I Want You Back

3
4月2日
ピアノ・マン 奥の応接室
登場人物:レイジ/ナルセ
レイジ「相談があるんだ、ナルセ」
ナルセ「いやだ」
レイジ「また速攻否定か。
どれだけ冷たい男なんだ、ナルセ。
このおれが相談してるっていうのに、なんでツレなくするんだよ?」
ナルセ「レイジが相談してくる時は、ろくなことじゃないからな。
死にたい以外のことなら、相談には乗りたくないけど」
レイジ「そんなこと言うなよ。おまえの相談には色々乗ってやったじゃないか」
ナルセ「頼みもしない用心棒とかだろ。迷惑ばっかりだった」
レイジ「本当に? 殺されかけても?」
ナルセ「……多くのケースは。たまには、ちゃんと感謝してたよ。
分かったよ、なんだよ、言ってみろよ。でも内容によるからな」
レイジ「助けてくれ。小僧が、煩わしいんだよ」
ナルセ「小僧って、それ、マックのことか?」
レイジ「そうだよ。あの小僧、おれを本気で好きだって言うんだ。
おれが欲しいって言うんだぜ、どうにかしてくれ」
ナルセ「そんなことまで言うのか、あいつ。相当逆上せてるな。
だから、俺もそう言っただろ? 散々警告したのに無視するからだ」
レイジ「だったら、言いきかせておけよ」
ナルセ「なんて?」
レイジ「それはおまえが考えろ。
但しあのバカが傷つかない程度のセリフで、たしなめろ」
ナルセ「俺に頼むのは間違ってるな。俺が傷つかないように言うと思う?」
レイジ「思えない。おまえ、酷い男だもの。
おまえから言われたら、たいていは再起不能になるな」
ナルセ「じゃ、本当は傷つけろってこと?」
レイジ「そんなこと言ってない。あのバカに酷いことを言うなよ?
すぐ本気にするからな。小心者なんだ、あれでも」
ナルセ「だったら、自分で言えよ。
もう俺に纏わりつくなって、さ。簡単だろ」
レイジ「それは困る。纏わりつくななんて言ってない。
煩わしいけど、捨てる気はないんだ。そこを間違うなよ」
ナルセ「はぁ? 何で。煩わしいなら、不要だろ?」
レイジ「不要じゃない。色々と面倒なことを言ってくるのが、煩わしいんだ。
でも捨てるのは勿体ないだろ? おまえなら、わかるよな?」
ナルセ「……まぁ。たぶん……わかる」
レイジ「そうだよな。なんたって、穴兄弟だもんな。良かった、分かりあえて」
ナルセ「またそういう品のない言い方するなよ。
考えたくないんだからその方向のことは」
レイジ「とにかく、セックスはしたいけど、あとで話しかけられるのが、うっとうしい」
ナルセ「酷いワガママだな。いくら何でもそれはダメだろ。冷血すぎる。
俺でも言わないセリフだよ。いまどき、そんな酷いセリフ流行らない。
二人のことは賛成してないけど、それじゃマックがあまりに可哀想だ」
レイジ「そうかな。やっぱダメか」
ナルセ「それなら他を探してみたらいいだろ。
マックに代わる面倒臭いことを言わない相手を。
役割をチェンジしたって、レイジならすぐに相手は見つかるだろう」
レイジ「それはない。おれは、あの小僧がいいんだ。
他とするつもりはない。あんなこと、何人もとできるかよ。
おれは破廉恥なおまえとは違うんだよ」
ナルセ「……やけにご執心なんだな。他との相性を試しもしないで?」
レイジ「ほかに、いるのか?」
ナルセ「マックレベルなら、いないことはないよ。紹介しようか?」
レイジ「そうか。でもおまえの寝言からは聴いてないから、二番手は要らない。
おれは、あれがいいんだ。あれでないと、ダメ」
ナルセ「何をそんなに意固地になってるんだよ。変だろ。
そんなに置いときたいなら、適当に睦言でも言って、誤魔化しておけばいい。
得意だろ、そんなこと? 今までやってきたんだろ?」
レイジ「失敬な。おまえと一緒にするなよ。おれは真面目で正直な男なんだ。
でもたとえ、悪魔に憑かれておまえ風にやってたとしても、だ。
あれには通じないんだ。小細工なんか理解できない。
答えを早急に欲しがる。何を焦ってるのか、追いつめられてる感じがする。
必死さが伝わってきて、怖い。これ以上は、無理だ。
自爆しないうちに、なんとかしないと」
ナルセ「ま。それはあるかもな。
一途な感じはする。恥ずかしいくらいに。
そんなタイプには思えなかったけど、やっぱ相手がレイジじゃ、そうなるのか。
ちょっと悔しいよな。とりあえず、好きだってことにしといたら?」
レイジ「そんなことできるかよ!
好きだって言ってくる相手に、好きでもないのに、好きだなんて言えない。
おまえじゃあるまいし、おれはそこまで極悪人じゃない」
ナルセ「この時点でもう完全に極悪人だと思うけど。酷いこと山ほど言っといて。
なら、答えてやったらいいじゃないか。もう正直なとこをさ。
最初は傷つくけど、それでもいいって言うかもしれないし、
失恋したってすぐ治る。マックだってその方が先に進めるし、
それがお互いのためだろ?」
レイジ「それもダメだ。そしたらきっと、あれは離れる。おまえとの時みたいに。
おまえが豪を好きだって分かったら、もうセックスには応じなかっただろ」
ナルセ「まぁ、マックはそういうタイプだから。二股とか嫌なんだろ。
でも別にレイジは、他に誰か好きな人がいるわけじゃないんだし。
いるのか? それとも。もしかして、茅野さんのことが好きなのか?」
レイジ「鏡夜は関係ない。鏡夜のことは、好き嫌いの問題でもないし」
ナルセ「茅野さんだって、レイジが好きなんじゃないのか?
マックと同じだろ。それは放って置いていいわけ?」
レイジ「鏡夜は、余裕だ。追いつめられてもない。でもあいつに嫌いなんて言ったら、
にっこり笑って、おれは暗殺される。だから言わない」
ナルセ「怖いな、茅野さん。おれも気をつけよう。
だいたいそんな怖い相手がいて、何でマックなんかに手をつけるんだよ。
だからダメだって言ったんだ。でもおれがダメって言ったのは、
マックのためであって、レイジのためじゃないんだけどな。
だけど、レイジ。何かどうも、釈然としないんだよな……こう……」
レイジ「何が? 何が釈然としない?」
ナルセ「レイジは、本当にマックが好きじゃないのか?」
レイジ「だから好きじゃないって言ってる。愛してもない。だから、困ってるんだ。
おれはあのバカのことを、まったく好きじゃないんだ」
ナルセ「でも、置いときたいんだ? 身体の相性がいいから」
レイジ「それが身勝手なのは、分かってるんだよ」
ナルセ「ふぅ。分かってるって?
それだけ置いときたいなら、まったく好きじゃないなんてあり得ない。
少しはマックが好きなんだよ、レイジは」
レイジ「そんなことはない。あんな小僧、好きじゃない。バカだからな」
ナルセ「はぁ。やれやれ……」
レイジ「どうしたらいい」
ナルセ「俺の答は決まってるよ。マックを潔く捨てて、他をあたれよ。
こんな相談は、レイジらしくないだろ。どうしちゃったんだ」
レイジ「だから、それは嫌だって言ってるだろ。さっきから何を聴いてたんだ。
自分で考えてもいい案がでないから、おまえに頼んでるんだ」
ナルセ「だってマックを傷つける方法は、嫌なんだろう?」
レイジ「そうだ。可哀想だろ。おれを本気で好きなのに」
ナルセ「本当にマックが可哀想だからか?
傷つけないのは、レイジのためでもあるんじゃないのか」
レイジ「おれのため? まぁ、それもある意味、正しいな。
心の状態は体に影響するから、EDにでもなったら本末転倒で、困るよな」
ナルセ「もしEDでセックスできなくなったら、もうマックは要らないわけか?」
レイジ「…………どうかな。わからない」
ナルセ「わからないって? そこの答えは『要らない』のはずだろ。
レイジの執着ぶりが、おかしい。解せないよ。
初体験の相手だから忘れられないなんて、そんな初心なことじゃないだろう?
なんだよ? 何が引っかかってるんだ。マックのセックス以外の何が」
レイジ「ああ、なるほどな。そうなのかもしれないよな?
初体験の相手。それだ、きっと。初めての相手は、忘れられない」
ナルセ「嘘つけ。掘られるのは初めてじゃないって言ってたじゃないか」
レイジ「そうだったか? トラップをかけるなよ。もう余裕がないんだ」
ナルセ「どうやら、どこまで正直に話してるのか、分からなくなってきたな」
レイジ「なんで? 相談してるんだぜ? 正直に話してるに決まってるだろ」
ナルセ「じゃ、あんた自身が気がついてないか、だよ」
レイジ「そんなことがあるかよ。思春期の高校生じゃないんだぞ。
いい歳した、高級ナイトクラブのオーナーだぞ」
レイジ「マックになんて言っておいて欲しいんだよ?」
レイジ「焦るなって言ってくれ。柔らかくな、離れない程度にだ」
ナルセ「焦るなって? 焦らなかったら、何か進展があるのか?
マックに希望が持てる展開になるっていうわけ?
そんな展望もないのに、言うのか? それはむしろ酷だろ?」
レイジ「そんなことあるかないか、わからないだろ」
ナルセ「ない、とは言わないんだ」
レイジ「ナルセ、おれは困ってるんだ。本当に。
おまえを困らせることはあっても、おれが困ること、そんなにあったか?
おまえは今こそ、おれに借りを返すべきなんじゃないか?」
ナルセ「……分かったよ。なんとかしとくよ。もう。勝手な言い分だ。
ところで先月、シックスティーズに何故、来てたんだ?」
レイジ「おや、知ってたのか? ほんのわずかな時間だぜ。
さすが、長年の愛があると違うねぇ。驚いた。
ちょっと店長に用があって、ついでにおまえの歌に聞き惚れてたんだ」
ナルセ「店長に用があるなら、お使いボーイを出すだろいつもなら」
レイジ「……うっかりしてたな。たまには店長に会いたくなったんだ。
昔はおれも客としてよく行ってたしな」
ナルセ「レイジは暗闇でも、目立つんだよ。雰囲気が、違う。
初めて見たときの江蕩さんかと思ったよ。あの人もカッコ良かったよな。
初めて来たとき、すぐに目を惹いた。独特の雰囲気だったよな。
それ以降会った時は、すっかり見目が変わって、すぐにはわからなかったけど」
レイジ「お宝探しに出て、すっかり腕力ついたからな。
いつの間にか、カリブの海賊みたいだった。あの綺麗な指が良かったのに」
ナルセ「そうだな。あの初めてシックスティーズに来た時の江蕩さんに、
似てるよ、今のレイジは。
立ち姿がカッコ良くて、悪そうな笑みが、ミステリアスで、そそる」
レイジ「そうかね。おまえ、エトーを狙ってたのか、やっぱりな。
おれはエトーに似てるか? ふぅん……そうか。やっぱ、そうなのかね。
あれくらい見た目がさまになってるなら、光栄だ。本望だな。
もっともおれは、あの頃ナルセの方がエトーにそっくりだと思ってたんだがな。
当時の外見と、中身の問題でもな」
ナルセ「浮気者のレッテルは返上したよ。それは褒め言葉かな。
珍しいな? レイジが江蕩さんの話をすんなり受け入れるなんて。
レイジはおれが江蕩さんと似てたから、おれと寝たのかな」
レイジ「そうだって答えても、おまえは認めないだろう?」
ナルセ「そりゃそうだよ。このおれを誰かの代わりにするなんて、ありえないからな」
レイジ「もちろん、ミスターシックスティーズは、誰の代わりでもないさ。
愛しのナルセは、永遠におれのロックスターだ。
エトーなんかお呼びじゃない」
ナルセ「マックも江蕩さんの代わりじゃなさそうだ。まったく真逆だもんな」
レイジ「答える気にもならんな。それで、あのバカ小僧は元気なのか?」
ナルセ「あれから会ってないのか? 先月、何があったか知らないけど、
マックは別に今のとこ普通だぜ。いつもと変わらず、気楽だ。
先月の、あの間抜けた様子の通りだ。 ……安心した?」
レイジ「そんなこと、気にしてない。妙な気遣いするなよ。
言っとくが、おれが先月シックスティーズに寄ったことは、関係ない。
あの小僧の様子を見に行ったんじゃないぞ。関係ないからな、マジで。
会ってないのも、偶然で、別に意味なんかないんだ」