サマータイム・ブルース

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マックのマンション部屋





マック「…………それで?」

レイジ「それで? それだけだよ。以上が、昨夜見た語るに恐ろしい夢の話。
    真夏にぴったりの寝物語だろ。いや、百物語か? ぞっとしなかった?」
マック「……俺の感想、聞きたいか?」
レイジ「聞くけど? 背筋が凍るほど怖かっただろ?」

マック「最悪だ。そりゃ怖かったよなって慰めて欲しいのか?
    そんな話を聴かされる、俺の気持ちを少しでも考えたかよ?」
レイジ「おまえの気持ちなんか、知るかよ。ただの夢の話だ。
    だいたいおまえがこの間、エトーがゾンビになってどうのとか言うから、
    こんな気持ちの悪い夢をみたんだ。目が覚めたら寝汗でぐっしょりだ。
    しかも組織とか、おまえの言う暗黒街まで無駄に影響してる。三流映画だ。
    おまえのせいだからな。責任とれよ。なのに何でおまえが不機嫌そうなんだ。
    文句を言いたいのは、おれの方だぞ」
マック「……不機嫌にもなるだろ。そんな話、冗談でも聴きたくない」

レイジ「冗談じゃなくて、本当の話だ。本当の夢の話」
マック「ああそう。本当の話でしたか。それはさぞ怖かったですね。それとも残念だったかよ?
    それで、カミロってのは誰? 実在の人物? どこのひと? 夢だけのひと? 組織のひと?」
レイジ「コロンビア人だよ。以前、エトーがやってた古物の発掘現場で作業を頼んでた地元の日雇い人。
    でも数年ほど前、鉱山の崖崩れに巻き込まれて死んだと聞いた」
マック「亡くなった人だったのか……本当に家族に香典を送ったのか?」
レイジ「ああ。地元のスタッフに手渡しさせた。送っても届かないことがあるからな。
    奴には娘がいて、いつも大事に写真を持ってたんだ。
    エトーが死んでからは、娘を学校に行かせるためにコスクエス鉱山に出稼ぎに行ってたらしい」
マック「……コス? なに? どこにあるのそれ」

レイジ「コロンビアのエメラルド鉱山だよ。あの辺は危険なんだ。色んな意味でな。
    娘が学校に行ける額の香典を渡してやった。エトーが何かと面倒かけたからな」
マック「そうなんだ。気の毒にな。あんたは周りの人が死ぬこと、わりとあるんだな。
    それって、やっぱり仕事が危険なせい? やっぱマジ暗黒街だから?」
レイジ「おれの仕事は関係ない。おまえには境目の判断は不可能だろうけどな。
    ただ夢で見た人物に会おうと思って目覚めたら、実際はもう死んでいて会えないことがある。
    そういう夢を、よく見るだけだ」
マック「それは、ちょっと辛いよな。あんたはそんな時、大丈夫なのか」
レイジ「大丈夫じゃないな。そういう夢を見て目が覚めると、酷く悲しくて無意識に泣いてる。
    涙が止まらなくて、胸が締め付けられるような痛みが……
    ……ん、何だよ? 触るなよ。目ヤニでもついてたか?」

マック「―――昨夜、泣いたのか?」

レイジ「恐い夢を見て? まさか。今のは冗談だ。泣くなんて冗談に決まってるだろ。
    おれが泣くわけがない。大の大人で男だぞ。コワい夢をみて泣くのは子供だ」
マック「でも、悲しい夢を見て泣くことってあるよな?」
レイジ「おれはないな。一度だってない。おまえはあるのか?
    だいたいこれは悲しい夢じゃなくてホラーな夢だ」

マック「でも、そんな目、してるぜ? ちょっと腫れてるんじゃないのか」
レイジ「これは寝不足のせいだ。関係ない。嫌な気持ちになって眠れなくなった」

マック「あ、そう。ふぁ……ぁぁ まいった、俺も完全に寝不足だ。
    まぁとにかく、夢で良かったよ。本当にゾンビだったら、太刀打ちできないからな」
レイジ「悪かったな。こんな明け方に押しかけて。昨日、寝たのは遅かったのか?」
マック「別に。いつも通りだよ。ほとんど夜中。仕事は毎日夜からなんだし、朝に寝れば問題ねぇよ。
    あんたに部屋の鍵、渡してて良かったよ。おかげでたたき起こされずに済んだしな。
    でも正直、いきなり横で寝てられると、起きた時に心臓止まるくらいビビるから、
    できたら次は、来た時点で起こしてくれると嬉しいですけどね」
レイジ「驚かせて悪かったな。よく寝てたから起こせなかったんだ」

マック「いいよ。気にしてない。なぁ、茅野には、夢のことは言わなかったのか?」
レイジ「言ってない。キョウにそんな話をしてみろ、大変だ。
    明日から一か月はおれの部屋で寝泊りして、ずっと監視するに決まってる。
    あれは意外と心配性なんだ。要らん心配をかけたくない」
マック「……だから俺んち? 俺なら心配なしないってこと?」

レイジ「そんなこと言ってないだろ。ただ、キョウは過剰反応するからな。
    前科があるから、俺には。もう大丈夫だなんて全然信じてないんだ、あいつは」
マック「一ヶ月の監視って、幽霊を見張るのか?」
レイジ「おれを、だよ。本当に幽霊なら良かったけどな。
    おれがユーレイにならないように、鏡夜は常に気をつけたいんだよ。
    そういうことだ。もう本当におれは平気なのにな。信頼を取り戻すには時間がかかる」
マック「……もう平気なのか?」

レイジ「全然大丈夫だけど? 昔はこういう夢をみたらナルセに電話してたんだ。
    夜中であろうが時間なんかお構いなしにな。どんな時間でもナルセはおれの電話には出てくれた。
    たまに豪とナニの真っ最中な時もあったが、それでも出てくれたな。
    ナルセにはおれのコールは豪よりも最優先事項なんだ。豪よりも大事ってことだ。
    思うんだがな、ナルセは絶対、本当はおれに惚れてるよな?」
マック「さぁどうなんかね……。
    レイジのことはナルセにとっても特別みたいだけどな。
    あいつ、レイジが愛してるのは自分だってしれっと真面目な顏で抜かしやがるんだぜ?
    どういうんだ、アレって。熱愛中だっていうギタリストの立場はどうなるんだよ。
    それであんたは今回、ナルセには電話しなかったのかよ?」
レイジ「勿論、しようと思ったよ? すぐナルセにな。ナルセしか思いつかなかった。
    それで携帯を掴んだら、見慣れぬ鍵がテーブルから落ちた。
    だから夜中にナルセを起こすのは可哀想だと思い直して、鍵の方に変えたのさ。
    ああ、別にマックでもいいかってなもんだな」

マック「へーぇ。……そりゃマックさんは喜べばいいんですかね。
    あふ……。ふわぁぁぁ……ヤベ。あーもうダメだ、俺。眠くて死にそう……。
    忘れてたけど今日も昼過ぎの早出で、やらなくていいリハがあるんだった。
    昨日も同じ時間からやってたから、睡眠、あんまり足りてねぇんだったよ……」
レイジ「やらなくていいリハってなんだよ?」

マック「キタさんがさ、ナルセが一日から夏休みで店を休むから、また企画ものしようって
    なんだか80年代バブリーなTRFを踊らされてるんだよ。振り付け覚えろって煩くてさ」
レイジ「またお笑いライブをやるのか? よく店長があれを許可してるよな。
    老舗のシックスティーズで、信じられん」
マック「みんな意外と退屈してんだよ。たまにはあんなのもいいって思ってるんだろ。
    結構、やるとウケるしな。そういう笑いも必要なんだよ……ふあぁ……眠い。マジ眠い。
    体が重くて動けねぇ……悪いけど、俺、もう寝てもいいか?」

レイジ「出勤時間ギリギリまでゆっくり寝てろ。
    夢の話を延々と聞かせて邪魔をしたな。おれは帰るよ」

マック「待てよ、帰るなよ。あんたもここで寝てればいいだろ。
    起きたら一発、しようぜ? あんま時間ないかもだけど。何もしないで帰るなんて無しだろ」
レイジ「インスタントセックスは間に合ってるよ。疲れてるんだろ。しっかり寝ろ」
マック「……ちぇっ。今度は俺がコワイ夢を見そうだよ。見たら責任とってくれよな」
レイジ「今夜、シックスティーズに行ってやるよ」
マック「え、ホントに?! マジで? 来る?」
レイジ「時間が取れたらな。じゃあな、おやすみ」

マック「レイジ」

レイジ「なんだ?」

マック「いつもは俺がダラダラどうでもいい話を話すのに、
    レイジの話が聴けて良かった。俺の方に来てくれてサンキューな」

レイジ「やめてくれ。まるで妾のセリフだな。憐れを装いたいのか? うんざりする。
    今回一応の礼を言うのは、おれの方だろ。おまえに夢の話をして少しは落ち着いた。
    思えば気味の悪い夢だったからな。夏の夜の怪談噺には最適だったけどな。
    でも調子に乗るなよ。
    おれがここに来たのはナルセに電話しようとして、鍵が落ちたせいだからな」

マック「……そこはあくまで譲らないんですね」











photo/真琴さま

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