏡さんは気にしてますよ。すごくね。病気になるんじゃないかと思うくらいだ」
レイジ「ははは。それは嘘だ。騙されてるな、シンちゃん。気をつけろ。どうしたんだ。
    あいつの手管は、よく知ってる筈だろ」
伸 二「どうしてそんな嘘をつく必要があるんですか、俺に鏡さんが」

レイジ「同情が欲しいんだろ。鏡夜はシンちゃんが自分を好きだって分かってるからな。
    あいつはちょっと寂しくなると、もの欲しくなるタイプなんだ。
    あとはおれに対する当てつけだな。本当にバレンタインは、何もなかったのか?」
伸 二「何も……。鏡さんとは、あの時は何も、ありません。あなたは……。
    レイジさん、あなたは何を言われてもまったく動じることがないんですね」   
レイジ「ないよ。何故、動揺する? おれは何もかも正直に喋ってるだけだ。
    嘘はついてないし、動揺する理由がない」

伸 二「だといいですけど、愛してるも嫌いも、同じ声と表情で云いそうだ」
レイジ「そうか? そこまでクールなつもりじゃないけどな。でもこれは癖だな。商売柄だ。
    どうして関係を続けてるかと訊いたよな? 簡単なことだ。おれには愛人は必要悪なんだ。
    過重なストレスのはけ口に役立ってくれてる。意味、わかるよな? ただ、それだけだ。
    ロマンチックな理由は何もない」
伸 二「鏡さんは二人のことそんなふうには受け止めていませんでしたよ。
    マックさんも、そんな割り切った感情でいるんですか。俺は違うと思います。
    そんなふうには、見えなかった。マックさんは、もっと……レイジさんを好きに見えた」
レイジ「シンちゃんの主観だろ。そんなことは、小僧に聞いてくれ。おれは知らん。どうでもいい。
    それよりシンちゃんは今、仕事の方に専念すべきじゃないのか。
    おれと鏡夜の心配をしてる場合じゃないだろ」

伸 二「それとこれとは別のことです。仕事に持ち込んだりはしません」
レイジ「そうか? 心理状態は作品に少なからず影響が出るものだ。
    鏡のことを落とせないと思うのならスッパリ諦めるんだな。もう迷うな。
    あいつがおれを好きだと答えたのなら、それを貫き通すだろう。
    頑張る気もなく、おれと愛人を別れさせることに加担するなら、迷惑なだけだ。
    何のために茶会へ連れて行ったと思ってるんだ。甘いことを云ってる場合か?
    せっかく落とせたチャンスまで棒に振ることになるぜ」
伸 二「レイジさん、そんな……」



ラディ「いやいや。ちょっと待ってくれ。
    それは非常に気になることだよ。大事なことだ。最優先重要事項にあたる。
    極秘ミッションだ。ぜひとも、ことの真相を確かめるべきだろうな、シンジ?」

伸 二「え……!? ラ、ラフエンテ社長?! 何故、あなたがここに……!」
ラディ「やぁ、シンジ。我が社との契約おめでとう。君の作品は、とても優美だよ。
    今後の作品も期待してる。オレのことは、ラディと呼んでくれ。
    さっそく祝いに、そのシックスティーズとやらいう店に行こうじゃないか。
    案内してくれないか? ぜひ、レイジのストレスの吐け口の愛人にオレは会いたい♪」

レイジ「……ラディス。あのな。何でここにいるんだ……。おれを尾行したのか?」
ラディ「そんな呆れ果てた顏をしなくてもいいだろう。まさか尾行に気が付かなかったのか?
    そんなことではダメだな。でもレイジは困った顏の方が美しい。ちょっとソソルよ」
伸 二「お知り合いなんですか。やはりそうだったんですか、レイジさん」
ラディ「知り合いだって? そんな軽々しい関係じゃない。レイジは禁断の兄みたいなものだよ」
レイジ「禁断ってなんだ。ただの兄でいいだろうが。おかしな関係に聴こえる」
ラディ「どんな関係に聴こえた? 兄弟同志で甘美にまぐわってる感じかな?」
レイジ「うるさい。変態菌をどこにでも撒き散らすな」

ラディ「驚いたかな、シンジ?
    京都ではホテルの部屋に泊まってたんだけど、今はレイジの家に厄介になってるんだ。
    一緒のベッドで寝てる。レイジは意外と着やせする方だな。知ってたか?」
伸 二「えっ……」
レイジ「おまえな。わざと誤解するような云い方はやめろ。一緒には寝ていない。
    同じメーカーのベッドという意味だからな。紛らわしいだろ。
    おまえの寝相の悪さは子供時代と変わらない。一緒になんか寝られるか。
    シンちゃん、云い忘れてたがラフエンテ商会とは、先代からの古いつきあいなんだ」
伸 二「やっぱり……。変だと思っていましたよ。ことがうまく運び過ぎだと思った」

レイジ「それも違う。おれはラディスを月見に招待しただけだ。行きたいと言うから連れて行った。
    今回の茶器アーティストを気に入って、紹介しろと頼んできたのはラディスの方だ。
    もちろん仲介料は貰ったよ。仕事だ。結果的に良い商談になって良かった」
ラディ「どうかな。どうせ計算に決まってる。
    オレに紹介してくれと懇願されないと、有利になれないから嫌だったんだろ。
    レイジは常にオレの優位に立ちたいんだ。
    自分からシンジを押したんじゃ、ラフエンテ商会に恩を売れないからな。
    借りより貸しの数だ。シンジにも親切の押し売りをしたくなかったんだろ」
レイジ「親切の押し売りは、微妙にニュアンスが違うぞ」

ラディ「おう。そうか。日本語はムツカシイデスネー?」
レイジ「都合の悪い時だけカタコトだな、おまえ」

伸 二「レイジさんは、人に感謝されたりお礼を言われるのが苦手なんですよ」
ラディ「そうなのか? 初めて聞いたな。
    オレは今回、シンジの作品に出会えたから、レイジにはとても感謝してる。
    ありがとうございます、レイジさま。命の恩人だよ。神様仏さまだ!」
レイジ「ああ、精々ひれ伏して感謝しろ。おまえに見る目があって良かったな。
    これは大きな貸しだよな、ラディス」

ラディ「どうやらレイジは感謝されるのは、苦手でもないらしいぞ?」
伸 二「ははは……。困ったな」
レイジ「当たり前だ。ラディスからなら、山ほど感謝されて礼を言われても足りない。
    土下座したければ、喜んで受けるし、靴に接吻でもいいぞ?」
ラディ「倒錯してるな、レイジ。そんな趣味があったなんて。倒錯で合ってる?」
レイジ「うるさい。日本語が難しいなら黙ってろ。シンちゃんが困惑してるだろ」

伸 二「……いえ。とにかく、お二人が友人ですべてがしっくりきましたよ。
    だけど俺も素人じゃないですから、このラッキーは、当然お受けしますよ」
ラディ「それは良かった。もうシンジとは契約したんだ。違約金は払いたくないよな。
    さぁ、それじゃ、シックスティーズとやらに行こうか。祝杯だ。
    どんな店なんだ? ピアノマンみたいな高級店か? それともお洒落なバール?
    そのマックというのは、そこのホストなのか? 異国の奴かな?」

伸 二「ホスト、ではないですね……」
ラディ「ではバーテンダーか? 相当な美形なんだろうな。キョウよりも美しい?
    キョウのライバルなら、かなりなんだろう? ワクワクしてきたな♪ 早くマックに会いたい」
レイジ「シックスティーズは、おまえの嫌いなオールディーズを聴かせる店だよ。
    ライブハウスだ。昔、連れて行ったら古臭い音楽は合わないとすぐに帰っただろ。
    覚えてないのか?」
ラディ「……さぁ。そうだったか? ああ、思い出した。あんたの愛人が歌ってた店だな?
    なんだ、あのボーカルのことなのか。彼なら知ってる。でもそんな覚えやすい名前だったかな? 
    確かに美品だった。だが真剣にキョウのライバルといえる人物じゃないと思うが。
    ただの遊びの内だ。なんだ、つまらないな。がっかりだ。マックは古株の愛人だったか。
    何か面白いことでも聞けると思って、キョウにわざわざ優秀な尾行スタッフを借りたのに」
伸 二「いや、マックさんは……」

レイジ「残念だよな、シンちゃん! ラディスはオールディーズが嫌いなんだ。
    しかもあのマック、ボーカルのマックとは一度、体の関係があるから、もう興味がないんだ。
    音楽には興味はないが、歌ってる男には興味深々だったから、ホテルに誘ったんだよな。
    あいつもスキモノだからしょうがない。おれからのサプライズプレゼントだ」
伸 二「……え?! 本当に? いや、それよりレイジさん、ボーカルのマックって……」
ラディ「レイジ。どうしてそんなことをばらすんだよ。プライベートなことだろ」
レイジ「おれのプライベートにややこしい口を挟んでくるようなヤツに言われたくないな」

ラディ「あんたのことは、全部知りたいんだ、レイジ。弱みを掴んで、最高優位に立ちたい」
レイジ「赤裸々に正直だな。だが残念ながらおれに弱みなんて、ない。
    いいから、もう帰れ。右の窓側に座ってるのが尾行人だろ。鏡夜が使ってるのを見たことがある。
    一緒にピアノマンに戻ってろよ。ったく。キョウのやつ、お仕置きだな。
    下らないことを面白がって加担する悪い癖が時々あるからな、あいつも……」
ラディ「彼はウイットなセンスを心得てるからね。無粋じゃないんだよ。キョウは最高だ。
    愛人の方が良いなら、キョウはオレにくれよ。譲ってくれないか」
レイジ「バカいうな。キョウはおれのだ。誰にもやらない」

ラディ「飼い殺しか。気の毒に。キョウが恋人なら、オレなら愛人など作らないけどな。
    マックは、キョウ以上の寝技でも持ってるのか?」
レイジ「そうだな。セックスに関しては、手放しがたい。でもそれだけだ。
    それにそれ以上にナル……、いやマックの歌も気に入ってる。
    おまえも聴いただろ? 最高のボーカルだ」
ラディ「ふうん。オレは歌に興味ないからな。その辺はよく分からない。
    セックスもそんなにレイジが執着するほどだったかな。悪くはなかったけど。
    ところでシンジはキョウに惚れてるのか?
    オレもキョウは欲しかったけど、諦めたんだ。君は頑張れといいたいが、無駄だろうね。
    キョウはレイジの忠実なる僕だ。悪戯に手は貸しても、死んでも誰にも懐かないよ」

伸 二「ええ。わかっていますよ……俺には勿体ないひとです」
ラディ「そうか。お互い残念だったな。何か他にレイジの弱みを教えてくれないか、シンジ。
    なんでもいいからさ。頼むよ? 教えてくれたら契約料をアップしよう♪」
レイジ「ラディス! いい加減にしろ。おれが本気でキレない内に店に戻れ」

ラディ「分かったよ、レイジ兄さん。そんなに怒るなよ。ジョークだろ」
レイジ「良い子にしてたら、夜寝る時ベッドにホットミルクと動物ビスケットを持って行ってやるぞ」
ラディ「……もう子供じゃない。そんなジョークは不愉快だ。昔みたいに無邪気に喜ばないぞ、本当に」
レイジ「そうか。もう大人だったのか。言動がヒヨコみたいに幼稚だからつい忘れてたな」
ラディ「いいか、オレは社長なんだ。そんな無礼を云うなら、レイジでも許さないぜ」
レイジ「分かっていますよ。ラディスラウス・ラフエンテ社長。
    どうぞ外にいる華麗なるボディガードも連れて、お引取り下さい。
    スパニッシュ系のSPにうろうろされたら、マフィアでも来てるのかと思われてホテルに迷惑だ」

ラディ「なんだよ、オレがいるの、本当は最初から知ってたんじゃないか。
    本当に驚いたふりなんかしてイジワルだよな、レイジは本当に昔から嘘つきだ……」




伸 二「あの、いいんですか? かなり拗ねてたみたいですけど……」

レイジ「いいんだよ。いつものことだ。甘えてるんだ。
    あれで社長なんだぜ。子供店長並みだ。スペイン人は人事に甘くて呑気だよな。
    まぁでも会社はちゃんとしてるし、あいつの周りは有能だから、心配することはないぜ。
    どこでもアタマのおかしい主には、有能な部下が付くものだよな。
    きっちり契約範囲のことはしてくれるから問題ない。たぶんな」
伸 二「それはいいんですけど、レイジさんはラフエンテ商会とも懇意だったんですね。
    いったい、あなたは何者なんですか?」
レイジ「シンちゃんまで何だよ。知ってるだろ、おれは頭のイカれた骨董ディーラーだよ」
伸 二「……昔は確かにそういうところもありましたよね。それに助けられたのも事実だ。
    でも今はそんなことありませんよ。順調にこの商売を続けているじゃないですか」
レイジ「ただの重圧だよ。エトーの残したものだから、続けなきゃしょうがないんだ。
    なまじ商才があると、面倒だよな。おれはもうただのピアノマンのオヤジだけで良いよ」
伸 二「本気ですか?」
レイジ「ほんの半分な。鏡夜がおれに異常に執着する理由を知ってるか?」

伸 二「愛でしょう? それ以外にはない」

レイジ「違うな。愛だって? シンちゃんは純粋だな。
    あいつの狙いはおれの持つ、全てのルートだよ。商売の引き継ぎだ。
    キョウが本当に愛してるのは、それだ。おれの顧客ルートなんだよ」
伸 二「それは違いますよ、そんなふうに思ってるんですか? まさか?」
レイジ「甘いなシンちゃん。おれが引退したら、跡を継ぐのは一番、おれの近くにいる者だ。
    つまり、茅野鏡夜だ。今、おれの傍を離れたら、今までの悲惨なまでの苦労がすべて水の泡だ。
    奴はそんな無駄はしない。どんなことをしても、おれの傍を離れないぜ。野心家なんだ。
    目指す志が違う。あいつはそういう器だ。何をしてでも手に入れる。愛してるなんて表向きの表現だ」
伸 二「野心はあるのかもしれませんが、あなたを愛してるのは本当ですよ」

レイジ「鏡夜がそれほどの器だがら、おれは傍に置いて大事にしてるんだ。
    跡を継ぐならそれくらいは言えないと、信用できない。愛は長年の情ついでだ。
    おれに何かあれば、鏡夜に全てが渡る手筈だが、鏡夜は信用していないようだ」
伸 二「そんな……。レイジさん、鏡さんは俺と同じで、あなたに感謝しているんだ。
    恩があるんです。命に代えても、あなたを護るつもりでいる。だから傍にいるんですよ」
レイジ「やめてくれ。そんなふうに思うと、重い。重いんだよ。
    おれを殺してでも、後釜を狙ってると言われた方がずっとマシだ」

伸 二「あなたがしたことですよ。放っておけば良かったのにそうしなかった。
    非力な小動物たちに不要な情けをかけた。これはあなたが引き起こした結果です」
レイジ「だから責任は取ってるだろ。野良を飼ったら最後まで育てないとな。
    醜いアヒルの子だと思ってたら、鷹の子だったんだ。失敗したけど、結果はオーライだ」
伸 二「レイジさんはよくそういう優しさで失敗をする。だからまわりからの信頼を得られるんですけど」
レイジ「そんなバカな話は聞いたことがない。仕事に優しさや情けは不要だろ」
伸 二「だったら、答えは出てますよ。仕事が上手く行っている理由はそれだ」

レイジ「おれに分かったような意見をするなよ。もう全部を捨てたくなる」
伸 二「すみません……。言い過ぎでした」
レイジ「こっちこそ悪かったな。いや、ラディスの野郎がすべて悪いんだけどな」
伸 二「そういえば、ラディス社長はレイジさんに話し方がどことなく似てますよね?
    意識してレイジさん自身に近づきたいように見えましたけど。雰囲気や見た目の恰好も……。
    きっとあのひとも、あなたに憧れているんでしょうね。なんとなくわかります」

レイジ「嘘だろ。やめてくれ。似てる? まさか。あのヘンタイ息子が、おれに?
    おれはあんなに変態じゃないぞ。あれはまだ二十代前半だ。まだ青二才の小僧なんだよ。
    なんでガキはいつも悪人に憧れるんだ?」
伸 二「レイジさん?」

レイジ「あいつに初めて会ったのは、ラディスが十歳くらいの頃だ。エトーの裏仕事の関係だ。
    やんちゃだが、可愛いガキだった。おれのことを、レイジお兄ちゃんと呼んでたんだ。
    本当に会った時は、天使みたいだったんだ。なのになんで、あんな風に育った?
    いったい誰のせいなんだ。先代か? おれじゃない。絶対におれじゃないぞ。
    子供の教育は、大人がきちんと道を示すべきだ。悪い手本はダメだと教えるべきだ。
    イカれた無謀なことをする壊れた大人はダメな人間だと、なんで誰も教えなかったんだ――――」


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