You Can't Hurry Love
恋はあせらず
03
登場人物: 豪/マック/ナルセ
場所:シックスティーズ近くのバー
7月4日
豪 「おつかれ。今夜は散々だったらしいな、マック」
マック「トホホだな。豪センセイは、もう知ってるんですね……」
豪 「いや。まぁ、ナルセの悪い癖でな。すぐ報告したがる。部外者なのに悪いな。
説教も済んだなら、もういいだろう。気持ちは分からなくもないからな」
ナルセ「えっ。今、なんて言ったんだ、豪? 分からなくもない? 豪が?
聞き捨てならないな。ステージには厳しい豪らしくないじゃないか。
やけにマックに優しいんだな? どういうことだよ」
豪 「変なとこで妬くなよ。俺だって、ナルセが浮気してるのを分かってる日に、
一緒にステージに立つのは辛かったからな。表面には出してなかっただけだ」
マック「そうだよなー、そりゃナルセが浮気してた日に一緒にやるのは辛いよなぁ。
本当に酷いヤツだなー、ナルセって」
ナルセ「ヤブヘビだ。この話はもう終わりにしよう」
マック「待てよ、俺には切実なんだ。そこんとこ、教えてくれよ。
本番のステージ上で、豪が心を乱されてミスすることなんか、あったのか?」
豪 「俺はステージ中、正面からナルセにケンカを売ったことがあるぜ」
マック「ええ! マジで? ステージ上で?!」
ナルセ「まさか。ないよ、そんなこと」
豪 「俺の最後のステージの日だ。ナルセと位置を入れ替わる時、
わざと肩からぶつかっていったことがある」
ナルセ「ええ? そんなこと、あったか? ケンカ中だった?」
豪 「お前は忘れてると思ってたよ。俺にとっては、あれはかなりの意志表現だったんだ」
マック「すげぇな。本番中にやるなんて。いったい何の腹が据えかねてたんだ?」
ナルセ「マック、そんなのどうでもいいだろ。
もうこの話はやめようぜ。豪はそんな話は、嫌いだ。話したりしない」
豪 「いいさ、話しても。溜まり溜まった苛立ちってとこだったかな。
ステージでやることじゃなかったが、そこまでしないとナルセには通じないと思った。
こいつはステージを何より大事にするヤツだからな。俺の置き土産だよ」
ナルセ「豪の気持ちは、すごく伝わったよ……」
豪 「そうか? 忘れてたくせに。どうだかな」
マック「二人の惚気を聴かされてんのか、遠回しにミスった俺を責めてるのか不明だ」
豪 「いや。そういうつもりじゃない。違う。違うんだ。
スマン、俺は口下手でうまくいえないんだが……つまり」
ナルセ「そうだよ。豪がこんなことを口に出して言うなんて、珍しいことなんだ。
滅多にない。豪なりの慰めだよ、マック。分かるだろ」
マック「何故だろう……すごく二人にあてられてる気がしてきたし、
落ち込む気もしてきたな……」
ナルセ「気にしすぎだ、マック。鋼の豪でもそういうことがあるんだから、
それでなくてもミスの多いお前は今後、気をつければいいだけさ。
ねちねち言う気はないけど、俺はリーダーだから今回は注意しただけ」
マック「ひとこと多いですよね、ナルセさんて。どうせ普段からミスは少ない方じゃないよ。
でも豪のそれは、ナルセへの戒めを込めての怒りの表現だろ。つまり、ワザとだ。
ミスじゃない。俺のとは全然違う。俺のは、舞い上がってただけでバカっぽい」
ナルセ「そりゃそうだ。バカっぽいのは、まぁ確かだな」
豪 「ナルセ、言い過ぎだ。
同じステージじゃないが、ナルセが気になってステージでミスしたことは俺にもある」
マック「え、ホント?」
ナルセ「えっ、なんだよそれ?」
豪 「ナルセが喜ぶだけだから言わないことだが、昔、シックスティーズを辞めた直後に、
ナルセがレイジと一緒に俺が出ているアルーシャへ来たことがあったんだ」
ナルセ「俺がレイジと一緒に? そんなことあったかな」
マック「ナルセさんらしいお答えですこと。それでそれで?」
豪 「いつもナルセは、俺の前にいるのが普通だったから、普段見ているのは、横か後ろ姿のナルセだ。
だから多分それが、向かい合って、初めて見るナルセの姿だった。
ナルセが客席にいることは、今まで経験なかった。初めてだったんだ」
ナルセ「それなら覚えているよ。
豪を客席から正面きって眺めることなんか、過去に無かったからな。
結構、興奮したのは、覚えてる。ステージの豪はカッコ良かったな……。
ただ独りでギターを弾いているように見えて、皆と完全に調和してた。
あんなふうに本番で弾く豪を見られて、俺はすごくときめいたんだ……」
マック「ときめいた? ひとに散々ドン退く云っといて、自分は何だよ」
豪 「俺達には、あまりない状況だった。ナルセが俺を見ているのが、分かった。
分かって、それで俺は気が散って、集中できなくなったんだ」
ナルセ「豪が? 本当に? 嘘だろ。本当にそんなこと、あるのか?」
豪 「あるさ。俺だって人間だからな。平常心で隠しきれないことだってある」
ナルセ「そんなの、言ってくれたことないじゃないか」
豪 「お前に言うわけがない」
マック「あのー、やっぱり惚気を聞いてる気しかしないけど、
一応、豪なりの気遣いと、俺への慰めと励ましなんだよな?」
豪 「ただそういうことは、俺にでもあったという話だよ」
マック「そっか……。サンキューな。情けないよな。
何だって俺はいつも近くに居るはずのレイジが、同じステージに立っただけで、
あんなにズタボロになっちまったのかな。我ながら理解できねぇよ」
豪 「いつもと状況が違うからということもあるんだ。
普段とは違う、自分のリアルに無いことが起こる。だがそれも、現実だ。
リアリティがないのに、リアルなんだ。そこに戸惑いが生まれるんだろう」
マック「そうか。レイジと演奏するのは今回が初めてじゃねぇけど、
以前のレイジとの関係とは、少しずつ違うからな。
それでいくと、ちょっとおかしな気分になったんだ、俺。
リアリティがないか……。そんな感じだったのかもしれない」
ナルセ「言い訳くさいな。なんか良からぬことでも、考えてたんじゃないのか。
でも初めてレイジと演奏した、クリスマスシーズンのマックに近かったかもな。
ギリギリの挙動不審だ。まさかあの時、レイジに惚れてるなんて思わなかったけど」
マック「俺だって、その時はまだ、自覚症状はなかったんだよ」
ナルセ「ひとが恋に落ちる瞬間、見たかったな。
リンは見たって言ってたぜ。マックが恋に落ちる瞬間を、さ」
マック「うるせーよ。神業ドラマーは何でも御見通しだからな。
プライバシーも何もねぇよな。気がついたなら、早く言えってんだよな」
ナルセ「そうだな。俺と豪の関係を、最初に気づいたのも、リンだからな。
あいつは人様の恋より、自分の恋の千里眼を持てってとこだけど。
なんでリンは、モテないんだと思う?」
マック「さぁな。自分でも解らない秘めたる思いが、実はあるんじゃねぇの。
もしかして、あいつ、マジでレイジが好きだったとか?」
豪 「リンなら、マックとレイジのことは、応援してるんだろうな」
マック「いや。そうでもない。俺の愚痴は聴いてくれたし、助言もくれたけど、
レイジはやめろって、最後まで言ってたよ。リンは良いヤツだけど、
レイジだけはダメだって反対してた。俺のことを思ってのことだと思うけど。
でも最近も、それに対しては態度悪いよな。何を根に持ってるんだろうな。
マジの本気でレイジが好きなんだったりしねぇよな?」
ナルセ「まさか。だって、レイジなんだぜ? 誰だってうまく行く筈がないと思うだろ」
マック「ナルセもこっぴどく反対派だったよな、そういえば」
豪 「俺だって、信じがたいがな」
マック「あ、豪ちゃんまでそういうわけ?」
豪 「レイジに確認したわけじゃないからな。
最もレイジは正直なことなんか、言うわけもないから謎のままだ」
マック「そうだよな。誰に対してなら、素直になってくれるんでしょうね、あのひとは」
ナルセ「俺だろ?」
マック「はいはい、勿論ナルセさまだけですよね」
豪 「とにかく、待つしかないだろうな。相手はレイジだ。その覚悟はあるんだろ、マック」
マック「待つのはいいんだ。もう散々待ってきたし。待てなかったことも多々あるけど。
ただ……今は、恥ずかしくて会いに行くのも憚られるだけ。
俺には時間が必要だ。神様、天岩戸に隠れたい。もう学校にも行きたくないよ先生」
ナルセ「大げさだ。小学生並みだよな。そんなの正直、気にしちゃいないよ、レイジは。
ステージ上のことなんか、レイジにとっちゃ、遊びの内なんだからな。
だいたいゲストキーボードがド真ん中に出て歌いだすとか、やることが派手なんだよ」
マック「とか言って、ナルセだってレイジにべったり絡まれて、嬉しそうだったじゃん。
まるでミックジャガーとキースみたいにさ」
ナルセ「しょうがないだろ。レイジに合せただけだ。まさか妬いてないよな?
ステージが盛り上がるから、苦笑ぎみにしぶしぶだよ。そう見えなかった?
とにかく今回のは、レイジらしくない気もするけど、時々、ぶっ飛んだことをやる男だからな。
レイジらしいと言えば、らしいのかもな。どっかオカシイんだよ、レイジはさ。
または、もしかするとマックの緊張を解すために、あんな突飛なことをやったのかもしれないぜ」
マック「ええ、まさか!!」
ナルセ「いいや、まさか、と云えなくもないぜ?
レイジはそういうとこ、たまにあるからな。変なとこで妙な気を遣うとこがある。
でも聞いたって無駄だぜ? お前の為だんて、死んでもレイジは言わない」
マック「云わねェだろうな。でもそもそも、そんなわけないと思うけど」
ナルセ「だったら、お前のダメさ加減に呆れ果てて、
自分がこの場を盛り上げるべきだって思ったのかもしれないよな?」
マック「ああ、その方がわかる気がする……って、あのなナルセ」
豪 「レイジは女性に対する気遣いはかなりする方だか、
それをステージのマックに対して発揮するとは、思えないがな……」
ナルセ「そう? それが愛なのかもしれないぜ。良かったな、マック」
マック「そんな気遣いされても、喜べねぇよ」
ナルセ「そりゃそうだ。情けない限りだもんなァ。
……おっと、そんなことで、当のレイジから電話だ」
マック「えっ」
ナルセ「レイジ? どうしたんだ。今日はお疲れさん、助かったよ。
今? 豪と一緒だよ。いや、違うよ。まだ店だ。気遣いをどうも。
何……? いいよ。ちょっと待ってくれ、今から行くよ。大丈夫だ」
豪 「なんだって?」
ナルセ「何か話があるらしいから俺、ピアノマンに行くよ。悪いな。
先に帰っててくれ。またはマックのお守りを頼むよ」
豪 「ああ。分かった」
マック「俺のことは探さないでと云っといてね」
ナルセ「探すどころか、もう存在そのものを忘れてるようだったぜ?」
★★☆
マック「ほんと、ナルセって性格悪いよなー。あ、ごめん。あんたの恋人だっけ」
豪 「悪気はないんだ。ああいう気性だ。すまないな」
マック「ところでその後、同棲はどうなったんだ? 今、一緒に住んでるのか?」
豪 「まだ保留中だ。今は俺の部屋にナルセが入り浸ってる状態だ」
マック「そうなのか。それで、まだ迷ってるのか?」
豪 「ああ。色々、複雑なんだ。お互いそれには触れないようにしてる。
それよりお前には、シックスティーズのステージ上は真剣な場所だよな。
レイジには遊びのヘルプでも、お前は違う。本職の仕事場だ」
マック「ああ、そうだよ。だからレイジはその場所で、俺にそんな気遣いはしないと思う。
レイジが客席にいるときは、全然緊張なんかしないんだけどな。今回は参ったよ」
豪 「そうか。マックと俺は逆だな。
俺はナルセが客席にいると緊張して、お前はレイジがステージにいると緊張する」
マック「そうだけど、あんたはきっと俺ほど無様じゃないと想像はできるぜ」
豪 「自己嫌悪さは、同じだ。結局、ステージではミスを減らすしかないんだ」
マック「分かってるよ。レイジにとって、俺なんかただの愛人なんだ。
けど、ベースを弾いてる俺のことは、多少目にかけてくれてたと思うんだ。
それって結構、大事なことだよな。だからちょっと、会わす顏がない」
豪 「このことで、レイジに軽蔑されたと思うのか?」
マック「そこまで地位があるかは定かじゃないけど、やっぱりがっかりさせてたら嫌だろ。
俺は普段からミスがないわけじゃない。それどころか、結構ポカすることも多いよ。
それなりの笑いがとれない日なんかは、わざとMCでボケるとこもあるし、
レイジは客席で見てるから、それは知ってる。でも今回は違う。舞い上がっただけ。
だから、情けなくて落ち込んでるんだ」
豪 「だったら、そんなに気に病む必要はないと思うぜ。原因はレイジが横にいたからだ。
レイジが今後もずっといるわけじゃない。セブンレイジィに入らなければだがな」
マック「そりゃそうだけど……。でもやっぱりレイジに会いたくねぇんだよ。
これって、妙なプライドなのかな」
豪 「お前がそこまで落ち込めば、レイジはヘルプを受けたことを気にするぞ。
表面には出さないが、そういう奴だからな。いつもどこかで気を廻してる」
マック「……豪ちゃんはさ、レイジを好きなんだな」
豪 「まさか。嫌いだね」
マック「いや、なんで即答? 付き合い長いんだよな? ナルセと同じくらいだろ?」
豪 「ああ。レイジは昔はあんなじゃなかったそうだ。ある時を境に人格が反転したらしい。
いい加減で軽薄なペテン師になった。今はその性格がしっくりきてるみたいだかな。
俺が長年馴染んでいるのは、むしろペテン師の方のレイジだ。その前はあまり知らない。
ナルセのつきあってた相手のひとりだったしな」
マック「レイジがそんな性格になったのは、きっと裏の仕事をしたせいだな」
豪 「そうだ。江蕩さんがレイジをあんなふうにしたんだと思う。
レイジはナルセのことを、たまに硝子のように脆いと言うが、
俺に言わせりゃ、レイジだって似たようなものだ。危なくて放っておけない」
マック「ちょっとちょっと、あんたまでレイジに惚れてるとか云いださないでくれよな。
これ以上のライバルは困るぜなんちゃって」
豪 「マック。レイジは本当に厄介だったんだ。あの時の死の淵にいたレイジをお前は知らない。
人間、そんなにすぐ変れるとは思えない。レイジは危うい。
だからお前が、浮ついた覚悟のない気持ちでいるなら、俺は茅野さんにレイジを返すべきだと思う」
マック「―――そうか。それを俺に言いに来たんだ、あんたは、今日」
豪 「不本意だが、あれでもレイジは友達なんだ。
今まで色々と、俺とナルセを助けてくれた。余計な世話も、劣らず多いがな。
今のところ、そんなレイジをお前に預けておけるのかどうか、俺には解らない。
だが、茅野さんなら安心だと思う。信頼もしてるし、俺は彼を知っているからな」
マック「茅野は昔からレイジの傍にいるんだから適役だろうさ。
でも豪は今、茅野を知ってて、俺を知らないだけだろ? 知れば意見は変わるかも」
豪 「ああ。知らん。シックスティーズのベースだってことだけだ。
だが今、知ろうとしてるし、お前の態度を観察しているところだ」
マック「観察してみて、俺は不合格なのか?」
豪 「まだわからんな。ただレイジがお前のことを少しでも気にしているなら、
様子をもっと見るべきだろうとは思うよ。結論を出すのは、まだ早い」
マック「そりゃありがたい。泣けてくるね。締切期限はあるのか?」
豪 「部外者の俺がこんなことを云うのは、気に入らないだろうが、
俺なりのおせっかいだ。こんなことは、俺らしくはないのかもしれないがな」
マック「今さらだよ。初めから俺の周りはレイジの味方ばかりで、みんな反対だった。
俺なんかとは、不釣り合いなんだと皆、思ってるんだ。そんなのは分かってる」
豪 「違う。お前が不釣り合いだと言ってるんじゃない。
レイジが不安定だと、言ってるんだ。皆はそんなレイジをずっと見てきた。
逆に用心しないと、振り回されて痛い目に合うのは、お前自身なんだ。
気をつけろと言ってる」
マック「俺? でもレイジは、俺に振り回されるのが、まっぴらだと言うんだぜ」
豪 「なに? ―――お前に、レイジが?」
マック「そう。別に振り回してなんかいないのに、レイジが俺の言動をいちいち気にするから、
そうなるんだよ。放っておけばいいのに、放って置けないのはレイジの方だ。
多少、俺のしつこさのせいもあるけど、放って置こうと思えば、簡単にそうできるだろ。
なのに、俺なんか好きじゃないって、表情も変えずに、他人事で我関知せずみたいに言うんだ。
好きなんて言う自分の言葉にリアリティが持てないんだってさ。他人事に聴こえるらしい」
豪 「……それで、それをどう思うんだ、マックは?」
マック「別に? レイジは可愛いなって思うよ。なんか、可愛いよな」
豪 「……かわいい……。のか」
マック「そうさ。結局、今日のヘルプだって来てくれた。俺の頼みを嫌だって一度は断って、
ナルセに頼まれてしょうがなく出てくれたわけだけど、だけど本当はそうじゃない筈だ。
レイジにはそういう正当な言い訳がどうしてもいるんだ。メチャメチャ可愛いだろ。
参るよな。あ〜でも、今はそんなレイジにも会いたくねぇんだよ〜。
はぁ〜、ゆううつ〜〜(ー_ー) ナルセに何の用なんだ、レイジの奴……」
豪 「なんとも言い難いが……。おかしな成り行きを見守るしかなさそうだな」
マック「おかしいか? 豪は、やっぱり茅野を応援する?」
豪 「さぁな……。色恋は難しい。他人なら尚更だ。やっぱり俺にはこういう話は向いてない」
マック「そうか? 豪は正直な分、話しやすいぜ。レイジに云っといてくれよ。
マックの奴に好きだと一言、云って見ろって。口に出したら現実を帯びるものだってな。
きっと空虚な心にリアリィティが生まれる。……いや、ちょっと待ってくれ。
俺、ちょっと謙虚さがないかな? 少し改めた方がいい? 傲慢かな?
最近、幸せボケしてるから、浮かれて調子に乗り過ぎかもしれないよな。
たまには立ち止まって、振り返らないとダメだよな」
豪 「真実が見えない分、何とも云い辛いな。俺には羨ましい限りの赤裸々な自信ぶりだがな。
どうすれば、そんなに相手に対して自信を持てる?」
マック「なんで。あんたは俺より自信あるだろ。ナルセはあんたにぞっこんラブだ」
豪 「だと、いいがな」
マック「まさか、信じてないのか? ナルセのこと?」
豪 「信じてるさ。信じてる……と思う。いつでも信じたい。信じようとして来た。
だが、この間のお前とのことも、すぐに俺は疑ったんだから、本当はどうだろうな」
マック「あんた、こっちに帰ってきて、まだ決まった仕事はしていないのか?」
豪 「ああ。世話になった処のヘルプと、スタジオの仕事とかだな。それでもわりと忙しい」
マック「どうしてだ? 店からの勧誘はないのか?
まぁ最近、そういうの少ないらしいけどな。オールディーズの店は少なくて空きがない。
でもあんたのスキルなら、どこでも行けるし、どの店でも欲しいと思うけどな」
豪 「オファーはあるが、どうしてもその気になれないんだ」
マック「勿体ない。どうして?」
豪 「何か……物足りない気がする……」
マック「アメリカに戻りたいか?」
豪 「!」
マック「そうか。そうなんだな。日本じゃ比べてレベルがお粗末か」
豪 「いや、そういうわけじゃない。ただ少し、あっちの空気が懐かしいんだ。
やり残したことが、あるような気がする」
マック「なら戻れば。居場所がないわけじゃないんだろ?」
豪 「ああ。実は戻れと誘われてる。というか、実は帰るつもりじゃなかったんだ。
ただビザが切れるから戻った……。俺は、本当はナルセをあっちに呼びたかったんだ」
マック「なんだって? それは困るな。大いに困るぜ、悪いけど」
豪 「ああ。分かってる。シックスティーズにナルセは必要だ」
マック「ナルセに話してみたのか?」
豪 「話したよ。アメリカに来いと言ってみた。だが、即答で無理だと言われた。
ナルセと一緒に暮らす話は、俺にはあっちで暮らすという意味の話でもあったんだ」
マック「そうだったのか。あんたに、日本に残れってナルセは言ったか?」
豪 「いいや。あっちでやりたいなら、行けばいいと言ってくれた」
マック「じゃ、迷ってないんだな」
豪 「迷ってるさ。そうなったら、またナルセを置いて行かなきゃならないんだ」
マック「そんなのしょうがない。あんたのディーセントワークだぜ」
豪 「……そうだな。贅沢な悩みだ」
マック「恋人に左右されるなんて、ナンセンスだろ。
ナルセを信用できないのか? また居ない内に浮気をすると思うのか?」
豪 「わからない。だけど、寂しくてナルセがそうするなら、俺はそれを咎める資格はないと思う。
俺は、ナルセよりも仕事を取るんだからな。ナルセに何も言う権利はない」
マック「恋人か仕事か? まさか。俺ならどっちもだ。
どっちも必要だ。別に贅沢なことじゃないと思う。俺は、どっちも欲しい。
離れていても、浮気はして欲しくない。傲慢だと思うか?」
豪 「それが叶う状況なら、傲慢じゃないだろうな。
だが今は、一つを押し通すと、もう一つは諦めなきゃならない状況だ」
マック「ナルセはナルセで、仕事は仕事だろ。自分がいなくても浮気するなと云えばいい。
いや、それはあいつには酷なのかな。でも恋人なら言うだけの権利はあるよ。
それでも浮気したなら、ワケを問い詰めろよ。それが浮気か本気か、分からないからな。
聞いてみるんだ。あんたの代理なのか、そうじゃないのか。
新しい相手と本気なら、あんたとは終わりだ。簡単だろ。心が距離と共に離れた。
浮気なら、一応怒って、あとは赦すと言えよ。豪がそれでもナルセが好きならだけどな」
豪 「本気かもしれない場合、か。その覚悟も、決めるには必要だと言うのか」
マック「そうさ。ないとは言えないぜ。あんたは傍にいないんだから。覚悟はあんた次第だろ。
毎日は同じじゃないんだぜ。少しずつ変化して、景色は変ってるんだ。
あんたがいない間にナルセに新しい出会いがあっても、変じゃない。ナルセなら尚更だろ」
豪 「そうだな……。信じてなきゃ、どうしようもないな。
だがお前は、レイジが他の人間と寝ていて、それを浮気だと言ったら赦せるのか?」
マック「俺はあんたとは、立場が違うんだ、豪ちゃん。俺は愛人だからな。俺が浮気の相手だよ」
豪 「恋人だったら、どうなんだ」
マック「それは恋人の立場にならないと返事できないよ。
実際にそうならないと、自分の気持ちなんかわからない」
豪 「そうか。……そうだな。すまん。
何だか、逆になったな。俺が相談する形になったみたいだ」
マック「相談した? 俺は自分の意見を言っただけだぜ。相談なんかされてないよな。
俺は相手の立場になって、親身にものを言ってないからな。
だけど、もし俺に相談してくれて、助言をするなら―――。ぜひ云いたいことはある」
豪 「なんだ?」
マック「本当に一生のお願いだから、ナルセをひとりにして外国に行かないでくれ。
あいつは豪を失うと、マジで何をするかわからないからな……頼むよ、豪ちゃん。
下手をすると、レイジを盗られる。それはすごく困るんだ。困ります。ひとりで行かないで」
豪 「……だろうな」
photo/真琴さま