小指のないオヤジ
クリスマス・プレゼント

※聖がでてくるマンガは吉沢シリーズの「溺れる魚




「クリスマス前だってのに 何でこんな仕事やらせるんだよ……ねぇ聞いて下さいよ 聖さん?
 うちのオヤジ 酷いですよね」

「ガキが文句言う前にやることやれよ」

「ひでぇな聖さん ガキガキって いつまでもオレ 子供じゃないんスよ?」
「いくつになったんだ ジュニア」

「その呼び方もやめて下さい もう二十五ですオレ アンタにまとわりついてた幼稚園児じゃない
 あ〜あぁ オレの夢は聖さんのコマになる筈だったのになぁ……
 勝手に組抜けてネスキル(足を洗う)ってな どういうシャレなんすかねぇ」
「おまえは俺のコマには向いてない 質はどうあれ根来組のたった一人のジュニアだ」
「ひでぇな また小馬鹿にして」
「与太話はいい それで? 赤木って男は もう拉致ってあるのか」
「はぁ……まぁね やな役ですよ 何でこんな仕事をオヤジはオレにやらせんのかなぁ」
「おまえがトチ狂ってるからだろ」
「だってね 借りたもんドモッてて 取り立てても アイツ金がねぇなんていいやがる
 だったら それ相当のモノよこせってことになるじゃないですか
 そんなに器量は悪くないし 体なら使えねぇ奴じゃねぇ」
「滞納者に抱きこまれてどうするんだ バカかおまえは」
「どうせバカですよ だけど俺にバラせだなんて話 酷いじゃないですか
 オレにはできないですよ あんなに可愛いのに……」

「本当にヤッたのかおまえ その男と」
「……ヤリましたよ? オレの下で毎晩ヒーヒー鳴いてた 感度は悪かねぇですよ」
「あれは結構 歳がいってたと思うがな 五十前だろ確か 呆れたな
 おまえそういう趣味なのか しかも老専たぁ しょうがねぇホモ息子だな」
「オヤジに 変態の息子を持った覚えはねぇって 勘当だって
 怒鳴られたくらいの趣味ではありますかね あ 笑いましたね」
「ヘンタイは良かったな」
「そうすか? 同じホモでも息子がどっかの男にケツ掘られて喜んでる
 カマよりは よっぽどマシだと思いませんか?」
「どっちもどっちだな」
「聖さんが 悪いんですよ」

「なに?」
「聖さんが……俺の前から消えちまったからです だからオレは 何かと逆らってるんです」
「いるじゃないか おまえの前に立ってるのは何だ ユーレイか」
「オレの前にいるのは 黒崎の秘書だ 自称カタギの
 オレの聖さんは 狂犬みたいに凶暴でキレてて だけど利口で冴えてる
 手に負えない悪のヒーローだったのに 今はオレの憧れがいねぇ」
「ヒーローって 幼稚園児か おまえは
 そんなだからオヤジさんは いつまでも世話をやく羽目になんだろうが
 性根を入れ替えろ 腑抜けた夢見てんじゃねぇ 何が二十五だ」
「夢なんて見てませんよ 棄てました とっくにね
 聖さんが あっさり牙の抜けた座敷犬になった時からね」
「俺に意見するのは 二十年早いぜ ジュニア」
「聖さん 今 四十過ぎだよね」

「おまえのストライクゾーンか ……どうした? 何をびっくりしてる」
「えっ いや…… だって へ ヘンなこと言うからでしょ
 何がストライクゾーンだよ おかしなこと云わないで下さいよ」
「違うのか? おまえ赤木を抱きながら俺のことでも考えてるんじゃないのか
 いつも俺がおまえの下で あんあん鳴いてくれりゃいいのになと
 思ってんじゃないのかよ ええ? 違うか そうなんだろ
 俺を想像したら毎晩気持ち良くヌケるか? どんな想像してヤってる?
 どうした 何をビビってるんだ 足が震えてるぜ? みっともねぇな」

「……なんで アンタなんでヤクザやめたんです? ぜんぜん変わってない
 オレ 立ってるのもやっとだ…… 怖くてちびりそうなんだけど」
「漏らすなよ? なんなら手で押えててやろうか
 逆に変な汁出されても 困るがな おっと興奮してるぜ おまえのジュニアが」
「やめてくれよ もう……冗談にしても ひでぇよ」
「そうだな おまえの男が近くにいるのに するような会話じゃねぇな」 
「オレ 赤木のこと 結構ホレてる 愛してるんですよ」

「殺せ 保険が出る それで取り立て完了だ」
「何でそんな酷いこと云うんだ? 聖さんはもうヤクザじゃねぇだろ!」
「だから言える 俺は何の関係もないからな 死のうが 殺そうが他人事だ」
「オレが赤木と 駆け落ちしたらどうだよ」

「笑うかな そこまでバカならいっそ価値があるかもな
 クソ以下の価値がな いいかジュニア 赤木は死にかけの老いぼれだ
 そんなのと何するって? この先? おまえの将来を考えろ」
「アンタとそんなに年齢差はないぜ オレのを突っ込むとよだれ垂らして喜ぶんだ アイツ
 あっちが不能だったのに治ったんだぜ 俺のデッチ棒が長くてデカイからだよ 女じゃ治せねぇだろ」
「EDってやつか 金は金でも金玉取立ててたのか おまえは くだらねぇな」

「軽蔑するかよ 聖さん」
「しないね 軽蔑というのは 人間に使う言葉だ
 おまえは 昔から犬ころ以下だ 犬畜生に軽蔑などするわけがない」
「……どこまでもアンタは容赦がないよな オレを苛めて楽しいんだ」
「老人のケツの穴でも 舐めて喜んでろよポチ」
「アンタだって黒崎のケツでも抱いて寝てるんだろ」
「誰にモノ言ってる?」
「あ、アンタが黒崎にベタ惚れなのは知ってんだ……から……な」
「どうした? 漏らしちまったのか?ポチ 声が震えてるぜ」

「聖さん……オレ……オレは……」
「俺は変態にケツを舐めさせる趣味はないぜ
 なぁ ジュニア 仕事をしろよ オヤジさんがおまえに与えてくれた仕事だ
 あれに惚れてるって? アイシテルって?
 よく見ろよ あれは腐ったゴミだ 悪臭を放ってる もうじき朽ちる老体だ
 おまえにはもっと相応しい若いきれいな肉体が似合ってるんだ ジュニア
 どうしてもあの腐れコックがいいというなら 俺がアソコ切り落としてやろうか?
 穴もおまえが突っ込んでも収縮しないほどに 広げておいてやろうか?
 もう執着しないで済むぜ 蝿がたかるようなケツの穴が趣味なのなら別だがな
 だがおまえは そこまで堕ちてねぇだろ? ちょっとゴネてみたかっただけだろ?
 愛してるなんて 嘘だよな おまえはそこまでバカじゃないはずだ」

「もういい 止めてくれよ 吐きそうだ……」
「どうするんだ」

「やる……殺るよ……」
「いい子だ ジュニア」

「じゃあ 聖さん 代わりにクリスマス・プレゼントを オレにくれよ」
「いい子にしてれば そのうちサンタがくれる」
「サンタじゃなくて アンタから欲しい この仕事のご褒美を」
「俺から褒美を取るなんて 三十年早い」
「ちぇ 十年加算かよ」
「何が欲しい」

「……えっ」
「クリスマスのプレゼントに 何が欲しい」
「云っていいの? キレてぶん殴るのは無しだぜ」
「俺がキレるようなモノが欲しいのか」
「アンタの……」
「俺の?」

「聖さんの その 失くしたエンコの跡に キスさせて下さいよ」
「大胆なお願いだな ジュニア…… 俺は今 笑ってるかな?」

「笑ってます もう失神寸前だ あんたの笑みはどんなヤクザもションベンちびる
 恐怖で オレは 倒れそう」
「いいだろう」

「……え えええ!! 今、何て?!」
「但し おしゃぶりは無しだ 舐めたらおまえの舌を引っこ抜く 約束しろ」
「そこまでできたら オレ 悶絶して死んでもいい」
「本当に変わったヤツだ オヤジさんが手を焼くのも解る
 きっとそのうち 俺を上回るキレた狂犬になれるな」
「オレがそうなったら 聖さん 組に帰ってきてくれるか?」

「俺は足を洗ったんだよ 堅気だ まっとうなんだ」
「よく言うよ カタギが殺せとか云うか……」
「まっとうな堅気の方が ずっと残酷なものさ」
「忘れないでくれよ 聖さん」
「なに?」
「クリスマス・プレゼント!」

「冗談じゃないのか」
「マジだよ! くれなかったら略奪しに行くからなオレ 黒崎の家の煙突から!」
「クリスマスプレゼントを奪いに来る子供なんか聞いたこと無いぜ」
「オレは普通が嫌いなんだよ 最終目的は黒崎からアンタを奪う オレの野望だ」
「おまえは志が小さいんだよ バカタレ
 それとな 赤木には娘がいただろう アレを島田に沈めさせろ
 あいつ最近の扱いが男ばかりでクサってるからな 少々テケテンでも 喜んでやるだろう」

「仕切らない下さいよ ここはオレの庭場だ トーシロは口出さないで下さい」
「オヤジさんに頼まれてるんだ おまえをリッパな狂犬にしてやってくれってな」
「冗談だろ アンタみたいになったらオヤジは手がつけられないからそうならないようにと 頼まれたんでしょうが」
「そうだったかな」

「いい加減なんだから もう ……おい 水無月!」

「はい」

「赤木は中か 充分にキスグレ(泥酔)させたか」

「はい」

「おまえ オレの為に 檻 入るか」

「はい 若頭のためなら喜んで」

「ボケか 幹部のてめぇが入ってどうすんだよタコ 最近入ったワカロクにでも行かせとけ
 事故らせて 前方不注意だか過失だかで謳わせろ ヘタうつなよ
 あいつらは とにかく事故でも何でも謳えば安心する」

「まわりくどいな ジュニア」
「オレにはオレのやり方があるんですよ 黙っててください
 聖さんの時代みたいに 弄り殺しだのとメチャメチャやってちゃ
 すぐ組が潰れちまう オレはこれからはもっとスマートにやりたいくらいだ」
「オヤジさんに聞かせてやりたい言葉だ 大きくなったなジュニア」
「いつか アンタにオレのこと 『潤也さん』て 呼ばせますよ」

「おまえも俺を見習って もっとストイックな恋愛をしちゃどうだ?
 近くにいても 指一本 触れられないような そんなのをな」
「それこそ ヘンタイだね 俺は待たない 距離が縮めば 速攻だ」
「耐え忍ぶ恋も悪かないぜ」
「そんなのずっと小学生の時からやってますよ 今更だ」
「おまえは その頃から成長がないな いい加減に年上趣味は卒業しろ」

「……知ってたんですか」
「おまえが中学に入った頃だ 俺の名前をエロい声で呼びながら部屋でカイてるのを目撃した
 この俺でヌクなんて大したもんだ 変態ガキが シメとこうかと思ったが
 おまえは何たって 組の有望ジュニアだからな この俺がズリネタにされても我慢してやった」
「んなの関係ねぇくせに……どうせ笑ってたんだ」
「取りにこいよ」

「え?」

「クリスマスに約束のモノ取りに来い 俺の家に煙突はねぇからな 鍵 もってけ」

「…は、はいッ!!」

「だが約束は守らねぇと 一生俺に愛の言葉も言えないようになる
 覚えたか? ポチ」 


「……ワン」





photo/真琴 さま

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