Dear, hateful music The Rose

♪ 06
登場人物:レイジ/鏡夜(茅野)
場所:深夜のピアノ・マン



鏡 夜「先ほどいらしてた女性、シックスティーズのヘミさんでしょう?
    はやり彼女は、綺麗なひとですね。遠くからでも目立ちます」

レイジ「なんだ。帰ってたのか、キョウヤ。
    ヘミは俺の女王さまだぞ。気安く綺麗だなんて口に出すなよ」
鏡 夜「それは失礼しました。ヘミさんは何のご用事だったんですか?」
レイジ「俺に会いたくなったんだって」
鏡 夜「嘘はバレますよ」

レイジ「感じ悪いな、おまえ。そうだよ、またナルセ救援活動のご依頼だよ。
    もう四人目だ。何でみんな揃って俺にナルセのことを押し付けるんだ?」
鏡 夜「貴方がいつも、ナルセさんのストーカーをしてるからでしょう」
レイジ「いつもは付きまとうなって、逆の意見を言いに来るくせにな。
    調子いいよな。駆け込み寺じゃねぇぞ、ここは。
    女王様にまで心配させるなんて、ナルセの野郎はホントしょうがねぇな。
    ……それで? どうだった?」

鏡 夜「サラディナは、経営状態があまり良くないようです。
    出演したバンドマンへの支払いも、いくつか滞ってますね。
    枝間はこの頃、経営陣の方にも首を突っ込んでるようですが、
    彼のアドバイスに対する支払いも、あまり芳しいとは言えないみたいです。
    スタッフの不当解雇もあって、少し揉めてますね。
    あまりトラブルが重なると、潰れるのは時間の問題じゃないでしょうか。
    ただ、ナルセさんが出演している日は、客入りがかなりいいみたいで、
    枝間はそれもあって、彼を引き入れるのに必死のようですよ」
レイジ「ふうん。そうか……経営がね。
    あそこは俺が若い頃、シックスティーズの次席の老舗でな。
    ブイブイ言わせてたこともあった店なのに。時代の流れは残酷だねぇ」

鏡 夜「ピアノ・マンがシックスティーズとアルーシャのハウスバンドを呼んで、
    対バンライブなんかさせたりするから、老舗にあおりが来るんですよ」
レイジ「おいおい。なんだって? それ、どういう意味? 俺のせいか?
    なんだキョウヤ。それに関して文句があったのか? 聞き捨てならんな。
    フロアマネに昇格してやろうと思ってたのに、クリーンスタッフに格下げするぞ」

鏡 夜「貴方の好きなポジションに配置すればいいでしょう。
    どうせ私は、貴方の自由勝手にできる黒い捨て駒なんですから」
レイジ「なんだ、なんだ。
    急に反抗的な態度だね、キョウちゃん?
    どうしたの? 機嫌、悪いの? 何か怒ってるの?」
鏡 夜「機嫌は、悪いですよ。
    カクテルが売り切れだって、言ったらしいですね。
    お客様に笑われました。
    それに、ボトルの配置を変えたでしょう。バーテンダーの真似事はいいですけど、
    私の持ち場を荒らしたままにするのは、遠慮して貰えますか、要オーナー」

レイジ「要オーナーて言うなよ。やな奴だな。
    いいだろ別に、スコッチやバーボンがどこにあったって」
鏡 夜「私の手元のリズムが狂います。本音を言えば、触って欲しくもないですが」
レイジ「ちぇ。わかったよ。もう勝手に荒らしません。バーテンダーなんかやりません。
    おまえの聖域には立ち入りません。なんなら誓約書にサインしようか?」
鏡 夜「して頂けるのなら、ぜひお願いしたいですけど」
レイジ「おまえ、ほんっと、俺のこと信用してないね」

鏡 夜「信頼はしてますよ。ただ、貴方は悪い男ですから、ね……」
レイジ「……なんだよ、その不敵な微笑は。
    おまえ、アキラみたいなこと言ってんじゃねぇよ。
    犯したろか、ガキどもめが。腹立つんだよ。調子にのるな」
鏡 夜「アキラさんがいらしてたのは、知ってましたよ。
    最近、このスコッチを注文するのは、あの方だけですからね」
レイジ「なんだよ? アキラのヤツ、最近も来てたのか?
    俺に挨拶もなしに、おまえと飲んでたのかよ。嫌な感じ。
    そうか、おまえが口説いたか、口説かれたんだろ?
    いい感じの彼、とか言ってたもんな。もうヤッちゃったのか?」

鏡 夜「アキラさんは最近よく来られてましたよ。あなたが忙しくて、不在だっただけです。
レイジ「何を話してたんだ」
鏡 夜「それは、バーテンダーには守秘義務がありますので、お話できません」
レイジ「俺はオーナーだぜ。いいから、話せ」
鏡 夜「オーナーでもお話できません。そういう教育をされていますので申し訳ありません」
レイジ「誰だよ、そんなしょーもないこと教えたの?」

鏡 夜「要オーナーです」
レイジ「だと思ったよ。くそっ。うちの従業員はお固くて生意気で、融通がきかん奴ばっかりだな」
鏡 夜「貴方がそういう従業員しか、雇ってないんでしょう?」
レイジ「俺は選んでないぜ? おまえさんが厳選したスタッフだろ」
鏡 夜「任されてましたので。私の人選にご不満でしたか、要オーナー」
レイジ「いいや。だから要オーナー、言うなよ、感じ悪いな。
    おまえのやることは、全てソツなくスキなく、文句ない仕事ぶりだよ。
    でも、もうちょっとアホで顔だけが良いフロア係を入れてもいいかな。
    隙だらけのドジっ子を見ると、心が安らぐだろ。たまには」

鏡 夜「貴方が失敗したスタッフに苛ついて、闇夜に葬り去らないと約束してくれたら、
    そういうのも雇ってみましょう」
レイジ「無理だな。最近、気が短くてな。それは約束できないから、やっぱりいい。
    アホな給仕は、サラディナにでも紹介してやれ。倒産が早まる。
    不当解雇とか言ってたな? シマちゃんに、それ流しといてくれよ。
    使えるネタありそうだってな」
鏡 夜「テレビ局の? わかりました。伝えておきます。
    そういえば、シックスティーズの歌姫は、ナルセさんの件ではいらしてないんですか」

レイジ「メリナか? さぁ、知らんね。シックスティーズのメンツの来店は、
    ナルセとヘミが来たとき以外、報告はいらんと言ってあるからな。
    俺はメリナとは会ってないし、伝言も聞いてないな」
鏡 夜「そうですか。一番心配しそうな立場ですけどね……」
レイジ「メリナが? なんでだ?」
鏡 夜「歌姫が以前いた店は、サラディナですから。
    枝間とも、一緒のバンドにいた時期がありましたしね」
レイジ「それも、調べてきたのか?」

鏡 夜「いいえ。その頃からファンだったんです。私が、メリナさんの。
    彼女の歌い方は、豪さんと似ている」
レイジ「なるほどな。おまえの愛しい、豪ちゃんにか。
    だから俺は、あのお嬢ちゃんが、少々苦手なのかな。まぁ面白い子だけどなぁ。
    確かにあのクソ真面目で必死な歌い方は、豪と似てるかな」
鏡 夜「伝わってきますよ。深いところまで、あの歌声は。他とは違う最高の歌姫です。
    言っときますけど、豪さんに対して不適切な感情はありませんよ。
    私は純粋に、豪さんのファンなだけです」

レイジ「純粋に、ね……。じゃ、アキラは? アキラとは不純でやっちゃった?」
鏡 夜「それ、答えなきゃいけませんか?」
レイジ「オーナー命令だ。おまえ自身についての質問だから、いいだろ?
    な、教えろよ。いいじゃん。俺とおまえの仲じゃん♪」
鏡 夜「アキラさんとは、してません。口説かれてもいないです」
レイジ「なんだ、つまらん。やっぱりアイツ、ナルセを諦めてないんだな」
鏡 夜「オレは、レイジさん狙いなんですけどね」

レイジ「キョウヤ。一人称は、わたし、だろ。まだ仕事中だぞ」
鏡 夜「他は、突っ込まないんですか?」
レイジ「なにが? レイジさんてとこ?
    おまえが不機嫌なとき以外は、いつもその呼び名だろ。
    今さら、なんだよ。他の何処に突っ込まれたいんだよ。ケツか?」
鏡 夜「狙いってとこは、わざとスルーなんですか。照れ隠しですか」

レイジ「俺のオーナ−の座を狙ってるのか―――
    なんて、白々しいセリフは吐かねぇよ。知ってるよ。
    おまえ、俺のことエサかなんかだと思ってるだろ。いやらしい目で俺のこと見やがって。
    時々、ヨダレたらしてんぞ。気をつけろ」
鏡 夜「非常に申し訳ないですが。
    私が狙ってるのは、本当にオーナーの座の方ですから。
    安心して下さい、要オーナー」

レイジ「……なんか俺、気に障ること言った?」



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