恋はみんなのもの
04

登場人物:ヘミ /ジュウリ
場所:ジュウリのマンション






ヘ ミ 「ただい、ま……ジュウリ。待たせて、ごめんなさい!」

ジュウ「お帰り、お疲れさま。今日は早いくらいじゃない?
    いやだヘミ、どうしたの、走ってきたの? サックス抱えて走るほど、何を慌てているのよ? 大丈夫?
    お風呂は湧かしてあるわよ、寒かったでしょう? 先に入る? それとも何か食べる?」
ヘ ミ 「待って、まずはジュウリを味わわせて……キスして、ハニー、お願いよ……どうにか、なりそう」

ジュウ「……なによ、せっかちさんね。お風呂か食事、それとも私?、じゃないんだから。(笑)
    ……ヘミ……ん……、なによ、ホントどうしたの……? そんなキスをされちゃ、私、ベッドにあんたを押し倒すわ……
    いますぐ、そうされたい? すぐに鳴かせて、あげようか?」
ヘ ミ 「ん、……すごくそうして欲しいけど、待って、落ち着くわ……。
    なんだか、当てられちゃったのかな。ごめん、がっついちゃったわね。なんだか、抑えきれなくて。
    思い切り走ったらお腹がすいたわ、何かない? ジュウリ、以外でね」
ジュウ「バカね。(笑) あるわよ、でも野菜のスープだけにして。もう時間が遅いから、そんなに食べちゃ駄目よ。
    あんたのセクシーで魅惑的な、すてきなボディラインが変わっちゃう」
ヘ ミ 「了解。言うことを聴くわ。あたしの体は、あんたのものよ」







★★★


ジュウ「……さて、食欲も性欲も落ち着いたなら、今日の出来事を話して、ダーリン?」

ヘ ミ 「ええ、そうね。どこから、話そうかしら……」
ジュウ「困った話? それとも、良い話なの?」
ヘ ミ 「そうね、どっちかしら。だけど、どっちも恋の、話だわ」
ジュウ「誰の恋よ? 今夜はもうバレンタインだし、うってつけの話ね。聴かせて頂戴」

ヘ ミ 「ええと、豪の話よ。豪が昨日、アメリカから帰ってきたの。それで、お店が始まる前に会って来たわ」
ジュウ「えっ、そうなの!? どうして豪がヘミに? ナルセも一緒だったの?」
ヘ ミ 「ナルセは、そのあとだと思うけど。今頃、会ってると思うわ。本当は来週くらいの帰国だったのを、早めたらしいの。
     バレンタインに合わせるなんて、意外とロマンチックね、豪は。でも、まずはあたしに会いにきたのよ」
ジュウ「どういうことよ? それ……」
ヘ ミ 「いやだ、妬かないで。違うの、そんな顏しないで。可愛いひとね……またしたくなっちゃう」
ジュウ「だめよ、誤魔化さないで。豪とヘミは何もないと信じてるけど、ちゃんと聴かなきゃね?」
ヘ ミ 「あたしと豪は、意外かもしれないけどずっと連絡をとっていたの。よく電話も貰ったし、メールもね」
ジュウ「豪がヘミと? なんか変な感じ。孤高の豪も、アメリカでホームシックにでもなった?」
ヘ ミ 「ナルセに会いたくてしょうがなかったみたいよ。だから、ナルセの様子をときどき報告してあげた。
     もっとも、本人とは毎日電話で話してたみたいだから、余計なお世話だったかもね」
ジュウ「へぇ、信じられない! あの豪が。毎日、電話? 日本にいるときでも、そんなに連絡してなかったでしょう?」
ヘ ミ 「そうだと思う。でも、離れたからこそ分かることって、あるじゃない。そうでしょう?
    あたしと、ジュウがそうだったように」

ジュウ「そうね。……その通りだわ。離れた方が、相手の存在が大きかったことに、気づかされるわね」
ヘ ミ「フフ。これを云っていいのかしらね……豪に悪いかしら」
ジュウ「やだ、そこまで云っといて黙ってるのは無しよ! 教えてよ、もったいぶらないで。
    ヘミは意地悪よね、それ、絶対云いたいんでしょ?」
ヘ ミ 「だって、豪ったら、けっさくだもの。でも、ジュウには話していいわよね。それはしょうがないと、豪も理解するわね」
ジュウ「するわ、もちろん。ヘミに話したら、私には伝わる。あたりまえじゃない。何? なんなの?」
ヘ ミ 「内緒よ、ジュウリ? ナルセに言わないでね」
ジュウ「云わないわ、ナルセが喜ぶことなら、なおさら言わない」
ヘ ミ 「あたしたち、意地悪ね。でも恋はみんなのものだもの、シェアする権利はあるわよね」
ジュウ「じれったい、早く言って!」

ヘ ミ 「ナルセと、一緒に暮らそうと思うっていうのよ、豪ったら」
ジュウ「ええっ! 豪が?! ついにナルセにせがまれて?!」
ヘ ミ 「違うわ、もしそう言ったら、ナルセはどう答えるかなって、心配してるのよ! おかしいったらないでしょう?」
ジュウ「はあー、豪がねー。アメリカって凄い威力ね。今度、豪に会って、ハグなんかされたらどうしようか?」
ヘ ミ 「(笑) するわけないわ。あたしはされなかったわよ。全然、外側は変わってなかった。それどころか、燻し銀がもっと製錬された感じ。
    ますます近寄りがたいオーラも身につけてたわ。だけど、真面目にそう聴いてくるとこは、いつもの豪らしかった。
    真剣に真摯にそう思ってるとこが豪らしくて、ちょっと感動したわ。ナルセと一緒に居たいのよね、豪は……」
ジュウ「そうなのね。そうか、なんか、ほっとしたな……。
    ナルセは最近、大人しくしてるってことだったから、そうなればもっと良いようになるんじゃない?」
ヘ ミ 「そうね。ステージの彼はいつも通りの高飛車くんだけど、シックスティーズを出ると、いつも辛そうだったわ。
     よく、こんなに長く、耐えたと思う。あたしはナルセの味方じゃなかったけど、褒めてもいいわ。
     最近は、レイジもナルセを相手にしてはくれないしね。それどころじゃないみたい」

ジュウ「レイジが? どうしたの、彼は。レイジはナルセを我が物にしたいでしょうに。チャンスだったのにね」
ヘ ミ 「ねぇ、あんたは知ってたかしら。レイジが、シックスティーズに来るときにしていた緑のエメラルドの指輪を」

ジュウ「緑の大きいやつ? あれって純エメラルドではないわよね。コロンビア人の彼氏に貰ったって指輪でしょう?」
ヘ ミ 「そう、その指輪よ。あれは、レイジの、大事な指輪なのよ」
ジュウ「そうなの……。何かをレイジから聴いたの? ヘミは」
ヘ ミ 「いいえ。聴いていない。別に……そう、思うだけよ。
    だけど、今年に入ってから、レイジはあれをつけてシックスティーズに来ることはなくなったの」
ジュウ「どうして? コロンビア人の彼氏と別れたから?」

ヘ ミ 「さぁ、そうなのかしら。指輪と……彼と、決別をしたのかしら? でもあたしは、それが少し、哀しいと思ったの。
     だって永遠の秘密を、失ってしまったわ」
ジュウ「永遠の秘密って? そんなに彼氏はスゴイ相手だったの? そんなの全然知らなかった。レイジは誰と付き合ってるとも言わなかったし、
    最近は、茅野さんと付き合ってるんだと言ってたから、そうなのと思ってたけど……。レイジの言うことなんか、適当だしね」
ヘ ミ 「ねぇ。あたしは、ジュウに白状するけど、あんたと別れていた間、レイジがちょっと、好きだった」

ジュウ「……本気で? ヘミは男はダメでしょう?」
ヘ ミ 「レイジは、失恋中のあたしに優しかった。レイジのことを秘密の隠れ家にしていいって、結婚しようって彼は言ったわ。
    冗談っぽかったけど、もし、あたしが結婚して欲しいといえば、きっとレイジは迷わずに、本当にしたかもしれない」
ジュウ「嘘……、そんな話にまで、進んでたの……? まさか……」
ヘ ミ 「フフ。驚いた? でも冗談ではないと、あたしは思ってるの。そして、本当だけど、本気ではないともね。
    レイジはあれでも根っからゲイだし。あたしと同じで、異性と本気で寝ることは難しい。それは解っていたから。
    でも、レイジが本気で愛してくれないなら、それはイヤだと思ったの。勝手よね。私も同じくせに」
ジュウ「軽口で、あんたを口説くのに精を出してた男だったはずよ。
    でも確かに、レイジは……きっと、死んだ江蕩さんを、永遠に忘れないと思うわね……辛いけど」

ヘ ミ 「……そうね、忘れはしないでしょうね。でも、ずっとそうなら、あたしはレイジに恋してると、思っていてもよかった。
    もちろん、レイジには、そんなこと言ってあげないけれどね。調子にのられるのは、いやだわ」
ジュウ「女王様のヘミらしいわね」
ヘ ミ 「そうよ。あたしは永遠にレイジの女王さまでいたいのよ。ただ、レイジには、あの指輪も永遠であり続けて欲しかった」
ジュウ「それは、言葉以上に難しい話なのね? 私には解らない?」

ヘ ミ 「ジュウに秘密にしているわけじゃないのよ。ただ、レイジの秘密は、あたし、今は所在がわからないの」
ジュウ「? 豪の秘密は話すけど、レイジの秘密は内緒ってことなのね」
ヘ ミ 「誤解しないで。豪の秘密は、微笑ましいもの。誰にも言いふらしたりしないけど、愛するジュウとは共有したい、幸せな話よ。
    だけど、レイジの秘密には、あたしはその時に、鍵をかけたの。そしてその鍵は、あの指輪に納めたのよ」
ジュウ「でも、その、指輪を、今は……見れないのね?」
ヘ ミ 「そう。永遠に失ったか、それとも、いずれ出てくるのかも。どんな形でかは、わからないけど。
    もしも、いつか出て来たら、私はその鍵でレイジの秘密を開けて、ジュウに話すわ」

ジュウ「ふうん……。そうなの。なんだか、難しい話ね。お手上げだわ。単純な私やリンやマックにはわからなそう……」
ヘ ミ 「そうね、きっとそう。でも単純だからじゃないけど、これはそういう話なのよ」
ジュウ「でもヘミは、レイジが指輪をしなくなったことを、悲しいと思ってるのね? 裏切られた想いがする?」
ヘ ミ 「哀しいけど、裏切られたとは、思ってないわよ。だって、あんなシーンをみたら、呆れてそんなこと思えないわね」
ジュウ「あんなシーンって?」

ヘ ミ 「他人の恋に当てられるのは、実は二回目なのよ。先月、もっと面白いことがあったの。聴きたい?」
ジュウ「へぇ、どんな? それはぜひ聴きたいわね♪」
ヘ ミ 「あたしの言うことを、鈍感なジュウが、信じられるといいけどね?」
ジュウ「なによ、どうせ私は鈍いですよ。みんな秘密主義なんだもの、しょうがないでしょ」
ヘ ミ「ジュウは正直なのよね。レイジが、シックスティーズに来てたの。あれは先月の中旬か下旬だったかしら。
    ぼんやりとステージを見てたわ。酔ってナルセの歌に、うっとりしていたのね。
    だからインターバルに、このところよく来ていて、珍しいわねって尋ねたら、
    ある人物から逃げたくて、行くところがなくてシックスティーズに来てるんだと言ってたわ」
ジュウ「逃げたくて? 誰から? 茅野さん? また叱られるようなことでもしたんでしょ?」
ヘ ミ 「どうかしら。でもね、こっちもけっさくなのよ。レイジは、逃げたくて来てたんじゃないのよ、本当は。
    本人は、そう信じてるけどね。でも、違うと思う。レイジの、あの目をみればわかるわ。バカみたいに見つめてたから。
    フフ……。可笑しかった。どういうのかしらね、あれって。インターバルは、二人の世界じゃないのに、不用心だわ。
    レイジったら、意外と可愛いひとなのね。まったく豪といい、男は単純でおバカさんで、可愛い生き物だわ」

ジュウ「狡いわ、ヘミ。 ひとりで思い出し笑いして楽しまないでよ。
    ねぇってば、レイジは、いったい誰を見つめてたの? ナルセなの?」
ヘ ミ 「ステージにいるナルセは、見ていただけ。そうじゃなくて、レイジは、会いに来ていたのよ。
    自分がもっとも、逢いたいひと、ただひとりに。ただ、単純に会いたくて、逢いにきていただけなの。
    だけど自分でそれに気が付いてないなんて。
    豪もナルセと早く会いたかったのね。でも……そんな気持ちはとても良くわかるわ。みんな、同じよ。
    あたしも、はやくステージを終えて、恋しいジュウに一秒でも早く、会いたかったから柄にもなく走ったのよ、今日は――――」

ジュウ「それはとても嬉しいけど、でも、ねぇ。 教えてよ?
    …………レイジがそんなに会いたかったってのは、誰のこと??」







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