I Love You
But the words won't come
2-2
8月6日
サマーバケーション 2日目
登場人物:マック/レイジ
マック「うわ。すげぇな! 外観も雑誌で見たリゾート地みたいだ!」
レイジ「貧乏人には刺激が強すぎたか?」
マック「着いた日、暗かったからわからなかった。改めてすげぇな、ここ。
昨日は浮かれててなんも見てなかったんだな、おれ。
どんだけするんだ、管理費?」
レイジ「興味は管理費かよ。普通は着いたその日に感激するもんだけどな。呆れたな。
ナルセは到着するなり、敷地全部を散策してたぞ」
マック「へぇ。ナルセは高級なものにうるさそうだもんな。
おれは、もうあんたと寝ることばっか考えてたから、関係なかったんだよ」
レイジ「おまえ、がっつきすぎなんだよ」
マック「あのさ。あんた、気を遣ってくれてるんだよな。昨日、おれが拗ねたから」
レイジ「そういうわけじゃない。ゲストにサービスしてるだけだよ」
マック「セックスするのはどこでも一緒だと思ってたけど、所変われば心情もちょっと変わるな」
レイジ「逆上せてるなら、頭も冷えるし、冷静に戻れるだろ」
マック「……あんたに対してって意味なら、どこでもおれには一緒だけど」
レイジ「おまえに何回もクドイ告白をさせるために、ここへ連れて来たんじゃないけどな」
マック「じゃ、なんで? どうして連れてきた?
何で急にこんな豪勢なプライベートの別荘に、ご招待されたのかな、おれは」
レイジ「特別な意味はない。ここにはシックスティーズの連中だって連れて来てる。
おまえは5月に、旅行したいって云ってただろ?
だからまぁ、たまには、おまえんち以外でスルのもいいだろうって、話だ」
マック「ここに比べたら、どうせ狭いですよ、うちは」
レイジ「良いマンションじゃないか、おまえのセンスであそこは悪くない」
マック「おれには不相応な気がしてるんだけどな。いいとこだよ確かに。
あのマンションはナルセが用意してくれたんだけど、でも豪華すぎるだろ。
ナルセは右も左もわからない田舎者のおれに、云ったんだ。
シックスティーズのバンドマンなら、これくらいのとこには住めるってさ」
レイジ「マック。ナルセが用意したものの出所は、おれだと思ってだいたい正解だぜ」
マック「……マジで? そうなんだ。あんたとナルセってどんな関係なんだ?
以前つきあってたのか? 前にも聞いたかもしれねぇけど」
レイジ「ナルセがおれと寝た時は、すでに豪ちゃんとナルセはつきあってたかな。
まぁ、あいだ、あの二人は別れたり戻ったりの繰り返しだったけど」
マック「あんたはすでに、ピアノマンのオーナーだった?」
レイジ「違う。ナルセと出会ったときは、おれがつまらないサラリーマンだった頃だ。
たまたま友人に誘われてシックスティーズに行ったんだ。気になる店ではあったしな。
そしたら歌も顏も最高のボーカルがいて、速攻で惚れた。ナルセだ。
夢中になって、毎日のように通いだしたらナルセに誘われて、寝たのが始まり。
憧れのボーカルを抱けて、夢のようだった。その辺、おまえと一緒だな」
マック「うわ。ナルセ、客に手を出してたのかよ……。
でもおれには別に、憧れのボーカルじゃなかったぜ。
高級だとは雰囲気で思ったけど、まだナルセを知らなかったし。
都会ってのは、あんがい簡単に幸運にありつけるんだと思っただけだ。
寝たあとで、なんだかすげぇボーカルなんだなと改めて思っただけ」
レイジ「おまえは幸運なんだよ。幸運も才能だけどな。
ナルセはずっと、おれの深いところにいる唯一のスターだ。
そこに届くのは、あいつの歌う姿と声だけなんだ。他の誰にも届く場所じゃない。
あの歌声が、おれに現実逃避をさせてくれるし、正気を保させてもくれる。
おれの救いなんだ」
マック「……あんた、ナルセを本気で好きなのか?」
レイジ「愛しいよ? ナルセ自身のエゴイズムとあのナルシズムが、おれの免罪符だ。
あいつを見てると、自分の身勝手さなんか、おやつを独り占めした子供程度に思えるからな。
神さまはナルセがあの性格だから、奴に最高の歌をお与えになったんだろうさ。
でなきゃ今頃、恨みつらみで生き埋めにされてる。最低で最強な魔性の歌うたいだ。
でもそれが、他のヤツや、おれを魅了する。自由な憧れの恋人だよ。
歌うあいつは、誰の手にも入らないから、ずっと安心していられる。
たとえ、それが豪でも。歌うナルセは、皆と共有の夢の恋人だ。失うことがない」
マック「……あんたの本命の恋人は、死んだ男なんじゃないのか……?
ナルセと寝たとき、あんたはその男と、まだ付き合ってなかったのか?」
レイジ「またチャレンジする気なのか? その方向は、やめにしようぜ」
マック「……だよな。幾らなんでも自分で云って驚いたよ、今。
昨日の今日で、なんでまた聴くのを抑えきれねぇんだろ。おれは無謀なのかな?」
レイジ「ちょっとは学べよ。おまえさんは好奇心の強いサルみたいだ」
マック「はい、反省もしますからね」
レイジ「サルは痛い目にあったら学ぶし、もう少し利口だけどな」
マック「どうせサル以下ですよー」
レイジ「おまえみたいな、好奇心が強くて無謀なのは、役に立たないな。
おれの仕事にはまったく使えない。すぐに死ぬ。なんでおまえに構ってるんだろうな、おれは。
鏡夜なら、常に冷静で仕事の役にも立つし、恋人としても、非の打ちどころがない。
そうなんだ。なぁ。おれは、鏡夜を全てのパートナーに選ぶべきじゃないか?」
マック「それをおれに訊くのは、ひどすぎるんじゃないですか?」
レイジ「だって、おまえは盗品の裏売買なんかできないだろ? これは例えばの話だけどな」
マック「ホントに例えばなんだろうな。冗談じゃないぞ。そんなの当たり前だ。
それ犯罪だろ? おれはただの楽器屋でベーシストだ。危険な仕事でもない。
しがないバンドマンだ。演奏するのが仕事だ。清貧の正しいミュージシャンなんだ。
あんたの怪しい仕事のパートナーになんか、なる気ぜんぜんないからな。
たとえ恋人条件にそれが必須だったとしても…………いや、それなら考えなくもないかな」
レイジ「考えるなよ。おまえはシックスティーズのバンドマンだ。それでいい。
おれみたいに、全部捨てることはない。
シックスティーズのミュージシャンてだけで、おれには価値がある。
……ああ、そうか、おれがおまえに構うのは、そういうわけなのか」
マック「初耳だ! おれに価値があるなんて、初めてきいた!
でもそれでいくと、シックスティーズを辞めたら、おれには価値が無くなるってこと?」
レイジ「だったら、シックスティーズの連中なら誰でもいいだろ」
マック「そう思いたいけど。リンとおれの差ってなに?」
レイジ「おれに突っ込むほど身の程知らずじゃないってとこだろ」
マック「……それだけ?」
レイジ「おまえは感じてないだろうが、シックスティーズで演奏できるのは、
オールディーズ系のミュージシャンにとっては最高な栄誉だ。
運や努力やコネじゃ、絶対につかめない。それなりに認められる要素が必要なんだ。
おれは本職のミュージシャンじゃないから、それを云う資格はないが、
シックスティーズのバンドマンてブランドなら、お仲間からは羨望の的だ。
たとえヘルプ待遇でもだ。簡単に手に入るものじゃない」
マック「まぁ、多少はそう思ってるよ。実感ないけどよく言われることだから。
やっかみも含めてな。なんでおれが採用されたのかは謎だけど」
レイジ「音楽ってのは、本当に良い。特にオールディーズは、心が安らぐ。
おれがオールディーズに出会ったのは、シックスティーズに行ってからだ。
楽器屋はいいよな……羨ましいよ。楽器を弾くのは独りでもできるからな。
おれは独りでは、何もできない。仕事には鏡夜が必要だし、プライベートにはナルセが必要だ。
おまえはこれからも楽器を弾いてりゃ、ひとりでも生きていけるだろうな。
おれと違って現実的で、地に足もついてるし。
所詮、棲む世界が違うんだな、おれとおまえは。
まだ早いと思ってたが……そろそろ、決める方向に考えるはじめる時期なのかな」
マック「……あのさ。あんたは知ってるかな? レイジ。
ベースって楽器はさ、ひとりえっちのできない楽器なんだよ。
ひとりじゃ、気持ち良くなるのは無理なんだ」
レイジ「なんだって?」
マック「だから、ギターやドラムやキーボードや歌みたいに、一人でナルシズムの快感を高めて、
シコシコするようなひとりエッチじゃ、イクことができない楽器なんだって。ベースは」
レイジ「……だから?」
マック「だから、ベースはオナニー楽器じゃなくて、セックス楽器なんだよ。わかるかな。
ほかの人と交わって、初めてイケるってわけ。セックスと一緒。自分以外が必要だ。
他の楽器がないと、活きてこない。だから、ベーシストもひとりじゃ気持ち良くなれない。
相性の良いセックスの相手がいないと意味がないし、ダメなんだ。ひとりじゃ無理だ」
レイジ「……それは、そうなのかも、な。
ああ。昔、セブンレイジィに居た時、ベースが遅刻したんだ。
地味なベースなんか、なくてもいいだろうとベース抜きでリハを始めたら、おかしなことになった。
ベースの抜けたバンドで音を合わせると、腐抜けたスカスカの曲流れになる。
曲底に流れる重低音がないと、どうしたことか、リズムを乗せられないんだな。
これはバンド経験がないとわかり辛いが、確かにそうだったな。練習する気を萎えさせる。
ベースは音楽の土台だ。リズムを支える楽器だからな。ベースがいないと、駄目だ」
マック「だろ? ベースは目立たないけど、いないとダメだし、地味でも必要なんだ。
ボーカルや他の楽器は、ひとりだけでもたいてい気持ち良くなれるけど、
おれは、誰かと合わせないと絶対気持ち良くなれないんだよ。
むしろベースは、乱交セックス楽器だよ。多ければ多いほど、気持ち良くなれる。
いや、これは楽器の話だから、おれ自身は乱交しないけどな。おれは、あんただけ。
だからさ要するに、ひとりでやっていけるとかそんなこと言うなって話なんだよ。
勝手におれの立場を決めないでくれ。おれ、必死すぎるか?」
レイジ「……おまえは表現が、独創的だな」
マック「ハイクオリティなんで、ボク」
レイジ「云ってろ」
マック「あんたとこんなとこでノンビリできるのって、最初で最後かな」
レイジ「なんだ、急に」
マック「おれはさ、あんたと、この先も……。いや、いいや、もう。そんなのは。
今のこの瞬間だけを大事にすることに決めたよ。先の長い話は、もういいよ」
レイジ「いきなりだな。おまえはいつも唐突に悟るよな。
それともおまえの中じゃ、唐突じゃないのかな。凡人とは頭の回転が違うのか?」
マック「どうせ、住んでる世界が違うんだろ? だけど、おれもそう思うよ。
ここに来て、余計にそう思った」
レイジ「やけに気弱じゃないか。今が未来を作るんじゃなかったのか?
ペーパー冊子より、ハードカバーの人生なんだろう?」
マック「思ったんだけど、ペーパー冊子も悪くないよな。
たとえペラッペラだとしても、そのワンシーンが良い感じなら、
そこだけ永遠に眺めてりゃイイだろ。良い想い出ならそういうのも、ありだ」
レイジ「おいおい。おまえもおれの刹那主義人生に宗旨替えか?
らしくないじゃないか。がっかりだな。
いつも所帯くさい、リアル人生をしつこく云うくせに。
おまえはすぐに意見を変えるよな。頭が良いのか悪いのか謎だ」
マック「意見は変わるもんだろ。でもそんなもの変えたっていいんだ。
信念がかわるわけじゃない。おれの魂はひとつだよ。
こんな夢みたいな避暑地でさ、おれには勿体ない美人と朝も昼も夜もないバカンスなんかじゃ、
そう思いたくもなるだろ。現実感がまるでないよな。化かされてるみたいだ。
これは夢なんじゃないかな。あんたからのおれへの思いやりの贈り物なんじゃねぇの」
レイジ「だったら、どうなんだ」
マック「だったらさ、おれはもう遠慮しないで、ピクニックとかクルージングなんかどうでもいいって、
あんたとずっと陽が昇って落ちるまで、本当は二人きりでいたいって本音を云うよ。
レイジを朝から晩まで抱いてセックスしてたいって云う。言います。
今は素面だけど、心が折れそうだけど、頑張って恥ずかしいけど言いますよ。
……そうしないか?
今日も合せてあと二日あるけど、おれはそうして過ごしたいんだ。だめ?」
レイジ「……場所を変えたくらいで、そこまで言われるとは思わなかったな」
マック「だってレイジは、おれを切るつもりで、ここに誘ったんだろ?
関係をもう切るつもりだ。おれは嫌でも、最終的にはあんたが決める。
おれとの関係を断ちたくて、最後の思い出に連れてきてくれたんだろ?」
レイジ「なんだって? それは違う。早計だ。
そろそろ決めなきゃいけないってのは、さっき思ったとこだ。
おまえはいつもすぐひとりで走り出すんだな。
ペースが違うって云っても、たまにはおれに合わそうって気はないのか?」
マック「えっ。だから合わせたつもりですけど、今」
レイジ「ハァ……。だから一人よがりなんだよ、おまえは。それで慌てすぎだ。
空気を読めないのは、ステージのMCだけにしてくれ」
マック「そうなの? じゃ、どうしておれとバカンスに?」
レイジ「戻ろう。日中の日差しはきつい」
マック「レイジ、教えてくれよ」
レイジ「おれも忙しい時間に縛られず、ゆっくりしたかっただけだよ、マック。おまえとな」
Photo/真琴さま