エメラルドの秘宝


登場人物  レイジ+エトー


「よぅ」

「…いらっしゃいませ」

「いつもの」

「いつの いつものでしょうか?
 お客さまが前回来られたのは いつ頃でございますかね?」
「いつだったかな 2年程前じゃないか」
「4年と6ヶ月前です」
「だから? 金はちゃんと適当に振り込んであるだろ
 この店はスポンサーに酒も出さないのか」
「適当な店を頂いて ありがとうございました おかげ様でここまで リッパにさせて頂きましたよ」
「そりゃ良かった おまえ カウンターにいる時くらい その無礼な態度と もの云いをなおせ」
「あんたが座ってなけりゃね」


「ねぇ 悪いんだけど リンがピアノ借りてもいいかって…おっと失礼 お客さまかい?」

「わざとらしいんだよナルセ リンがピアノを弾くとこなんか見たことないぜ」

「そうだっけ? えっと こちら外国の人?…カッコイイなぁ 紹介してくれよレイジ」

「おまえな 空気を読めよ」

「何か揉め事なのか? レイジがカウンターでいい男を前に不機嫌だなんて ありえないからな」

「コイツが不機嫌な顔をしてるのは 珍しいのかい 兄さん」

「ありえないですね 普段は不真面目でも 店では誰にでも愛想がいい男ですよ
 でも裏では 夜の顔役だから 口説いたってあとで恐い目にあいますよ」
「へぇ 愛想がいい ねぇ」
「あっちへ行け ナルセ このおっさんは おまえの性質の悪さとは ケタが違うんだよ
 奴隷市に売り飛ばされたくなかったら 引っ込んでな」
「人買いの人? じゃあレイジの側の人間か やっぱり ええと…」
「江蕩だ 貿易商人をして 世界中を周ってる ちなみに日本人で 慢性の砂漠焼けだ」
「シブイ どうりでワイルドな筈だ 貿易って何を売ってるんです?」
「いろいろ 人間は扱ってないが人間が造った物を扱ってる
 古いものに興味があってな 古代遺跡のお宝とか 秘境の旅は楽しいぜ」

「それって…トレジャーハンターってやつ? すげぇな」
「そう呼ばれるときもあるな 話 聞きたいか?」

「ナルセ あっちへ行け 怪しい薬で眠らされて妊娠させられるぞ」

「そりゃ怪しすぎる薬だな 俺はひょっとしてお邪魔なのかい?」
「そうだ お邪魔だ この海賊みたいなナリのワイルドなおっさんはな
 俺の男だ 俺のものに手を出すな」
「…レイジがそんなマジな顔して冗談言うのなんか 久しぶりに見たな
 トラブルじゃないなら 消えるよ すまなかった
 俺は その 本当に揉めてるのかと 思ったんだ」

「分かってるよ 悪いなナルセ」

「いや 何かあったら呼んでくれ あっちでリンと飲んでるから」


「…オレはおまえの男だったのか」
「便宜上だよ あいつは あんた以上に手癖が悪いんでね
 若い男の色香に迷いがちな あんたを救ってやったんだよ」
「ふうん あの兄さん どっかで見たことがあるな 色男はたいてい覚えてるんだがな」
「そりゃそうだろう あんたが俺を 悪の道に引きずり込んだ記念日に 呑気にステージで歌ってた男だからな」
「ああ あのライブハウスのヴォーカルか」

「俺を騙した思い出の場所だろ 俺を道徳の淵から突き落として真っ黒に染めておいて
 何であんたはいないんだ? せいぜい一緒にいたのは一年じゃないか
 俺にこの店を手切れにして ハイ ドロンだ お見事だったよ」
「この店は 手切れじゃないし 騙してもいない」
「同じことさ チラチラ日本に帰ってきても 殆ど寄り付かない
 しかも店に来るのは俺がいないときばかりだ そんなに会いたくないなら 来るなよ」
「偶然 おまえがいないんだろ」
「最初は待ってたけど アホらしくなって 待つのは止めたんだ」

「久々に会ったのに 小うるさい女房みたいに小言をいうのは やめろよレイジ
 おまえ すっかりお喋りになったな」
「誰のせいだよ あんたの仕事を手伝って 喋んない方がおかしいだろ」
「おまえは 闇の素質があったんだ びっくりするほど早く染まってくれて
 オレは随分動きやすくなった ビジネスパートナーとしては最高だ だからな
 おまえにすっかり任せて ついオレは自由になって飛び出しちまったんだよ
 昔からやりたかったことを ついにやることができた おまえのお陰だ」 

「あんたは昔から 詐欺師の根無し草じゃないか」
「おまえは根が真面目だから 根っこを張る方がいいと思ったのさ
 だから連れて行かずに この店をやった いつでもここで オレを待てるようにな」
「あんたと一緒に 飛びたかったんだよ オレは 待つなんて冗談じゃねぇ」
「オレの仕事は危険だ いずれ羽根に火がついて墜落するイカロスだ
 おまえを巻き込みたくない」

「よく言う!しっかり悪の道へ巻き込んでおいて 今更何だと? 笑わせるなこの詐欺師」
「ここで待てよ そのためにオレはおまえを置いてったんだ
 おまえが待ってると思えば どうしても帰りたくなるだろ 必死になって頑張れる」
「じゃあ もっと頻繁に帰ってこいよ マグロ漁船より酷いぜ あんた」
「おまえな メキシコやトルコ オーストラリアの最果てまで周ってんだぜ?
 どれくらい離れてると思ってんだ」
「どうせいつか現地妻と あっちへ居つくつもりなんだろ」
「おっ 妬いてるのか 可愛いねぇ」

「あのな オレも若くはないんだぜ? あんたなんかもっと年寄りだ
 いつまで危ないことをヤル気だ こっちで充分ヤバイ仕事も取引もできるだろ
 スリルなんかもう求めるなよ …心配してるんだ」
「そうだな 体力にゃ限界があるな お疲れで浮気もできねぇしな
 おまえは見た目あまり変わらないな 実年齢より若く見えるぜ …アッチはどうかな」
「その気もないくせに」
「オレがおまえがいないときにばかり ここに来るのは何故だと思う?」

「嫌いなんだろう 俺が」
「会うと 飛ぶのがイヤになるからさ」

「じゃあ飛ばなきゃいい いろよ ここに 俺のそばに」
「そういうわけにもいかない まだ仕事は残ってる」
「じゃあ勝手にしな もう二度と来るな」
「待ってて欲しいんだよ オレの帰る場所をキープしててくれ レイジ」
「…どうせ帰ってくるときは死体だ」
「そうかもしれないが 死なない努力はする」
「あんたは そういうヤツだ 死体で帰って来たら殺してやる」

「オレは二度死ぬか スパイものみたいだな」
「あんたなんかに 捕まるんじゃなかった」
「後悔を口にするなよ 運が逃げるぜ」
「運なんかとっくにケツまくって逃げてった あんたはいつも後悔しないのか?」
「口に出すとツキが逃げてく お宝探しの鉄則だ 思っても云わない それだけだ」
「ずっと長い間 聞けなかったことがあるんだけどな 聞いていいかい」

「だめだ 聞くな」

「俺の勘違いだったのか? 俺は単なるエトーさんの
 ただ仕事の相棒に過ぎなかったのか 俺は白い生活の全てを捨てて 黒になった
 浮世離れした あんたの相棒になることを選んだんだ 全ての相棒だ
 俺が選んだのは あんたに関わる全部のことだ セックスも勿論込みだ
 だが あんたは いつまでも俺に触れなかった 何故だろうか?」

「今更 答えなんか聞いてどうする 聞いておまえの白い人生が戻るのか」
「あんたが また今度も一人で飛んで行くなら
 どうしても はっきりさせて欲しいっていう気になったもんでね」

「つまんねぇ歯の浮くような答えが欲しいか? 思い出せよ
 オレはおまえに触れてないことはない オレはキスくらいしたよな おまえに?
 海外の仕事の相棒にするようなフレンドリーじゃないヤツだ それが答えだろ」
「いつも火の着く寸前の生殺しみたいなやつのことか?
 俺は役割を勘違いしてたのかと思って あんたに突っ込みかけたことはあったよな?
 でも手ひどく拒まれて 違うんだと感じた あの時はがっかりした」
「あれは恐怖の体験だったな 犯されると本当に思ったぜ おまえはケモノだな」
「あんたはあの頃 こんなにがっしりした体格じゃなかった 指だって細くて綺麗だった
 抱いてみても良かったけどな 長身のあんたに抵抗されちゃ どうにもね」
「秘境に行けば おまえも筋肉がつくぜ おかげで今まで実年齢を当てられたことがない」 
「俺はあんたが あまりにも手を出してこないんで 不能なのかと本気で思ってた
 でも実は他所では存分にやってると気がついた時には 保護者のように安堵したさ」 

「おまえは それも責めなかった オレにそういう文句を云うこともなかった」
「プライドが高いものでね 心底ずるいあんたに傅くのは
 最初に自分から選んで堕ちた時だけにしたかったのさ 嫉妬して喚くなんてみっともない」
「互いに意地を張りすぎたのが 致命傷だったわけだ
 救いようがねぇな だったら オレはインポでおまえが抱けなかったってことにしようぜ
 それでいいだろ? もう今更いい筈だ」
「いい筈なのに 俺にここで待ってろっていう あんた俺の何だよ?」
「今度 戻って来れたら …行動を起こすかもな」
「今度 ね じゃあ今回も何もせずに お帰りになるつもりなんだな
 俺が今 あんたの指に かするくらいでも 高ぶりを押えきれないでいるってのに」
「やめろ 血気盛んなガキじゃなし」
「俺はまだ待つわけだな バカで頭の巡りが悪い妾みたいにな」

「妾じゃない おまえは愛人なんかじゃない」
「でも本妻でもない」
「おまえはパートナーだ オレの重要なパーツだ 欠けたんじゃ オレは飛べない
 オレはおまえの男なんだろ? だったら便宜上じゃなくて それにしとけよ」
「生憎だが 俺の男はあんたひとりじゃないぜ あんたが他所で誰かを抱いてる間
 俺はひとりで自分を慰めるほど 惨めでもあんた一筋でもなかった」
「それを聞いて安心したぜ
 おまえがもしも ずっと俺に操を立てて 禁欲してたと告白されたら
 オレは罪深さにコーカサスで神に悔いて身投げするとこだった」

「聞きたいのは ひとつだけだよ エトーさん」

「勘弁しろよ もう」

「抱かなかった理由なんか 聞いてないんだ 俺は」

「今度 今度帰ったら 云うさ 多分な
 老いたロクデナシから 身の凍える告白を聞き出す裁判じゃねぇんだろ
 もう時効だ 脳天気な神様みたいに 俺を許せよ レイジ」
「分かったよエトーさん 相変わらずズルイんだからな
 今度帰って来たときには 引退老人が安らげるキングサイズのベッドがある
 スイートを予約しとくさ 不能でも 全然構わないぜ」

「イヤミなヤツだ オレの顔見りゃ逆らってた青臭い頃と同じだな 進歩がねぇぜ
 おまえなんかに構わないで 放っておけば良かった」
「歳を取ると何でも気にいらないものさ 僻みっぽくもなるし体力も落ちる
 後悔を口にするとツキが落ちるんだろう? 秘宝泥棒 気をつけな
 そういえばエメラルドの秘宝は手に入ったのか 随分長くかかったな」

「もちろんだ 俺は欲しいものは手に入れる」
「そうだろうな 俺の誕生石は エメラルドだぜ」
「商売モノはやれないけどな 今度とびきりの原石を探してこよう」
「それで 指輪でも作ってくれるといいけどな」
「OK それを価値のある指輪にして おまえに プロポーズしてやる」


「…待ってるぜ エトーさん
 俺はあんた一筋だったよ 浮気は存分にしたけどな 本気は あんたにしかない」

「約束だ レイジ
 今度帰ったら おまえの傍にいるよ 御互い隠居して 一緒に老後を送ろうぜ」
 

「そうだな 悪くない提案だ
 今度はあんたが 振り返って 俺のところへ戻ってくる番だな

 俺は あんたを 待ってるぜ エトーさん」



END






 ああ  約束だ 待っててくれ… レイジ―――





photo/真琴 さま
 (Arabian Light



関連前作 「Hold On, I'm Coming」⇒目次⇒本(同人誌通販) ※窓を閉じて戻って下さい※
■セリフ劇場■