見上げてごらん夜の星を
☆4☆彡
マック「おはようさん。ちょっとは眠れたか? 朝メシ頼んどいたぜ。
こっちの部屋じゃヤバイから、おれの部屋にルームサービスしといた」
レイジ「ん……うん……もう、朝なのか?」
マック「せっかくだから別荘の時みたいにベッドで朝食と洒落込んでみたかったけど、
さすがに男二人でじゃ、田舎だし都会ほど理解はないからな。
どっかに食いに行っても良かったけど、あんた良く寝てたからさ」
レイジ「おまえは元気だな。メシなんか食う元気ない……」
マック「朝食を制さないと、日中バテるぜ。仕事なんだろ?
レイジはちゃんと喰わないとダメだ。シンちゃんにも心配されてただろ。
着替えてから来いよ。俺の部屋で待ってるからな。1705。右隣だ、間違えるなよ?」
レイジ「……すっかりまっくんのペースだなァ」
マック「いいか、帰ったらまっくん、禁止だからな。
特にナルセに言うなよ。絶対、言うなよ! ぜったいだからな!!」
★★★
マック「あのさ、昨日の話だけど」
レイジ「どの話?」
マック「そろそろ別の歌にしてみてもいいんじゃねぇのかなと思って……」
レイジ「だから突然に何の話だ?
……このサラダ、美味いな。クルミがアクセントなのか」
マック「どれ? あ、ホントだ、美味い! 俺、ナッツの入った料理って好きなんだ。
いや、そうじゃなくて想い出ソングのことだよ。僕ベビの。
あの曲、そんなに胸が詰まるなら辛いだろ。なら想い出ソングを替えよう」
レイジ「そんなこと言っても、もうエトーはいないんだから別の歌には変えられないだろ。
もうあいつと一緒に聴くことはできないんだからな。墓の前で刷り込みでもするのか?
田舎のホテルにしてはここは悪くないだろ。洒落てて美味い朝食だ。トーストも悪くない」
マック「こんなの田舎のホテルじゃねぇよ。俺の実家近所の民宿なら旨い魚を出すのに。
ここらは繁華街だから、都会風なんだよな。よくここに泊まるのか?」
レイジ「そうだな。こっちに来たときは、ここだな。趣味もいいからな」
マック「なんか大層なホテルだな。それなりにランク上なんだろうな?
こんなホテルに泊まったことないから知らないけど。あったことさえ知らなかったよ。
だからさ、しんみり思い出すならさ、代替えの最適な曲があるってことだよ」
レイジ「なんだよ」
マック「あんたはまだ聴いてないと思うけど、この間、上げた新曲なんだ。
メリが歌ってる、見上げてごらん夜の星を、だよ。あれ良い曲だろ?」
レイジ「……それが?」
マック「あの世に逝っちまったひとを思い出すにはさ、最良の曲だ。
優しくてしっとりとした、穏やかで小さな幸せを願う気持ちになれる曲だよ。
メリはそんなふうに歌うんだ。優しくていい歌声なんだ。あいつ、どんどん上手くなるよ。
最終ステージで今やるのが俺のツボなんだけど、あんたはこれを聴きながら
そのまま帰れよ。きっと帰り道、胸が痛くならなくて済むぜ。たぶん」
レイジ「おれがその曲でエトーを思い出しながら帰ってもいいのか?」
マック「いいよ? あんたの過去の想い出だろ。
想い出は差し替えられないけど、せめて胸が詰まるような歌から
穏やかなイメージの歌にくらい差し替えたって、バチは当たらないと思うぜ?」
レイジ「おまえはそれでいいのか?」
マック「は? 俺? 俺……ああ、そうか。そうだな。確かに複雑だよな。
でもな、店に来たお客さんには誰でも幸せな満ち足りた気分で
シックスティーズのドアを出て行って貰いたいんだ。バンドマンの俺としては。
辛くて切ない気分で帰られるよりずっといい。そういう気持ちなんだよ」
レイジ「一度聴いてみないと、どんな気持ちになるかは分からないな」
マック「そうだな。今度、聴きに来いよ。
リクエストしてくれたら必ず演奏するよ。絶対、気に入る」
レイジ「おれがリクエストするのか? そんなものおれの姿を見かけたら、
黙って最終のセットリストに上げればいいだろ」
マック「何様ですか。ナルセ様ですか。わかった、そうする」
レイジ「その曲は、おまえとの想い出ソングになるかもな」
マック「俺、懐かしい想い出にはされたくないですけど。まだ」
レイジ「バカだな。せっかくのチャンスを逃すのか? 歌を聞くたび、思い出して貰える」
マック「だって想い出にされるチャンスなんかいらねぇし。
俺はさ、レイジがその曲で優しい気持ちになれたかな……って考えたあと、
ステージが終わってから、すぐにあんたの携帯に電話して言うんだ」
レイジ「何を言う? おれは泣きたいような気分になってるかもしれないぜ」
マック「だったら尚更、好都合だよ。ひとりで居るのは辛いよな。
そしたら俺の部屋で待っててくれって言うんだ。
ステージが終ったら、すっ飛んで帰るから。部屋の鍵、今度渡していい?」
レイジ「は。鍵だと? 笑わすな。何を勘違いしてるんだ。今どきそんなドラマはないぜ。
しかも恋人でもないのに、何故おまえの家に行く必要がある?
鍵なんか、貰う理由がない。しかも二号さんに鍵を渡すのは、本来おれの役目だろ。
そんなことを考えてたのか。それがおまえのステイタスか? ばかばかしい。
新しいマンション、お金持ちのパパが買ってやろうか?」
マック「いらない」
レイジ「おれの恋人は……鏡夜なんだ。忘れるなよ」
マック「……わかってるよ。そんなこと今、云わなくていいだろ。わかってる。
ただ、ちょっと思いついた冗談を云ってみただけだ。本気じゃない」
レイジ「そうか。ジョークだったのか。
せっかくの食事が不味くなるような気の利かない返しだったな。
おまえはいつも冗談か本気かわからない顏をして言うから間違えた。
洒落だったなら真実を突きつけないで、適当に合せた方が良かったかな」
マック「いいや。本当は洒落じゃないし冗談でもない。本気だよ。
でもこうなったのは、俺の自業自得だからな。レイジの気持ちが動くのを待ってる」
レイジ「冗談も本気も、全部同じ顏で言うんだな、おまえは。待つか……。
おれの心は動かないかもしれない。待つのは無駄に終わるかもな」
マック「あんたが待てと言ったのに?」
レイジ「そうだ。おれも約束を守る義務はないだろ?
おまえを見習って、ただの衝動でものを言うことにしたんだ。
またいつ気持ちが変わるか分かったものじゃないしな。
今はそう言っていても、明日には部屋の鍵はサワが持ってるかもしれないよな」
マック「そんなわけあるかよ。サワは関係ない」
レイジ「そうか? おれがゆっくりしてたら、またすぐに揺らぐだろ?
おまえのやり方に合せれば、現実そうなる。それにサワを嫌いじゃないはずだ。
誘われて落ちかけただろ。それが事実だ。そうだろ? おまえは信用ならない。
おれは、おまえを信用していない」
マック「……信用、してないってか」
レイジ「第一、鏡夜は今のポジションを一歩も退かないだろうぜ。
今までのあやふやな関係に名前をつけたことで、あいつの感情内も変化してる。
以前のような従事関係のようにはいかない。今は対等だ。そう見えなくても。
もうおれの言うことなんか、鏡夜は聞かないだろう」
マック「茅野の感情なんか関係ないだろ。あんたの気持ちだ、大事なのは」
レイジ「気持ち? いいか、そんなわけにはいかないんだよ、坊や。
おれには鏡夜を失うことはできない。選ばないと言えば鏡夜はおれの元を去るだろう。
それは大いに困る。絶対に困るんだよ。今さら恋愛ごとだけ別にはもうできないんだ。
全部、一緒なんだよ」
マック「何で、できないんだよ。そんなのオカシイだろ。仕事と恋愛はどこでも別ものだろ」
レイジ「おれたちには別じゃない。あいつが何にでも必要なんだよ、おれにはな。
鏡夜に去られるとおれの会社も店も途方に暮れる。つまりはあいつがいないと生きられない。
仕事をするにも、生活するにも、何をするにも困るんだよ、おれは」
マック「面倒なんだな。なんだか大人の事情って感じだよな。結婚と恋愛は違うんです的な。
愛だ恋だって、浮ついてるのは俺だけか? 他の皆が現実的なのかよ。
地に足がついてないのは、本当は俺の方なのか」
レイジ「そうだよ。おまえは思考が子供で幼稚だ。お互いに考えも世界も違うんだ」
マック「レイジは世界が違うことばっかり強調するんだな。そんなに重要か?
確かに俺にはあんたの仕事は理解できないし、皿や壺のアートもわからねぇし、
あんたのなんだか怪しい裏の仕事について行けることも、この先ないよ。
もう立派な大人でそれなり稼いでもいる人間なのに、幼稚な思考だと断絶される。
もう10時だぜ? さっさと出かけないとダメなんじゃねぇの、あんた」
レイジ「怒ったのか?」
マック「正論を言われて怒ってたんじゃ、ガキはガキでも幼児と一緒だろ。
そこまでガキじゃねぇよ。自分で撒いた種だし結局。こんなリスクは覚悟の内だよ。
最終的には事実を受け止めるだけだ。でも確かに気分は良くないけどな。
自分で投げた球が跳ね返って当たれば痛いし、自分が悪くても腹が立つよな」
レイジ「おまえはこのままだと鏡夜と、おれを共有するんだ。体を共有する。
いいのか、それで? この際、はっきりしておこうか。いいタイミングだ」
マック「何で、今なんだ。もっと先でもいいだろ。何を急いでるんだよ?
やり直しはじめたばかりじゃないかよ? もう少し様子を見てもいいだろう?
急ぐなってあんた言っただろ。何を急いでそんなに再びまた俺を切りたがるんだ。
言うけど、距離を置いてた俺を引き戻したのは、半分はレイジじゃねぇかよ。違うか?
俺だけのせいか? あんたは、俺をどんな位置に置きたいんだ」
レイジ「おまえの立ち位置なんか、知るか。
もし鏡夜がおれを抱きたいと言ってくれば、おれはそれを受け入れるぜ」
マック「茅野は、あんたに対してそんなことを云うのかよ?」
レイジ「このままおまえとの関係が続けばな。その可能性はある。
独占するつもりなら言うだろうな。おまえだけの特権なんか鏡夜は認めない。
そうなれば、唯一の特権はおまえだけじゃないことになる。
鏡夜はおまえから、そんなものは簡単に奪う。あいつを見くびるな。
おまえは惨めな愛人に成り下がるだけだ」
マック「別に今さら特権とか、そんなつもりない」
レイジ「おまえは誰かとの共有は嫌だと言ったんだよな。基本、ひとり主義なんだろ。
だから、いったんおれから離れたんだ。それが嫌だったからだ。覚えてるか?
もうそんな考えは変わったかもしれないけどな。もう3Pくらいなら考えてるのか?」
マック「そんな気は毛頭ない」
レイジ「だったら、おれとこんな関係を続けるのか、決めろ。
おれは何があっても、鏡夜を捨てない。それは揺るがない」
マック「……考えさせてくれ」
レイジ「そうしろ。結論が出たら連絡してくれ」
マック「訊いていいかな。あんたは茅野だけを、本気で愛してるのか?」
レイジ「だけ本気で愛してる? 確かに愛してるかもな。
でも、だけは愛していないかもしれないし、本気かどうかは分からない」
マック「そんな答えはズルいよな、レイジ」
レイジ「だったら何だ。そんなことは言われ慣れた。狡くて悪いのか。
おれはエトーを選んだ時に、普通の生活を捨てたんだ。
そういう生き方に変えたんだ。狡い生き方だ。相手に判断をさせる。
そうでないと、やっていけない世界だったからな。
エトーと一緒にいるには、それが必要だったんだ」
マック「それは違うと思うぜ」
レイジ「なんだって?」
マック「それはあんたの根っこの性格だよ、レイジ。
融通のきかない意外に真面目なとこだ。俺のことも捨てられないし、
そんなこと黙ってればいいのに、優しいから俺を気遣ってる。
あんたが俺の苦痛に耐えられないだけなんだ、本当は。
それでいくと……恐らく茅野に対しても同じような感じなのかもな」
レイジ「何のことだ? お笑い草だな。いや、笑えないな。
何様のつもりだ。自分勝手なおまえにおれが気を遣うわけがないだろ。
自惚れも大概にしろ。おまえが苦しもうがおれには関係ない。
おまえが自分から去れば、簡単に捨ててやる」
マック「全部、そこが原因なんだよ。あんたは繊細すぎる。
レイジは過去に好きな男に合わせて、無理矢理いい加減な性格を作ったんだ。
作り物の性格だ。長くニセモノ過ぎて、本物がどっちか区別がつかなくなった」
レイジ「だから何だ。何が悪い。そう切り替えなきゃ、ならなかったんだ。
ちょっと長く寝たくらいでおれのことを分かったように言うな。不愉快だ」
マック「でも根っこは変わらない。三つ子の魂は百までなんだろ。
あんたは元から適当な俺なんかとは、性格の基盤が違う。気づいてないのか?
それとも秀逸なあんたは、ただ俺を騙そうとしてるのかな? さすがってこと?
騙すのは得意なんだよな。おれにはそんなのどっちでもいいけどな。
要するに状況は今までより悪いんだから、こんなとこまで来て会ってやったからって、
勘違いして図にのるなってことなんだろ? 所詮二号らしくしてろってことだ」
レイジ「……そうだ。よく分かってるじゃないか」
マック「オッケー。理解したよ。あんたが茅野を本気で愛してるかもしれなくて、
あとはおれ次第だってあんたが言うなら、よく考えてまた連絡するよ」
photo/Do U like