Dear, hateful music The Rose

♪ 10
Japan⇒America
telephone call



「どう? そっちの生活には、慣れた?」

「ヘミか? ああ、言葉のニュアンスが難しいが、かなり馴染んできた。
 やっぱり本場は、いいよ。音が街に溢れてる。
 どうした? 何かあったのか」
「あたしは、元気よ。色々シックスティーズに異変はあったけど、ね」
「シックスティーズに?」

「まぁ、小さなことよ。気にしないで。解決したから」
「そうか。また何かあったら連絡してくれ」
「そっけないのね。豪らしい。ナルセとは連絡とってる?」
「……ああ」
「あら、意外。連絡は、取り合ってるのね」

「ほぼ毎日、電話してくる」
「ナルセが? 驚いた。毎日?」
「ほとんどな。日本にいるときも、会えないことは多かったけど、
 こんなに頻繁に電話してくることは、なかったのにな」
「海外にいるせいじゃない? ……心配なのよ」
「何が心配なんだ」
「やっぱり、浮気じゃない?
 自分勝手で独占欲が強い、ナルセの考えることといったら、ね」

「冗談じゃない。俺がするか」
「でも、本場なんだし、凄い歌手だっているでしょう?
 あなたは、良いシンガーに弱いじゃない、豪。
 この際、誰か素敵な、海外だけのお相手でも見つければ?」
「そんな理由で、来たんじゃない。俺は仕事しにきたんだ」
「固いのね。あなたの心が動かされるシンガーはいないの?」
「そりゃいるよ。凄い歌い手は、たくさんいるさ。
 ナルセくらいのシンガーは、結構いるかもしれない。
 だけど、だから寝たくなるなんて性癖は、俺にはないぞ。
 ヘミは、何か勘違いしてるだろ」
「じゃあ、あなたに興味を持つ人はいないの?」
「……いないよ、別に……」
「嘘つき。わかるんだから。誘惑されてない?」

「……どうだっていいだろ。とにかく、そんなつもりないんだ。
 そんなことナルセに言うなよ。電話の回数が、増える」
「(笑)お誘いはあったのね。でも、少しくらい遊んだっていいのじゃない?
 ナルセだって、浮気はやりたい放題なんだから。
 豪が外国に居たら、その間に何人とつきあうかしらね」

「数えておいてくれ。でも、俺はあいつとは違う」
「律儀に義理立てする意味なんてあるの? あたしには理解できない」
「道徳観念が違うんだ。別にナルセのために禁欲するわけじゃない。
 ヘミは恋人がいて、他の人と寝る気になるか?」
「ならないわ」
「じゃあ、分かるだろ」

「いいえ。私の恋人は、もし居たとすればだけど、尻軽じゃないわ」
「もし尻軽だったら、ヘミは浮気するのか?」
「そうね。あてつけか、悲しくて……するかもしれないわね」
「俺はしたくならない。そういうことだ」
「あきれた。あなた、ナルセが本当に好きなのね」

「誰だって、嫌いな奴とはつきあわないだろ」
「確かにね。ねぇ、あなたが言いにくいのだったら、
 ナルセにあたしから、忠告しておいてあげましょうか?
 毎日電話なんかしたら、いくら恋人でも普通はうんざりして、
 嫌いになるかもしれないから、そんなに頻繁にかけない方がいいってね」
「…………いや……いい。そんなことは、言わなくて、いいよ。
 別に、迷惑なんかじゃ、ないんだから……」

「あら。わかったわ。余計なことだったみたいね。
 じゃあね、豪。
 ねぇ、予定を早めて、早く帰ってきてあげなさいよ。
 ナルセは、そうね、豪に逢いたくて、少しばかり元気がないわ。
 案外、あまりに遠くて、大人しくしてるかも」

「……そうか。いつも呑気な感じで、どうでもいいことを電話してくるんだ。
 あいつなりに、気を遣ってるんだろうな……ありがとう、ヘミ」

「帰ってくるのを、皆で待ってるわ、豪。忘れないで」
「ああ。またな」










毎日でも 愛しいひとの声を聴けることが
嫌だと思う恋人がいるか?

携帯のコールが鳴るたび 嬉しいなんて 離れていないと気づかないんだ




 ナルセ――――

 おれが どれだけ おまえのステージが見たいと思っているか
 おまえは 知っているのか?
 
 おまえの歌声を 思い出しながら 迎える夜の愛おしさと 苦い痛みに
 おまえは 気づいてくれているのか?

 そんなことは知らずに ただ 歌っているんだろうな ナルセ?


 毎日あのステージで 薔薇の花のように美しく 高貴で力強い その歌を

 何よりも おまえは 歌うことを
 
 音楽のある人生を 愛しているからな



 おれの本当の苦い痛みは 浮気の相手なんかじゃないことに
 おまえは いつか気づくだろうか――――


 それくらい 音楽の力は 盲信的に尊く 魅力的で
 憎らしいほどに 素晴らしいよな

 わかるよ ナルセ
 
 おれも きっと そうだと思う

これは 何にも代えがたい 喜びだと 痛感している


 でも おまえは 知っているか?


 街にあふれる音楽に おれとおまえが生きている この世界に

 おれがどれだけ おまえのことを想うのか

 おまえは 知ってくれているか?



 愛しくて憎らしい

 おまえの愛する音楽を想う その心を思う


おれの心を
おまえは 知ってくれているかな――――





♪END
この物語はフィクションであり実在の人物・団体・事件には一切関係ありません

※窓を閉めて戻って下さい