What a wonderful world
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「はーい 『ヴァケイション』 『ロックアラウンド・ザ・クロック』 『オンリー・ユー』
3曲続けて 初っ端からリクエストをお送りしました
皆さーん 元気出てますか? 1ステージ目だからかな
何だかお尻の重いひとが多いみたい?
イスに生えた根っこは切っちゃいましょう!
もうじき 素敵なクリスマスのイベントもやってきますよ
クリスマス・ソングも どんどんリクエストして下さいね
今日もお相手は シックスティーズの星 セブンレイジィ・ロードです!
最後の5ステージまで どうぞ楽しんでお付き合いください!」
★
☆☆12月21日 2:00AM
ジュウリ「お疲れー おやすみー」
リ ン「何だよ ジュウリ 帰るのか?」
ジュウリ「帰るわよ これから飲みにいくの? よく体力持つわネェ」
リ ン「だって 明日オフじゃん? 遊んで帰ろうぜ
俺らピアノ・マンに行くんだけど 行かねぇの?」
ジュウリ「ん ごめん やめておく 咽の調子悪いしさ」
リ ン「そっかー じゃあ ヘミ?」
ヘ ミ「あたしも 行かない」
リ ン「なんだ つきあい悪いなぁ 二人して帰るんだ?」
ヘ ミ「…別に 何か文句ある?」
リ ン「いえいえいえ 独り身は寂しいよなぁ なんてね」
ヘ ミ「ナルセは 付き合うの?」
ナルセ「俺? 行くよ」
ジュウリ「あんたこそ 帰った方がいいんじゃないの?」
ナルセ「どうして?」
ジュウリ「風邪を引いたときの 最悪の思い出が蘇らない?」
ナルセ「ご心配なく 一昨年の話だろ 気をつけてるよ
この時期にオフも貰ったしね 店長はいい人だよな」
ヘ ミ「ピアノマンには 豪も来るの?」
ナルセ「来ないと思うけど 豪に何か用事?」
ヘ ミ「そういうことじゃないわ あなたらしいわね ナルセ おやすみ」
ナルセ「? 何 今のどういうこと?」
リ ン「さぁね カレシをもっと大事にしなさいってことなんじゃないの?
でも お友達だって大事にしないとな リンくんはナルセ君の
たーいせつな 親友なんだもんねぇ ないがしろに出来ないよね」
ナルセ「どっちも俺は 大事にしてるつもりだけど」
リ ン「つらっとよく言うよ どんな顔して言ってるんだろうね」
ナルセ「こんな顔で」
リ ン「クールボケですか 君は」
ナオト 「よ、ナルセ! 相変わらずリンと仲良しだな」
ナルセ「あれ ナオさんも行くの? 珍しいな」
ナオト 「うん うちの嫁 今日実家に戻ってるんだ その間に 息抜きね」
リ ン「ああー!いいなー ナオ兄さんは奥さんがいて 俺にも誰か紹介してよー」
ナオト 「リンなら 誰でもいるだろうが ファンの子 選び放題じゃない」
リ ン「やーそれがねー そうでもないすよねー」
ナルセ「リンは 最近ホモ疑惑で 女の子が寄って来ないんだよな」
リ ン「やな奴〜 嬉しそうに言うなよな 誰のせいだと思ってんだ」
アキラ「ああ それ知ってますよ ネックレス事件でしょう?
あれはやりすぎですよ リンさん ファンの子が噂してますよ」
ナオト「それそれ かなり噂が広まってるらしいね」
リ ン「ええー やめてくれよ!俺はノーマルなのに!ちょっとした冗談じゃん」
ナルセ「サービス精神旺盛すぎるんだよ リンは 自業自得だろ」
リ ン「おまえが言うなよナルセ! ネックレスなんか自分でつけられるくせに
わざと俺に頼んだろ! 俺だって頼まれなきゃ あんなおふざけはしなかったよ!
ファンの子に見られてたなんて… おまえは知っててわざとかよ?!
分かった! リン君の人気が妬ましいんだなッ」
ナオト「ナルセがおまえを 妬ましいわけあるかい
だいたいリンは いつもナルセに対して ホモくさいんだよ
あんなの見られる前から色々目撃されて
変な噂立ってたんだから 今更でしょうが」
リ ン「えー!? どこがホモくさいって? こんな爽やか美青年をつかまえて!?
俺がいつ ナルセとラブラブしてたっていうんだよ 気持ち悪い!」
ナオト「まぁ 喚くな喚くな そーゆーとこがまたアヤシイよな なぁアキラ?」
アキラ「そうですねぇ 本当はそれが 逆に隠れ蓑 だったりしてね」
リ ン「うわ アキラまで言うか けどナオ兄さんてば マジで俺が
ナルセとできてるって 実は本気で思ってネェ? 何かトゲ感じるんだけど」
ナオト「いいや思ってませんよ? 君とナルセが暗闇でベロチューしてても
俺は全然疑ったりしませんて 本当に」
リ ン「なにソレ!そういうこというから 変な噂たつんじゃん!」
ナルセ「ナオさん ベロチューって 高校生じゃないんだから」
レイジ「なんだなんだ! おまえ おれに断りも無く
おれのナルセにべろちゅーしたのか? 許せんな リン!」
ナルセ「勝手に話に入ってくるなよ レイジ ややこしくなるから」
レイジ「ここはおれの店だ いつでもおれは ナルセの名前を聞けば やってくるのさ」
ナルセ「すげぇ 迷惑」
レイジ「またまた ツレなくすんなよ ハニー」
アキラ「レイジさん酷い この間は俺のことを口説いてたくせに」
レイジ「バカ そんな話を今するなよアキラ おまえ 手なずけるのが上手いな ナルセ」
ナルセ「うちのアキラに変なことしたら 許さないからレイジ」
ナオト「そうだレイジさん この間の話なんですけど…」
レイジ「おいおい ナオトまでかよ おたくらTPOって知ってる?
例の話なら 奥に行って話そうぜ ナオト ここじゃダメだ」
ナルセ「奥行って何すんの? 気をつけなよ ナオさん」
レイジ「ヤキモチ妬くのは歓迎だけどなナルセ 選択権はおれにあるの
絶対 ナオトとリンは 色気ないし却下ね」
ナオト「俺だって やだよ」
リ ン「俺も 断るね」
レイジ「下々のおまえらに 選ぶ権利はありません」
アキラ「俺は? レイジさん」
レイジ「おまえはナルセのペットだろ 調子こいてんじゃねぇよ
子守唄でも聴いて 小僧は寝てろ! ナオト 来いよ」
★
アキラ「レイジさんの今日の指輪 変わった石でしたね 人工石かな
今までに見たことのないリングだったな」
ナルセ「アキラは よく見てるな
ちょっと前にコロンビア人から貰ったんだと言ってたよ」
アキラ「コロンビア? 相変わらず 胡散臭い人ですね」
ナルセ「そのうち ここの店も 怪しい外人でいっぱいになりそうだ」
アキラ「それにしても俺 ナルセさんのペットだったのか」
ナルセ「しっかり躾けられてると思ってんのさ 俺に
敵側の犬は用心しないといけない そういう奴なんだ レイジは」
アキラ「ナルセさんとレイジさん 敵対してるんですか?」
ナルセ「そう エネミー同士なんだ 殺したいほどアイシテる」
リ ン「あのー こじゃれた会話に お邪魔して悪いんですがね」
アキラ「あれ もしかして妬いてるんですか リンさん」
リ ン「アキラおまえね ナルセに惚れたりしない方がいいよ 地獄見るから」
アキラ「分かってますよ でもそんなの関係ない」
リ ン「おや 関係ないときましたね
ナルセよ いい加減メンバーに手をつけるのは やめて欲しいな」
ナルセ「つけてないよ」
アキラ「まだね 残念ながら 心配しなくてもいいですよ リンさん」
リ ン「あっそう とにかく修羅場は勘弁してくれよな」
アキラ「修羅場になんかなりませんよ じゃあ 俺 あっちで飲んでますから」
★
リ ン「よぉナルセ まさか本当にアキラと できてるんじゃあるまいな?」
ナルセ「気になる?」
リ ン「おまえね…でもそんなことより ナオ兄さんは レイジに何用なんだろう」
ナルセ「気になる?」
リ ン「こっちは断然気になるね ちょっと相談したいことあるんだけど ナルセ」
ナルセ「ナオさんのことか?」
リ ン「うん このとこさ あんまり練習にもこないだろ ナオ兄さん」
ナルセ「忙しいんだよ」
リ ン「でも そろそろ ナオ兄さんも メンバーの一員として
セブンレイジィに 入って貰う時期じゃないのかな」
ナルセ「それは 無理かもしれないな」
リ ン「どうして? 俺らの仕事は不安定だけど
正メンバーの方が まだ収入は安定してると 思うぜ?
今のヘルプよりは いいと思う いつまでも自由じゃいられないだろ」
ナルセ「バンドマンが 自由じゃいられないなんて 夢のないこと言うなよ」
リ ン「いいじゃん 今はステージの上じゃないし 夢食ってんのは お客だけだ」
ナルセ「そのお客サマで メシ食ってんだろ 軽率なこと言うなって」
リ ン「そうだけど とにかく ナオ兄さんに話してみたら? ナルセは反対なのか?」
ナルセ「俺は反対じゃない でも」
リ ン「でも?なに」
ナルセ「ナオさんは バンドを辞めたがってる」
リ ン「えっ マジで?!」
ナルセ「ああ 相談を受けた 相談と言っても もう決めてるみたいだったけどな」
リ ン「何で? 俺たち結構 うまくやってると …思ってたのは 俺だけ?」
ナルセ「リン そんな泣きそうな顔するなよ
別にお前のせいじゃないし ナオさんは 不満があるわけじゃないんだ」
リ ン「だったら どうして」
ナルセ「奥さんの 実家の家業を継ぐことに したんだと」
リ ン「奥さんの実家って 骨董品屋だったけ?」
ナルセ「そう 海外の古い品を置いてる店だ 誰かさんの 裏の得意分野だな」
リ ン「―――レイジ!」
ナルセ「うん レイジには ヤバくない正規ルートの品を卸して貰ってるみたいだ」
リ ン「でも ナオ兄さん 音楽やめちゃうのか?週1でも 出てくれないのかな」
ナルセ「リン ナオさんは 見切りをやっとつけたんだよ
その考えた末の決定に 俺たちは 何かを言う権利はない
正メンバーであったとしても いつか こういう日は 来るんだよ
いつまでも 同じメンバーでは 居られないんだ」
リ ン「ナルセは 平気なんだな… でも 俺は メンバーが辞めてしまうのは
いつも慣れない いつも 喪失感で いっぱいになるんだ
辞めたメンバーが恋しい
豪のときだって そうだった 俺は豪に 辞めて欲しくなかった」
ナルセ「でも今は アキラがいるだろ アキラは好きだろう?
それに新しく入ったキーボードだっている お前は新人の相手は得意だろ?」
リ ン「そういう問題じゃない」
ナルセ「そういう問題さ いずれメンバーは入れ変わる
だけど いつでも新メンバーと うまくやれるということが大事なんだ」
リ ン「さすがクールだな リーダーは」
ナルセ「人はずっと 変わらないわけじゃない
だから ずっと一緒だなんてことはありえない
ヘミだって レイジの替わりにセブンレジィに入って来たし
リンだって 前のドラムの替わりに入って来たんだ」
リ ン「前のドラム…随分昔だよな」
ナルセ「だな リンは 長いからな」
リ ン「ナルセは 色んなメンバーと ずっと別れて出会って
それでも続けてきたわけか 去るもの追わず 新しいものとやって行くだけ
正しくて前向きだよな」
ナルセ「そうだ セブンレイジィはシックスティーズの店のバンドだけど
今 俺は そのバンドのリーダーなんだ 前を向いてなくてどうする」
リ ン「俺が抜ける時も ナルセは 引き止めてくれないんだろうな
豪のときも 本当に 引き止めたのか疑問だな?」
ナルセ「豪は 仕事としての バンドを辞めたかったわけじゃないよ
俺と 離れたかったんだ」
リ ン「同じことだろ」
ナルセ「そうだな リンたちにはそうだ 俺は豪を引き止められなかった
というより 原因は俺だった リーダーとしての
責任を果たしてなかったよな それは 認める みんなには 悪いと思ってるよ」
リ ン「ナルセ 俺は今更 豪のことを蒸し返してるんじゃない
ナオ兄さんの ことを 言ってるんだ」
ナルセ「ナオさんの場合は 豪とは違うんだ
まぁ 引き止められなかったのは 同じかもしれないけどな」
リ ン「ナオ兄さんを 引き止めたのか?」
ナルセ「もちろんだ 俺だって叶うなら 同じメンバーでやりたいよ
でも ナオさんがもう決めたんだ だったら仕方がない
ナオさんは ずっとフリーランスのバンドマンで生きていくことから
降りたんだ 俺たちとは 別の道を行くんだよ リン」
リ ン「…辛くないの ナルセは」
ナルセ「辛いよ だからって ナオさんに 迫るわけにも行かないだろ
それで 落とせるなら いくらでも寝技を使うけど」
リ ン「断られるよな ナオさん 男好きじゃないもん」
ナルセ「だろ もっとも男好きじゃなくても
俺なら 絶対 落とせる自信はあるんだけどな」
リ ン「豪にチクるぞ」
ナルセ「俺は大人しくしてるだろ 最近
リンと おおっぴらに噂されるようになるなんて 落ちたものだ」
リ ン「言ったな 爽やか青年のリンくんじゃ不服ですかね おまえのせいで
人気株急落よ 俺」
ナルセ「それは 自業自得さ」
リ ン「新しいベース 探さないとな 今度はヘルプじゃなくて 正メンバーがいいな」
ナルセ「そうそう 豪のとこの店のベースが 結構いいんだよなぁ」
リ ン「…おまえって 根っから修羅場好きなんだろ ナルセ」
ナルセ「そんなことは ない」
リ ン「涼しい顔して よく言うよ だからクールだって 勘違いされるんだ」
ナルセ「そう 努めてる ステージは イメージだから」
リ ン「男口説くときのおまえと ステージのおまえのギャップに
みんなヤラレルのかねぇ」
ナルセ「口説く時の俺なんか 知らないくせに」
リ ン「ちょっと 俺も経験してみたいかも」
ナルセ「本気?」
リ ン「うそに決まってる!」
ナルセ「だよな」
リ ン「今更そんなことになったら 豪にボコられるね俺」
ナルセ「豪は そんなことで激昂しない」
リ ン「そう? ナルセのことになると カレシ 結構 熱くなるけど?」
ナルセ「そういうのは 俺だけ知ってればいいの おまえに関係ない」
リ ン「へぇ〜ごちそうさまでした☆」
リ ン「だけど 寂しくなるなぁ…」
ナルセ「リン 死んだわけじゃないなら 離れて行っても 相手もどこかで何かをしてる
自分の近くにいないだけで 豪も レイジも 会える範囲にいるだろう
気持ちがあれば 繋がっていける 自分次第だ 寂しいのは自分だけじゃない」
ナオト「リンー! ちょっとこっちに来てくれよ!どう思う この花瓶?」
リ ン「えー?なに? ちょっと待って ナオ兄さん」
★
アキラ「話 終りました?」
ナルセ「アキラ」
アキラ「リンさん 今日はなんだか ナルセさんと話したそうだったから」
ナルセ「アキラは本当に人のこと よく見てるな」
アキラ「そうでもないですよ ただナルセさんのこと よく見てるからじゃないかな」
ナルセ「リーダーになりたい?」
アキラ「違いますよ いつか自分のバンドを持つのには 憧れるけど
今の俺は ただこのバンドで ギターが弾きたいだけ」
ナルセ「いいバンドだろ」
アキラ「そうですね 居心地はいいですよ ベタベタしてなくて みんなドライというか」
ナルセ「それぞれのことには 干渉しないバンドなんだ」
アキラ「俺の居たとこは 干渉しすぎて ダメになったな」
ナルセ「そうか アキラは どれくらいの数を移ったんだ?」
アキラ「そうですね セブンレイジィで4つ目かな 俺は運が良かった」
ナルセ「何故?」
アキラ「憧れの バンドだったから」
ナルセ「そうだっけ? 前も聞いたかな」
アキラ「そうですよ でもあの豪さんがいたら 絶対無理だって思ってたのに
まさかいきなり辞めて 俺にもチャンスが廻ってくるとは 運が良かった」
ナルセ「豪が辞めたから運が良かった? それともアキラが選ばれたことが
運が良かった?」
アキラ「どっちもかな ナルセさんが 俺のこと 知ってたなんて嬉しかったから」
ナルセ「知ってたよ 良いギタリストがいるって ずっと思ってた」
アキラ「俺は ずっと ここで続けられるかな?」
ナルセ「それは 自分次第 アキラが セブンレイジィに必要なら 続けられる」
アキラ「必要だと 思って貰いたいですよ」
ナルセ「そうだな 頑張ってくれ」
アキラ「ナルセさんにとって 必要だとは 思われないでしょうけど ね」
ナルセ「必要だよ リーダーとして 良いメンバーに恵まれるのは 何より運がいい」
アキラ「そうじゃなくて ナルセさん個人にとって」
ナルセ「うん? 口説いてるのか? 今更?」
アキラ「ナルセさんが風邪引いて以来の 初めてのアクションになりますけど」
ナルセ「さっき リンが言ったろ メンバーに手つけるなって」
アキラ「過去にもあった?」
ナルセ「俺は常習犯だったからな 前にいたバンドだったけど
メンバー間で二股かけて 問題起してた時なんかも あってさ」
アキラ「すげぇ」
ナルセ「うん 我ながら 最低だった
このバンドでも 初期の頃は リンはまだいなかった頃なんだけど
メンバーとデキて 揉めたこともあってさ リンは昔から友達だから
知ってるんだ」
アキラ「そのときって 豪さんは いたんですか」
ナルセ「居なかった といいたいけど 実は居た 豪は けっこう古いんだ」
アキラ「居たんですか…それは なんか 凄いですね」
ナルセ「だよな でも あいつ 俺がメンバーと痴情の縺れで揉めてても
全然無視なんだぜ 勝手にやってくれって感じで 他人事だし
初めは なんて嫌な男だと思ってたよ」
アキラ「最初から 付き合ってたってわけじゃなかったんですか」
ナルセ「うん だから 今のメンツも 気がついてなかったもんな
ヘミのストーカー事件があって 少しバレてるみたいだけど
誰もそういうこと まったく言わないからな 気がついてるのかどうかは不明だ」
アキラ「ナルセさんと豪さんの話 ちょっと興味あるな 俺」
ナルセ「俺と豪? どのあたり?」
アキラ「どうして 付き合うことになったのかって 気になります」
ナルセ「さぁ どうだったかな 最初は 単なる 欲求不満だったかな」
アキラ「セックスってこと?」
ナルセ「そう そうだと思う お互い寝る相手が その時 たまたま居なくて
豪の相手は 男だって 偶然知って だったらみたいなことじゃなかったかな」
アキラ「ナルセさんが 誘ったの」
ナルセ「あの豪が 俺を誘うと思う?」
アキラ「さぁ 俺は ステージの豪さんしか ほとんど知らないから」
ナルセ「豪はさ ステージの人物 そのままだ いぶし銀みたいな
重金属みたいな 硬くて表情の読めない 笑わないクソ真面目な男」
アキラ「そんな男が よく軟派のナルセさんの誘いに 乗りましたね」
ナルセ「だって 遊びだったからね その時の欲求のはけ口みたいな…」
アキラ「遊びだったんですか」
ナルセ「俺は いつも そうだったんだ あっちフラフラ こっちフラフラ
束縛しようもんなら すぐサヨナラってな具合 レイジに言わせりゃ
今もそうなんだろうけど 1対1で付き合うとか
オンリーワンなんて一切無かった
だって いつどこでも 誘いがあったんだから 傲慢にもなろうってもんさ」
アキラ「豪さんは 真面目につきあう人としか 付き合わないタイプに見えますけど」
ナルセ「そうだと思うよ でも だからって遊ばないわけじゃない 誰にだって初めはある
お付き合いを前提にした セックスがしたいんです なんて言わないだろ?」
アキラ「そりゃそうですね その辺は 豪さんも融通が利くんだ」
ナルセ「豪は 性の面では ガチガチの硬派じゃなかったよ
恋人がいれば 多分誰とも付き合わないけど いなければ
フリーセックスはするっていう そういう程度の 一般的な 普通の男
セックスだけは 脳じゃなく体が考える」
アキラ「それで 付き合うことになった?」
ナルセ「違う 一回きり それっきりだった 豪は 一度きりで 後悔したみたいだ
同じバンドの奴と寝るのは やっぱりマズイってね そこが真面目なとこだ」
アキラ「二股かけて揉めたってのは 豪さんと 誰か?」
ナルセ「…いや 豪は先で あとで他のメンバー二人と寝て その二人と揉めたんだ」
アキラ「それじゃ 豪さんは? 知らん振り?」
ナルセ「だよ 自分じゃなくて良かったと 思ってたんだろうな まるで他人ごと
本当に 迷惑そうだったな 今思い出しても 腹が立つくらいだ」
アキラ「なのにそこから どうやって付き合いだしたんですか」
ナルセ「どうだったかな なんでそんなこと聴きたいんだ」
アキラ「さぁ ナルセさんは どうやれば 落とせるのかなってね」
ナルセ「そんなの 簡単だ 前にも言ったけど 俺は不安症だから
喧嘩したときとか 豪と会えないときを 狙えばいいのさ」
アキラ「寝るのなんて 簡単なんですね」
ナルセ「そう 寝るのは簡単さ だけどその事件以来 豪にメンバーとは寝るなって
忠告されたんだ バンドを殺す気か 演奏がうまくいかなくなるってな
男漁るなら 外でやれって 本気で言われて さすがの俺も 反省した」
アキラ「正論ですね」
ナルセ「うん 豪は正しいよ だから メンバーとは 一切寝なくなったな」
アキラ「豪さんとも?」
ナルセ「うん そう 他のバンドの奴とか 客とか 俺は不自由しなかったからね
で そういうのが定着して メンバーが 俺と豪以外は総入れ替えになって
それから 豪と 時々セックスするようになった
もうその時は メンバーと寝るなとは 豪は言わなかったよ
自分がやっちゃってんだからね 言えないよな
でも バンドメンバーと寝るのは もう俺は豪とだけだったし
なるべく 俺たちは距離を置いてたし リンにも長い間バレなかったくらいだ」
アキラ「ますます 知りたくなったな そもそも本当に 二人は今 付き合ってるんですか」
ナルセ「俺はそう思ってるよ? でも豪はずっと 自分は遊びの相手だと
思ってたらしいんだ 今はだけど 恋人だって自覚はあると思う
たぶんね」
アキラ「真面目な豪さんが 遊びでナルセさんと関係を続けてたなんて
ちょっと意外だ」
ナルセ「だよな でも 豪は ずっと恋人を作らなかったんだ」
アキラ「…いつから?」
ナルセ「たぶんだけど 初めて寝た時からじゃないかな ってそれは 言い過ぎか」
アキラ「それだと 凄いですよ ずっとナルセさんONLYだったことになる」
ナルセ「真面目なんだよ 豪は 豪のギターと 歌みたいに」
アキラ「豪さんのギターは すごくストイックで それが胸に迫ってくる感がありますね」
ナルセ「豪は ステージではカッコイイだろ 誰も何者も 寄せ付けないような
鋼鉄のバリアを張ってるみたいな 自分の世界がある
荒野だなんて ファンの子は言ってるよ」
アキラ「技術も凄いですよね 俺のいたバンドじゃ
豪さんを知らない奴は いなかったくらい」
ナルセ「そうなのか? あいつ 有名なんだな 知らなかったよ」
アキラ「ソレ冗談でしょう?」
ナルセ「とにかくさ 俺はどうしてその豪が 恋人を作らないのか凄く気になった」
アキラ「聴いてみたんですか?」
ナルセ「聴いてみたよ おまえは恋人を作らないのかって」
アキラ「答えは何て?」
ナルセ「答えは無かった 無視されたんだな 話が通じる相手だと 認識されてないんだ
今も似たようなものだけどね」
アキラ「へぇ」
ナルセ「でも豪は 俺とセックスをしてた期間 恋人をひとりも作らなかったし
俺の他には 誰とも寝なかったと思うんだ
だから 俺はそれが答えだと 思ったのさ 自惚れは人より強かったからね」
アキラ「ナルセさんが 相手だったら そうなっても不思議じゃない」
ナルセ「でも 豪は押し付けも 束縛も忠告もしなかった
俺が誰と寝ても いつも黙ってた ちょっとは気にしろって思うくらいね
ただ ステージで演奏するみたいに ひとりで
俺をその世界に招くわけでもないのに 豪は俺を
淡々と 大事に愛してくれてるんじゃないかなと 思ったんだ」
アキラ「うわ 自惚れが究極ですね
豪さんばっかりが ナルセさんに惚れてるみたいに聞こえる」
ナルセ「どうしてそう思う? 俺がどれだけ 豪に惚れてるか 伝わらないか?」
アキラ「はぁ 分かりましたよ もう惚気はいいです」
ナルセ「なんだ 聴きたいっていうから 話したのに」
アキラ「ここまで 惚気られるとは思ってもみなかった」
ナルセ「人の恋話を 聞くには 覚悟が必要だぜ アキラ」
★
リ ン「ナオ兄さん 音楽 辞めちまうのか?」
ナオト「うん? ナルセに聞いたか」
リ ン「俺 ナオ兄さんに辞めて欲しくないよ もう考え直してくれないのかな」
ナオト「ありがとな でも もう決めたんだよ」
リ ン「絶対に考える余地はないの?」
ナオト「もう店の改装も始めてるしね 結構楽しいんだよ お宝探しってさ
俺は現場のハンター役はやらないから レイジさんに人を紹介して貰うんだけど
でも流通の方だけでも かなり面白いんだ」
リ ン「レイジは胡散臭い友達 いっぱい居るもんな」
ナオト「はは そうだな セブンレイジィで 演れて良かったと思ってるよ
ナルセに 正メンバーに何度も誘われて 断っといて 何だけどな」
リ ン「ナルセに?」
ナオト「入ってくれって言ってくれてたんだ 凄く嬉しかったよ
でも俺はずっと フリーでやってたし そのスタイルの方が
合ってたんだ ヘルプマンとして 色んなバンドで 演るのも楽しかったしな」
リ ン「だったら たまでいいから 演奏しにくればいいじゃないか
何も音楽を辞めなくても ナオさん巧いんだし」
ナオト「今度の仕事は 片手間では できないんだ
俺はさ 音楽って 片手間でやってたとこが あるんだよな
ああ 手を抜いてたってわけじゃないんだぜ?
自分で言うのも何だけど 結構 器用なんだよ 俺
あちこちで 必要な時に呼ばれて 可も不可もなく ソツなくやるのは
努力をしなくても やれたことなんだ」
リ ン「今度の仕事は 器用なナオ兄さんでも 片手間では無理ってわけ?」
ナオト「うん 多分ね」
リ ン「そっか でも ナオ兄さんが 居なくなったら 寂しいよ」
ナオト「俺はさ リン 今まで セブンレイジィで みんなと演れて
良かったと思うんだ 運が良かったと思ってる
また 自慢みたいになるけど シックスティーズで演奏できるというのは
俺たちフリーランスのミュージシャンにとっては もの凄く自慢できることなんだ
店も良いし ハウスバンドのレベルも高い あの店でヘルプに入れるのは
誇れることなんだ 俺は常時使って貰ってただろ 羨ましがられたよ
おかげで 他でも仕事にあぶれなかった 高レベルの証明書みたいなものだ」
リ ン「それは 褒めすぎでショ」
ナオト「いやいや ナルセは素晴らしい声の歌い手だし
今はいないけど 豪のテクは最高だったし ヘミみたいなセクシーな美女には
その辺でお目にかかることなんか 絶対無い」
リ ン「ちょっと 兄さん 俺は? リンくんは褒めてくんないのかよ」
ナオト「リンも勿論巧いよ リンは元気でパワフルなドラマーだ
ムードメーカーも バンドには大事だよな」
リ ン「ちぇ キャラだけじゃん」
ナオト「セブンレイジィは 魅力的なバンドさ それをナルセが率いて
それで 完全なんだ」
リ ン「だけど ナオ兄さんは 骨董屋さんをやるんだ?」
ナオト「俺みたいな器用貧乏の男が ずっと居るようなバンドじゃないのさ」
リ ン「そんなことはないよ ナオ兄さんが 必要だよ」
ナオト「そうか あれだな 俺のような 頼りになる男が居なくなると
お前らだけで 大丈夫かと 心配になるよなぁ」
リ ン「あ ひでぇな でも正直 俺も少しそこが心配なんだよなぁ
ナオ兄さんに寄りかかってたとこ あるもん 俺ら個性強いのが多いからさ」
ナオト「だよな しっかり者の豪が辞めちまって 頼りがいのある俺まで 辞めたら
俺は ナルセが心配だよ あとは頼むぜ リン」
リ ン「ナルセ? 何でナルセが心配なの?」
ナオト「あいつは リーダーとして申し分ないけど 私生活の素行がちょっと悪いだろ
ナルセがリーダー力を発揮するのは 傍に頼りになる奴が 常にいる時さ
いつでも傍に頼れる人物がいると 安心するんだろうな 持ってる力を発揮できる
でなきゃ あいつは 時々 酷く脆く見えるときがあるよ
本当は脆いのかもしれない
リンなら 分かってるだろうけど ナルセは時々危うくて 放っておけないよ」
リ ン「ちょっとちょっと ヤダよ? まさか兄さんまで ナルセの毒牙に
かかってないよな〜?」
ナオト「いや そういう変な意味じゃないぜ? まぁリンがいるから 大丈夫だろうな」
リ ン「俺はナルセのお守じゃないよ それはレイジの役だ」
ナオト「レイジはステージにいないだろ やっぱりお前の役だよ
お前まで居なくなったら大変だ」
リ ン「へーいへい でもそんなの頼まれちゃ 俺らますます誤解されるじゃん!」
ナオト「お前らってさ その 実は 本当のとこは 付き合ってるんじゃないの…か?」
リ ン「来たよ〜〜ヤダヤダ!! なんだよナオ兄さんまで!
俺は女の子が好きだっつーの!」
ナオト「別に隠さなくてもいいんだぜ 俺は 誰にも言わないって」
リ ン「隠してません ナルセの恋人は別にいるよ 俺じゃないって」
ナオト「そうなのか? そうか…ナルセは他に付き合ってる人がいるのか」
リ ン「そう いるの」
ナオト「…やっぱ男 なんだよな?」
リ ン「やっぱ女じゃないと 思うんだ?」
ナオト「いや あいつはバイセクだろ ヘミ…じゃないよな?
そういう噂あったよな ちょっと前」
リ ン「ヘミね ヘミもナルセじゃない別の恋人がいます」
ナオト「そうなのか? ヘミは彼氏が居るのか それはラッキーな男だな
しかしお前 よく知ってんのな みんな自分のこと話さないのに
さすが長いだけはあるね」
リ ン「別に…知りたかったわけじゃないけどね 気づいちゃうんだ」
ナオト「豪が辞めたときな ナルセ ちょっと危うかっただろ」
リ ン「そうだっけ」
ナオト「そうだよ 豪はしっかりしてたからな ミュージシャンにしては
生真面目すぎたけど リハのスケジュール管理とか
急な欠員の穴埋めとか 裏方をよくやってたしさ
ナルセとの仲は あまり良く無かったみたいだけど 本当はナルセは
バンドのことでは随分 豪のことをありがたいと思ってたと思うんだ」
リ ン「そうかもね 豪ちゃんは俺なんかより 頼りになる男だもんね」
ナオト「いや リンが頼りないなんて 俺は言ってないぜ?
たださ 今度のメンバー選ぶなら ちょっとしっかりした奴が いいと思うよ
失った役割部分の補正は 上手にするだろうけどな ナルセは」
リ ン「選ぶのは どうせ 趣味で選ぶんだろうさ 大丈夫かな」
ナオト「アキラは分かるけどな あの新人キーボードも趣味で選んだのか?」
リ ン「あー アレね ジュウリがハントしてきたんだ」
ナオト「ついていけるかねぇ セブンレイジィはキーボードだけは 安定しないな」
リ ン「ヘミが掛け持ちでやるのにも 限度があるからなぁ」
ナオト「ヘミは 専門はサックスだろ 凛としたあの姿は ホント 惚れるね」
リ ン「奥さんに言うぞー」
ナオト「そういうのは別なの うちの奥さんもヘミのファンだぜ」
リ ン「あっそ ナルセもヘミも モテモテだよな」
ナオト「妬かない妬かない リンにはリンの良さがあるだろ」
リ ン「気づいてくれる人が少ないのヨ 別れの餞別に誰かいい子 紹介して?」
ナオト「あのな 餞別もらうのは 普通辞めていく俺じゃないか?」
リ ン「勝手に辞めるんじゃん ナオ兄さんは 俺らになんか残してよね」
ナオト「そんなこと言われてもなぁ お前さ 本当に ナルセと デキてないの?」
リ ン「しつこいな マジの本気で言ってんの?」
ナオト「最後なんだし そのへん餞別代わりに教えてくれてもいいだろ?な?」
リ ン「だって レイジとは付き合い続けるんだろ?
ピアノマンでは またナオ兄さんには会えるわけじゃん?」
ナオト「まぁ そうだな シックスティーズにも 多分客として行くしな」
リ ン「じゃあダメ 本当のことなんか 教えませんよ
それは リンとナルセの永遠の秘密でーす」
ナオト「噂が本当になるのは 時間の問題なのかもな せいぜい噂を楽しむよ
元メンバーの俺が ちょっと色つけて流せば 真実味も増すかもなぁ」
リ ン「あ! ひでぇ!マジでやんないでくれよ?!
これ以上のホモネタは 冗談でもヤバイ気がする…」
ナオト「リン 俺はさ―― 本当に
セブンレイジィ・ロードが この先も 揺ぎ無く続いてくれたら
それで良いんだよ 存在さえしてくれりゃさ そこに俺が居た事実は
消えないだろ この先 これからの俺の世界の中で
きっと必要になる 大切な思い出だからさ
その世界は 素晴らしかったと ずっと思っていたいんだ」
photo/真琴 さま (Arabian Light)